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#30-俺たち新規開拓隊-

 その後すぐにマーカスに広場に人を集めてもらい、ベイルの存在を知っている者が大半で驚きながらもワクワクしている。


「改めまして、元エクランド大公領を含め辺り一帯の土地を管理をする事になったベイル・ヒドゥーブルです。まだ日取りは決めていませんが早速住まいを別の場所にしようと考えております」

「「「え?」」」


 突然の事に全員が唖然とした。


「あ、安心してください。移動に関してはこの土地丸ごと移動させるつもりです。ただここ、大公領だけど金を生まないので」

「しかし、そもそも土地ごと移動なんて――」

「それに関しては問題無い。まぁ、しばらくは今と変わらない生活になるだろうから」


 そう言ってベイルは準備してもらった台を降り、マーカスを見つけて言った。


「ちょうどいい、マーカス。君ともう一人、サポート面で腕が立ち、顔が利く人間を準備してくれ。明日早速偵察に行く。できれば女の人が良いかな」

「……何をするつもりですか」

「ただの大移動ならば俺の独断と偏見で家を準備すれば良い。幸い大した機能がない家だったら瞬時に作れるから。でもあの様子なら納得しないと移動してくれないだろ?」

「だから人を準備してどんな様子なのかを確認しに行くのですね。わかりました」


 その会話を聞いていたエイブラムが近付いて来た。


「大公、正気ですか。平民を連れて行くなど――」

「別に良いじゃん。それに突然現れたクソガキよりも長い間いたまともな大人の方が納得するだろ。結局俺らなんて突然現れた侵略者みたいなものなんだし」


 とどこか楽観的なベイル。嫌な予感がしたエイブラム。


「そ、それに姉様の護衛はどうするのです!」

「ああ。それに関しては問題無い。俺の力作を置いて行くから」


 何のことだか理解できないエイブラムだが、その概要を聞いて唖然とした。






 ■■■






 翌朝、必要な荷物を確認して今回の調査要員を確認する。一人は俺。もう一人はエイブラム。そしてこの街のリーダーでもあるマーカスとみんなの主婦代表グレタさん。


「あんたが娘たちを助けてくれたのは感謝しているが、だからと言ってあんたを領主として相応しいかは別。悪いが見極めさせてもらうよ」


 そう言った時にエイブラムが何を言おうとしたので俺が制する。


「何故ですか! この者は――」

「落ち着け。確かにこの人の言う通りだよ。状況はどうあれ貴族が平民に奴隷を強いて売買していたのは事実。本来守るべき民をだよ」

「それは……」

「それとエイブラム、これだけは言っておくけどしばらくは贅沢なんてできるなんて思うなよ」

「……はい?」


 何を言っているんだという顔をするエイブラム。


「ところで領主様や、これに乗るのかい?」

「え? もちろん。昨日の内に整備済ですぜ姉御!」

「何か嫌な予感しないんだけど!?」

「でぇじょうぶ。ゲロ爆弾ができるだけだ」


 眉を引き攣らせるグレタさん。

 そんなことはともかく載せてからメイドエルフを出す。胸は戦闘の為に無いがそもそもそういう目的で作ったわけじゃないから問題ない。


「お呼びですか、マスター」

「自立稼働状態を許可。しばらくの間、シャロンを第一優先にしてこの辺りの人間と意思疎通可能な存在の確保をお願い。それと食料になる存在は死体を燃やさずに」

「了解しました」


 命令を終わらせているところにシャロンが現れる。


「えっと、その子は?」

「こいつは魔石を核とした戦闘用エルフ型メイド」

「初めまして。ところでこの方がマスターの第一優先護衛対象でしょうか?」

「そうだ」


 そういえば名前無かったなぁ。どうしよ。なんて思っているとメイドちゃんはとんでもない事を言った。


「この前の女もそうですが、マスターは巨乳が好きなのですか?」

「……この前の女?」


 シャロンの目からハイライトが消えた。


「あ、もしかしてアメリアの事か」

「アレもマスターの女では無いのですか?」

「違うから。アレは……」


 そういえばアメリアとの関係ってなんだろうか。多分本当はダメなんだろうけど、いつの間にか仲良くなっているし……幼馴染? その割には一緒にいなかったしなぁ。

 なんて考えているとシャロンがとんでもないことを言っていた。


「良い? あなたのマスターの最初の女は私なの。そしてこれから増えるであろうあなたのマスターの嫁たちを取り仕切るリーダー。それがこのシャロン・ホーグラウスよ。覚えておきなさい」

