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生前の記憶を手に入れた貴族の少年、異端へと至る  作者: トキサロ
第1章 その悪童、転生者につき
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#5-悪童、真打を起動させる-

 数日後、ヒドゥーブル家ではある採決が行われていた。それは王家に領地を返還するかどうかということである。

 現状、ラルドとフェルマン、そしてフェルマンの妻がリネット、ポーラが反対。レイラとユーグ、マリアナ、シルヴィアが賛成を示している。ロビンは興味が無いので無効票だ。


「……ところで、ベイルはどこ行った?」


 フェルマンは辺りを見回す。肝心にして今回の原因でもあるベイルは姿を見せていない。


「ベイルならどうせ魔の森だろ」


 ロビンが興味無さそうにそう言った。フェルマンとリネットがそれを聞いて頭を抱えていた。


「そもそもアイツが今回の原因だろうが」

「別に良いわよ。今のあの子はまともな判断機能は無い。参加させたらさせたらでどうせ戦闘に入るでしょうし」


 レイラの言葉にラルドが納得する。苦々しい顔で頷く自分の父を見てフェルマンは驚いていた。


「アメリア様に対してすら殺そうとするくらいだからな。あの時は本当に肝を冷やした」

「そもそも今回の件、いくらなんでも横暴が過ぎますよ。高みの見物をしておきながら素材だけを奪おうなどと。国の発展の為と言うのではあればそれなりのモノを渡す準備をするべきなのでは? もっともあのベイルの事ですからどれだけの条件を提示されようが絶対に折れなかったでしょうが」


 ベイルがドラゴンの魔石をジーマノイドに使用するつもりなのはこの家の者なら誰でも知っていた。そしてあのパーティの日、ベイルはほとんど単独でドラゴンを撃破している。だがその代償として魔力が枯渇した為一時は生死を彷徨った。

 それほどまでの代償はあれどそれでも討伐したのはベイルであり、冒険者出身が多い彼らからしてみれば横暴が過ぎるというもの。分配は話し合いをするのが一般的で一方的に奪うのは違うというのが彼らの見解だった。


「……そもそも、あのジーマノイド部隊はほとんどすぐやられた」


 シルヴィアが補足するとレイラが頷く。そこからベイルがドラゴンを討伐したが誇張してもジーマノイドからの攻撃は大したことは無かった。


「……こうなったら簒奪とはいかないまでも、やはり一度懲らしめる必要があるわね」

「お、お義母様、それはいくらなんでもマズいのでは⁈」

「良いのよ。ベイルじゃないにしろちょっとお灸をすえてやるわ。それに私、元々あのジジイのせいで未だに貴族をしているところあるし」


 レイラがそう言ったタイミングで外から大声が響いた。


「出て来い! この馬鹿者共がぁああああああッッッ!!!」


 その声を聞いた瞬間、レイラから表情が消えた。フェルマンは頭を抱え、ロビンすらも嫌そうな顔をしている。リネットは珍しいなと思っているがそのせいで自分の子どもが泣き始めたのであやしはじめた。


「ちょっと殺して来るわ」


 立ち上がったレイラが怒りを露わにしているのでラルドが宥める。その間にシルヴィアが外に出ると玄関の前には彼女の曾祖父のジョセフ・クリフォードが執事たちに抑えられていた。


