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#35-ベイルの宣誓-

 風呂に入って後は寝るだけ、という段階でベイルの家でリビングに集まる面々。グレアムは治療の為にいないが、彼を除く全員が集まったのを確認したベイルはファブニールと共に現れた。


「全員揃ったぞ。それで、大事な話とは何だ?」

「……実は、俺がもしかしたら純粋な人間じゃないのかもしれないんだ」


 そんな事を急に言われた全員は唖然とした。アイリーンは良いネタを仕入れたと喜んでいたが、ウォーレンの言葉に驚く。


「そんなことか」

「え?」

「そんなことはとっくの昔に知っていましたよ」


 ジュリアナすらも頷いているのを見てベイルはもちろん、アイリーンも動揺した。アリスは流石に驚いているがエイブラムは平然としている。


「当然でしょ? 私はそれを込みであなたに求婚しているのよ。なんだったら今すぐ子どもを作って良い位だわ」

「え……えぇ」


 流石のベイルも動揺を隠せないようだ。それを止めたのはアイリーンである。


「ほ、本気ですか!? あなたはこの国の第一王女で――」

「だから何? それに逆に聞くけど、あなたはベイルがいなければ成し得ないことを無視するって言うの? そもそも、ベイルがあそこでドラゴンに勝てなかったら私たちは生きていないですし」

「だ、だから何だと――」

「だったらあなたもサイラスも死んでいたでしょうね? 恐れるよりも先に感謝するべきなんじゃない? 今までドラゴンの力を振るわないでくれてありがとうって」


 ベイルがそれを聞いて顔を背ける。


「どうしたの?」

「……実はさ、ドラゴンの力……もう無いんだ」

「「「「え?」」」」

「まぁ、色々と展開があって、俺も正直記憶は曖昧なんだけど……」


 ベイルは自分が五年前の爆発の後にあった事を話す。


「俺もフィア――魔王の娘に聞いた話なんだけど、あの転移の後にいつの間にか魔族国家にいて、そこで拾われた時に能力を九割程奪われているんだ。その能力自体はあの時、シャロンがアメリア、カリンの二人といた時に現れたドラゴニュートが持っていたらしく、俺はその痕跡を追って転移した。で、あの後なんとか倒せたんだけど、その時に戻って来た力で暴走して、別の国にいたんだ」

「ん? そうなのか? あの時マスターは空も飛んでいただろ?」

「多分しばらくの間は身体に馴染んでいたから、翼の生成ぐらいは。元々重力魔法の欠点として加速できないってのがあったし」


 さも当然のように高等技術を披露するベイル。それによってこれまで宮廷魔導士として名を馳せていた者たちの名声が地に落ちているのだが、ベイルはその事に一切気付いていない。


「それってどこなの?」

「外大陸の大体北東ぐらいかな。まぁ、行けるのって今の所俺ら家族ぐらいだろうから言うけどさ」

「……まさか女の子と一緒だったとかは――」


 それを聞いてベイルは顔を背ける。それを見てシャロンは顔を無理矢理向けさせてキスをする。


「話はベッドの上で聞かせてもらうわよ」

「それ絶対に襲われるパターンだよな?」

「いっそのこと、停学届を出してあなたと一緒に通うって言うのもアリだって思い始めているわ」

「それは流石にダメだろ」

「あら、最終手段退学届を出してあなたと子どもを作る事は本気で考えているわ」


 それを聞いたベイルは冷や汗を流し、ウォーレンとジュリアナを見るがどちらも気にしていないようだ。エイブラムに関しては色々と思うところがあるので「姉様の好きに好きにすれば」と言ってスルー。


「ところで、私はもう戻ってもよろしいでしょうか?」

「え? いや、その――」

「こちらとしては、大公がいなくなってからの姉様を見ているので姉様が幸せなら何でもいいんですよ。流石にあの時はイラっとしましたけど確かに私はグレアムみたいに強くは無いし、それを理由にサボって来たツケが来ただけだと思いますし、あなた方のやり取りを見ている限り、あなたが女性に対して真摯に接するタイプの人間であるとわかりましたので」


