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#25-圧倒的格差-

「お……俺が、大公?」


 ベイルは何度も聞き返す。それほどまでに衝撃だったのだろう。しかし周りはエステル以外は対して驚いて無かった。


(ど、どうしよう……)


 エステルはエステルでまさか意中の相手が大公にまで出世するなんて思っていなかったので動揺している。

 これまで彼女は過去に自分を助けてくれたことから発展した恋心を募らせただけだったのだが、こうなれば話は変わってくる。このままでは優良株となった相手にアプローチしていると思われるのではないかと考えてしまう。

 顔を青くしているエステルをシャロンは気付き、口角を上げた。


「そうだ。エクランド大公家の兄弟を倒したお前が新たなる大公家として君臨すれば良い」

「…………いや、ちょっと待て」


 左手で頭を抱えるベイル。口は笑っているがこれは緊張によって口角が上がっているだけで実際は動揺しまくりである。


「冷静に考えてもおかしいだろ。何でそうなる? というか俺の認識だと大公ってなりたくてもなれない爵位だろ? 王族の親戚だろ?」

「でもお前はシャロンと結婚するだろ?」


 そう言われてベイルは固まった。


「いや、あのな。ちょっと落ち着け? 俺、正直最近自分がやっていることって人間の領域に収まっていないか心配なんだけど――」

「何を今更」

「自分の娘ならむしろ止めるだろ!?」

「政治的な理由だ。諦めろ」

「そんな事で自分の娘を売るのかよ!?」

「それが政治というものだ。それと一つ訂正する事がある」


 ベイルは首を傾げるがウォーレンはハッキリと言った。


「娘じゃない。娘たちだ」

「本当に正気かお前⁈」


 相手は国王陛下だが、今のベイルにそんな事を構っている暇や余裕などない。


「安心しろ。お前が本当に自分の能力に胡坐をかいて力のままに暴力を振るうような人間ならば討伐命令を出しているさ」

「……い、良いぜ。よぉくわかった」


 と無理矢理笑みを浮かべるベイルは宣言する。


「そんなに俺の嫁にしたいって言うならお前の娘たちの恥ずかしい格好させて毎日写真を送りつけてやらぁ!!」


 それを聞いて周りは理解する。それは絶対にしないやつだな、と。


「ところでその恥ずかしい格好ってどんな格好なの?」

「何でお前はそんなに興味深々なの?」


 食い気味に聞いて来たシャロンにベイルは本気で引いていた。


「だって私、あなたの正室だもの」


 それを聞いて倒れそうになるベイル。近くではグレンが笑っていた。


「ついでにカリンの事も本気で考えてくれない?」

「だから何であなたは悪乗りするんですか?」

「これでも本気で言ってるさ。特に最近のカリンは少々マズい状態になっていてね」


 その時、ベイルの鼻にこの世界ではまだ発展していないものはずの匂いが通る。その時グレン越しにリボルバー銃でこちらを狙う囚人服の男――ブロン・エクランドを見つけた。

 すぐさま重力を操作してグレンを引き寄せたベイルはそのまま反射してハンフリーの方に飛ばしたが、その間に爆音が三発鳴り響いた。

 力なく倒れるベイル。その間にブロンは部屋に入ってきてシャロンを腕を掴んだ。


「動くな!!」


 抜剣をしたハンフリーを警戒する為にシャロンの頭部に銃口を向けるブロン。


「この女を殺されたくなければ動くなよ、お前ら」


 その下で呻いているベイルを踏みつけたブロン。


「ザマァ見やがれ、カス野郎が。お前みたいなのが大公なんて冗談じゃねえ」


 そう言い頭部にもう一発撃つ。するとシャロンがベイルに近付こうとしたのを殴って止めた。


「何してんだメスブタ。とっとと来い!」


 そう言われて大人しくなったシャロン。ベイルの方を見ながらも引っ張られる形で移動する。

 騒ぎを聞きつけて騎士や兵士はシャロンを追おうとするが、今の優先順位はシャロン王女を守る事の為に迂闊には手を出せない。


「ベイル君……ベイル君!」


 顔を青くしたグレンがベイルに声をかける。しかしそれを遮ったのはウォーレンだった。


「……無駄だ。流石のベイル君と言えど銃弾をまともに食らっては――」

「な、何なんですかその銃弾というのは」


 グレンが尋ねた答えは意外なところで帰って来た。


「火薬を使用して鉄の塊を撃ち出す機械だよ。まさかこの時代に現存しているとは思わなかったけど」