「シルヴィアか。早速で悪いがベイルの阿呆を呼んできてくれないか。話がある」

「……お兄様なら、魔の森に入っていった」

「何じゃと!?」


 驚いて森の方を見る。

 ヒドゥーブル家の南にある広大な森。そこは魔の森と言われており、奥地には強力なモンスターが生息すると言われている程の危険地帯だ。


「仕方あるまい。とりあえず呼んでくるとしよう。その間シルヴィアはシャロン殿下の相手をしてやってくれい」

「……は?」


 何を言っているんだと言わんばかりの反応をするシルヴィア。その後ろからレイラが現れる。


「おお、レイラよ。聞いたぞ。お前、貴族を辞めようとしているらしいな」

「ええ。そうですよお祖父様。一体こんなところで大声を出すなんて近所迷惑という概念は捨ててしまったのかしら?」

「良いか、レイラ。また冒険者のような野蛮な職業をするなど私は反対だ。そんな事をするくらいなら貴族として王家に仕える方が何倍も―――」

「黙れ老害」


 笑みを浮かべてそう言ったレイラ。その隣ではシルヴィアも戦闘態勢に入っていた。

 慌てて外に出たラルドは倒れそうになりながらも急いで二人の間に入った。


「お、落ち着いてください二人とも。とりあえずお茶をしましょうか」

「黙れクソガキ! お前の至らない教育のせいで社交界の秩序がズタボロだろうが! 良いからお前は今すぐベイルを連れて来い!」


 叫ぶように言うジョセフ。その後ろで姿を見せるシャロンはラルドに笑顔を向けて近付いた。護衛だろうか、背が高い綺麗な金髪の女性が止めようとするがシャロンは構わずラルドに近付く。


「お初にお目にかかります、ヒドゥーブル男爵。私はホーグラウス王国第一王女、シャロン・ホーグラウスです。ベイル様と大事なお話があるのでできれば彼を呼んでいただきたいのですが」

「え、あ、これは……」


 そしてラルドはフリーズした。

 というのも彼はまさか王女がここに来るなど想像していなかったからだ。挨拶している間に色々と考えてしまい思考を停止させてしまった。それを察してレイラがわき腹を肘で付いて復帰させた。


「申し訳ございません、王女殿下。まさか王女殿下がお見えになられるなんて」

「いえいえ、お気になさらず。それよりも早くベイル様に会いたいですわ」


 それを聞いてラルドは複雑そうな顔をした。


「どうしました? まさかベイル様はここを離れているとか?」

「……実は、今は愚息は森に入っていまして」

「わかりました。森ですね」


 シャロンはすぐさまそのままの格好で森に入ろうとするのでラルドは反射的に腕を掴む。


「貴様、不敬な!」


 護衛がサーベルを抜いてラルドに切りかかろうとするが、それをシルヴィアとレイラが防いだ。


「落ち着きなさい、あなたたち。男爵は馬鹿な王女を止める為に手を出しただけよ。他意は無いわ」

「……私たちでも苦戦する魔の森に、戦闘能力を持たない人が入ればたちまち魔獣たちの餌になる」

「そんなこと、口で言えばいいだろう!」


 護衛は反論するがシルヴィアが鼻で笑う。


「……むしろお父様よりも早く動かないあなたたちが悪い。恥じるのはあなたたちの手腕」

「何だと⁈ 高が男爵令嬢如きが―――」


 シルヴィアに手を出そうとした瞬間、ラルドが剣を抜いて護衛の一人の首に刃を当てる。


「ひっ!?」

「そこまでにしてもらえると助かるのですがね。お互い、まだ死にたくは無いでしょう?」


 本気の殺意を相手に向けるラルドに護衛たちは怯む。


「そこまでにしておけ、お前ら。こやつはこれでもワシと同じ大剣使いでありながらワシからレイラを奪った猛者じゃ。そう簡単には勝てんよ」


 自慢げに言うジョセフ。レイラが「何でお前がそう自慢気なんだよ」と言わんばかりに睨んでいるが、ジョセフは気付いていないようだ。

 その時、森の方からベイルが姿を現す。客が来ている事に気付いていないようでそのまま屋敷の方へと移動していると、ジョセフが移動してベイルに対して拳を叩きこんだ。だがそれは目の前にバリアを挟まれており、ベイルの身体に至っていない。