「わかりました」


 いつの間にか解決していたでござる。まぁ、とりあえず解決したという事でスルー。


「じゃあ行ってくる」

「あ、待って」


 シャロンは俺にキスをする。所謂行ってらっしゃいのキスだ。


「行ってらっしゃい」

「あ、ああ」


 俺はライジンに乗ってそのまま目的地に向かう。


「大公、顔がニヤけてますよ」

「……加速する」


 ふと、前世の事を思い出す。高速道路って基本的に百キロ前後で走る。しかしこの世界に高速道路どころか道路交通法なんてものは存在しない。そして俺は高速道路は好きだ。加速できるからな。

 後ろから悲鳴が聞こえてくるが一切無視。時は金なりって言うじゃないか。だから仕方ないんだ。



 そんなこんなで目的地に到着。グレタおばさんはグロッキーになっていた。


「な、なんてスピードで爆走しているんだ……」

「この人に常識というものは無いのかもしれません」

「おいおい。それじゃあまるで俺が常識知らずみたいじゃないか」

「少なくともあなたの経歴は非常識ですよ! まぁ、そうじゃなければあの姉が惚れるなんてあり得ませんが」


 そしてほとんど成り行きで俺は彼女とイチャイチャしているわけだ。まさか王女とそんな関係になる上に浮気も容認されるとは思わなかったが。


「ところで気付いてる?」

「な、何がですか?」

「……いますね、モンスターが」


 どうやらマーカスは気付いたらしい。外に出たエイブラムも辺りを見る。


「ちょっと待ってください、囲まれてませんか?」

「今日の目的はこの辺りの調査だったけど、まさか食料をゲットできるとは」

「「え?」」


 驚いている二人を無視して俺は周りにいる食材にテンションが上がる。


「豚に牛。これ畜産もできるな。何でエクランド家はこいつらを育てようとしなかったの? 馬鹿なの? しかもこれ、稲穂じゃん。漁業しなくても良いじゃん! するけどさ!」

