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#31-摩訶不思議戦闘メイド-

いつも"生前の記憶を手に入れた貴族の少年、異端へと至る"を読んでいただきありがとうございます。

しかし残念な事にとうとうこの31話でこれまで書き溜めていた分の消化を終えてしまいました。なので次回の32話からは完成次第の投稿となります。

正直現時点でいくら乗る前に死んだら元も子もないからと言ってロボット主題の癖に戦闘描写なんてほとんどないので色々と構想の練り直しや他のストーリーの構想をしている中でここまで書いて来たので今後の投稿はもっと遅いものとなりますが、できれば第三章までは話ができているので気長かつ楽しみに待っていただけると幸いです。

(2023/6/18)

 目的地に着いた俺はライジンから降りて捕虜を降ろすとこれまた痩せこけた女性陣が現れた。


「あ、あんたぁああああっ!?」


 捕縛した男の一人が旦那だったようで、痩せこけているがちゃんと肉が着いたら美人だと思う女性が近付く。マーカスが阻止しようとするが俺が止めた。


「どうして捕まったの? ねぇ、何で――」

「あ、とりあえず解放するから村民全員集合させて。炊き出しのお時間です」

「「「え?」」」


 驚くみんなを放置して大きな鍋と材料を出す。包丁とかはいつもの道具をお願いします。


「女性陣集合!」


 やっぱり女性に料理を作ってもらえる方が愛情あって良いじゃないということで女性陣にご飯を作ってもらう。グレタおばさんにはその音頭を取ってもらうわけだ。

 そして役立たずの俺たちは村長の――まぁ、つまりさっきの男もといトムのところで話を聞く事になった。


「実はここのところ不作で、エクランド家からの税金を挙げられていまして。村の備蓄も無くなったので狩りをしに行ったら――」

「そこで俺たちと出会ったわけだな」

「ええ。しかもエクランド家も消滅したそうじゃないですか。これからどうすればいいのかわからなくて」

「そして俺がそのエクランドを壊滅して新大公になったベイルです。よろしく」

「え……」


 トムは俺の顔を見る。


「しかし立地的に海に近いな」

「え、ええ。一応定期的にそこで漁をしています。ですが運搬方法が確立していない為それは我々で頂いていますが」

「そうか。漁の経験もあるのか」

「は、はい。と言っても上質な船ではありません」

「それに関しては一応心当りがあるからどうにかできるさ」


 マーカスとエイブラムが俺の方を見るがそんな事はともかく話を進める。


「少し話があるんだ。実は俺、さっきも言ったが新大公でしのぎ……まぁ、仕事が無い。でエイブラム、お前魚とか海鮮系の食べ物を食べた事は?」

「い、いえ。そもそも氷魔法を扱える人間が限りなく低いんです。ここ数年ではマリアナ夫人が氷魔法の使い手として名を馳せていますが、かといってそれを常時行うのは難しく」

「へぇ。ジーマノイド技術を応用すれば何とかなりそうなんだけど……」

「そういうわけには行きませんよ! え? 何を企んでいるんですか?」


 マーカスも興味津々のようだ。俺としてはその辺り発展しているものだと思っていたからこれはアリだと思っている。


「海鮮業で一山当てよう。という事で諸君、引っ越ししないかい?」

「……ひ、引っ越しですか?」

「ああ。実はこの前山賊どもがぶちまけた輸送箱がこの少年が気絶している間に清掃を終えたと報告があってね。これによりライジンによる超大型輸送が可能となった。そして畜産とかも考えているし稼ぎの宛てはたくさんある。ここはみんなで大移動して早速開拓。軍事施設とか諸々確保してみんなガンガンやろうぜって思ってな」

