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#22-ボーナスタイムの果てに-

 翌朝、ベイルたちは起床後朝食を食べる。捕まっていた他の女性たちもメイドが気を利かせて介抱を済ませており、朝には一応動けるようになっていた。

 奴隷紋に関してはベイルがさも当然のように解除していたのでアメリアが「これはアレがおかしいので普通は上手く行かない」と何故か少女に補足しているが、少女は真剣に話を聞いていた。

 そんな事もあったがベイルはライジンで女性たちを後部座席を載せて助手席にアメリアを、そして運転席に乗って山賊たちを入れている荷車を繋げた状態で移動する。今頃山賊の汚物ミックスが作られている状態だ。


「……ねぇ、ベイル」

「何だ?」

「さも当然のように走っているけど、これ何?」


 技術的な発展をしているホーグラウス王国ではあるが、だからと言ってここまで自動で加速する馬車のようなものなどアメリアは知らない。


「モビルビークル。まぁ、ジーマノイドの技術を応用しまくって開発した自走馬車ってところかな」

「………これを開発しようとするとどれだけの馬車ができるのかしら?」

「ここまでのものを普通に販売しようとするとジーマノイド並に資金が必要なのは確かだな」


 あっさりと答えたベイルに頭を抱えて文句を言いたくなった。そんな物を平然と乗り回しているのは何故かとか、お前はこれまでどこにいたんだと問い詰めたい事は山ほどあった。だが、それを環境を許さないのは確かだろう。

 ベイルは自分の右側を見るとモンスターの大群が列をなしてどこかに向かっている様子に気付いてモニターを操作した後、昨日のメイドエルフを召喚した。


「俺の代わりにみんなをヒューリット領に連れて行ってくれ」

「わかりました、マスター」

「え? どういうこと? あれってスタンピードよね?」

「スタンピード? どこが?」


 ベイルはいたずらっぽい笑みを浮かべてシートベルトを外してドアを開けてメイドエルフと入れ替わる。


「あれはスタンピードじゃない。ボーナスタイムだ」


 そう言ったベイルは翼を生やして飛んで行った。アメリアはもちろん他の女たちも平然と空を飛ぶベイルを見て唖然とする。そんな状況に構わずモニターを操作した。


『強制シートベルト装着を実行』


 機械音声が流れて後ろにいる女性たちのシートからベルトが飛び出し、締まる。急に拘束された事で驚ているのが大半だがメイドエルフはライジンのスピードを上げた。


「ちょっ、どうするの―――」

「このままではマスターの戦闘領域に差し掛かってしまうので今の内に目的地に移動します。ブースターを全車両に装着を許可」

『命令を受諾しました。装着します』


 全車両に大型ブースターが備わり、車体がさらに加速して空を飛ぶ。


『目的地まで残り一キロを切りました』


 するとメイドエルフがハンドルを思いっきり切って街道のど真ん中にすべての車両を入れて着地させた。周囲には冒険者が集まっているが、近付いて来ない。その状況にため息を溢したメイドエルフは外に出るのだった。

