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#29-ヒドゥーブル大公家、始動-

 バルバッサ邸を出た俺は王宮の前に転移すると俺を見て兵士が敬礼するのでそれをそのままスルー。周りの騎士や兵士たちもまるで俺を怯えるように道を開ける。そのままオッサンの執務室に足を運ぶ。

 ドアをノックすると向こうから返事があったのでドアを開けると、二人のイケメンがいた。


「ベイル君か。よく来てくれたな」

「……誰?」

「覚えていないのか? いや、ブルーノの方は初めてだったか」


 俺の脳内フォルダに該当者がいないので誰だろうと考えていると、偉そうな態度で話しかけて来る。


「久しぶりだな、ベイル・ヒドゥーブル。相変わらず傍若無人に振る舞っているそうじゃないか」

「…………」


 どうしよう。思い出せない。本当に誰だろう。

 思考を巡らせていると後ろから柔らかい何かがくっついた。


「もう、何で私の部屋じゃなくてこっちなのよ。メイドがあなたが来てるって呼びに来てくれたから急いで来たじゃない」

「いや、お前の部屋なんて……あ」


 ふと場所を思い出した。それがバレたのかシャロンは俺にキスをする。


「何をしているのですか、姉上」

「あら、別に伴侶を相手にしているのだからいいじゃない」

「え?」


 驚いたのはもう一人の方だった。そう言えばコイツ、誰かに似ているんだよなぁ。


「ちなみに忘れていると思うけど、さっきから無駄に偉そうなのが私の弟でサイラス。もう一人の方があのセルヴァ宰相の次男でブルーノよ」

「わ、忘れているだと!?」

「……ああ、こいつがアルビオンぶっ壊したあの……」

「そしてお前が思い浮かべるのはそこなのか!?」

「そりゃそうだろ。俺にとってジーマノイドに乗るのは数ある趣味の中でもより熱中している事だし。俺にとってアルビオンは正しくジーマノイド技術の発展を見込める存在で俺の能力をふんだんに活かせる存在だったのに……」


 と言うと眉を顰めるサイラス。そういえばコイツ、王太子だっけ?


「殿下に対してなんたる口の利き方。そこに直れ」

「止めなさいブルーノ。死ぬわよ」

「ですがシャロン殿下! この男は礼儀を欠き過ぎです! 他の者たちに示しが尽きません!」

「大丈夫よ。明日から領地に引きこもるし」

「ああ。妊娠の報告を期待しているぞ」

「色々とまだ早いだろうが」


 そりゃあエロくないと言えば嘘になる。むしろ俺としてもまだ手を出していない事に驚いているぐらいだ。


「十一歳ならともかく今は十五だ! もうすぐすれば十六! 何の問題がある!」

「そもそもこの子学生だろ」

「そんなもの妊娠したら辞めさせるに決まって――」

「お前、たぶん今後無いであろう彼女の交友関係を積極的に潰すつもりなのか?」

「それに私、王族権限で生徒会長しているからそう安易に辞められないしね」

「そんなのがあるのか」


 王族権限というのもそうだが生徒会がある事も驚いていた。


「そうよ。来年この二人が入学してきて、秋ぐらいからすべて投げて私はベイルとイチャイチャするけど」

「イチャイチャなら今もしているだろ」

「学生でするイチャイチャと、今の段階でするイチャイチャは違うわ。正直私は今すぐ生徒会長と学園を辞めてベイルとイチャイチャしたいもの」

「目! 目が笑ってない!」


 ヤバい。シャロンから今すぐ襲ってきなさいと言わんばかりの目をしている。まさかこれが獲物を狙う時の目だろうか。俺、基本的にサッと移動してサッと狩る……あれ? 適職アサシン?