「ようやく姿を現したか、この馬鹿曾孫が!」

「………」


 ジョセフを一瞥したベイルは無視してそのまま屋敷の方を向かおうとしたがそれをジョセフが腕を掴んで止める。


「馬鹿垂れが。挨拶すらできんのか、己は!」

「………」


 一向に返事をしないベイル。見かねたラルドがベイルに言う。


「せっかく曾祖父様が来てくれたんだ。挨拶くらいしなさい、ベイル」

「………」


 それでも返事をしないベイル。ラルドは頭を抱えている。そんな二人を見てシャロンは妙な感覚を持った。


「あの、ベイル様―――」


 するとジョセフはベイルを思いっきり殴った。そのまま屋敷の方へと飛んでいき、窓ガラスを破壊して中に入る。


「ジョセフ、あなた―――」

「申し訳ございません。しかし時にはこういった教育が必要なので―――」


 ジョセフはその場からいきなり消える。いや、正しくはそこから蹴り飛ばされたのだ。

 彼はそのままシャロンが乗って来た馬車を破壊して領内に飛んでいく。全員が馬車を始め今の衝撃で破壊されているものを見ていたこともあり、自分たちの隣にいるその存在に気付くのが遅れた。

 そこには、ドラゴンがいた。

 背丈はシャロンよりも少し背が高いくらいだが、背中にはドラゴンを思わせる程の茶色の異形な翼が生え、両手両足も同じような形をしていた。


「……あの」


 シャロンがおそるおそる声をかける。そこでようやくベイルは彼女の存在に気付くが挨拶をしない。というのも今の彼の思考は「この子、可愛いけどこの近くに住んでいたっけ?」というものに独占されてしまっているからだ。つまり、つい先日彼女を助けた事を完全に忘れていた。

 いつまでも挨拶をしないベイルに対して護衛が叫ぶ。


「貴様、この方を一体誰と心得る!」

「……さぁ?」


 その言葉に全員が沈黙した。周りは「お前は王女殿下の顔すら知らないのか」と言いたげだ。


「別にこの子、強いわけでもないしなぁ」

「お前は相手を強さでしか判断できないのかよ?!」


 ラルドは叫ぶがベイルはどこ吹く風といった感じだ。


「何言ってるのさ? 権力なんて暴力の前には平伏すしかないんだよ?」


 そんな暴論を何の躊躇いも無く言ったベイル。それを聞いて護衛はすぐさまベイルに切りかかる。サーベルを上段から振り下ろし、相手がベイルを斬るイメージができた瞬間、その護衛は森の方に蹴り飛ばされた。


「………さしずめ、全員貴族……いや、媚びる事しかできないハイエナってところか」


 空中からベイルが魔族から奪ったサーベルが現れる。柄を握って引き抜いたベイルは魔力を流して大きな刀身を形成して振り抜こうとしたが、近くにいたシャロンが大声を上げた。


「そこまでです!」


 今のベイルの耳は良くなっており、驚いて身を竦ませる。


「……何?」

「私の部下が護衛が失礼しました。改めまして、私はシャロン・ホーグラウス。この国の第一王女です」

「………おうじょ? おうじょ……えっと、本物?」

「ええ、本物です。数日ぶりですね、ベイル様」

「数日ぶり?」

「以前に魔族に誘拐された私を助けてくれたじゃありませんか」


 それを聞いてベイルは少し考えていたが、心当たりがないらしい。


「そんなことあったっけ?」

「ええ。今の様に手足を変え、魔族を倒していく様はまさに圧巻でした」

「圧巻というか、あれくらいできて当然……むしろできない方が恥ずかしいレベルだよ」


 容赦なく言うベイルに周りは苦々しい顔をする。だがシャロンは気付いていないのか言葉を続ける。


「なのでベイル様、私と結婚してくださいませ!」

「あ、ドッキリは結構です」


 結婚というワードを聞いてベイルはすぐにドッキリと判断してそう返事をした。


「ど、ドッキリ? もしや冗談と思っていますか!?」

「普通に考えて当たり前だろ。むしろ何をどうすればそうなるんだよ。意味が分からない。あの程度の事で結婚とか頭おかしいだろ」

「あの程度の事とおっしゃいますが、十歳でドラゴンを狩ったり、魔族の大軍を相手に無双をするなんてできませんわ」

「仕方ないんじゃない? 貴族なんて所詮まともに戦えない雑魚ばかりなんだし」


 それでも十歳であそこまでできるのは普通におかしいのだが、ベイルはできる側なのでその事に気付いていない。


「実際滑稽だよね。裏でシコシコと嵌め合ったりして相手を貶めるって。王宮含めてやろうと思えば全部消し飛ばせるのに」


 その言葉を聞いてシャロンはようやく気付いた。今のベイルはとても危ういと。


「……ベイル様、何かあったのですか?」

「それをお前が聞くの?」


 シャロンは思わず膝を付く。ベイルから向けられた気に身体が反応し、意識が狩られそうになった。いや、意識だけではない。彼女の頭に自分の身体が一瞬で破壊されるイメージが過ってしまった。


