#27-やっぱり五年もあれば色々と変わる-
ベイルは全力で説得した。責任が取れないので奴隷を囲う予定はないと。しかしメレディスはベイルと性交する事を決めているのかともかくそんな論争が続いていた。
だが流石に場所が悪いしとりあえずの用は済んだのでヒューリット親子に全力で謝罪して家から出ていったのを見てエドガーは思う。
「自分が冒険者だった事を考えると、やはり恥ずかしくなるな」
エクランド家の次男ブロン・エクランドの評判はエドガーも知っている。とてつもない筋力を持ち、タイマンで勝てる人間はそんなにいない。しかしあのベイルは「骨すら灰にした」と言っていた。
「エステルはその様子を見ていたのか?」
「……途中で別の場所に飛ばされるまでは。ただ、ベイル君は自分に攻撃した事じゃなくて、カリン様やシャロン殿下に対する事に怒っていたみたい」
「なるほど」
意外な言葉にエドガーは驚きを露わにする。
(あの男が大公になれば普通ならば女を欲するが、あの様子だとそこまでじゃないのだろうな)
生涯の伴侶としてシャロンを見初めた風には見えなかったエドガー。できるならそこに妹であるエステルを入れておきたいと考える。
「ということでエステル、来年からの学園でアプローチを頼む」
「……良いの?」
「ああ。相手がバケモノを自称していても俺たちがやる事は基本的に変わらない。あとはお前の覚悟だ。あの会話を見る限り、シャロン殿下自身もエステルのハーレム合流は問題無いようだし」
その言葉を聞きながらエステルの中で言葉が反芻する。
『覚悟あるなら好きな人の前で口に含んでキスしなさい。あの子を狙うなら尚更。だってあの子、たぶんまだ自分に自信がないから』
心ここに非ずのエステルを見てエドガーは思う。
(まぁ、当の本人はそれどころじゃないかもしれないが)
■■■
ホーグラウス王国には基本的に奴隷制度は存在しない。というよりも一般的に人間が住まう内大陸には亜人は存在せず、人間が支配することが無いからだ。
実は俺は少し前に人間の一派を壊滅させたことがあるが、それが寄りにもよってどこかの貴族だったらしい。そいつらが一部の亜人に対して酷い事をしたのでその貴族に関しては四肢を破壊して吊るしてやるとあら不思議、悔い改めると言うので解放すれば喚くので一緒に捕まえていた娘をゴブリンの巣に差し入れしてあげた。親というのはやはり子どもには弱いらしく懇願するので仕方なくゴブリンには撤退してもらって回収してあげたらまた喚くので、まずはその男の衣服を下着含めて晒した時に「これが弱者の末路」と紹介して連れて歩かせた後にこう言ってやるのだ。
「次は娘の番な。あ、彼女には裸で森を歩いてもらおう。その時は動物たちが誤認するタイプのフェロモンを掛けてやった方が面白いかもしれないな」
一度ゴブリンの巣に入れてやった時は服を着ていたので今度はそれ以上の事をしてやろうとしただけである。
「あ、でも異種姦は万人受けしないから奴隷にして発展部屋に放り込んでおこう。強力な媚薬を近くに置いておけばそれはそれで面白そう。まぁその媚薬、人が吸ったら普通に獣になるくらいにヤバいらしいから」
補足すると、俺は自分が責任を取れない事をするつもりはない。だがその時は自分が人間である事を恥じていたレベルで過去にタイムスリップして人間共を終わらせたかった上にそんな事件だったので徹底的に潰してあげたのだ。というか俺が無責任にヤる人間だったら今頃子どもは十人はいたかもしれない。シャレになっていないのが怖いところだ。
さて、そんな黒歴史への現実逃避はともかくとして。今の俺には奴隷がいる。
宿屋に戻ってまだ受付にいた主人にお金を払って二人を入れる。主人曰く「ベッドは壊すなよ」という事らしいのでそれに関しては全力で拒否してやった。
そしてその奴隷ことメレディス・エクランドさんはシャロンと共に先に風呂に入ってくれたので俺は後に汗を流す。
「待ってたわ、あなた」
「さぁ、早速しましょう。ご主人様」