「そりゃそうでしょ。あなたと結婚したいと思っている人間はたくさんいるのよ? 先にやって子どもを作って優位性を持っていないと嫁同士の力関係が変わってしまうわ」

「姉上、それではまるでベイルが側室を迎えるようではありませんか」

「当然でしょ。まさかサイラス、あなたベイルが私だけで満足できると思ってるの?」


 するとサイラスが俺を睨んでくる。俺もそれに関しては驚いていたが、別にない話ではないのだろう。……まさか俺の身にそれが来るとは生前の俺は思っていなかったけど。


「だ、だからと言って姉上を娶っておきながら他の女を囲うなど――」

「それはあくまでも私たちの問題よ。あなたがとやかく言う必要は無いわ」


 もしかしてお姉ちゃんが大好きで、俺がお姉ちゃんを蔑ろにするのではないかと思っているのでは無いだろうか。今のところ、他に相手がいないのでそれは無いと断言できる。

 そう言えば俺、何故だか知らない内にシャロンとの結婚がトントン拍子に決まっているんだよな。普通もう少しゆっくりなるところだと思うが、周りは何も思わないのだろうか。少なくとも背後関係は調査しているだろうけど。


「どうしたの、ベイル君?」

「いや、今更なんだけどシャロンは俺で良いの? 思い返してみればいつの間にか俺と結婚する事になっているんだけど」


 婚約もした覚えも無ければいつの間にか俺と結婚という形になっているのだ。流石に聞いた方が良い――と思ったんだが、どうやらとんでもない地雷を踏み抜いたみたいだ。


「え? 冗談よね? まさかこの期に及んで私を捨てるなんて言わないよね? 私、嫌よ? せっかく夢溢れる理想な王子様に出会えたのにその人に嫁げないとか絶対に嫌だから!」


 いや、王子って。お前王族だろ……というのは流石に野暮か。もしかしたら童話的な英雄を求めていたかもしれないし。


「ちょっと待て。それは一体どういうことだ?」

「いや、思えば婚約段階すっ飛ばしているからさ」

「……あ」


 今度はオッサンの方が反応した。


「そういえばそうだな。忘れていた」

「父上! どういうことですか!?」

「ベイル君の獲得に急ぎ過ぎて婚約とか色々吹き飛んでいたな」

「だよな!?」

「おい! 陛下に対する口の利き方じゃないぞ!」


 ブルーノがそんな事を言うが今更なんだよなぁ。


「別に婚約とか結婚式とか良いわよ」

「待て。結婚式ぐらい挙げてくれ!」

「つまりあの女と顔を合わせないといけないのでしょう? だったら嫌」


 まるで何かを拒絶するように言うシャロン。


「だがジュリアナも何もお前に意地悪したくてあんなことを――」

「でもあの人が撃ったじゃない! 私は絶対に許さないわ」


 そう言って俺に密着するシャロン。あ、これ絶対に逃げられない奴だ。それにしても胸の感触がブラ越しだが良いな


「……その事はいずれ話をしよう。ともかくベイル君、君の領地の件だ」


 紙を渡されたので受け取ると結構広大だった。


「これ、エクランドの分もあるわね」

「エクランドの分に加えて管理が行き届いていないヒューリット領も貰っている。向こうは正式な領地の書類と税金の見直し後の分も贈っているから安心してくれ」

「それはありがたいが……この地形だと帝国とヒューリット領の間を独占する感じか」


 この世界は外大陸と内大陸の二つに分かれている。神話によればなんでも人間と魔族の戦いに呆れを見せた女神トアマティが人間を内大陸、魔族を外大陸に住まう様にして大陸を分け、その間に強大な水場――つまり海を作ったそうだ。


「そう言えばさっきヒューリット領から一部の土地をもらうって言ってたけど大丈夫なの? ヒューリット領への被害は? もし陰口を言われようものなら俺が潰すから」

「安心しろ。今この国でヒドゥーブル家に盾突こうとする家など無い」

「それならいいけどね」


 本当にそうなら一安心だが、もしそんな事をされたら俺はたぶん平静ではいられないだろう。あの家は割と気に入っているからな。


「ああ、それと紹介したいものがいる」

「え?」

「入れ」


 言われて二人の少年が入って来た。サイラスに似ているようだ、そうでないような……。


「初めまして、ヒドゥーブル大公。僕はエイブラム・ホーグラウス。ウォーレン王の次男でシャロン姉様と同腹の弟です」

「同じくグレアム・ホーグラウスです。今年で十二歳になりますが戦士としての才能は高い方だと自負しております。ちなみに私は第二側室のフィービーの息子です」

「え? グレアムはともかくエイブラムも同行させるの?」


 驚いているのはシャロンだった。


「何か問題……しかないな」


 最初は別に良いのではないのかと思ったのだが、よくよく考えればこの子もホーグラウス姓を名乗るという事は王子なのだ。そんな子が俺と一緒に行くなどあり得ないだろう。というかもう一人は何故戦士としての実力を前面に出しているんだ。


