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生前の記憶を手に入れた貴族の少年、異端へと至る  作者: トキサロ
第1章 その悪童、転生者につき
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#1-悪童、魔族たちと交戦する-

初回投稿による連続投稿中です

 あれから僕が―――いや、俺は魔力量の増加を行いながら戦闘訓練、魔道具作成、そしてそれ以外の道具作成とジーマノイドに関しての勉強を進めた。その甲斐もあって8歳で重力魔法を習得して空を自由に飛べるようになってウハウハなのだが、実はこの飛行手段を用いている人間は母のレイラ曰く少ないんだそうだ。母も知っている限り自分以外いないらしい。実際にその戦闘をするにはかなりの魔力を必要とするらしいのだが、母の一族は生まれつき魔力を持つ家系だったらしい。何でもその黒い髪も含めて学生時代は黒魔女と言われ敬遠されていたようだ。幸いな事に友達が決して完全にいないわけではないこと、その内の1人はあの珍事件で俺が何とか守る事ができたアメリア様の母親のレティシア様というのだ。あの美人が友人だったとかちょっと嫉妬してしまう。なにせレティシア様はとても美人で豊満な胸部だというのに全体的にバランスがいいのでスタイルが良く見える程だ。アーロン様マジで羨ましいです。

 そんなこんなであの珍事件から四年。俺はバルバッサ家に向かう馬車で拘束されていた。


「あのさぁ……」


 正装をしており、周りには魔法士三人が俺を拘束している。


「いくら息子でもこんな事をするのはアウトだと思うんだけど」

「仕方ないでしょう。あなたの事だからどうせ今日もボイコットするつもりだったんでしょ?」

「当たり前だろ。何で俺が陰謀渦巻く貴族のパーティに出席しないといけないんだよ。そんなものに出席しなくてもいいじゃんか」

「今日は誰の誕生パーティだと思っているの」

「アメリア様」

「だったら出席する義務はあるでしょう、あなたには」


 呆れた様子を見せる母親。義務って……ないだろ。

 普通に考えて相手は公爵令嬢。俺みたいな存在なんて全く興味はないはずだ。その上向こうは王太子の婚約者。脅威の格差社会である。


「ホント、義理堅いわよね、あの子。未だに自分のせいでベイルが昏睡状態になったと思っているんでしょ?」


 長姉のマリアナが母さんに聞くと頷く。俺としては別に興味ないんだけどな。


「あなたがアメリア様の誕生日パーティをずっとボイコットするからより一層気にしていてね。だからせめて十歳のパーティぐらいはと思ったのよ」

「ふーん」


 興味が無いので適当に流す。だってこれまで参加しなかった理由って社交界に顔を出すよりも冒険者に登録する前にできるだけ能力を上げたいというのが理由だからだ。そもそも前世は平民。そんな男が社交界に適応できるわけがない。


「ふーんって、あんた自分がどれだけ公爵家に目を掛けられているのかわかってるの?」


 次女のポーラが羨ましそうに俺を睨む。公爵家に目を掛けられるってそんなに良いのだろうか。

 確かに俺は社交界にまともに関わった事は無い。だが、だからと言って俺の人生の邪魔になるなら切り捨てても良い社会だとは思っている。前世の感覚があるからか、やるならば自分で稼いで自分で生きる。それが王道だろう。そういう考え方が染みついていてどうしても社交界に出る気になれない。そもそもたかが男爵家の四男。将来は騎士として大成するか冒険者として大成するかの二択だろう。それならば気楽な冒険者生活の方が良いに決まっている。だから目を掛けられたところで大したことにはならない。