 ちょうどそのタイミングで近くに待機していたデリックやアメリアを捜索する為に派遣された騎士団が姿を現す。


「こんな時に君は誰だ? この荷物は一体何だ?」

「これはマスターのお荷物なので詮索は不要です、人間」

「……え?」


 とんでもない威圧を放つメイドエルフ。デリックは驚いていると助手席からアメリアが降りて来る。


「聞いてない……飛ぶなんて聞いてないわよ……」

「アメリア様!?」


 まさかのアメリアの登場に周囲は動揺する。騎士たちは慌てて彼女を保護し、メイドエルフを囲んだがメイドエルフは動揺していない。


「彼女はこの国において大事な存在だ。何故君が彼女を連れ回している?」

「申し訳ございませんが、情報開示の許可は出ておりませんで説明はできません」

「何?」


 意外な言葉を返されて動揺するデリック。水をもらって一口含んだアメリアがデリックの前に出た。


「お、落ち着いてください、デリック様。彼女はベイルの使い魔です」

「べ、ベイル君の?」

「私が山賊に捕まったのは既に周知の事実と思いますが、その時にたまたま山賊がベイルの家を占拠しようとしたところにバッタリ遭遇しまして」

「……勝手に家を建て……いや、もういい。彼のとんでも技術は今更だ」


 もはや答えを知る事を諦めているデリック。そこにシルヴィアとエステルが姿を現す。


「エステル、シルヴィア」

「アメリア様、ご無事でよかったです」

「……ざまぁ」

「ちょ、シルヴィアちゃん⁉」

「……何度もウチから自衛できるように練度を上げるべきだと進言していたのに無視して王妃教育とかに力を割いていた自業自得。もっと言うなら姉妹揃って弱すぎ」


 そう言われてアメリアは顔を背ける。流石にマズいと思ったのかエステルが注意をしようとしたがシルヴィアから威圧され怯むしかなかった。


「そ、それよりもだ。アメリア様、今はスタンピードが起こっているのです。どうかいつでも出られるように奥でお待ちください」

「あ、その件ですが―――」


 その時スタンピードが発生している場所で膨大な魔力反応を感知したかと思えば世界の終焉でも怒り始めているのかと聞きたい程の爆音が聞こえてくる。


「……ベイル兄様が暴れてる」


 シルヴィアがそう呟くとさらに爆音が聞こえて来た。


「あの少年が暴れてるって、割とシャレにならないと思うのだが⁉」

「……それだけ敵が強大という事だと思う。正直、この魔力量はシャレになってない」


 そのタイミングでアメリアの後ろにシギュイが着地する。彼女も立ち上がると爆音にふらついていたので不調のようだ。


「ただいまスタンピードの様子を確認してきました」

「それで、どうだった?」

「ベイルが単機で交戦し、事前に確認されていた九十九パーセントの敵は消滅。残りはティガホーンレックスと交戦しているようですが苦戦しているようです」

「は……はああああああッ!!?」


 流石の敵にデリックは叫んでしまう。事前にワイバーンなど空を飛ぶ敵も見つけていたがそれらがすべてベイルに倒されているのはともかく、流石に敵がティガホーンレックスとなるとベイルでも苦戦するレベルだと理解する。


「ジーマノイドを出してベイル少年を援護させろ」

「……その前に、あの馬鹿に本気を出させた方が良いと思う」

「だが相手は君のお父上を苦戦させたあのティガホーンレックスだ! 流石にベイル君でもどうにもならない!」


 ティガホーンレックスとは、この世界に存在する地竜種最強と呼ばれる基本二足歩行を行う肉食竜種である。ダンジョンのボスとして君臨する事が多い。それ故目撃情報は少なくここ数世紀で見た事あるのはラルドぐらいである。それほどの脅威を相手にベイルは確かに遊んでいた。


『な、何なんだ……』


 目の前にいる存在が悪魔にしか見えないティガホーンレックス。それもそのはず、ベイルは人の身でありながら空を飛び、どこからともなく深淵を呼び出して次々とスタンピードを呑み込んでいったかと思えば空を飛んでいるものですら強制的に捕食……そう、捕食したのである。唯一生き残ったのは自分だけで側近のジャイアントボアすら呑み込まれてしまった。

