#6-悪童、ダンジョンを攻略する-
8話目の準備をしていると6話目を飛ばしている事に気付いて慌てて編集。割り込み投稿って予約できないって初めて知った(´;ω;`)
ベイルたちを追って来たジョセフ一行は、ベイルたちが離れて少ししてベイルが隠している場所に訪れた。そこは何も知らない人たちにとっても妙に整っている感じがしている。
そしてそれに気付くのは意外にもラルドとロビンだった。二人の冒険者としての勘が崖になっている一部が隠し扉の類であると感じ取ったが、同時に思う。
(あのベイルがこれに気付いていないわけがない)
六歳の時から山に入り、不思議なスペックを持ったジーマノイド。アレの搭乗者がベイルという事は完全に判明していないが、ベイルのジーマノイド好きは最早度を越えている。本来サイズ的にも乗る事ができないはずなのに乗り回せるなんて異常だが、それほどまでの執念を持っているなら隠し持っていても不思議ではないが、流石に完全に良識を持っていないわけではない、と信じたかった。
「どうしたお前たち? ………ん?」
だがジョセフも勘が鋭い方だったらしい。妙な違和感を持ち始めた。
「……まさか? ここに何か仕掛けがあるのか?」
ジョセフは絶壁に触れる。普通の崖とは違うという事は気付いたが入る手段は無い。だが、そこに何かがあると確信したジョセフは気付かなかった振りをした。
ベイルに迫る魔族たち。ベイルは自分が掴んでいる魔族の女性を安全な方向に投げて攻撃して来る魔族を吹き飛ばした。
「報告通り強い! ただの子どもと思うな!」
誰かがそう言うが、その間にベイルは移動して攻撃した魔族を殺して回る。
「このクソガキが!」
「死にたくなければ降伏すれば良いだろうが!」
剣が交差し、ベイルの力が勝っていた事もあって吹き飛ばされる。
「黙れ! 俺たちにだってプライドがある!」
「弱者にプライドなんて必要あるか! 家族に会いたいなら今すぐ降伏すれば良いだろ! 流石に相手が魔族だからって襲ってこなければ返り討ちにしねえよ!」
そう叫び、距離を取るベイル。だがその近くには倒れている魔族がいた。
(あ、こいつまだ息がある)
すぐにポーションを傷口にかけると回復していく。
「え? あれ? 俺は―――」
「よぉ。復活おめでとう」
「あ! お前は―――」
攻撃の気配を感じてベイルは回避する。
「落ち着け。これでわかっただろ。俺は一部の人間が掲げている亜人排斥なんてこれっぽっちも思っていないし、向かって来る奴は潰すがそうじゃない奴はさっさと降伏してくれるならその方が助かる。武器とか徴収できるからな」
「黙れ! お前が来て、他の奴らが来ていないという事はそう言う事だろうが!」
「死んでほしくないならちゃんと籠に入れておけよ」
呆れながら言ったベイル。癇に障ったのか魔族の一人が向かって来るがベイルは飛び蹴りを放ち吹き飛ばした。
(……なんか、段々と人を辞めていっていないか、俺)
冷静になっているからか、そんな感情を抱くベイル。だがすぐに笑みを浮かべる。
「まぁ、いいか」
人を辞めれば辞めた分、強くなれると割り切ったベイルは敵を潰そうとするが、それよりも先に上から気配を感じて回避した。
「全く、次から次へと。血の掃除をするのも大変なんだぞ」
「黙れ侵入者。我らは貴様の要求に応じるつもりは無い」
「えー。頼むから帰ってくれない。それとも、お前たちの長はお前たちの失敗如きにいちいち目くじらを立てる程に器が小さいのかな?」
「何?」
敢えて挑発するベイル。その時、一人の魔族が降り立ちサーベルを抜いてベイルを両断しようとしたが、ベイルも抜いて攻撃を防ぐ。