「まさか俺とシャロンを監視して、俺が浮気したら逐一報告する気か!?」

「エイブラム、一応相手は厳選しているから安心しなさい。そしてベイルの場合、浮気しても今は手を出す事は無いわ。だって私の身体に虜にならない男なんていないもの」


 でも俺、実際されているのって強制ボディタッチとかばっかりだよな。あ、ディープキスもされたか。


「いえいえ。流石に浮気は報告しませんよ。ヒドゥーブル大公のような英雄ならば複数の女性と関係を持っていても不思議ではありませんし」

「…………え?」


 この子、何て言った? 今身体全体に悪寒が走ったんだが。


「どうしたんですか?」

「いや、なんていうか背筋が凍るというか……なんか良くない言葉が聞こえたんだが……」

「言いませんよ。……もしかして英雄という言葉に反応なんてするわけ」

「ない! ないない! あり得ない!」


 俺が英雄? そんな事あるわけがないだろう。気持ち悪すぎて思わず寒気がした。


「ですが既にシャロン姉様を魔族の手から救ったじゃないですか」

「何それ。魔族の手から……いや、確かに誕生日会には姿を現していたな……でもあれは――」

「ベイル、その後に魔族にされた事って何だったかしら?」

「……あ、モビルナイトを壊された」


 あれは本当にショックだった。改修プランとか考えていたのにそれが水の泡になったからなぁ。


「そういえばあの時、イラついて潰したんだったな」

「でもその時の話が英雄譚となっていますけど――」

「嘘だろそんなの!? 誰だそんな事したのは⁉」


 とんでもない事が発覚したのでその対応に入りたい。何で俺の英雄譚なんてものがあるんだよ。おかしいだろ。


「ん? ネタとして面白そうだったから私が作ったが?」

「……行く前に絞めるか」

「待て待て待て待て。冗談でも王に対して絞めるなんて言うな! むしろ国の英雄譚になるんだぞ! 誇るべきだろ!?」

「英雄として持て囃されるくらいなら魔王として恐れられる方が良いに決まっているだろうが!」

「魔王既にいるだろうが!」


 仕方ない。とりあえず身近にいる少年の心を壊しておくか。


「エイブラム君。悪いが俺は英雄なんて呼ばれる程、偉大な人間じゃないんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。子どもの時から生き物をたくさん狩っているし、魔族だって戦争的な意味だけでなくたくさん殺しているし、人間なんてたくさん金に換えて来たんだ。さらにイラついたという理由だけでたくさん人を殺している。そんな人間を英雄なんて言ってはいけない。もっと言うと俺はただ女体が大好きな変態さんなんだ。そんな俺に付いて来るなんて自殺行為だと思う」


 そうだ。俺は周りが誇れるような人間じゃない。ぶっちゃけシャロンがベタ惚れになっている事に自信を持てない位の人間だ。あの質問の意味もそれに含まれている。


「虐殺兵器として称えられど、人として尊敬できない人間だ。そんな人間に付いて行くぐらいなら家で勉強していた方が良いと思う」

「でも人は生まれてしばらくして動物を殺していますし、戦争を理由に生物を殺しているので普通だと思うのですが。しかも人を金に換えたと言ってますけど、この前アメリア様を助けた時に倒した山賊とそのアジトを壊滅させただけでしょう」

「ああ。おかげで良い収入になった」


 その時の金はまた別に準備するので待っていてほしいと言われているが、とりあえず放置している。一度顔見せついでに挨拶に行こうかな。

 なんて考えているとワクワクした顔のグレアム君が俺に尋ねて来る。


「ところでイラついたという理由だけで人を殺したというのは?」

「五年前にジーマノイドを使用してどこかの土地を襲撃されているのがイラついたな。あとエクランド家。あの程度の実力と権力でよくもまぁあそこまで威張れるものだ」

「…………」


 顔を引き攣らせているがやはり少年には酷だったか。だが少年よ、子どもはこうして大人になって行くんだ。


「姉様、この人やっている事どう考えても英雄的行為だと思うのですが」

「そうなの。ただ捻くれているだけなの」

「おいそこ。いたいけな子どもにそんな嘘を教えてはいけないぞ」


 全く。それではまるで俺が英雄みたいじゃないか。虫唾が走る。


「まぁ、ベイル君の冗談は置いといてだ。ベイル君、エイブラムはこれでも第二王子でね。将来的にサイラスを支える立場になる。まぁ要は経験を積ませておきたいのだ。幸い君は領地運営とか全く興味が無いだろう?」