 かと思えば自分にだけティガホーンレックスには見覚えない機械で攻撃してぶつけていく。そのダメージが凄いのだ。もっとも音も凄いのだが。


『何なんだ、お前は!!』


 そう叫ぶのも無理はない。どう見ても一方的な暴力であり人間が恐れる地竜種が味わっていい展開ではない。


「ふん。俺は―――」


 名乗ろうとしたところに後ろから魔砲が放たれたのでベイルは塞ぐ。よく見るとシルヴィアが同じように浮いてこっちに近付いて来ていた。

 流石に奪われたくないと思ったのかベイルは大剣を出してティガホーンレックスが知覚できない程早く移動して首を切り落とした。


「……ベイル兄様」


 異空庫にティガホーンレックスを回収したベイルはシルヴィアと再会して抱き着いた。


「久しぶり、シルヴィア」

「……まさか記憶が戻ったの?」

「ああ。バッチリな」


 するとシルヴィアがベイルに抱き着き返す。その眼には涙が溜まっていたが、拘束魔法をかけようとしてベイルが阻止した。


「ちょ、久々の再会なのに酷くない⁉」

「……そんなことより付いてきて」

「そんなことよりって酷くない?」

「……あなたには諸々説明する義務がある」


 言われてベイルは諦めたのかシルヴィアに付いて行くことにした。





 二人がヒューリット領に着くと、そこには冒険者たちはもちろんデリックやエステル、シギュイにシェリーは当然だが意外な顔がいる。それは―――エステルの兄、エドガーだ。


「初めまして、ベイル・ヒドゥーブル。私はエドガー・ヒューリット。この地域一帯を仕切る者だ。今回のスタンピード鎮圧の件、感謝する」

「別に気にしないでよ。スタンピードというよりあれはボーナスタイムみたいなものだし」

「……そこまで言うか」

「むしろあれくらいの規模で抑えられない方が異常だって」


 それを聞いてエドガーは頭が痛くなってきた。

 本来人間がスタンピードを収束しようとすると、当然ながらかなりの人材を登用する事になる。しかしベイルはその異常な戦闘力からそう言ったのだ。言うまでもなくベイルが異常すぎるだけである。


「君の方が異常なんだがな」

「あ、そうそう。とりあえず山賊のアジトを壊滅させておいたんだけどこいつらいる?」


 思い出したようにベイルはライジンより後ろにある車両から山賊たちを強制的に排出した。しかし同時に匂って来る臭いアレに苛立ちを見せる。


「ねぇ、何でこんなに汚しているのかな?」

「そ、そりゃああんな所に箱詰めにされていたら、色々とよぉ」


 そんな事を言い始めたのでベイルは大剣を異空庫から出すので先の展開を読んだアメリアとシルヴィア、エステルに止められる。


「と、止まりなさいベイル!」

「兄様、ここは心を静めて!」

「近くに子どももいるんだよ!」


 三人に言われて落ち着きを見せるベイル。三人が離れると舌打ちして異空庫に大剣をしまった。


「それで、ベイル君。スタンピードで手に入れたモンスターと魔石なんだがね。あれを提供するつもりは無いかな?」

「え? 無いですよ?」


 さも当然と言わんばかりの態度にデリックとエドガーは唖然とした。






 これまでの報告をエドガーから聞いたウォーレンは愕然とする。

 今回のアメリア嬢誘拐事件やスタンピードを撃破したのはベイルと聞いていたのでアメリア嬢が無事で魔石や素材が流通し王国が潤うと喜んでいたが、その報告を受けて顔を青くするほどだ。


「と、取りこぼしとかは無かったのか?」

「残念ながら。念のため自分で見に行きましたがむしろスタンピードがあったのかすら疑う程に全く何もありませんでした。レア度が低いゴブリンなども提供を求めましたが、それでも応じてもらえず」


 そこまでやったことに話を聞いていたウォーレンとハンフリーはむしろエドガーが潰されなくてホッとしている。

 しかし気に入らないのかその話を聞いていたバスカル・タッチェルは不機嫌そうに言った。


「……随分と温い事をしているではありませんか」

「……タッチェル子爵、少し落ち着きたまえ。相手はあのベイルだ。むしろヒューリット伯爵は良く動いてくれたと言っていい程だろう」


 すかさずウォーレンが擁護するが、バスカルは止まらない。


「とはいえ陛下、それによって生み出される王国の利益を考えれば惜しむのは当然の事。なんならこの件、私が動きましょうか」

「子爵、正気か?」


 思わずウォーレンは正気を疑ってしまった。

 今の貴族がヒドゥーブル家の人間に関わるなど基本的にあり得ない。だがこのバスカルという男は自分で動くと宣言したのだ。


「ええ、正気です。ご安心を。必ず彼がむしろ自分から提供するように動くように働きかけましょう。ヒューリット伯爵、場所を変えて少し話を良いでしょうか?」

「あ、ああ」


 二人が部屋を出た後、ウォーレンはハンフリーに言う。


「ハンフリー、あの三人が休暇を要請しているならばキャンセルしてくれ。おそらくこの先の展開が見えた。ついでに騎士団ならば兵士に完全武装の許可を出せ」

「……落ち着きましょう、陛下。いくらなんでもあの少年がそこまで破天荒に暴れる人間だとは―――」

「いや、流石に一方的に虐殺するような人間じゃないとは私も思っている。そうじゃなければ今頃大公家どころか大公領そのものが消滅しているだろうからな。いくらカリン嬢や妹君がいたとしても、あの二人を救った後に土地そのものを消し飛ばせば良い話だ。それをしないという事は意外と理性が働いている証拠だろう」