 エイブラムはそう言って去って行こうとしているところに待ったをかけたのはアイリーンだった。


「待ちなさいエイブラム君。あなたは本当にそれで良いの? 彼は王女全員を囲うつもりなのよ?」

「後でグレアムから聞いた方が良いと思いますが、アレが言うにはむしろそれでも足りないらしいですよ?」

「……は? 王女よ、王女。それでも足りないですって?」

「えっと、ファブニールって言ったかな? 君って実際どれくらい強いの?」


 唐突にシャロンに迫られてからベイルから離れてテーブルの上にいるファブニールにエイブラムが質問すると、ファブニールは表情を変えずに言った。


「そうだな。ダンジョン外の話に限るとするならば、この辺り一帯を消し飛ばすくらいなら簡単にできるな。補足するとマスターが騎乗すればダンジョン内と同じぐらいになるから、生物を根絶やすことなど移動時間で1週間もあればほとんどできるだろう」

「え? お前そんなに強いの?」

「ちなみにマスターは今でこそ力に制限をかけているから常人よりも強いぐらいだが、その制限が解かれればおそらくこの世界を統一する事など容易い」

「そう言えば俺、五年前にぶちぎれて大半の機体を破壊し尽くしていたよな」


 と思い出したかのように言ったベイル。今では笑い話、なんてことにならないのは確かだがそれを聞いてファブニールは良い事を聞いたと言わんばかりの邪悪な笑みを浮かべた。


「……あの」


 今では完全に大人しくなったアリスがベイルに声をかける。ベイルが返事をしようとした瞬間、彼女は自分の両手でベイルの右手を掴み、自分の胸に触れさせた。


「な、何をしているのアリス!」

「私も一緒に寝かせてください、ご主人様」


 それを聞いて固まったのはベイル。次第に顔が青くなっていくのを見てエイブラムは「ほら見てみろ」と言いたげだった。


「アリス、あなた自分が何を言っているのかわかっているの⁉ そんなケダモノの相手なんてもうしなくて良いの!」

「お母様は黙ってくれませんか?」

「何ですって?」

「私は自分の意思でベイル様に抱かれたいと思っています。そもそもそれを最初に望んだのはあなたでしょう? そもそも土台無理な話だったんです。今の王朝が持続しているのはヒドゥーブル家が権力にこれっぽっちも興味を持っていないからというだけ。やろうと思えばいつでも王国どころか各国を滅ぼすことだってできる力を持っている。それに付いて行こうとするのは当然なのでは?」


 それを聞いてベイルは全力で首を振っていた。


「諦めろベイル君。アリスは本気だ」

「おいお前親父だろ! 娘の凶行止めろよ!」

「むしろ計画通りと言わせてもらおうか」


 ニヤニヤしながら言うウォーレンにベイルは涙を浮かべる。


「この外道!」

「あなた! まさか本気でアリスまでもその悪魔に差し出すつもりなの!?」

「仕方ないだろう。それに、私たちはもちろんサイラスが生きているのはそもそもベイル君のおかげだろう」


 その言葉に反応したベイルとファブニール。ファブニールが先に食い気味に聞く。


「どういうことか説明してもらっても?」

「おそらくベイル君がドラゴンの力を持っているのは、紅竜級の血を飲んだからだろう。そしてあの場に彼がいなかったら私たちは救援が間に合わずに死んでいた」


 それに関してはベイルもシャロンも否定しない。


「それにあの様子を見ろ。どうせアイリーンの悪巧みに参加したアリスを許して優しく接したが故だ。どうせこの数日、君からの干渉を避けるために二人で守っていたようだしな」

「だ、だからって……」

「安心しろ。ベイル君の事だから――少しは虐められる」


 そう悪い顔をするウォーレンを見てアイリーンは疑問符を浮かべる。少し視線を避けると、アリスに対してベイルは全力で説得していた。


「良いかい、アリスちゃん。男は俺以外にもたくさんいるんだよ? なんだったらたぶんまだロビン兄さん辺りはギリギリ結婚していないかもしれないからそっちは――」

「嫌です」

「侯爵とか伯爵とか――」

「ベイル様が良いです。ベイル様が望むなら今からでも良いですよ?」

「そんな趣味は無いし俺はそっちの趣味はノーマルだから大丈夫!」


 そんなベイルの様子を見て笑っているウォーレン。そんな様子を見てアイリーンもまた、思考を放棄した。


「冷静に考えて、あの男のポテンシャルを考えれば世界なんて潰そうと思えば潰せるのよね」

「それが迫られると弱くて説得を始めるんだぞ。むしろ安心せんか」

「…………まぁ、そういうことなら別に良いわ」

「最後の砦が……崩壊した……」


 本気で絶望をするベイルだが、その場にいる全員はまったくベイルに対して手助けをしなかった。


 あれから数日後、冒険者協会がやってきて状況を説明すると唖然とされたとりあえずはダンジョンとして認定される。冒険者はもちろん、建築家たちもやってきて工事に取り掛かり安定したところで王宮にてベイルの大公受勲式を行う事になった。