(……でも、どうして)


 彼女はベイルの瞳を見る。本来は光があるであろうはずの場所にそれは無く、今にも壊れそうだと感じていた。


「あの、ベイル様―――」


 シャロンがベイルに触れようとした時、ジョセフが戻って来た。


「貴様、その身を魔に落としたか!」

「……ああ、これ? 気が付きゃなってた」


 そう言ったベイルにジョセフは愛剣を抜き、近くにシャロンがいるにも関わらずにベイルを両断するために大剣を振り下ろした。しかしベイルは事もなげに大剣を受け止める。これまで培ってきた技を簡単に受け止めれた事に動揺を隠せないジョセフは大剣をそのまま破壊されても反応できなかった。


「いい加減にしろよジジイ」


 バケモノから普通の手に戻したベイルはそのまま拳を作り、ジョセフの腹部に穴を開けようとしたが、それを寸前で止める。まるでそれを合図をしたのかと言わんばかりに周囲にジーマノイドが現れた。しかしそれはホーグラウス王国が使用するタイプのものではなく、どこかこの世界には合わない機械的なフォルム。


「おいジジイ、あれどこのものだ?」

「……見た事が無い」


 するとそのジーマノイドはベイルたちに向けて発砲する。ベイルは屋敷すべてをバリアを展開して攻撃を防ぐ。その間にもベイルは周囲から感じる特殊な魔力とジーマノイドの数を確認すると舌打ちした。

 ヒドゥーブル家が所有するジーマノイドは一機。それに対して向こうは二十機もの機体を用意している。


「おいジジイ、近くにジーマノイドを持ってきてないのか」

「おいそれと持ってこれる物でも無いわ。そもそもアレはモンスターの魔石で運用しておる」

「ああ。だからこそ数が少なくて四苦八苦しているんだろ。お前が日頃から鍛えたと無駄に自慢していた騎士団はよりもよって全くの無能にして存在価値が全くないゴミ集団は大半がお荷物だからな」

「こんな時に喧嘩を売っている場合じゃないでしょ!」


 シャロンに言われてへこむジョセフだが、ベイルは特に反応しない。


「ベイル、ここから王女殿下を連れて逃げろ」

「………」

「ワシが残ってどうにかする。流石にこの数は無理だ」

「………」

「おいベイル、聞いておるのか!?」

「うるせぇ! 黙れ! 今はそんな状況じゃないんだよ!」


 ジョセフに怒鳴るベイル。彼にはそれよりも気がかりなことがあった。それは彼が山の中に構えている家だ。

 最初はただの休憩所代わりに作ったものだが、そこには彼が知る重大な秘密がある。その秘密が襲撃者によって暴かれそうになって焦っているのだ。


「大体、お前みたいなノロマな亀野郎がどうにかできると本気で思っているのか? どうせこのバリアが無ければ一瞬でお陀仏! この程度の数で死ぬ覚悟? 馬鹿じゃねえの? 今一体誰のおかげで生きてられる? 偉大なる国王陛下? お前の高が知れてる戦闘経験? どっちも違う! この俺の力だ! よりにもよって礼儀とかを捨て去った俺の力で生きているんだよ! 歳を取ったから引退などと甘えているんじゃねえ! お前は伝説でも高名でもなんでもない! お前は時代に甘やかされた無能だ!」


 そう叫んだベイルはバリアを設置したまま翼を広げて空を飛ぶ。すると敵機はすべてベイルを狙い始めた。ベイルが知るアサルトライフルを抜いて発砲するのをある事を行いながら回避し続ける。