「……では一体何が気になるのですか?」


 ハンフリーが問うとウォーレンは顔を青くした。


「ベイルの能力はこの五年で大幅にレベルアップしている可能性がある」

「……ほう」

「そもそもおかしいと思わないか? ジーマノイドを持ち歩ている事に関してではなく、わざわざ独自に動いて異常なスペックのジーマノイドや話に聞く自走する馬車や荷台などはどこで準備されたものだ? あいつのアイディアはどこかおかしいところはあったが、おそらくこの国とは別の場所にパトロンがいるか、アイツ自身が王位に就いている可能性もある」


 普通ならば馬鹿な話と一蹴するものだが、それほどベイルの能力を大きく評価しているウォーレン。元々彼は自分の娘であるシャロンを早期に結婚させ、最悪その子どもか遺伝子的異常を発生させない為に数代血を重ねた後に王家と婚姻させ、最強の王として君臨させるつもりだった。それほどまでにベイルの能力はすさまじく、無視できないものがある。

 だが他の国に既に王位に就いているとなれば話はまた変わってくる。シャロンは女性らしさはもちろんだがボディスタイルが成長しているので性的な方面は問題は無いと思っている。


「そうなれば厄介だ。最悪、その国と戦争に……ならんな。こちらが一方的に蹂躙されて終わりだ」

「それで、どうするつもりだ?」

「シャロンとの結婚は当然として、残りの娘たちを引き渡す」


 ウォーレンの目は本気だった。本気で、自分の娘たちを売ろうとしていた。


「正気か?」

「周りから疑わられるだろうが、私としてはそれしかない。後は、エクランド大公家の代わりとしてアイツを大公にするつもりだ」

「それこそ周りからの反感を買うぞ!」

「だったらどうしろと言うんだ。あのベイル相手に他の手段があるというのならむしろ教えてほしいものだ。それならばむしろ開拓できるところを提供して、自分の技術を大公開してもらってシャロンを通じて技術を流出させてもらった方が早い。どうせベイルに勝てる奴なんているかどうかなのだからな! むしろ娘を全員渡した方が他の奴らも納得するだろうよ!」


 自信満々にとんでもない事を言うウォーレン。ハンフリーは呆れるがふと思い出す。


「そう言えば前に「シャロンの事を孕ませろと言ったら掴みかかられた」とか言っていなかったが?」

「ああ。確かその時は「まだ身体ができていないのに性行為をさせるとはどういうことだ」って言っていたな」

「それで、シャロンを除く娘たちの年齢って?」

「確か、今現在で十三、十二、十一、十、八、七だったか?」

「蹴り飛ばされるんじゃないか?」


 言われてウォーレンは顔を青くした。あのベイルならばあり得る、と。


「……シャロンに期待するしかない、か」


 ウォーレンは何度もシャロンの身体ならば大丈夫と言い聞かせてなんとか心を落ち着かせるが、内心不安で仕方なかった。






 ■■■






 俺ことベイル改めベイル・ヒドゥーブルはこの前モビルナイトを使用してどこかの子爵を倒したところに来ていた。カリンちゃんと一緒にいた時に来ていたダンジョン付近でもある。

 カリンちゃんが引きこもりになっている事は驚いているが、俺には俺のやる事があるので彼女に構っていられないのだ。でも正直言いたい。本音を言うなら今すぐ抱きしめてハグハグしたい。

 なんて思っているけど、それよりも俺には気になっている事がある。


「何であんたらがここにいるんだよ」


 後ろを向くと妹のシルヴィア―――だけでなく、ヒューリット組が三人揃っていた。


「私はヒューリット家の令嬢だし、二人は私の従者だからセーフ」

「さも当然のようにライジンに乗り込んできやがって……」

「良いじゃないか。それとも、実質ハーレムなんだし」

「手を出したら大問題な上に一人は実妹だからアウトだろ」


 確かにシルヴィアは可愛いが、だからと言って手を出すつもりは毛頭ない。というか出せるか! 俺に近親趣味はねえよ!