俺は異空庫から下着込みで服をぶん投げる。ちなみに下着はパンツだけ。前世で妹が「寝る時にブラジャーはちょっと胸が締め付けられて苦しい」と言っていたのを思い出したからだ。
「服を着ろ」
「こんな状況で服を投げるなんてサイテー!」
「ご主人様、私の未来なんか気にせず性欲を満たしてください。私はご主人様に潰されても良いと思っています」
「潰さないし、何なら俺は童貞だ」
その言葉に本気で驚いてたのは意外にもシャロンだった。
「嘘でしょ!?」
「当たり前だろ。流石に責任取れないからな。ま、どうせ今度会った時には良い人を見つけて結婚しているだろうさ」
まぁ、そうなっていないどころか戻ったら積極的に強硬手段に出そうなのを一人知っているが逃げるつもりだ。……ついでにシャロンに管理してもらいたいが。
「じゃ、じゃあ今すぐ襲わないといけないわね」
「何がじゃあなんだよ」
そう言いながら俺は異空庫からダブルベッドを取り出して浮かばせる。荷物を少し退かせばどうにかなりそうだ。
「えっと、そのベッドは?」
「お前ら用のベッド。シングルベッドにスタイルが良い女性二人はキツイだろ」
「私は床に寝ますよ?」
「そんなことしなくていいから」
俺としてもあのおっぱいにダイブできないのは困るが、だからと言って無責任に種をバラまく事もしたくない。本当、女性のおっぱいは男を惑わす魔導具と言われても仕方ないだろうな。
「まぁ、とりあえず真面目な話をするとしよう」
そう、真面目な話だ。巨乳女子が二人もいて俺の精神も正直舞い上がっているのはあるが、真面目な話だ。
「メレディスの奴隷解放は別に難しい事じゃないんだが、王宮的にはどうなるんだ?」
「そうね。普通ならば大公家が起こしていた大犯罪だから処罰対象。曲がりなりにもその犯罪に加担して遺体を処理していたから一族まとめて皆殺しが妥当かしら」
その言葉を聞いてメレディスは俺に抱き着いて来る。おっぱいで腕が沈むとかヤバいな。抱き枕に使いたいが理性が蒸発しそうだ。
「でも彼女の場合は色々と特殊なのよ。彼女の出生届は正式に出されていないし母親は行方不明。多分死んでいるわね」
「本人の前でそんな事を言ってやるなって」
「……それは覚悟していましたから」
そして俺の保護欲くすぐるのは止めて欲しい。
「安心して。彼女の出生届は既に出している。その上で罪を償うために奴隷にしているの。……それにあなたのお母様含めて奴隷紋を解除できなかったし」
「元々複雑だったからな。たぶんこの奴隷紋を開発した奴は天才だったんだろう。そして原因は俺で満足に把握しきれずってところかな」
「いや、ベイル君の干渉が無茶苦茶だったからキレてた。奴隷紋自体はそこまでじゃないって」
今度会ったら喧嘩だなと思いながら俺はメレディスの奴隷紋を解除しようとするが、彼女は嫌がった。
「お、落ち着けメレディス」
「嫌です。私はあなたの奴隷じゃないと嫌です。あなたの子どもが欲しいんです!」
特殊環境だったが故の発言と思っておかなければ本気で理性が奪われてしまう。俺みたいな奴にそんな事を言う奴なんて早々いないだろう。いや、一人いたな。
「ベイル君、来年の学園入学なんだけど」
「……やっぱり行かないとダメ?」
「当然でしょ。大公が行かないとか色々と問題になるわ」
そんな事を言われても今まともな生活環境なんて無いんだから無理だろう。
「大丈夫よ。大公領は実質私が取り仕切る事になるし、ハーレムの状況次第ではあなたには子作りを優先してもらうから」
「それはまだ全力で優先したくないかなぁ」
というか正直、十代で子持ちとかシャレになっていない。精々十九歳以上からだろう。その間にやるとしても避妊は必須だ。
「安心して。私は今すぐでもOKだから」
「私も大丈夫ですよ。今日は激しく行きましょう、ご主人様!」
「全然OKじゃねえんだよ!」
そもそもここで発展しても仕方ないし絶対に翌朝「昨夜はお楽しみでしたね」って言われるのがオチだわ!