 受勲式を終えてお披露目パーティとなるが、そもそもベイルはこれまでこういったパーティに参加した回数は限りなく低く、男女共に縁を作ろうとして来られるのも嫌だったのですぐさま逃亡したのである。


「何だマスター。逃げて来たのか?」

「当たり前だろ。何で人が群れているのに逃げないという選択肢が無いんだ。俺だって嫌とは言え大公の人間になったんだ。人と接する必要ぐらいは考える……考えるけどさ」


 逃げる前に来た人間がこぞって娘との縁談だったのを見てベイルは逃亡を決意。そして今、会場の直上にいる。


「もう縁談はこりごりだ。いや、本当に」

「……マスター、実は約一名、マスターの事を本気で探している令嬢がいる……二人に増えたな」

「二人?」


 ベイルがファブニールの見ている方に視線を向けると、そこにはアメリアとカリンがベイルを探している姿を見つけた。探している方角から空を飛んでいる事は確信しているのだが、それが直上だとは思っていないようだ。


「あの二人もマスターの番か?」

「いや、一人はこの国の王太子の婚約者で、もう一人はその妹。ただちょっと縁があるんだよ」


 そう言ったベイルはファブニールと一緒に下に降りる。ベイルの姿を見つけたからか、カリンがそのまま近付いて抱き着いた。


「王女と結婚するって聞いていないんだけど」


 第一声がそれということもあり、ベイルは顔を背けた。


「色々あってな。まぁ、この五年間、外にも出れたしかなり早いが後進をさっさと育てて楽隠居を考えてる」

「……そう」


 悲しそうな顔をするアメリアだが、ベイルはなんとも言えないという顔をしていた。


「お姉様……」

「じゃあ、これからは兄妹として仲良くしてね」

「ああ、そのつもりだ。もっともその前に俺は周りの貴族と敵対するつもりだけどな」

「え……?」

「とりあえずファブニール。今日はこの二人と一緒にいてくれ」


 ベイルの言葉と共に、いつの間にか姿を消していたファブニールが姿を現す。


「この子は?」

「俺の使い魔みたいなもの」

「ヒドゥーブル大公領に存在するダンジョンのヌシ、その分体だ」


 そう言ってファブニールはカリンの肩に乗って姿を消す。


「こうしていれば我の姿は見えんだろう」

「そうだな。カリンちゃんは大丈夫か?」

「……大丈夫」

「安心しろ。これでもマスターの得意な重力魔法で彼女にかかる負担を徹底的に減らしている」


 それを聞いて安堵したベイル。その時、シャロンが姿を現す。


「見つけたわよベイル。主役がこんな所にいちゃダメじゃない」

「勘弁してくれ」

「それにそろそろ、あなたには大公としての最初の仕事をしてもらわないといけないんだから」

「はいはい」


 そう返事したベイルは中に入る。その光景に二人はどこかやりきれないという顔をしているのを見て、シャロンはベイルが既に中に入っているのを確認してから言った。


「アメリア、カリン。知っていると思うけど、私はとても強欲なの」

「それが何か?」


 少し冷たくなるアメリア。そんな彼女にシャロンは言った。


「私はあなたもベイルの嫁としてほしいと思っているわ」

「でも私はあなたの弟の婚約者ですよ。カリンならともかく私は――」

「関係無いわ」


 そう宣言したシャロンもまた中に入る。その会話を聞いていたファブニールは色々と思考を巡らそうと思ったが、それ以上に面白い事が始まろうとしているのでそっちに意識を割く。