「……大公、本気で言ってますか? 相手はモンスターですよ?」

「でもおいしいよ?」

「そう言う事を言っているんじゃないんですよ! 下手すれば僕たち死ぬんですよ!? わかっているんですか!」


 何故か興奮状態のエイブラム。とりあえず黙らせた方が早いらしい。だから俺はちょっと本気を出した。






 ■■■






 エイブラムが目を覚ましたのは到着してから二時間後だった。ベンチに横たわっている。


「あ、おはようエイブラム」

「……おはようございます」


 エイブラムは信じられないモノを見た。それはさっきまで自分たちを囲っていたモンスター群が突貫の家屋に繋がれているからだ。


「あれ、僕は……?」

「なんか気絶してたけど大丈夫?」

「いや、大公殿が原因と思われますが」


 マーカスの言葉にエイブラムはベイルを見る。


「そうかな?」

「そうですよ。あそこまで恐ろしい殺気を放つなら言ってくださいよ! アレ、心臓が弱い人なら間違いなく死んでますからね!」

「えぇ……まぁ、こっちにいる限りそこまで本気出さないから良いだろうけど……俺を怒らせなければ」


 そんな事など難しいだろうと言いたげな二人。そこにグレタも目を覚ます。


「うーん。なんだか怖い夢を見ていた気が……」

「あ、おはようグレタおばさん」

「おはようございます、領主様…………」


 モンスター群を見てギョッとするグレタ。ベイルはエサ入れを出してそこに餌を入れると最初怪しそうにしていたモンスターたちも大人しそうに食べ始めた。


「え? え?」

「こいつら量産して畜産するからよろしく」

「え……えぇええええええッ!?」

「た、確かに可能と言えば可能ですが、他のモンスターに襲われるかもしれないんですよ!? 採算は取れるんですか!?」

「軍用ワンワン捕まえれば良いんだよ」


 言っている事がぶっとんでいるベイル。


「いや、待てよ。それが育成されるまでの間の事を考えればちょっと不安だな。もう一台メイド作るか」

「ちょっと待ってください。それって大公クラスのバケモノがもう一台量産されるってことですか!?」

「もう普通に呼んでくれて良いよ。なんか大公って呼ばれるとむずがゆくなる」


 そういう問題じゃないだろうと思ったエイブラム。


「ベイル様、あなたは自分がどれだけ問題行動をしているのかわかっているのですか!? 姉様が守られるということなので一台は置いておきましたが、そもそも――」

「あ、ヤバッ」


 ベイルはエイブラムを回避して走り出す。エイブラムが振り向くとそこにはAランクモンスターの黒人狼がいた。それも一体だけではなく複数体だ。


「くっ……援護しま――」

「第二次ボーナスタイムキタコレ!」

「え?」


 ベイルは瞬く間に黒人狼の集団に切り込んで首を刎ねた。まだ殺されていない奴らは危機感を感じ取ったのだろう。すぐに離脱しようとしたがその前にベイルが闇魔法で拘束していた。


「おっと、逃げるなよ人狼共。俺の計画を邪魔し、俺の未来を殺そうとしたんだ。せっかく領地を豊かにして使える人材を揃えたら俺とシャロンは毎日しっぽりで怠惰な日々を送ってやろうと思っている未来を潰そうとしたんだよ。そんなの、許されると思ってんの?」


 もがき苦しむ黒人狼たちの首を次々に刎ねるベイル。その姿を見て家畜と化しているモンスターたちはガタガタと震え始めていた。嬉々として相手の首を刎ねていく様を見て自分たちもああなるのではないかと怯えてしまったのだ。

 しかしそうしている間にエイブラムの背後からに一人の男が羽交い絞めにする。その男は体格からしてがっしりしていると思われるが顔をフードを被っているからか判別できない。