「べ、ベイル君!? 君、頭部を撃ち抜かれたはずじゃ―――」

「今の俺の肌って結構硬いのよ」


 まるでタイミングを合わせたかのように頭部から弾丸が落ちて来た。


「……だが、君は確かに身体を撃たれたはずだ」

「ああ。だからそれは無理矢理一度出た血液を操作して外に出した後に傷を修復させた」

「この短時間で⁉」


 するとベイルは何を思ったのかウォーレンの口を人差し指で黙らせる。


「言っただろ? 俺は正真正銘のバケモノだ。誰も彼もが俺を殺そうとするほどの、な。それを理解したらもう自分の娘を嫁がせるなんて夢を見るのは止めておけ」


 そう言った後に自分の指をどこから出したウェットティッシュを出して人差し指を拭った後にその場に捨てると空中で燃え散らす。


「それとオッサン、悪いがもう俺は我慢しねえ。ちょっと今回ばかりはお痛が過ぎるなんてレベルじゃすまされねえ」

「……ああ、仕方ない」


 その言葉の意味を理解したウォーレンは同意するとベイルは魔力で有視化した翼を生やして窓から空を飛ぶ。そして、シャロンを盾にして逃げるブロンの銃を持つ右腕を一瞬でもぎ取り通り過ぎた。


「……は?」


 殺したと思っていた相手が自分の腕を一瞬でもぎ取った事に呆然とするブロン。しかしベイルは何故か手から銃を奪い取ってその腕に魔法をかけると放り投げる。なんと不思議な事にその腕はブロンと一ミリの誤差なく引っ付いたのだ。

 一体どういうことかと疑問を思っている最中、左腕で掴んでいたはずのシャロンがいなくなっている事に気付く。辺りを見回すとシャロンは既にベイルの手の中にいたのだ。というのも今の腕の接続によって神経の一部を麻痺させて感覚を殺したのである。とはいえ効果は一時的なもの。そしてベイルにとってその一時的だけで十分だった。


「……ふざけるな」


 ある意味ブロンにとって屈辱的な行為だが、今の彼にとってそれ以上に理解できないものがあった。それは今もなおベイルが動いているという事。

 あの場で確かにベイルは撃たれているのを見ていたし、銃弾も間違いなく撃ち込まれていた。なのにベイルが動いている事に納得できない。


「ふざけてんじゃねえ! 何でだよ! 俺はお前を銃弾で撃った! 頭だって撃ったんだぞ! それで何で動けるんだよ! おかしいだろ!!」


 しかしベイルは答えず、ただ視線をシャロンの――先程殴られた頬を見ていた。


「なんとか言えよ、バケモノが!!」

「………悪いが俺は最初から、王家を殲滅する事を目標にしていたからな」


 ちょうどその時、ウォーレンたちが到着。ベイルの発言を聞いて顔を引き攣らせる。


「……は? 王家を殲滅? 何で?」

「子どもの考える事なんて単純だ。ただ、王家が敵になった場合は大量の戦力が俺を殺しに来る。そして俺にとって貴族は俺の両親であり、兄姉だった。だからそれを超える力を得る必要があった。だから――すべてを殲滅する為の能力を鍛え続けた。それだけだ」


 つまりベイルは、高水準の一家を雑魚の基準に当てはめてそれを超える力を得ようと自分を虐め抜いた。元々恵まれていた体躯で暴れるブロンとは根本が違う。


「……そんな馬鹿なことがあるかよ」


 ブロンの呟きを無視してベイルはシャロンの殴られたはずの頬を触ると痛みが引いていく。シャロンはシャロンで今もなお密着して離さないベイルに対してドキドキしていた。


「べ、ベイル? まずは相手を倒す方が先なんじゃないかしら?」

「……大丈夫。確認は終わったから」


 その確認とは何なのか。シャロンは聞きたかったがベイルが先に離れてしまう。その光景を見ていたグレンはベイルから漏れ出ているあるモノに気付いた。


(……これ、避難した方が良いかもしれない)


 今のベイルが相当怒っている。そう感じてグレンはウォーレンに離脱を促す。


「逃げましょう、陛下。今この場にいるのは危険です……」

「し、しかしだな……」

「おそらくシャロン殿下は大丈夫でしょう。ですが今の彼はとても正気だとは思えません」


 グレンの言葉にシルヴィアが同意した。


「……あれは、相当マズい」

「そ、そうなの?」

「……元々兄様は殿下に対して嫌いというよりも戸惑いの方が強かった。自分の強さが一般だと思っている上に王家に対して一切敬っていないからあんなことをしているのか理解できないのと、兄様自体が貞操観念が強すぎるし、何より自分に対しるう卑下が強いから――ひっ?!」