「貴様、魔王様を愚弄するつもりか!」
「測っているのさ、魔王がどれくらいの存在かをな!」
身長は既に百五十あるベイルは相手と打ち合う。十歳と聞いていただが素早い動きをするベイルを見て魔族たちは驚いている。さらにベイルは加速して縦横無尽に動き回り相手を攻撃していく。
「おらっ!」
最後に思いっきり蹴り飛ばし、壁に叩きつける硬い素材できているのかそんなにへこまなかった。
「さぁてと、お前ら。今日からここは俺が仕切る。文句ある奴はいるか!」
「………目的、変わってない?」
自分で連れて来た魔族の女性に言われてベイルは気付いて顔を赤くした。
「あ、そうだった。ごめん。施設や機体だけもらうから、概要や資料の場所だけ教えてくれたらどうにかするから自分の家に帰ってください。帰宅用の乗り物は応相談です」
突然丁寧に言われて全員が動揺する。それほどまでにベイルから出るオーラは魔族たちを刺激し、戦闘になっていたのだ。
「……何をしている! お前たち! その人間は魔王様を愚弄したのだぞ! 戦わぬか!」
「先に言っておくけど、俺を殺すとなるなら俺だって容赦しない。大人しく資料を出してさっさと消える事をお勧めする」
「黙れ! こんなところで名誉が失墜した方が問題! さぁ、その子どもを―――」
瞬間、ベイルは相手の魔族を殴った。
「ふっざけんなテメェ!」
相手の服を掴んで持ち上げる。
「さっきから聞いていれば何様だ! 何故そうも無駄に戦いを続けようとする! お前には理性というものが無いのか! そうやって馬鹿みたいに戦うから、悲しみの連鎖とか恨みや憎しみで無駄に戦火が広がるんだろうが! ぶっちゃけ、八つ当たり同然でお前らの部隊を殲滅した俺が言う事でもないけどな! というか俺みたいなガキに無駄に人生観語らせてんじゃねえよ! 命大事にという言葉を知らんのか!」
切れたベイルは捲し立てる。相手は爆音を至近距離で聞いて既に気絶していた。
その時だった。ベイルを誰かが蹴り飛ばし、ベイルはそのまま左に飛んで壁に叩きつけられる。
「……ま、魔王様」
誰かがそう言った。ベイルは久々にまともに受けたダメージを感じながらその相手を見る。そこにはおおよそ自分では測りきれない相手を見て驚いた。
「初めまして、小さき勇者」
「………お前は」
「私は魔王ヴァイザー・シュヴァルツ。お前たちを倒す存在だ」
そう聞いたベイルは驚きを見せた。同時にやる気を出して相手を倒そうとし、ある事に気付いて自分を落ち着かせる。
「魔王直々に自分の基地を守りに来たか?」
「お前の事を一目見たいと思っていたのだ、ベイル・ヒドゥーブル」
「………ごめん。俺そっちの趣味は無い」
「そういう意味ではないがな。それで、お前はここを欲しがっているという話らしいが」
「うん。めっちゃほしい」
「だがいずれ、この技術は私たちを殺そうとする。違うか?」
「否定はしない。所詮生物は感情で動く生き物。俺がお前たち魔族と戦わない保証はない」
否定せずにハッキリというベイル。
「ふむ。ならばお前を倒すとしよう」
「言ってくれる!」
ベイルとヴァイザーがぶつかり合う。剣撃で火花を散らす。周りの魔族たちが思わず頭を抱えて自分の身を守ってしまった。だが経験の差かヴァイザーがベイルを吹き飛ばした。
その姿に魔族は驚き、ヴァイザーを心の中で称える。そして意外な事にベイルも同じだった。
「凄いよ魔王。まさか俺に勝ってくれると思っていなかった」
「……何?」
「ああ、別に俺はアンタを過小評価していたわけじゃない。俺自身を過大評価していたんだ」
かなりダメージがあるのかベイルは身体を揺らしながら立ち上がる。ヴァイザーは何かを感じたのか近くにいる魔族にいった。