「そ、それは良いですが……住むところが」

「土地ごと移動すれば良いだろ」


 むしろ大公領の街に比べたら大分マシな広さだ。地下も無いし。


「あの、さっきも言っていましたがそんな事可能なんですか?」

「俺はできる」

「は、はぁ……そりゃああなたたちはバケモノですからそれくらいは簡単でしょうけど」

「言ってくれるじゃないか。まぁそのバケモノが君のお姉さんの相手だ。学園卒業したら毎日やるよ」

「実弟にそれ言うとか頭おかしいでしょう!」

「で、トムたちに食料を提供するからガンガン子ども産んでバリバリ働いて育ててほしいんだ。幸いな事に近くにダンジョンもあるし、あそこ」

「はぁあああああッ!?」


 さっきから思っていたけどエイブラム、ちょっとうるさい。


「だ、ダンジョンって!?」

「実は君がグッスリ寝ている間に見つけて隠蔽魔法をしておいた」

「…………」


 ――パタリ


 情報量過多なのか倒れてしまうエイブラム。一応心音を確認すると正常だ。どうやら気絶しているだけらしい。


「困ったな。基本的に会話はエイブラムがいないと困るんだけど」

「あの、もしかして最初からそれが目的だったんですか?」


 マーカスが聞いてくるので頷く。


「ま、ダンジョンに関しては完全に予想外だったけどねぇ」


 ダンジョンというのは本当に重宝する。どういう理屈か知らないが鉱石がたくさん存在するのだ。しかも異次元空間の為下手すりゃ無限に取り放題。だからこそ実は王都の近くにもダンジョンが存在して冒険者たちが鉱石採取などして環境を保全している。


「でも俺は別に強制はしないさ。やろうと思えば自分一人でどうにかできるし。何だったらすべてを投げ捨ててダンジョンに潜りに行ってもいいし」

「それ、ただ大公殿が潜りに行きたいだけですよね?」

「そうだねぇ。食料もたんまりあるししばらくは大丈夫だと思うよ。いざとなればオークとか狩れば良いし」

「普通、オークって簡単に狩れないんですよ? そんなもの狩れたら高級食材過ぎてテンション上がるでしょうね」

「大丈夫大丈夫。気にしない気にしない」


 まぁ、これがあくまで俺が提示できる選択肢、というところだ。


「トムさんや、悪いが村人たちと話し合ってくれないか? あと食料は何日分置いておけばいい?」

「……大公様、我々はあなた方に牙を剥いたのですよ? それでもあなたは私たちを傍に置くというのですか?」


 問われて俺は頷いた。


「そもそもだ。お前たちの貧困は他でもない俺たち貴族の責任だ。貧困故に人を襲って盗賊と化した。ならばその改善の為に動くのが貴族の務め。俺にはそれができる。この前のヒューリット領でのスタンピードの食糧、まだ残っているしね。だが一つ聞くが、随分とお粗末だったがアレが最初か?」

「……誓って、あなた方が最初です。そもそも私たちはあなた方いた場所に狩りに来て、最初に取られたので優位に立つために襲いました」

「そうか」

「――いや、良くありませんよ!」


 エイブラムが起き上がる。いつからか知らないが聞いていたらしい。


「彼らがしたのは犯罪ですよ。あなたはそれを黙って見過ごすんですか!?」

「ああ、見過ごす」

「何で――」

「さっきこの辺りの土地を探ったが墓地に不自然に骨が積まれた様子もない。すべて均等に骨壺に入った状態で保存されている。打ち捨てられている様子も無いしな」


 それを聞いてエイブラムが唖然としていた。周りもいつの間にという感じだったのだろう。


「地属性の魔法をある程度使えばできるようになるさ」

「…………」


 顔を青くしてガタガタと震えるエイブラム。俺は不思議そうに見ているとフラフラしているのでマーカスが慌てて支えた。


「あぁ。こいつは王家の次男坊なんだけど色々と慣れてなくてな」

「…………ベイル様、ハッキリ言いましょう。あなたのやっている事は破天荒にして天災です。これまでの貴族の常識を塗り潰すレベルの所業です。例えダンジョンが偶然だとしても、それ以外の試みは前例はあれどできるかどうかわからないんですよ!?」

「なら俺たちで確立して広めてやれば良いじゃないか。どうせ魔族の襲撃に耐え切れずに難民や孤児はたくさんいるんだろう? そいつらを全員引っ張って、ガッポガッポ稼いで幸せになれば良いさ」