 シルヴィアが悲鳴を上げるのと同時に、ベイルから黒いオーラが放出される。


「し、シルヴィアちゃん……?」

「……殺す気だ」

「え?」

「……やっぱり、心のどこかで気に行ってたんだ。自分が冒険者と研究者を志望していたから釣り合わないと思って距離を取っていただけで、本当はシャロン殿下の事を気に入ってた……でもあんなことをしたから……」


 ベイルはブロンに対して魔法をかける。所謂バフというもので今のブロンには防御力上昇バフと無限回復バフが付いている。ある意味伝説級のバフが付いているがこれは決して慈悲ではない。

 そしてベイルはブロンの頭を掴み、力を入れる。


「ねぇ、何であんなことをしたの?」

「あ、あんなこと?」

「カリンちゃんに対して強姦未遂。まだ彼女はなっていても十三歳。身体もまともにできていないのにあんなことをしたの、何で? あ、もしかして可愛すぎたから? その気持ちはわかるよ。確かにあの子は可愛い――」

「お前、まさかあんな子どもに発情しているのかよ。そんなわけないだろ。アイツはただのきっかけ。関係を持てば後々の事に有利に――」


 その時、ベイルはブロンの頭を握り潰した。すると無限回復バフによってブロンの頭が再生する。


「あれ? え? 何?」

「次の質問なんだけど、何でシャロンを連れて行ったの? あと殴ったよね?」

「は? いう事を聞かなければ殴るのは当然だろ。あとあの女は後々強姦して壊れた姿を――」


 ベイルはブロンの胸を貫いて心臓を出し、握り潰す。次から次へと見せられるグロに兵士の一部が戻したが、そこでウォーレンはすぐに全員下げるように言った。


「……ふ、ふざけ……あれ? 何で俺は死んで無いんだ」

「ああ。今の君は多少の致命傷を負ったところで全快するんだ」


 それを聞いてブロンはまず、自分が死なない身体になっている事に気付き、ベイルを思いっきり殴った。しかしベイルにとって攻撃として成立していないのかダメージを受けた様子はない。


「……ああ、忘れていたよ」


 するとベイルはブロンに攻撃緑上昇バフを使用する。


「これで少なくとも君の攻撃すべてが上昇した。さぁ、君のすべての能力を見せてみなよ」

「調子に乗ってんじゃねえ!!」


 何度もベイルを殴るブロン。しかしベイルには効いている様子は無く、ただつまらなそうに欠伸をする。


「……ねぇ、少しは魔法でも使ったら?」

「うるせぇ! 我が敵を穿て! ギガサンダー!」


 上空から雷がベイルに直撃するが、ベイルはダメージを食らった様子は無い。そこでようやくブロンは理解した。


「お前……何で……」

「何が?」

「何がじゃねえよ! 何で高難易度の雷魔法が直撃して平然としているんだよ! ましてや今のは雷属性の上級魔法だぞ!」


 だがベイルはまるで何事も無かったかのように言ったのだ。


「ふーん。それで?」

「そ、それでって……」

「高が上級魔法じゃないか。何その程度で騒いでいるのさ。そんなもの、こっちはその程度の魔法、七歳くらいから使えたから。というか雷属性の魔法ってボルテクスブラスターが最強じゃなかったっけ? あれ、ジーマノイド戦でも重宝するじゃん。何で覚えてないの? 馬鹿なの?」


 その言葉を聞いてブロンは唖然とする。


「で、他は何を使えるの?」

「……できない」

「え?」

「できねえよ! 俺は元々戦士タイプだ! 魔法なんて苦手なんだよ! それを頑張って、練習したんだ!」


 それを聞いたベイルは鼻で笑った。


「そう言えば君、さっきギガサンダーって言っていたけど違うでしょ」

「……何言って――」


 ブロンにさっきのものよりも十倍の威力のものが直撃。数秒でブロンの身体は完全に消滅した――かと思われたが、肉片から再生したのだ。ブロンは自分が生きている事が不思議で仕方ない。