 以前、バルバッサ邸を襲撃してきた騎士団のジーマノイドを奪取した方法は内部構造を把握できないので使用できない。それにあの方法はかなりの集中力を要する上に、こうして姿をさらしていると警戒される類いのものだ。

 ベイルは連続で水魔法で水弾丸を生成し、撃ち出して攻撃していくが所詮は水。機体に多少の影響を与えるだけで防水処理などが行われている為、ダメージを与える事は無い。そしてそれはベイルも織り込み済みだった。

 次第に霧が発生し、計器ではベイルの姿を捉えられなくなる。いや、意図的にベイルが計器を狂わせているのだ。何故なら霧が発生していた時点でベイルはあろうことか自分と同じオーラのパターンを出す魔力石をバラまいていた為であり、計器すべてがそれを認識してた。


『隊長! 奴の反応が増えていきます!』

『狼狽えるな! 所詮相手は一人。そいつを倒せば後は物の数ではない! 撃て! 撃てぇえええええッ!!』


 向こうはベイルを完全に敵と、排除する存在として認識していた。それを聞いて内心舌打ちしたベイルはそのままバレないようにある場所に移動する。




 一人の青年が巧妙に隠された遺跡の前に姿を現す。

 その青年の肌はとても人間とは思えない程に青に近く、耳は尖っている。俗に言う魔族あり、彼の目的はベイルが隠し持つ財宝の奪取だ。

 魔族たちは独自に動き、ベイルが遺跡を抑えて自国に報告をしていない事とそこにとんでもない財宝を隠している事を掴んでいた。


「随分と強力な結界だな。よほど奪われたくないらしい」


 独り言を呟き、青年は魔力を解析、解除を試みるがその最中に突然心臓が貫かれる。


「……え?」


 人間で言うとまだ子どもだが、まるで歴戦の戦士を思わせる雰囲気に圧倒される青年はその場に動けない。


「いつの間に……」


 口から血を流す魔族。ベイルはその魔族をまるでゴミのように捨て去る。仲間に対して連絡を取ろうとしていたが、その通信装置はベイルが踏みつけて破壊した。普段ならばどのような手段を用いても奪うのがベイルのやり方であり、それは本人も自負している。しかし今のベイルは精神的にそんな余裕などなかった。

 ベイルはゲートに付いている隠しボタンを押し、パネルを出す。そこに暗証番号十桁を入れてゲートを開かせて隙間から中に入り、近くにある全長十三メートルの翼を持つ人型機動兵器に乗り込み、起動させてシートに備わっているヘッドギアを装着した。

 まるでその機体はこの時代には合わない程に次々と起動していく。火が入った事で黒い機体に彫られたラインに紫の光が灯っていき、背部に装備されている三対六枚のウイングスラスターから残滓の粒子が漏れ出した。

 ベイルはカタパルトの代わりに機体を浮かせて飛ばせた。


 魔の森からいきなり飛び出した見た事が無いジーマノイドを見て誰もが唖然とした。


「な、何なんだ、あれは⁉」

「さ、さぁ……?」


 ジョセフに詰められるが何も知らないラルドはそう返させざる得なかった。

 敵機もそれを追おうとするが、反転したその機体は腰に装備しているライフルを装備して撃ち始めた。ランダムではなく的確に相手のコックピットを撃ち抜いて爆発をさせる。その間にベイルはモニターを操作して未だに避難していないみんなに叫んだ。