「正直大公にするとか頭狂っているのか問いたいぐらいだよ」

「「あはははははは」」


 だが俺としては事実だもん。将来的にはどこかの山に籠って実験三昧のつもりだったのに大公だよ、大公。


「これまた幸いな事にいざという時に頼りになる姉の夫がどこからでも無理矢理金を引っ張って来れるし、ある程度失敗しても資金的にどうにかできる。これ以上の無い好条件だ。ちなみにグレアムに関しては騎士団の頭にして使い潰せば良い」

「なるほど。お父様、死にたいんです?」

「いや、そういうわけじゃない。そういうわけじゃないぞ。ただ要職に就けてもらいたいだけだ。将来的な教育も必要なわけだしな」

「つまりグレアムはともかく、エイブラムは別に一時的な権力者として持たせた後はポイ捨てしても良いわけね」


 いや、その言い方はちょっと……。というか君の弟だよね?


「そ、そういうわけじゃないぞ?」

「私は次期大公家にはしっかりと私とベイルの子どもを据えるつもりよ。乗っ取りを考えているんだったら諦める事ね」

「そんなわけないじゃないですか。疑い過ぎですよ、姉様」

「どうだかね。あなたはあの女にべったりだったじゃない」


 あの女というのはたぶんジュリアナ妃のことか。それにしても何でここまで怒っているんだ?


「シャロン。別にエイブラムはジュリアナとは関係無いんだ。ただ将来を見越して連れて行ってもらいたいだけなんだ」

「……わかりました。私も生徒として学園に在籍している身。来年はベイル君も学園に通うので一応指揮を取れる人物も欲しいとは思っていましたし、とりあえず採用しておきましょう」

「良かった。大公、よろしくお願いします」

「……ああ」


 俺も実はホッとしている。来年は俺も学園に通うし勝手知ったる者がいれば心強い。あとこれは勘だがたぶん人に教えるのも上手いだろうからある意味貴重な人材になるかもしれない。

 と考えたところでふと思った事があるが、これは人払いをしてもらった方が良いかもしれないな。


「オッサン、領地に向かう前に少し込み合った話をしたいんだけど」

「おいお前! 陛下になんて口の利き方をしているんだ!」


 流石にマズかったのかブルーノがキレているがそれを制したのがその王様だった。


「そうだな。ベイル君とシャロン、それとエイブラム以外は一度出なさい」

「ですが父上、話はまだ――」

「出ていなさい」


 厳しい口調で言われてサイラスとブルーノは俺を訝し気に、グレアムは外される事に慣れているのかとっとと出ていく。


「凄いなグレアム君。さっさと出て行ったよ」

「グレアムは三男で王位継承権とかどうせ来ないと割り切っていますからね。進んで騎士の道に進んでいるんです」

「へぇ……」


 あれでどうにかなるのだろうか。そう思っているところに今度はオッサンがため息を吐く。


「さてと、ベイル君。君の話とは何かな?」

「正直な話、来年俺は学園に通って良いのか? たぶん一般的に伯爵位以上がしている寄付とかできないし、しなければ周りの貴族から色々と言われる……いや、既に言われているだろ? 今回の大公の件だってかなり問題視されているだろうしな。そんな中俺が学園に行って問題無いのかと思ってな」

「…………まぁ、そうだな。色々問題あったと言えばあったな……ハハハハハハ」


 何だろう。もしかして俺が思った以上に精神がヤバいんじゃないのか?