「これが本物のギガサンダーだ」

「……何で……俺は生きている?」

「ん? 超回復のおかげだよ。良かったね」


 満面な笑みを見せるベイルにブロンは恐怖した。


「しかし君は本当に可哀想だ。生まれ持った才能とか、あと権力で好き勝手してきたんでしょ?」

「そ、それがな――」


 頭部を破壊して復活した後、足を折った。痛みも増幅していたのか大抵の事では痛がらないブロンも悲鳴を上げるも、ベイルは気にせず話を続ける。


「だからお前には萌えもロマンもわからない。女の子を大事にしようと思える気持ちが宿らない。これまで何人の人生を簡単に壊して来たのか知らないけどさ、今度はお前の番なんだよ」

「ふ、ふざけるな! いくら俺が囚人だと言ってもこんな扱いなんて不当――」

「え? じゃあ何で俺より弱いの? 俺より強ければ死に方なんていくらでも選べた。いや、そもそも俺と関わらなければ良かったんだ」

「そ、そんなの、俺には――」

「弱いってさ、罪だよね。一方的に蹂躙されるんだから。まぁでもお前は特別だ」


 ベイルはブロンにかかっているバフをすべて解除。シャロンとシルヴィア、そしてエステルをどこかに飛ばした後、四肢をもいで黒い炎でブロンを燃やす。悲鳴をあげ、転がりまわるブロンを見てベイルは言った。


「その黒い炎、お前の骨まで溶かすから。あ、あとちゃんとこれも使っておくか」


 ベイルの手に黒い風が現れ、ブロンの口から中に入って暴れさせる。悲鳴を上げて泣きじゃくるブロンを放置。残っている四肢を粉砕して遊んでいるとブロンは動かなくなり、完全に骨まで溶けて灰となった状態を見てベイルは両手を合わせた後に伸びをした。満足気でありそのまま戻ろうとしているベイルにウォーレンは声をかけた。


「……ベイル君」


 声をかけたというのに酷く怯えているウォーレンを見て何故そんなに怯えているのか疑問を抱くベイル。


「君は私たちを殺すつもりなのか?」

「え? 面倒なのでそんな事をするつもり無いよ。流石に娘全員を俺に渡すのはどうかと思っているけど」


 相手に思われていないのに身体だけを差し出されるのは嫌だなぁ、なんて他人事の様に思っているベイルだが今の周りの男たちの反応は悪い。


「でも今回はちょっと無理だった。正直あの場で殺しておけば良かったと思ってる」

「……そ、そうか」

「それに元々強姦とかしてたクソだしねぇ。顔も何度か粉砕できたし、四肢も完全に潰したし、人を殺しておいて言っちゃなんだけど結構スッキリした」


 と少し爽やかそうにしているベイル。彼に対して誰も何も言えない。もし機嫌を損ねて怒らせたら今度は自分だと理解しているからだ。


「まぁでも、シャロンの事を気に入ってくれてよかった。これで大公の座を渡せるな」

「……え?」

「ん? まさか君みたいな男を男爵からやり直せと言わせる気かね? 冗談じゃない。君の場合どんな相手でも家ごと破壊して吸収するだろう。ならば特例として大公になってもらい、そこでシャロンに政治的手腕を握って貰えば良いかと思ったのだ」

「なるほど……だったら別にシャロンを特別に大公にしてとかじゃダメなの?」

「ああ。一応この国で女性が爵位を得るのはかなり難しい。今の所例外として現当主の次世代に男児が生まれなかった場合は認められているが、他の奴らは大体養子を取ろうとするな。シャロンの場合はお前の嫁になる事しか頭に無いがな」

「……どうやって諦めさせるか」


 そんな事を呟くベイルにウォーレンは本気で驚く。


「まだそんな事を言っているのか。もう諦めろ。お前だってシャロンの事は嫌いじゃないだろう」

「……だから困ってるんだよ」

「だったらもう襲ってしまえばいいだろう。実際ウチのシャロンは大体の男が興奮する体型をしている。そんな娘の何が嫌なんだ? 言ってみろ」

「……陛下、おそらく逆ですよ」


 グレンが割って入り、説明した。


「ベイル君はおそらく、シャロン殿下に対して悪感情はありません。どちらかというと彼が貴族としての生き方に慣れていないのでしょう。むしろ、人を容赦なく殺している自分が幸せになって良いだろうかなどという考えに至りません」

「そうか。だがなベイル君、君は野放しにしていればかなりの被害を出す存在を狩っているんだ。特に我ら王族にすらできないことを成し遂げている。十分、王家の人間と関係を持つに値する。それに、一度真剣に我々の話を聞いてもらいたい」