「他の者たちを連れて逃げろ。おそらくあの少年はまだ隠し玉がある」
「……わかりました」
相手はベイルが連れて来た魔族の女性。彼女もベイルが何かあると踏んだのだろう。すぐに動けない者たちを介助しながらその場から逃げ出した。
「……ようやく行ったか」
「まさか、逃がしたのか?」
「ああ。俺は戦う意思の無い相手を無暗に殺す気は無い。綺麗ごととか好きに言ってろ」
「いや、そんな事を言うつもりは無いさ。だがお前は脅威だ。ここで狩らせてもら―――」
その時、ヴァイザーは自分の目を疑った。それもそのはず、目の前にいる少年には先程無かったはずの鱗が現れ、自分の至近距離にいたからだ。
ベイルの右足を咄嗟に左腕で受けたヴァイザー。吹き飛びこそしなかったがかなりのダメージを出していたらしい。苦悶の顔を浮かばせる。
「しゃらぁ!」
魔王も自分の剣をベイルに叩きつけるようにするが、ベイルが先に左腕で剣を破壊した。
「何ッ!?」
ベイルは左足で空中に飛んだ後、剣を異空庫にしまい電気を帯びたブレスを吐き出す。それをまともに食らいヴァイザーは痺れ状態になった。しかしそれは少しの間ですぐに解除されるが、解除されるまでにベイルが拳を何発も叩きこむ。
これが只の拳ならばヴァイザーには効かなかったかもしれない。しかし相手は本人は一切気付いていないが、ドラゴンの力を手に入れている人間。さらには他とは違い戦い慣れている相手だ。一切の手抜きが無く相手を苦しめた。
最後の一発でヴァイザーを飛ばすベイル。ヴァイザーもベイルの事を侮っていたのだ。
「ありがとう、魔王。俺は正直、もう強くならなくてもやっていけるんじゃないかと思っていた」
立ち上がるヴァイザーにベイルはそう言うが、ヴァイザーとしてはこれ以上強くなられても困ると思った。
「でも違った。世界にはこんなにも強い奴がいて、そいつが人間に対して敵対している。そんな奴がいるなら俺はまだ強さを求めていられる」
「………この基地は明け渡す。お前の好きにしろ。だが、ここにいる同胞は一人残らず連れて帰らせてもらうぞ」
「え? それは全然良いけど……」
そう言ったヴァイザーは奥に引っ込み、しばらくして膨大な魔力が発せられたかと思うと気配が消えた。
(……俺、結構強くなったつもりだったんだが)
周りが倒せないと諦めた魔族を捕縛し、ドラゴンを倒せたことで思い上がっていた。所詮自分は大したことが無い人間なんだと自覚する。だが同時に彼の中である疑問が湧いた。
(俺がこれじゃあ、他の奴らに勝ち目なんてあるのかよ……)
ベイルが見せたもう一つの姿とはつまり切り札の事でもある。それがある程度しか通じないとなると本格的に攻められた場合、人類は劣勢を強いられるだろう。
(……冗談じゃねえぞ)
もしそうなった場合、ベイルは矢面に立ったとしても所詮対応できるのは一面だけ。簡単な陽動に引っかかれば他が危うくなるという事は簡単に予想できた。
(となると、最低でも貴族たちの意識を変えなければ……)
少なくとも魔族が出た程度であたふたしていれば簡単にやれる。本音を言うとあの時の貴族は邪魔で仕方なかった。そんな事を思いながらもベイルは周りを探して誰もいなくなった事を確認していると近くの箱から一人の少女が顔を出した。
バルバッサ邸にて、アメリアは客人が目の前にいるにも関わらずに意気消沈していた。その姿を見てその客人ことジェシカ・エーディアは顔を引き攣らせている。
「何やっているの、アンタ」
「……ちょっとね」
大体こういう時はアレが絡んでいる。その相手と喧嘩別れをして以降、アメリアの機嫌は落ち込んでいた。