「そんな夢物語、本当にできると思っているのですか!?」

「できるかじゃない。やるんだよ。せっかく領土を持ったんだ。他の領とは違う事をしたいだろ」


 すると家屋の外から拍手が起こる。いつの間にか話を聞いてらしい。


「大公様、一日時間をもらえませんか?」

「ああ。返事は次に来た時にしてもらえば良い。俺らも俺らでやる事がたくさんあるからな。あ、そうだ。食料、何が良い?」


 そう言ってやるとトムをはじめたくさんの村民が喜んだが、エイブラムは頭を抱えていた。






 ■■■






 ベイルたちが戻るとモンスターの山ができていた。村人総出で解体作業を行っているが、その隣でメイドエルフが解体を素早く終わらせている。


「おかえりなさいませ、マスター。モンスターが出て来たので仕留めておきました」

「大量だな。もしかしてボーナスタイム?」

「いえ。地形変更による暴走でしょう。マスターが吹き飛ばしたという屋敷にはおそらくモンスター対策用の措置があったと推測します」

「なるほどねぇ」


 そんな会話をしているのにも関わらずメイドエルフの手は止まらない。そんな姿に周囲は唖然とする。


「とりあえず残っている奴は俺の異空庫に入れておくよ」

「その方が良いでしょう。このままでは腐ってしまいますので」


 ベイルの異空庫というものは本当に便利だった。最初はただ中に入れているだけだったが、ベイルが強くなり過ぎた事で様々な空間が造り上げられていたらしい。それに気付いたベイルは空間を整理し、無機物のみしか入れることができないが、対象の時間を止める空間、完全なる異空間で俺の分身たちがジーマノイドやモビルビークルを整備してくれているんだよ……ただし、たまに変なものができているが。


「謝肉祭とかしたいけど、今そこまで余裕無いしなぁ。……米、無いし」


 なんて呟きながら異空庫に入れていると、シャロンたちが近付いて来た。


「な、な、な、何なのよその子⁉」

「名前はありませんが?」

「そういうことじゃないわよ?!」


 そういうことじゃないとは? と二人で顔を見合わせていると、シャロンが叫ぶように言った。


「えっと、どういうこと?」

「おかしいですね? 私はいつも通り目の前を横切る肉共を倒しただけなのですが?」

「だ、だって、だってその子、口から魔砲吐いたのよ!?」

「……まぁ、この子は――」

「どうやらこの魔乳は何も理解していないようですね。私は言うなればジーマノイドを人型サイズにまでダウンサイジングしただけでの戦闘兵器です。見た目がエルフなのはぶっちゃけ趣味です」


 ま、魔乳って……確かにシャロンのおっぱいは大きいけどさ。

 そして確かにこいつはジーマノイドを人型サイズにまでダウンサイジングしたもので、所謂俺の理想を詰めた人型機動兵器とも言える。で、俺と組み手ができるように設計しているのだ。そして見た目がエルフなのは本気で趣味だ。


「……ねぇ、ベイル君」

「何でしょう?」

「やりすぎって言葉、知ってる?」

「で、でも、これが俺の趣味なんだよ」

「……へぇ。自分と同じ戦闘能力を持つ美少女を作るのが、ねぇ?」

「別に発情なんてした覚え無いんだけど?」


 もしかしてシャロンは嫉妬しているのだろうか。それはそれで嬉しいんだと思うのだが。


「マスター、この魔乳は大丈夫でしょうか? その乳を持ちながら今更嫉妬するなど馬鹿げているという事が理解できていないようです」

「とりあえずシャロンの事を魔乳と言うの止めろ」

「わかりました」


 するとシャロンは俺の方を見て聞いてくる。


「ところで魔乳って、何?」

「たぶんシャロンクラスには当てはまらないと思うけど、胸が大きすぎる女性の事だよ」

「……わ、私のは形重視よ! ま、まぁ、あなたが大きすぎる方が良いと言うなら頑張る――」

「君はそのままでいてくれ。女性はおっぱいよりもその存在だと思っているから」


 というかそういう話をしている場合じゃないんだ。周りから好奇な目に晒されているけどここではスルー。


「とりあえず、少し話をしたいことがあるんだけど」

「良いわね。……でもその前にエイブラムを休ませてあげましょうか」


 今にも倒れそうになっているエイブラムを見て俺はため息を吐く。今回の旅はどうやら刺激が強すぎたらしい。


 俺たちは俺が準備した借りの4LDKの家に入る。そこには今回同行したマーカスとグレタも一緒にいた。二人は王女相手に緊張しているらしい。


「さて、あなたたちが見て来た事を教えてもらうわよ」


 そう言うので俺が説明するとシャロンは頭を抱える。


「エクランドが放置した海に面した村に、ダンジョンの発見。さらにはモンスターで畜産、ね。確かにこの国――というよりも世界中に海産物というものは存在するけど、特産品としてだけで市場にはあまり出回らないわ」

「という事は、ここだけの特産品として活用できるから収入も見込めるな」

「でも残念ながら問題がいくつかあるわ。まずここに来るまでの道の整備。これに関しては追々していくとしても来てくれるまでの期間も儲けが出ないのが難点ね。あとはお土産として海産物が腐りやすいという事もあるわ。そもそも残念ながら氷魔法を自在に操れる魔法使いが圧倒的にいないのよ」