「受勲式に関しては追々通達する。その時に簡単な挨拶をしてもらう予定だ」

「別に良いけど、絶対に喧嘩売る自信がある」

「よし、受勲式は取りやめだ」


 絶対に何かあったなと思っているがそれ以上は言わない。その方が助かるし。


「って言うか下手すればレリギオンが攻めて来るんじゃない?」

「そうなればどうせお前が殲滅するんだろう」

「もちろん。どうせなら更地に変えて土地丸ごと持ってくるよ」

「そんな事ができたら面白いけどな」

「「あはははははははは」」


 と俺たちはお互い目が笑っていない状態で笑う。まぁ、流石に持ってこれる気がしないのであくまで冗談だが、土地を移動させるという発想は面白いかもしれないと思った。


「あ、そうだオッサン、ちょっと頼みがあるんだけど」






 ■■■






 エイブラム・ホーグラウスはジュリアナが産んだ二人目の子どもだ。ベイルの一つ下で三年制の学園では残念ながら一緒に通う事になるが、その場合はグレアムが指揮を執れば良い。

 そんな彼が遣わされた理由としてはやはりベイルの監視とお家の乗っ取りだ。その為にベイルを見定めるつもりだった。


「そういえばメレディスはどうしたの?」

「ヒドゥーブル家に放置してきた」

「あの子も一応あなたの相手なんだけど。まぁいいわ。後で手紙を送ってこっちに貰えるようにお願いしてみる」


 そんな会話をしている二人を見てそこそこ仲が良いのを確認する。しかしやりようなんていくらでもあると思いながらベイルを観察する事にした。


「それで今日はどうする?」

「とりあえずエクランド家の跡地に大公領の人たちがいるからその人たちと話を付けるわ。私たちと一緒に新たな土地でまともな生活を送りたいと思うなら一緒に来れば良いし」

「まぁ、確かに人手はいるよな」


 なんて楽しそうな会話をしている二人。自分が毒牙である事を知らずに呑気な事だと思うエイブラム。呑気なグレアムは純粋にベイルを尊敬しているので隠れ蓑にはちょうどいい。

 しかし気になる事がある。何故ベイルは荷物を持っていないのだろう、と。それが外に出れば尚更だ。


「ところで大公様の馬車はどこに?」

「異空庫に入れてる」

「……異空庫?」

「確かアイテムボックスって言うんだっけ? 俺の場合はその進化版かな」


 それを聞いてエイブラムは固まった。アイテムボックスだけでも天性の才の影響で手に入れられるかどうか。手に入れても希少だと言うのに。


「凄いですね。でもジーマノイドを個人で所有していると整備が大変なんじゃ」

「一応自由に動ける分身体を五体程おいているから、そいつらに整備させてるから大丈夫」


 口をパクパクさせるエイブラム。シャロンも表情は固い。そしてグレアムはわかっていなかった。


「ベイル君、それって大丈夫なの? もしかして――」

「他の魔法使いに破られると面倒ではあるな。そんな事をする奴に会った事無いし、そもそも俺の身体を弄り回さない限り問題は無いだろうよ」


 と笑うベイルを見てエイブラムは戦慄。

 さらに三人は馬車に乗ろうとするがベイルは入ろうとしない。むしろベイルは何故三人が馬車に乗っているのか理解できない感じだ。


「どうしたの?」

「いや、馬車だったら時間かかるし腰痛くなるからライジンで行こうと思って」

「……何それ?」


 百聞は一見に如かずと言わんばかりにベイルが異空庫から出す。見た事がない形状もそうだが何より異空庫から馬車と同じくらいの大きさの箱が現れれば動揺するだろう。


「面倒だから三人の荷物は直接異空庫に入れるよ」


 ベイルはそう言って馬車にある荷物をすべて入れた。


「ほらほら、早く乗りなよ。あ、シートベルトは付けてね」

「しーとべると?」


 ベイルまずはエイブラムを座らせて両サイドにあるベイルとを装着させる。その後にグレアム、シャロンの順に取り掛かり同じようにして自分も乗り込んで装着。ベイルとシャロンの間にあるモニターを操作して目的地付近を確認。シャロンに確認して正確な場所を入力して左側にあるレバーを弄った。


「んじゃあ、行きますか」


 その時三人は初めて空を飛んだ。しかもかなりのスピードで。

 ベイルは途中で気付いてスピードを緩めるが既に手遅れ。エイブラムはもちろんシャロンも泣きそうになっていた。グレアムは流石というかこの程度ではへこたれないが、それでも未知の状況に戦慄はしている様子。