『最後になりましたが、今日の主役であるヒドゥーブル大公に挨拶を頂こうと思っております。ではヒドゥーブル大公、お願いします』


 ジュースが入ったグラスをテーブルに置いたベイルはそのまま優雅に壇上に登る。そして司会からマイクをもらったベイルは壇上に感じる視線に一瞬怯んだ。

 周りがベイルに対して見定めるような視線を向けて来る。それもそのはず、ベイルは史上最年少の大公となったのだ。実質、王子とそう変わらない扱いでもある。


『ヒドゥーブル大公?』


 司会が声をかけると、ベイルは口を開いた。


『えー……大半の方は初めてですよね。本日は私の大公就任パーティに来ていただき、ありがとうございます』


 それだけ言った後にベイルは高級スーツ姿ではなく、自身で作った完全戦闘服に切り替えた。

 突然の事で周りは驚きを隠せない。しかしベイルは構わずに口を開く。


『あぁ……本当にお前らは愚かだよ。愚かでありがとうだよ。おかげでとてもいい女に成長したシャロンをお前らに奪われずに済んだ。それに関しては心から感謝している』


 急に口調を変えた事でベイルに対して厳しい視線を向けるが、それでもベイルは止まらない。


『だがこれだけは覚えておけ。俺がこの座を手に入れたのは偶然でも必然でもない。当然の事だ! お前ら古参共が弱いから俺がこの座にいる! むしろ、俺がいなくなってから大した努力もせずにのうのうと生きて来たお前らを恥じろ! 何が最年少大公だクソッタレ! 権力なんて全く、これっぽっちも興味がない俺が大公だと!? 冗談じゃない! 確かに土地は欲しかったさ。隠居したらしたらでしたいことがたくさんあるし、その際土地がいるからな! だが大公って何だ! ハッキリ言って異常だ! こんなクソ采配をする王も王だがな、こんな采配をさせたのはお前ら古参共のせいでもある! その事を脳裏に刻め! そして理解しろ! あと、もういないと思うが、俺と縁を結びたいからと娘を犠牲にするな! 基本的に俺が誰が相手でも娶るなんて思うなよ! これでも面食いな上に特殊性癖持ちだからな! 爵位なんざクソッタレ! 暴力こそ至上だ! 暴力を持ってから理性的ある事そのものが正しき貴族であると知れ! 爵位が高いからと優遇してもらえると思うなよ! 王族も当然その例外じゃない! 国庫は俺に絞られて空になると覚悟をするんだな!』


 そこまで言うとベイルは満足したのか深呼吸した後に漏れ出た殺気を落ち着かせた後に言った。


『ここからは本当に真面目な話、同じ国に所属する者としての助言だ。おそらく俺がここにいる事で状況を理解できない他国はもちろん、元々人族に恨みを持つ魔族も当然仕掛けて来る。特にダンジョンは魔族が作ったもので、奴らは容赦なくそれを奪い取ってくるだろう。奴らはまだ俺たちの祖先がした罪によって断罪しようとしている。奴らの恐ろしさはお前たちが既に知っているだろう。そしてその被害によって賊が大量に発生している。路頭に迷った者はもちろんたくさんいるだろう。これから世界はもっと厳しくなっていく。だからドレスコードなんて下らないものはとっとと捨てろ。男や女なんてものはもう関係ない。今持つ者は誇りじゃない。刃であり力だ。それができなければお前たちに待っているのは死。賊にやられるか、現状を理解できない馬鹿にやられるか、それとも魔族にやられるか。それが嫌なら男女共に力を持て。こんなパーティを開くよりかは領民を労え。見栄など要らん! そんなものはとりあえず王族だけで十分だ! まぁ、挨拶は以上だ』


 そう宣言したベイル。すると一部から拍手が起こり始める。主にヒドゥーブル家や王族を中心に巻き起こった。それを見て流石に無視できなかったのか他の者たちも拍手をする。


(扱き下ろされている事に対して色々と言いたいだろうに……)


 特に王族の方から色々と言われる事は覚悟していたが、ベイルの予想に反して特に何も無かった事に驚いた。






 ■■■






「疲れた」


 家に戻ってきて第一声がそれだった。ろくにバルバッサ家の面々には挨拶できなかったが、それに関しては本気で見逃してほしい。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「ああ、ただいま……いや待て。何でここにお前がいるんだ?」


 サラッとメレディスがいて驚いた。


「それはもちろん、今ではご主人様のメイドですから。バーラさんからはお墨付きを頂きました」

「そうなんだ……」


 精神的にどっと疲れている俺はそのまま寝ようとするが、メレディスが俺の服を脱がしていく。


「今日は夜遅いですし、仕方ありませんが明日はちゃんと風呂に入ってくださいね」

「あー……うん」


 今回の遠征で実は色々な事が起こっていた。

 まずはシャロンの離脱。元々学園生兼生徒会長という立場もあって学園での仕事が忙しく、こちらの対応ばかりしていられないというのが現状だ。その為のエイブラムの参加でもある。

 冒険者組合などの対応などもあるし、そもそも俺がここの領主ということもあってその対応も行わないといけないのだ。仕事を放り投げすぎというのもある。

 そして次にアリスの本格的な参加。これはある意味予想外ではあるが自分の鈍り切っている腐った思考を落としたいという事でエイブラムと共に仕事をすることになった。その際はエイブラムの部下としての扱いになるが、それに関しても了承済。なんでもいずれ俺のハーレムに加わり、子どもを産む立場でもあるのだから仕方ないということなのだが、その前に君は学園に通う事になるのだからその事は全力で忘れないでほしい。