『全員家の中に入っていろ。ここは俺が倒す』


 その声で操縦者がベイルと知った一同は驚いた。


『たった一機で何ができる!』

『できるさ、このアルビオンなら!』


 ライフルを左手に持ち替えてロングソードを抜いた。さらにベイルは右ペダルを踏んで加速する。そう、このアルビオンはベイルの重力魔法無しでも自在に空を飛べるのだ。

 先程よりも加速したアルビオンに敵は驚きながらも対処しようとしたが、相手のスピードが速すぎてとらえきれない。


『な、何なんだこいつは⁉』

『落ち着け! ただ適当に飛んでいるだけだ! しっかりと見極めれば―――』


 いつの間にか撃ち抜かれたのか、相手は話している途中で撃ち抜かれて爆散した。


『確かに俺は適当に飛んでいるさ。でもな―――』


 次々と落としていくベイルとアルビオン。次第にベイルも笑みを浮かべて次々と無双していく。


『ま、待って……』


 残り一機となった時、敵は恐怖した。二十機もいた味方がとうとう自分だけになったからだ。


『待って! 降参する! するから!』


 流石に一機だけはどうにもならない。そう思ったのか向こうはスピーカーから叫ぶように言った。アルビオンが近付くと悲鳴を上げるがベイルは相手のマニピュレーターを掴むとそのままアルビオンを発進させた場所へと向かう。それを見てジョセフはラルドや彼の子どもたちに号令をかけて魔の森に入って行く。

 それに気付かずにベイルは二機を降ろす。着地した後にベイルはコックピットを出て敵の黒い機体に近付くと向こうのコックピットハッチが開いた。中から出てきたのは魔族だが、童顔。その割にボディラインはしっかりと出ている。

 向こうもベイルを見て驚いた。それもそうだろう。まさか相手が子どもで自分はそんな子どもに手も足も出なかったのだと思えば驚きもする。


(でも、相手が子どもなら)


 両手を上げて降参のポーズを見せる魔族の女性にベイルは何もしなかった。彼女は近づこうとして敢えてつまずいてベイルにもたれかかった。


「ご、ごめんなさい」


 立ち上がろうとするが、足場が悪い場所。下手に動けば―――という演技をして腰にあるナイフを抜いてベイルに刺したのだが、どうしてかナイフが折れた。


「……え?」

「気が済んだ?」


 ベイルはベイルで気付いていたらしい。殺気を放つと魔族の女性は倒れそうになったのをそのままお姫様抱っこをして下に降り、彼女を解放した。

 本来ならば拘束魔法をしようするところではあるが、彼女に対して変な事はしないようだ。


「とりあえずアンタの機体はもらっておく」

「……仕方ないね」

「ああ。アンタを返した後にじっくりと調べさせてもらうとしよう」


 新しい機体をゲットして内心喜んでいる。ベイルはすぐさま二機を中に入れてゲートを閉じ、魔族の女性を連れてそこから離れた。


「ど、どこに連れて行くの?」

「ダンジョン。アンタを生かした以上、攻略ついでに返そうと思って」


 驚いてベイルを見た女性。だが目の前の子どもは今では魔族たちの間では一級危険人物として有名であり、またある目的の為に捕まえようともしていた。


「随分言ってくれるじゃない。あなたたちの技術力じゃ私たちの技術は理解できないわ」

「それに関しては大丈夫だよ。まぁ、本当は良い身体をしているアンタを返したくは無いんだけど」


 とベイルは女性の身体を見る。いやらしい視線に身体を隠そうとする女性だが、ベイルはすぐに視線を逸らした。


「俺も男だしそんなボディスタイルしていたら興奮するから、本当は専属メイドにして毎日枕にしたかったんだけど」

「……汚らわしい」

「否定はしない。あとはアンタに似合いそうな服を自作して着させたいという欲望もある」

「え?」

「とりあえずメイド服は外せないだろ? 後は着物とか……は難易度が高いか」


 色々と考えるベイルはそのままダンジョンの入り口に近付く。このままでは仲間を危険に晒すと考えたがベイルはダンジョンの入り口を見つけたので加速して突っ込んだ。

 周囲から視線を感じたベイル。周りはダンジョンというよりも記憶にある機体を置いておく倉庫のような場所を見てベイルが森に繋がる入り口を閉じた。


「聞け、魔族共! お前らにチャンスをやる! このダンジョンを明け渡して今すぐ自分たちの家に帰れ!」


 そう叫んだベイルだが、魔族たちは敵意を見せて襲い掛かった。

書いている私が言うのもなんだが、不安定すぎるだろ主人公

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