「一応代替え案もあるから、しばらくは畜産で儲けるしかないか」

「あとはダンジョンね。やっぱりダンジョンを見つけたのは大きいわ。完全攻略をしなければ資材も冒険者を通じて確保する事も可能。そして冒険者がダンジョン探索の為に宿屋に泊まるからその収入も見込める、と」


 俺たち二人は悪い顔をしながら話をしていると、マーカスが言った。


「ですが、我々のほとんどはこれまで農業をメインにやってきたのです。そう簡単に鞍替えは難しいのでは。それに、同時展開するとなれば人手が足りません」

「そして育成するにも時間がかかり過ぎる、か。確かにね。これじゃあお金も無いし何もできない……オークの集落襲撃すれば良いな」

「た、確かにオークは食べられますが、集落を襲撃すれば一体どれだけの被害が出るか――」

「大丈夫だよ。襲撃するの俺一人だし」


 マーカスとグレタが口をあんぐりと開けた。


「……姉様、考え直してくれませんか」


 気が付けばエイブラムがシャロンのところに来てそう言う。


「何が?」

「この男との結婚です。別に姉様ならもっとまともな嫁ぎ先でもあるでしょう? 何故わざわざこの男と結婚する必要があるのですか!?」

「突然どうしたのよ?」

「今日、この男と一緒に行動してわかりました。この男は異常です。貴族の矜持も持たなければ礼儀も知らない。その癖王族を守るという事もしないのですよ!? ましてや、私に刃を向けた男を勝手に許すような人間です! そんな男と何故結婚する必要があるんですか!?」

「エイブラム、それ本気で言ってる?」


 急に雲行きが怪しくなってきた。


「ええ、本気ですよ! だからこそ疑問なんです! 姉様が一体何故この男と結婚する必要があるのか――」

「私がしたいからよ」


 そう言った瞬間、マーカスとグレタが俺の方を向いた。


「大公殿が結婚を申し込んだんじゃないんですか!?」


 俺は慌てて顔を背ける。実質俺は確かに大公という餌で釣られている。


「ごめんなさい。三人はちょっと出てもらえないかしら?」


 シャロンがそう言うので俺たちはそそくさと外に出ていく。


「ヤバいですね。まさかあの人が結婚を反対して家族で揉めるとなったら……」


 マーカスがそう言うが実際どうなんだろう。


「少なくともオッサン……国王陛下が結婚に乗り気だったからな。何だったら五年前は向こうが当時十一歳のシャロンを妊娠するように言ってきたし」

「ちょっと、そんな事をしたら彼女が――」

「それに切れた俺が説教したけど」

「……国王陛下に対して説教をするなんて勇気ありますよね」


 今思えばかなり切羽詰まっていたのだろうな。たまたま歳が近い娘が一つ上。他は年下で孕むには少々心許ない。だからと言って十一歳の子どもに手を出す趣味は無かった。あくまで愛でるのと子どもを作るのでは状況が違い過ぎる。……まぁでも、昔一緒に寝たけどその時に膨らみ始めたおっぱいに興奮しましたが。


「ただ、俺としては別にどうでもいい事だ」

「え……?」

「彼女が家族に言われて結婚を取りやめるのは仕方ないと思う。それがこれまで育ててくれた親に対する恩返しだって言うならさ」


 でも何でだろう。さっきから涙が止まらない。






 ■■■






 シャロンとエイブラムは同腹の姉弟だ。しかし五年前、ベイルの件でシャロンがジュリアナと大喧嘩した事で家族から距離を取るようになった。最初は距離を詰めようとしたジュリアナはもちろん、次第にジュリアナがエイブラムに入れ込むようになってからエイブラムも避けるようになったのである。

 しかしエイブラムとしては姉がそんな事で家族として離されるのは違うとシャロンと積極的に会話をしようとしていた。今回の件も同行しようと思ったのはシャロンが好きなベイルを見極めることが目的として大きい。


「エイブラム、確かにあなたの言う通りよ。五年前と違って今では他の妹たちも育ってきているから何も私が出張る必要は無いわ」

「だ、だったら――」

「でもあの姉妹の中で一番年上の女は私。歳が近くて、あの人の子どもをすぐに妊娠してもおかしくないのは私なの。学園を卒業する事を考慮しても、たぶん卒業の歳に私が妊娠させようとしてくれるわね」