その件のベイルは今では家に帰っておらず、どこかに遊び歩いているというのが貴族内での見解、その事実をヒドゥーブル家が否定している。
「とりあえずあの男の事は忘れたら? あなたの対応は間違えていないわよ。本来ならばあそこで彼がドラゴンの死体を求めるべきじゃなかったんだし」
「………そうよね。ええ、それが普通なのよ」
だがアメリアもおそらくベイルは貴族の普通なんて最初から求めていない事は気付いていた。そうじゃなければ公爵令嬢である自分にすらあんな態度を取るわけがない。
「……そういえば、カリンちゃんも様子がおかしかったわね」
「ああ、あの子はお父様にベイルに会う事を禁止されたから引きこもっているわ」
「……それはまた酷な」
まだ八歳の少女に会う事を制限されている事を嘆くジェシカ。
「でも戻ってきたら一度は会わせるでしょうね。バルバッサ家にとってベイルは恩人。それに加えてあそこまでの実力者を囲っておけばいざという時に切り札にできる」
「いざという時に、ね。まぁ、実際ヒドゥーブル家を、特にベイル君を取り込もうと考えている家はたくさんあるわ。確かに態度はともかく彼が見つけて来る物、倒した物は並大抵ではどうにもならない存在。私たちもあそこにベイル君がいなければ死んでいたかもしれないし」
それはどの貴族も、そして王族ですら思っている。現状の問題はベイルの性格と態度にあるだけでそれ以外は最強の騎士になってもおかしくないポテンシャルを持っている程。だからこそ裏では騎士団も勧誘対象に入れている程だ。
しかし彼の態度はあまりにもこの封建社会に向いていない。だからこそ御せれば莫大な利益があると考える。それは王族も同じ考えだ。
それでもアメリアの機嫌は回復しない。ジェシカはもしかして妹と喧嘩した事が原因なのではと考えたが、少ししてある結論にたどり着く。
「じゃあ、いっそのことベイル君と会わない?」
「どういうこと?」
「そのままの意味よ。私たちはあまりにも彼の事を知らなすぎる。それじゃあ彼が何を差し出し、何を欲しがるのかわからないじゃない」
「……でも、お父様がなんて言うか―――」
「それは―――」
その時、ドアがノックされる。アメリアが返事する前に外から二人が知る声が聞こえて来た。
『アメリア、その話の事だけどちょっと良いかな?』
アメリアの兄、グレンだった。
「良いわよ」
返事を聞いたグレンは中に入ってくる。
「話を聞いてたの? 趣味が悪いわね」
「誤解だよ。たまたまベイル君の兼で考えていたところに君たちの会話が聞こえてきたのさ」
物腰柔らかそうな感じだが、アメリアはわかる。兄はベイルをとことん利用するつもりなのだと。
「ベイルの事?」
「うん。僕らは彼の事を全くわかっていない。知っているのはどういうことかドラゴンを欲しがっていた事ぐらい。思えば、僕らはあまりにも周りを蔑ろにし過ぎていた。だからこの際、彼の好みを知ろうと思ってね」
そんな時、アメリアのドアが思いっきり開かれる。
普段は冷静で丁寧な対応をするソフィアが入って来た。
「ど、どうしたのソフィア?」
「歓談中、申し訳ございません。ですが至急お知らせしたいことがありまして」
それは号外記事であり、今日の昼頃バルバッサ領内で配られていたものだ。
珍しいものがあるなと、たまたま外で買い物をしていたソフィアが一部買うと、そこにはとんでもないものが書かれていた。
「……嘘」
ヒドゥーブル領内で古代のジーマノイドが発見される、そんなことが掲載されたのである。
内容を読んだ三人は顔を見合わせる。
「今回見つけたのはジョセフ・クリフォード。クリフォード侯爵家の元当主ね」