それから俺はシャロンを王宮に送った後、久々に実家に帰省した。
「ベイル坊ちゃま!」
流石に少し老けているバーラに抱き着かれて驚くが、メレディスの嫉妬がヤバかった。
「久々に会ったところで悪いんだけど、コイツの面倒を頼む」
そう言ってメレディスをバーラの前に出す。メレディスは驚いていたがバーラはヒドゥーブル家でもかなり長い人間だ。
「わかりました。一流の女中にしてみせます」
「よろしくね!」
「え? 置いて行かないでくださいご主人様!」
「ほら、早速仕事を覚えてもらうわよ」
まだ生い立ちとか説明してなかったのに早速やりに行った事に本気で驚いていると、殺気を向けられたので魔砲を放つと防がれた。
「フェルマン兄さん」
「久しぶりだな、ベイル。お前が置いて行ってくれたカラドボルグは返さないぞ」
「安心してくれ。俺はもう武器を手に入れている」
トフサブレードを抜いたタイミングで俺たちは外に出て切り結ぶ。
「聞いたぜ兄さん、貴族を何人か潰したってな!」
「おかげで伯爵になってしまったよ。全く、俺のリネットを巻き込んでくれた上に陞爵なんてさせやがって」
「……ところでリネット姉さんは元気なの?」
そう聞くとフェルマン兄さんは殺気を全開にしたのか周囲の動物が逃げ出した。
「……盛大に勘違いしているようだから言っておくけど、義姉に挨拶しに行くだけでこの後バルバッサ家に行く予定なんだけど」
「何だ。リネットに手を出すのかと思った」
「出すか!」
五年前からべったりだったのは知っているが、今ではここまで表に出しているのか。
「正直俺、たぶん義姉さんに嫌われているから顔を見せるだけ」
「……なら良いがな。手を出したら殺す」
実弟に本気でキレんなよ。というか俺、ヒステリーな義姉はどっちかというと苦手な部類なんだけどなぁ。
そう思いながら俺は今はフェルマン兄さんの部屋にドアをノックして入室許可が出たので顔を出すと、俺の顔を見てリネット義姉さんは驚いていた。
「べ……ベイル君?」
「お久しぶりです、義姉さん」
「ひ、久しぶりね、元気だった?」
「ええ。義姉さんも随分と……変わったなぁ」
確か俺がいた頃はまだ子どもが生まれたばかり……のはずが、今では六人いた。
「双子と三つ子なの。凄いでしょう?」
「……うん」
「大丈夫。もう私、裏切らないから。何であんなことをしたのかわからないわ」
「とりあえず俺はバルバッサ家に行ってくるから、子育て頑張って」
それだけ言って俺は部屋を出る。シャロンにカウンセラー紹介してもらえないか頼んでみよう。
途中、俺はフェルマン兄さんが従士とトレーニングしているのを見つけて声をかける。
「フェルマン兄さん」
「ベイルか。悪いがお前との模擬戦はこいつらとの特訓が終わってから――」
「その前にリネット義姉さんと話し合えや。この性欲モンスター!」
トフサブレードを振るうとカラドボルグごと吹き飛んだ兄さんは空中で体勢を立て直し剣を横にしたかと思うと推進機構のように魔力を放出してこっちに向かって加速し、俺の遠慮なくカラドボルグを振るうのでトフサブレードで受け止める。
「何だ。嫉妬か!」
「するか。正直義姉さんはタイプじゃない!」
「知ってるよ!」
バルバッサ家に行くのはどうやらこの兄貴と一試合してからだろう。とりあえず――久々に暴れるか。
■■■
唐突に始まったベイルとフェルマンの戦い。それは従士たちのこれまでの自信を破壊するのは十分だった。
バケモノ同士によるガチバトルを見て自分たちの無力さを痛感する。
「どう見ても義姉さん瀕死じゃねえか! その上子育てまで全部押し付けてるんじゃねえだろうな! ああ?」
「こ、子育ては女の仕事――」
「六人もまとめて育てるわけがねえだろうが!!」
だが同時にずっと心に閉まっていた言葉を言ってくれて感謝もしていた。彼らも段々げっそりとしている当主夫人の事を気の毒に思っていたのだ。
「とりあえずこいつら雑魚は魔の森でも突っ込んでおけ!」
「そこで生き延びれるのは俺とお前ぐらいだがな!」
「……は?」
訳の分からないことを言われたベイルは驚く。
「何だ。世間一般では超難関と言われる魔の森に入って何も言われない方が異常だろ。俺も昔は腕試しの為に森に入ってモンスターを狩っていたんだ。流石に空を飛べなかったからワイバーンは大量に狩れなかったが」
「……そ、そうだったのか」
そういえば、とベイルも自分の実家付近にある魔の森が高ランクの狩場だというのを聞いたことがある事を思い出した。
「安心しろ。いずれこいつらも冒険者ギルドにぶち込んでも生きていける程の実力をつけさせ、本格的に森の調査に入るつもりだ」
「その前にアンタはまず自分の嫁と二人っきりで話をしろ! 流石にあの様子で放置とか無理だから!」
「いや、でも――」