 目的地に到着すると、そこには元エクランド家に従士していたマーカスと名乗った男が出て来る。


「は、初めまして。私はマーカス。一応代理としてこの街の代表をさせてもらっている」

「……あれ、アンタは」


 ベイルが相手を見てある事に気付いた。その時から漏れ出た殺気にエイブラムとグレアムが悲鳴を上げる。


「ま、待ってくれ! 確かにあの時はアンタの敵だった! だが本当は従いたくなかったんだ! ただ家族が人質に取られて仕方なく――」

「ベイル君、ちょっと落ち着いて。彼の言っている事は本当だから」

「実は君が投げた檻に私の娘が入っていたんだ。私はそれを助けた者として代表になっただけだ。それに、君が荒くれのほとんどを始末してくれたおかげで残りも騎士団に囚われている。私はその、色々と証言があって先に解放されたんだ」


 説明を聞いて納得したのかベイルは頷いた。


「なんだ。てっきり俺と敵対するかと――」

「止めてくれ。君と敵対なんて命がいくらあっても足りない。あのブロンを倒す程の腕前なんだ。我々なんて一瞬だろう」


 するとマーカスが近くにいる少女を差し出した。


「済まないが、私にはこれしかできない。娘とは何度も話し合った。だから――」

「娘を渡すから引き下がれって言った瞬間に助走をつけてぶん殴るからな」

「何故わかった?」

「もうお腹いっぱいなの! 俺は別に倒したところから娘徴収してハーレム作る趣味無いんだよ! 感覚はどちらかというと平民寄りなの! 冒険者になるつもりだったのにいつの間にか大公になってるんだよ! みんなちゃんと恋愛して!」


 ただでさえ王女が嫁になっているし公爵令嬢から好かれるし、そしてあっちにも癖が強い奴が懐いているし――と、心の中で嘆くベイル。正直彼にしてみれば冗談じゃなかった。


「俺、絶対ちゃんとした年齢になった女の子に子どもを産んでもらったらその子どもを育てて領主になってもらうんだ。そして冒険者になってダンジョン攻略して素材確保してお金稼いで娘に「パパ凄いね」って言われるんだ……」


 現実逃避してそんな事を呟くベイル。それに対してシャロンは小突いた。


「私はシャロン・ホーグラウス。彼の婚約者で将来的に大公領を取り仕切る事になるわ。こっちは弟のエイブラムとグレアム。彼らも一応責任者の一人ってところね」

「よ、よろしくお願いします」

「軽く説明したいのだけど、どこか大きな部屋とか無いかしら?」

「そ、それなら案内します」


 マーカスに連れられてシャロンとエイブラム、そして現実逃避状態のベイルは平民にとっては大きめな家に案内されるが、ベイルはともかく二人はなんとも言えない顔をしていた。


「申し訳ありません。ですがこの前の戦いで一番大きい建物が消し飛びまして」


 マーカスは二人に対して委縮する。それを見てベイルがため息を吐いて言った。


「落ち着いて二人とも。たぶんそれ消し飛ばしたの俺だから」

「何で消し飛ばしたんですか?」

「敵の本拠地なんて邪魔なだけじゃん。大丈夫。その時の救助目標はバリア張ってたし、従者たちにもバリア張ってあったから無事だったし」

「……なるほど。だから俺が生きているのか」


 納得するマーカス。どうやら彼はあの時屋敷の中にいたらしい。


「とりあえず話を続けたいんだけど、俺としてはできればここにいる人たちを確保して海の近くに行きたいんだ」

「……海、ですか? ですが少し前に畑の田植えを終えたところでして……」

「あー、そういえばそんな時期か……持っていくか」


 そんな事を言ったベイルは外に出て地面に両手を着く。手から魔力を放出して周囲の状況を確認する。


「…………うん。この規模なら行けるな」

「あの、何をなさるので?」

「どうせならこの土地を移動させようかなって思ってさ」


 それを聞いたマーカスは口をあんぐりと開ける。それほどにベイルが言った事が非常識だったのだろう。というか、どの世界から考えても非常識極まりない。


「ベイル君、流石にそれはどう考えても無理でしょ」

「そうだな。流石に今日は遅いから明日にしよう」

「明日でも無理だと思うわよ!?」

「あの、大公様。もしできるとしても流石に一度皆に相談してからじゃないと……」

「あー、それもそうだな。じゃあとりあえず挨拶だけして明日ちょっとエイブラムと一緒に移動予定地見て来るわ」


 早速君を付けるのを止めたベイル。何も知らなかったエイブラムも驚いている。しかし彼が驚くのはそれだけではない。そして王である自分の父がここまで優遇する理由を完全に理解した。

ベイル君、なんだかんだで乗り気ですね


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