「どうかな」

「いや、シルヴィアはアウトだろ」

「それに関しては確かにアウトだけど、そうじゃない。私は幸い婚約者もいないしそこそこ胸もある。シャロン殿下がいるから正室は無理だとしても側室としては社会的に問題は無いと思っているけどね」


 それを聞いて俺は顔を逸らした。そうだ。こっちにもこういう問題は付き纏うんだった。

 というのも俺は前にいる場所でも何故か女と交友が多い。自分で言っちゃなんだが俺がした事で大量破壊と大量殺戮だからな。なんというか、物好き過ぎない?

 なんて考えていても周りが俺に対して向ける視線が変わるわけじゃないし、俺は先に行こうとするとシルヴィアが俺に重力魔法をかけて元の場所に引き戻した。


「あの、シルヴィアさん?」

「……とりあえず落ち着いて。結構広いダンジョンなんだから複数人で―――」

「だからこそ俺一人で行くんだけど」


 とシルヴィアと睨みあう。これくらいのダンジョンぐらいならっていうのもあるけど、何よりこれまでまともに組んだ事がない相手と一緒に潜るのはリスクが高い。


「いいかシルヴィア。そもそも俺が誰かと組んでダンジョンに潜るなんて邪道だと思っている」

「冒険者全員に詫び入れろ」

「何でだよ。そもそも、回復なんてしなくても多少の傷なら回復するし、バフなんてどの体勢からでもかけらるし、そもそもバフなんて無くても大型生物でもバッサリできるし、ぶっちゃけ一人で生きていける。だから俺一人で良い」

「……じゃあ、こうしよう」


 とエステル・ヒューリットがある提案をしてそれを受け入れさせられた。






 ■■■






 一方その頃、ベイルがヒューリット領にて準備された宿屋には騎士団が現れていた。

 突然現れた騎士団に対して宿屋の主人が応対しようとすると、ベイルの部屋を捜索するという事だった。そして、邪魔をすれば加担したとみなし拘束すると言われて主人は流石に引きさがらずにはいられない。さらに主人に同行してもらい、宿屋のものかそうでないかの判別を手伝わせる始末だ。


「荷物の一つも見逃すなよ。この部屋にいる男の作っているものはすべて危険物とみなして回収しろ」


 そんなものは持ち込んでいないが、だからと言ってそんな判断を彼らは持ち合わせていない。怪しい物はすべて回収して撤収した。


「協力感謝する」

「……あの、もしこれを知ったあの人に迫られたらどうすれば良いんです? 何でもその人ってあのスタンピードをたった一人で終わらせたって有名で―――」

「返してほしければ宮廷貴族であるタッチェル子爵との会談に臨め。しっかりと伝えておけよ」


 そう宿屋の主人に言付けて騎士団は撤収する。妻と子どもが不満そうにしているが主人はなんとか落ち着かせていた。

 その知らせを聞いたデリックは唖然としていた。この領地でそんなことができるのは王家を除けば自分たちぐらいだと相手を睨んだデリックは顔を青くして頭を抱える。


(これでもしこの領土も制裁対象になったらどうするつもりだ……)


 そこでふと気づく。もしかしてこれはエステルを理由付けてベイルに嫁がせるためではないのか、と。

 確かに卸してもらえば領土は潤うが、だからと言って無理強いはできないし最悪領土が滅ぶ。だがその謝罪としてエステルを差し出すならばエステル自身の願うも叶うし自分の家系にいずれあのような力を持った人間が現れるかもしれない。王家もそんな事を考えているのだから自分たちも考えても仕方ないだろう。


(……だが、もしそれが拒絶されたらどうしよう)


 確かに普通の男ならば長身の娘など嫁に取ろうとは思わない。残念ながらエステルは長身で百六十七センチあり、百七十を超えるとはいえ長身の女をどう思うだろうか。


(どうか頼む。ベイル君の性癖が変わっていますように)


 それに関しては全く問題ないのだが、意外な事にベイルの性癖はまだバレていなかった。

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