まるでベイルに同調するように周りの従士たちも言う。
「フェルマン様、俺たちの事は良いのでちょっと家庭を顧みてください」
「最近の夫人、少しアレなので」
「……実は親戚の話なんですけど、孕ませるだけ孕ませて子だくさんにした癖にその相手がかなりの浮気性で金もろくに入れずに遊び歩いていたんですよ。子どもをたくさん抱えていたその人は自殺しようとしていたところをたまたま知り合いが見つけて無理矢理引き剥がしたらしいですよ。こう言っては侮辱罪とかで首を切られるかもしれませんが、今のフェルマン様って金をしっかり入れているのはわかりますけど、逃げ出せる理由が無い分質が悪いんですよね。なので本当に夫人の事が好きなら一度話し合うのも良いかもしれませんよ。子どもの相手なら俺たちも手伝いますから」
その話が止めになったのだろう。フェルマンは頷いて家の中に入って行く。
「あの、ベイル様ですよね……?」
従士の一人が声をかける。ベイルは頷くとその従士は話をする。
「その、我々にきっかけを与えていただき、感謝します」
「実は少し気になっていたんですよ」
「いや、俺も流石にマズいって思ったからさ」
自分は絶対に自制しよう。そう心に決めたベイル。
少しして従士たちにバルバッサ家に行く事を伝えたベイル。実の所、自分で突き放しておいてどうかと思うが久々にカリンに顔を見れる事が嬉しくて仕方ないのだ。
■■■
門番のチェックを通過した後、バルバッサ邸の応接室に案内された。
そこで姿を見せたアーロン様とレティシア様。レティシア様は俺の姿を見た瞬間抱き着いた。
「話に聞いていたけど、こうしてあなたが生きてくれて良かったわ」
「あ、ありがとうございます」
わぁ! レティシア様にハグされた! でも正直アーロン様からの視線が怖いです本当にありがとうございました。
「ところで、どうしてカリンを泣かしたのかしら?」
ハグだと思った俺が馬鹿だったみたいだ。どうやらハグしたのはここから俺を殺る為らしい。俺は闇魔法「影移動」で影の中に入り少し移動して距離を取る。別にレティシア様にダメージを与えずに距離を取る方法なんて他にもあったけどこれが最適解だと思っているのも確かだ。
「俺はカリンちゃんには手を出す気は無いので。それに流石にあの子が私に依存しっぱなしはダメだと思うので」
「理由になって無いわよ!」
レティシア様の所作を思ったのが、無理をしているということだった。俺は彼女から振り下ろされるナイフを敢えて受けて現実を見せる。
「え……」
レティシア様にとっても、アーロン様にとっても想定外だという事はわかる。実力的に通じないとはわかっているだろうけど、ここまでだとは思わなかったようだ。
「ま、そういうことなんですよ」
別にこの夫婦に攻撃されたからって目くじら立てて怒るつもりは無い。
「正直、この国の蹂躙なんていつでもできます。権力もプライドも、これまで築いて来た文明もすべて消すことなんて容易ですよ。でもそれをしないのは、そんな事をしたところで無駄に人が死ぬだけ。あなた方にビクビク怯えられるのも嫌ですし」
「……それがカリンに手を出さなかった理由だと?」
「というよりも彼女に後悔してほしくないって言うのが本音ですね。あの時私の感情は昂っていたのでそのまま押し倒す可能性もあった。ただでさえ可愛すぎて日頃から猫可愛がりたくてしたくてしたくてしたくて、なんとかその感情を抑えている状態なのに脳内がエロで汚染されて襲ったらこれまでの我慢がすべて無に帰すじゃないですか。私はね、日頃から頑張っているカリンちゃんを推したいだけであってエロに走りたいわけじゃないんです!」
夫妻は呆けた顔をして俺を見ている。
「だから今日はそれを話に来ました」
「……そ、そうか」
一応、熱意は伝わったのかアーロン様が俺を案内してくれる。その道中に見知った顔を見た。
「……あれ? 何でマリアナ姉さんがここに?」
「聞いていなかったのか?」
驚いているのはアーロン様。俺は何のことかわからずに頷くとアーロン様は俺にとってとんでもない事を言うのだった。
「君のお姉さんは学園卒業後、グレンの熱烈なアプローチに折れてグレンと結婚したんだ」
「……う、嘘でしょ?!」
あの権力なんてどうでもいいなんて感じだったマリアナ姉さんがまさかのグレンさんと結婚していたことに驚きを隠せない。というかこれまでの人生で一番の衝撃かもしれない。
「久しぶりに顔を見せたと思ったら何してるのよ」
「……一応、聞くけどその子は?」
「私とグレンさんの子どもよ。可愛いでしょ?」
そんな事を言われて俺は唖然とする。それはそれとして姪っ子は可愛い。異論は認めん。
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