「な、何をする!?」

「おっと、動くなよ」


 声がして気が付いたマーカスは剣を抜こうとするが、ナイフをエイブラムの首に当てられる。


「こいつが殺されたくなければお前たちが連れているそいつらを――」

「何をしているエイブラム! その程度の雑魚、とっとと魔法でのしちまえ!」


 そう叫ぶベイルにエイブラムは驚いていた。


「な、何を言っているんですか、あなたは⁉」

「馬鹿かお前! そんな事をしたらこいつが――」


 その時、エイブラムの近くで骨が折れる音がしたかと思えば自分を羽交い絞めにしている男が痛みで膝を付く。


「な、何だ。何をしやが――」


 その時ベイルが移動して男を蹴り飛ばす。エイブラムは慌ててベイルの後ろに回り込むが、ベイルはエイブラムを前に出した。


「何をしているんだ?」

「な、何って……僕は王子ですよ!? 普通僕を守ろうとかしません⁉」

「……お前馬鹿だろ」


 馬鹿にするような顔をするベイル。エイブラムは心底驚いている。


「ば、馬鹿ってなんですか!? 僕は王子です! 王家の血を引いているんですよ! そんな人間を守ろうとしないで何が貴族ですか!」

「……一つ聞いていい?」

「何ですか!」

「いやお二人とも! それよりも敵がたくさんいるんですが⁉」


 マーカスの言葉を聞いてハッとするエイブラム。しかしベイルはエイブラムから眼を逸らさない。


「って、何であなたは敵の方を見ないんですか!?」

「あ? あぁ……別にあの程度なんてことないし」


 指を鳴らしたベイル。地面から円柱が飛び出して的確にぶつけると全滅した。


「う、嘘だ……」


 近くで倒れていた男が逃げ出そうとする。細身の男だから素早いようだが相手が悪すぎた。


「おっと、逃げちゃダメじゃないか。気弱な主人公だって友だちを守る時は頑張るんだぜ?」

「何を言ってるんだ! 意味わからねえよ化け物が!」

「いやいや、人間を積極的に殺さないだけマシだろ。良かったな。お前たち全員生きてるんだぜ? 金になるからな」


 ガクガクと震える男。他の者も既に拘束されておりベイルを見て恐怖を抱いている。


「お、俺たちをどうするつもりだ……」

「然るべき場所に突き出すつもりだけど、まずはお前たちがどこの所属なのか教えてもらおうか」

「お、俺たちは――」


 その時、男から腹の音が聞こえて来た。その音を皮切りに他の所からも似たような音が鳴り響く。ベイルはフードを取る。顔は正常というよりも痩せこけていた。


「もしかしてお前ら……この辺りに住んでいるの?」

「あ、ああ。この辺りと言えばこの辺りだ」


 少し安堵したのか腹の音が鳴る。


「……所属している領土は」

「え、エクランド大公領……」


 それを聞いてベイルは拘束されている奴らを連れて来る。全員が全員痩せており、それで何故という顔をしていた。


「エイブラム、マーカス、移動の準備だ! こいつらの村に移動する!」


 言われて二人は顔を見合わせるがすぐに準備に取り掛かる。ベイルはとりあえず拘束をしたまま人をまとめた後に黒人狼を血抜きした状態で家畜と一緒に放置した後、バリアを張って保護した後看板を立てた。


『ヒドゥーブル大公所有物。お痛をしたら男女平等に酷い事をします』


 そんな看板を満足気に見たベイルは頷いて同じような看板を四方の残りにも設置。その後にライジンの荷台を拡張し、今回攻めてきた者たちを乗せる。


「よし、出発!」


 そこでふと、マーカスが思いっきり加速するのではないのかと肝を冷やしたが別の事で肝を冷やす。そう、飛んだのだ。


「は? は?」

「何で? 何でぇ?!」


 混乱するマーカスに悲鳴を上げるグレタ。捕えられた人たちもライジンが浮かんだ事で唖然とする。


「そういえばこれ、最初飛んでたなぁ」


 遠い眼をするエイブラム。ベイルはさも当然のように操作するがそれよりもさっきの事を聞きたいと思った。


「ところでベイル様。さっきのはどういう意味ですか?」

「どういう意味とは?」

「貴族は基本的に王家の許可を得て爵位を賜っています。なので貴族は王族を守る義務が――」

「つまりお前は負け犬になりたいのか?」

「……何?」


 負け犬と言われて苛立つエイブラム。だがベイルは容赦なく言う。


「お前が言っているのは弱者の戯言だ。いつ裏切るかもしれない他人なんぞ一体何故信用できる? そういうのは歴史が証明しているだろ」

「ですが、だからと言って――」

「守らないのは違う? ならば今度からは方法を変えるとしよう」

「ええ。是非ともそうしてくださ――」

「災害級魔法ぶっ放せば戦力は三割ほど消し飛ぶな」

「それ絶対に僕も死ぬよね!? そもそも災害級魔法なんて使うなよ! 頭おかしいだろ! たった一発でも倒れる代物だからな!」

「仕方ないだろ。そもそも俺は連発しても全然平気なんだよ。という事でエイブラム、今度から手を空いている時は弾幕を簡単に避けれるように特訓な」

「ふ、ふざけるな! 僕に死ねと言っているのか!?」

「大丈夫大丈夫。最初は初級の火の玉飛ばすから」

「死ぬわ!!」


 そう叫ぶエイブラム。彼は何故こんな男に姉が惚れたのかわからない、と。


「そ、そういえば大公殿、これからどうするんですか?」

「とりあえず彼らを村に届けて炊き出しだな。グレタおばさん、頼むぜ」

「ま、任せな。……でも絶対に墜落しないでくれよ」


 涙目でそういうグレタにベイルはちょっと頬を緩めた。

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