「確かヒドゥーブル夫人はジョセフ殿の孫にあたるお方だ。一時期は孫娘の夫人を可愛がっていた程で、ヒドゥーブル家が出たのは彼の強い要望があったからって話もある」
「……よくよく考えれば、侯爵家出身の令嬢が男爵夫人ってのも変わった話ね」
ジェシカの言葉に先に反応したのがアメリアだった。
「ああ、あそこ恋愛結婚だから」
「……よく知っているわね」
「知っているも何も有名だし。当時、家の堅苦しさに家を飛び出して魔法使いとして冒険者登録をしていた夫人と、たった一本の大剣だけで次々と任務を攻略していた剣士の物語は」
「聞けばラルド氏が当時攻略したダンジョンは冒険者の中でも死亡率が高いところだったらしくて、貴族の中でもかなりの話題性になったって話だ」
それを平然と知る兄妹に驚きつつ、話を聞くジェシカ。
「でも、これを見る限りジョセフ氏は親戚とはいえ他の領で見つけたって話になるのよね? 揉めないの?」
「逆に親戚だから揉めないかもね。ラルド氏はどこか貴族に対して遠慮しているところがあるから」
「……いえ、揉めると思います。ただし揉める相手が個人になると思いますが」
メイドのソフィアがそう言った事に三人が驚く。ソフィアはずっとポケットに入れていたある記事を出した。
それはヒドゥーブル領内で出現したという謎のジーマノイド。初めて見る飛行可能タイプが話題となっていたが国はそんなものは存在しないことを否定しているとある。しかしそれに映る写真は発見した機体の一つと酷似していた。
「それと、これはあくまで噂なんですが―――この機体は既に人の手が入っている可能性があるそうなんです」
「……どういうことだい?」
「あくまで噂ですが、今回の調査の際に古代語で書かれている事以外に共通語で記載されている手記があったそうなんです。しかもかなりガサツな字で」
「ということは、ここ数年から数十年の間で誰かが見つけ、保管していたという事かな? でも発見したのは魔の森でしょ。そんなところで活動できる人間なんて―――」
そこまで言ったところでグレンはある事に気付く。
「まさか、ベイル君?」
「魔の森がどれほどのレベルか存じませんが、可能性としては十分かと」
「……ごめんなさい、魔の森って何?」
ジェシカの質問にグレンが丁寧に答える。
「元々ヒドゥーブル領はバルバッサ領の一部を渡した土地だってのは知っているかい?」
「はい。なんでも、元々ヒドゥーブル家を興す時にバルバッサ家が手を貸したとか」
「ああ。でも実際の所は管理の難しい森が隣接する土地に戦える人材を派遣させたかったというのがあるんだ」
魔の森というのは言葉の通り魔物が跋扈する森であり、そこに住まう生物はどれも騎士団ですら討伐が難しい。そこに戦闘職の夫婦を配置させて掃討をさせなくとも抑えさせたかったというのもある。しかし今では彼らの子どもたちの―――特にベイルの修行の場になり、大体の生物が狩られていると知った時は驚いたものだ。
「実際、ベイル君が服の素材にしている黒人狼や黒犬はあの森で生息している危険生物筆頭でね。騎士団が生身で討伐しようとするなら、よほど戦闘慣れしている高レベルの回復魔法士がいない限り半数は死ぬとされている」
「………ちょっと待って。彼はそんなところを狩場にしている、ということですか?」
「ああ。ジョセフ氏も昔こそ剛剣として名を馳せていたけど、おそらく今は全盛期ほど動けるわけじゃない。まぁ、年齢が年齢だから仕方ないけどね」
それでも、あの歳で森に入るのは危険だ。あの環境に身を置いていたからこそ、十歳でカリンを救える程に強くなっているのだろうとグレンは予想を立てていた。
(………もし仮に、ベイル君が僕らに対して牙を剥いてきたら間違いなく殲滅されるね)