 ウォーレンがそう言ったのとシャロンが顔を出したのはほとんど同時だった。





 大人しく国王陛下の執務室に足を運んだベイル。それに付いて来る形でシャロンがベイルと腕を組んで座っている。そしてこの部屋には不思議な事にウォーレンとハンフリー、ベイルとシャロンの四人しかいなかった。ベイルはその事を疑問に思いつつも切り込む事だけは避けるようにした。


「じゃあ、早速話というのをしてもらおうか」

「そうだな。その前にベイル君、君はこの国に戻ってきてどう思った」


 改めて考えるベイルだが、やはりそれはウォーレンにとって厳しいものだった。


「全体的に戦力がいないなと。少なくとも家族以外で俺とまともに戦える奴がいないという印象だ」

「……やはりそうか」


 真剣に考えこむウォーレンの代わりにハンフリーが説明する。


「君にとって言い訳にしか聞こえないだろうが、君が今日処分したブロン・エクランドは王国内ではかなりの強さになる。正直あの腕力相手にまともに戦えるのは君の家族ぐらいしかいない」

「……だから今まで見過ごしていたのか? アレともう一人は何やら危うい事をしていたはずだよな?」

「それもあるが、証拠が無かった」


 ウォーレンの言葉を聞いてベイルは納得した。


「加えて大公家を取り仕切っていたオービスはかなりのやり手でな。血が廃れた今を狙ってカリン嬢だけでなくシャロンにも手を出そうと―――」

「ちょっと殺して来る。存在される事自体目障りだ」

「ああ、オービスの方は先に処刑した。お前のおかげですんなり吐いたからな」

「……そうか」


 シャロンがベイルにニヤついた顔を見せて来るがベイルは反射的にキレてしまった事を後悔する。


「そうか。シャロンに手を出そうとしていると聞いて怒るか。そうか」


 娘と同じでニヤついているが、ベイルはウォーレンに対しては睨みを利かせる。顔を背けたウォーレンだがその少し後にベイルも視線を逸らした。


「……ん? 確か一般的に大公家に手を出した平民は見つけ次第処刑じゃなかったか?」

「ハハハ。今更だな。それに――ウチにベイル君程の人間を処刑できる人間はいない」


 そう断言したウォーレンだがベイルは「俺の家族以外は」と訂正したくなった。


「もっと言うならばおそらく君を処刑できるのは人間以外の種族―――つまりは亜人くらいだ。その中でも魔王ぐらいだと睨んでいる」

「それならばとっくに人間は滅んでいるな」

「全くだ。どうやら一匹のドラゴンが魔王女の元から飛び立った時に大半の施設を破壊した事と、切り札がぶち殺された事が原因らしいが」

「そうか。それはご愁傷さまだな」


 ベイルは「そんなのがいたのか」というぐらいだが三人はベイルがしたと思っている。


「それにしてもドラゴンか……」

「何だ。良い事でもあるのか?」

「ああ。今度こそまともなドラゴン討伐ができると考えればワクワクしてな」


 そう言ったベイルに三人は度肝を抜かれる。


「……君はアレだけの事をしておいてまだドラゴンを狩るつもりなのか?」

「何か問題でもあるか?」

「いや、無いわけはない。だが正直素材が独占されては困るというのがある」

「自分で狩ってこい」

「もう十分だろ⁉ 黒竜級も狩って他に何を狩るんだというのだ!?」

「最強のジーマノイドを作る。その為にちょっと色々考えているだけだ。それに―――」

「あとは戦艦、か?」


 それを聞いてベイルは驚いてウォーレンを見た。


「確かに君は帝王学はもちろん、貴族としての立ち振る舞いに関しては色々と不安がある。だがそれを捨てて手に入れた力で数多の人間を救ってきたのもまた事実。今度はその力を他の者に完全にとは言わずとも教えてもらいたい。周りからの批判に関してはこちらでどうにかするし、資金に関しても同様だ。何ならその支度金として今回のスタンピードの素材を使ってもらっても構わない。領地に関しても優遇するつもりだ」

「……本当に正気を疑うな、アンタの行動は」

「思う存分疑ってくれていいさ。我々はともかく、今はちょっかいを出してこない魔族はもちろん、他の国に対しても後れを取れない。君のおかげで周りからは白い眼で見られているからな」

「そういう批判は鏡に向かって言わせておけばいいんだよ」


 冷たくあしらったがベイルはため息を零して言った。


「……悪いが大公とする前に色々とやる事がある。それを終わらせてから取りかからせろ」


 ベイルがそう言った事でウォーレンが喜びシャロンがベイルに抱き着いた。ベイルはハンフリーに助けを求めたがハンフリーは顔を背けるもガッツポーズをしている。

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