「そんな冗談を言っている場合ですか!?」

「少なくとも私は本気よ。それに私以外の誰かを提供したとしても絶対に手を出さないでしょうね。そうじゃなかったら五年前の時点で私は妊娠しているもの」


 だからこそシャロンはあの時、一緒に寝ようと提案できた。どこか安心できる要素があったから。それでも手を出してほしいという期待が無かったわけでは無いが。


「それに、彼はこの王国の救世主なのよ」

「救世主……? 確かに姉様を助けたりと実積はあるでしょうが――」

「それもそうだけど、そうじゃない。私が一時期荒れているのは知っているわね?」


 言われてエイブラムは頷いた。


「私は正直、サイラスを何度も殺そうと思ったわ。サイラスだけじゃない。あなたやグレアム、言わば王家に生まれた男全員を、よ」


 そう言われたエイブラムだが、前々から知っていたからかそこまでのダメージは無いようだ。それでも僅かばかりな傷があるにはあるが。


「だって気に入らないじゃない。私の方が先に生まれたのに、どうして私が王位を継げないのよ。そのチャンスもこの国にはないわ。それでどうやって納得しろと?」

「それは……」

「当時の私は本当に気に入らなかったわ。男が生まれたと聞くたびに殺してやろうと思った。でも、それを馬鹿らしくしてくれたのがベイル君なの。彼が十歳の身であれだけの力を持っていたから私は王位を、最高権力を持つことが馬鹿らしくなった。そうじゃなければ私は今頃悪行がバレて処刑されるか、あなたたちが死んで私が王位継承者になるかのどっちかね」


 その頃のエイブラムは本当に何も知らない少年だ。もしそれが実行されればなす術もなく殺されていただろう。


「つまり彼はあなたの救世主でもあるわけ。わかったらこの話は終わり――」

「それでも納得できませんよ! あれだけの力を持ったうえで理性があるというのならそれこそ王家に忠誠を誓えば――」

「そんなのつまらないじゃない」


 エイブラムはまるで見えないハンマーに殴られた思いだった。

 エイブラムが混乱しているのにそれでもシャロンは語るのを止めない。


「あれだけの力を持っていて、それでも自分の夢を叶えようとするから良いのよ。だから私は一人の女ではなく一匹のメスになれるの。そうじゃなければ私がここにいる意味がない。彼一人がいることで王国の治世が成り立ち、私をセーブする事ができる。その上で悪行を企み、民に対して無理強いをする貴族を潰せる程の正義感を持っている存在をどう蔑ろにしろと? 彼がエクランドと同じように力こそすべてと断じ、全てを滅ぼす力を持っているならば王家なんてとっくに滅んでいるわ。悪いけど彼がただの人間じゃないこともとっくの昔に調査済。だからこそ私はここにいるの! 彼の鎖無き奴隷に落ち着けるの! ええ、そうよ! 彼は他の王家の誰よりも子孫を残すことが一番の仕事だわ! もう今の王家の時代は終わっているのよ! あなたは王家にいながらそんなこともわからないの?」

「あ、あなたは、今の王家を、私たち家族を侮辱すると――」

「ええ、何度も侮辱してやるわよ! むしろ一体何がおかしいと? 私はあんなにも彼を愛しているのに、そして彼は今の王家すら滅ぼせる力を持ちながらそれを行使せずにいざ大公の座についてみんなを引っ張る立場になればその為に行動する立派な理性があるのに、それでも否定する人間がいる家族なんていらないわ!」


 そんな騒ぎが起きている中、外で会話が終わるの三角に膝を抱えた状態で座っている二人の横を通り過ぎたグレアムとその二人ですら知っている者たちが現れる。そして騒ぎになっているドアを開けて中に入ると二人は驚いてその人物を見る。


「一体何の騒ぎだ、これは」


 自分の子どもが喧嘩をしている姿を見て、二人の父――ウォーレンは驚いていた。

 どう見てもおかしな雰囲気を醸し出す二人の子ども。どういうことかと問い詰めようとした時に少女が顔を出す。


「まるで倉庫ね。こんな倉庫に押し込められて良く生活できるわ」


 そう言った少女は不思議な事にシャロンにもエイブラムにも似ていない。彼女はアリス・ホーグラウス。正室のアイリーン・ホーグラウスの娘でウォーレンの次女である。

 エイブラムはジュリアが来ている事に驚いていたが、それ以上にシャロンはその後ろにいる女性に注目する。


「何であんたがここにいるのよ!」


 ジュリアナがビクッとなる。エイブラムも意外そうにジュリアナを見ていた。

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