グレンも公爵令息として剣術の指南は受けているが、ベイル程の相手となると自信はない。そもそも向こうは魔法はもちろん空を飛ぶことも自在と来ている。それにグレンは四年前にアメリアがヒドゥーブル邸で起こした事故の詳細を聞いた時に驚いていた事もある。
というのもアメリアはあの時、ほとんど階段に倒れる寸前で誰も助けに入る事なんて不可能―――そう思っていたタイミングでベイルが間に割って入りアメリアに致命傷を負わないように庇っていたというのだ。当時六歳の、引きこもり気味の少年が、である。
ドラゴンを倒した事でその存在を知らしめることとなった少年は、もしかしたら誰も倒せずホーグラウス王国は滅ぼされるのではないか。そんな事がグレンの脳裏に過り始めていた。
その頃、王城では既にシャロンが動いていた。
「お父様、ジョセフが持ってきたジーマノイドですが今は誰も触れられないように封印措置を取っておいた方が良いと思われます」
「……どういうことだ?」
「ジョセフが持ち込んだジーマノイドの内の一機は、おそらくベイルが愛用しているものかと」
その言葉に疑問を浮かべるウォーレン。だがあの日、確かにシャロンはあの黒い翼を生やしたジーマノイドが空を飛び、敵を破壊していったのを見ていた。
「だとしても今更返せと言われて返せる代物ではない。あれほど昔の物に加え、敵から奪ったジーマノイドを持ってきたのはジョセフである事に変わりは無く、また貴重な情報源である事には変わらないのだからな」
「お父様は勘違いをしているわ! あの少年を貴族の尺度で測ったではダメよ!」
本気で焦っている様子のシャロンに驚きながらも冷静に対処する。
「だが今この近くにジョセフ殿がいる。この状態であの小僧が来たところで―――」
「……むしろ私が心配しているのはそこよ」
「どういうことだ?」
「ハッキリ言って、ヒドゥーブル家とジョセフ氏の関係はあまり良いとは言えない。ただでさえ常識外の動きをするヒドゥーブル家の敷地内で常識外れの事をしたのよ。その状況で自分の機体が無くなっていると知ればベイル君は必ず姿を現すわ!」
そう断言するシャロン。そんな彼女に対してウォーレンの隣に座っている女性が厳しく言った。
「お黙りなさい」
彼女はアイリーン・ホーグラウス。ウォーレンの妃にして第一王妃を務める女性だ。
「今回は以前と違い、既に二十四時間体制で兵たちに警備に当たらせています。当然、ジーマノイドは既に起動済。そんな状況でまさか攻めてくるとでも?」
「間違いなく」
「そうなればヒドゥーブル家には滅んでもらうしかありませんね」
そう断言したアイリーン。シャロンはそれを聞いてため息を吐いた。
「妄想を抱くのは大概にしてください。その程度の事で滅ぶ一族ならば、とっくに滅んでいるわよ」
「それはどうかしら? あそこを滅ぼすのは何も直接的なものだけではないわ」
「………それ、本気で言っているの?」
ヒドゥーブル家が他の貴族と違うところ―――それは他の貴族と違って戦闘力が高すぎる事だ。
一人一人が常人を凌駕する程の力を持つ。長男のフェルマンは貴族階級に適合する為か控えめのようだが、その他の弟妹たちが異常だ。とりわけ魔法使いタイプは全員が重力魔法を自在に操り、自在に空を飛ぶ。それだけでも戦略的を価値を持つというのに、その上高威力の魔法を放つことができるのだ。
そんな者たちが漏れなく自分たちに牙を剥けば間違いなく王家は滅ぶだろう。
「当然です。あなたも覚悟しておくことね」
そうはっきりと言ったアイリーン。シャロンは舌打ちをしてその場から離れる。
そして三日後、とうとう事態は動いてしまった。