 グレアムを中心に騎士団として結成されているが、今の主な仕事はダンジョンに潜って資材の回収だ。別の冒険者ギルドから指導員として何人か来てくれ、メレディス質の指導をしてくれている。


「お疲れ様です、ギルドマスター」


 そう俺を呼ぶのはヒューリット領の冒険者ギルドに所属するシェリーさんだ。そう、俺はギルドマスターも兼任する事になったのだ。

 大変なことになったのは重々承知だが、今は人手不足なので仕方ない。実際マスターとなるにはそれなりの実力が無ければ意味がないのだ。もっとも今しているのはモンスターの素材の解体なのだが。


「ああ、お疲れ」

「それにしても凄い量ですね」

「まぁ、新興のダンジョンだからな。しかも俺がダンジョンコアと契約しているし」


 しかしこれは意外な事に、冒険者組合としても事例が無い事らしい。そもそもヌシを介してコアと契約する事自体があり得ないそうだ。


「もしかしてダンジョンの操作も?」

「いや、ダンジョンのモンスター発生はそれこそダンジョンの気分次第に任せている。それに関しては事前に通達している通りだよ。強いて言うならばダンジョンのマップ内に誰がいるか把握するだけ。どの階層にいる人間が死にかけているのか確認する為にね。みんなは俺が攻略できないようにしていると思っているみたいだけど、単純に冒険者としての実力不足さ。精々できるのはダンジョン内の空間を操作してダンジョンブレイクを起こさないだけ」


 日夜研究を繰り返しているが、残念ながら思い通りに行かないのが現状だ。


「まぁ、このダンジョンのラスボス階層をクリアするという事は即ち厄災に打ち勝てると同義だから、500年前のシステムならば魔王に勝てる程強くなったのかもしれないが」

「今はもうジーマノイドの時代ですしね」


 ジーマノイドの出現による弊害と言われればそれまでではあるが、いくらジーマノイドが動かせるからと言って生身を疎かにして良い理由にならない。だからこそ俺みたいな人間がたくさんいるべきなんだけど五年程度いないだけでここまで酷い事になるとは全く思わなかった。


「それにジーマノイド技術も結局そこまで進歩していないみたいだし」


 だが幸いなのは、今では俺のところ以外にはジーマノイドが配備されていることだろう。


「マスター!」


 受付嬢見習いのメレディスがパタパタと音を出しながら現れる。


「どうした?」

「実は教会の方が大事な話があると訪問されているようで、エイブラム様からお呼び出しです」


 それを聞いて俺はため息を吐いた。


「全く、面倒だな」

「それにしても一体なんでしょうね?」

「どうせ闇魔法を使うなとか、契約したモンスターをこちらに渡せ、とかだろ。ちょっと行ってくる。後は頼んだ」

「わかりました」


 それにしてもこう言ってはなんだが、ヒューリット領からシェリーさんが来てくれたのは本当に嬉しい。これからバンバン教えてもらい、みんなには成長して行ってもらいたいものだ。


(俺もやりたいことがまだまだある。頑張りますか!)


 そう決意を胸に、俺は大敵教会――ひいてはレリギオン神皇国を相手にする事にした。

いつも『生前の記憶を手に入れた貴族の少年、異端へと至る』をご拝読を頂き、誠にありがとうございます。そんな皆様にお知らせがあります。


https://ncode.syosetu.com/n5891ih/


この度、2023年7月5日午前1時より今作のセルフリメイクの投稿を開始しました。

これまである程度の設定を練って書いていたのですが、そもそもこの話ってロボを使っての戦いってかなり少ないんですよね。それも含めて「ここはこうした方が良いな」と言うのを考え、書き上げたのを投稿しています。

ちなみにこの話はここで終わりというわけではなく、いよいよ学園編が始まるのでしばらく終わる予定は無いのですが、どうしても展開が出てこないというのが最近多くなってきているので気分転換に書いていたのがそこそこ形になっていたので投稿する次第となりました。

展開的にはそこまで変わっていませんが、魔族がたくさん出てきたり、子ども時代が少し長かったりと色々増えています。なのでできれば一緒にお楽しみいただければ幸いです。

そして次回からこちらは第三章へと突入します。できるだけ早く書き上げて投稿する予定なので、その間に向こうが増えたら「また展開に迷っているんだな」と気長にお待ちいただけると幸いです。


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