 なんて考えていると妹のシルヴィアが俺の膝の上に乗った。どうやら俺を逃がすつもりは無いらしい。






 そんなこんなでバルバッサ家に到着。同じ貴族とはいえ爵位が違えばこうも違うのかと思うほどの豪邸だ。ホント、ウチとは大違い。

 遠くにはジーマノイドの整備工場があり、量産型と思しき機体が見える。あれは砲台タイプだろうか。


「ベイル、どこに行くの?」


 整備工場の方に移動していると母上に声をかけられる。


「ちょっと整備工場へ」

「あなたにそんな用は無いでしょう」

「だってジーマノイドだよ? 見に行くのは義務だと思う」

「―――こらこら。まだ君には早いだろう」


 整備工場の方からバルバッサ家次期当主のグレン・バルバッサが姿を現す。


「これはこれは、グレン様。ご無沙汰しております」

「本当にな。アメリアなんか君が来ないからと毎年泣いていた」

「そうなんですね……相手は高が男爵家の四男坊なんですけどね」

「アレにとっては違う。それに君も学園に通うのだろう。その時に彼女の助けになってやってくれ」

「できる限りの事はしましょう。破壊と殲滅しかできませんが」


 その発言にグレン様は笑い始めるが周りは気まずそうな顔をしていた。実際俺の得意分野は破壊と殲滅だったりする。

 重力魔法を使用して空を自由に飛べるようになった俺はワイバーン相手に魔法で戦いまくり、その余波でワイバーンを駆逐した。ヒドゥーブル領にある冒険者ギルドに貼られている依頼が軒並みキャンセルになったらしい。まぁ俺としてはそんなこと知るかという話なんだけど。


「そうだベイル君、アメリアが君と話がしたいらしいから部屋に言ってあげてくれ。使用人には話を通してある」

「わかりました」


 それにしても早速呼ばれたか。正直面倒だなぁ。どうせなら整備工場の方に行きたいな……なんて思いなんて通じるわけが無く、そのままメイドさんに案内される。道中思ったのは廊下が豪華だということとメイドさんが綺麗だと思ったことだろう。公爵家ともなると子爵令嬢とかがメイドとして従事するらしいが、目の前の人はどうなんだろうか。

 そんな疑問を抱いている間に目的地に到着した。案内された状態で中に入ると、今日の衣装なのか白く落ち着いたドレスを着たアメリア様が椅子に座っていた。


「久しぶりですね、ベイル」

「……ええ。お久しぶりです」


 おかしい。何故か俺が現れたら使用人たちが外に出る。俺、何かしたか?

 疑問に感じているとアメリア様が笑顔を向ける。


「まだ私を恨んでいるでしょうか?」

「……え?」


 急にそんな事を言われて俺は疑問を抱く。恨むどころか別に気にしてすらいなかったのだが。


「あの日以降、私と会ってくれないので」

「いやいや、全然気にしていないですよ。単純にそんなことより強くなることを優先しただけです」


 それにしても久々に見るが可愛さが上がってるな。将来的には王妃になるのだし今の内にファンクラブとかできてそうだ。


「強くなることを? 私と会うよりもですか?」

「ええ。そもそも私は所詮男爵家の四男坊。公爵令嬢にして次期王妃であるあなたにしてみれば取るに足らない存在です。そんな人間が自分の為に命を散らした程度で気にする必要はありませんよ。まぁ今では重力術式をマスターしたので以前と違ってエレガントに助ける事はできます」

「……重力術式をマスターした? あなたが?」

「ええ。便利ですよ。自由に空を飛べるのでワイバーンとやり合えます。流石は超初級魔法。今では魔力も増えたので王都に飛んでいけるぐらい、わけないでしょう。行く予定ないですが」


 そんな事より家の近くにある森に入って狩りをしたい。そう思うお年頃である。


「待ちなさい。今重力術式を初級と言いましたか?」

「言いましたが、それが何か?」

「重力操作は超高等魔法ですよ。魔法省でもそのようなことができる人間は限られています」

「……それマジ?」


 信じられなくて思わず素が出た。嘘だろ。あれ結構簡単だったぞ。あんな簡単かつ便利な魔法を使用できないのに魔法士名乗っている奴がいるのかよ。本気で引くわ。


「いやいやおかしいでしょ。あんな猿でもできる簡単術式が?」

「あなたはそれに関しては絶対に周りに言いふらさないでください。もしそれが知られたらあの人たちはあなたに対して―――いえ、あなたや家族に対して処置を取ると思います」

「その時は徹底抗戦」

「絶対にダメですよ!」


 俺としては相手が大人だろうとなんだろうと容赦なく叩きたいと思っているんだけど、それじゃあダメなんだろうか? なんて考えているとアメリア様が俺の前に来て頭を触る。


「どうしました?」

「……やっぱり私のせいかしら」

「元々ヒドゥーブル家は血の気が多いですからね。あの事故があろうがなかろうが私はこのような性格になっていたと思いますよ」


 跡取り以外は特に、だ。あの中でマシなのがシルヴィアぐらいだろうか。


「……でも」

「ホント、あなたは気にし過ぎなんですよ。そこはサラッと流しておかないと将来王妃として足を掬われますよ」

「ご心配なく。その為に王妃としての教育は受けさせていただいていますので」


 そんな話をしていると、ドアがノックされる。アメリア様が返事をするとメイドさんにドアを開けられてアメリア様によく似た可愛らしい女の子が入ったきた。


「カリン、一体何の用かしら?」


 あれ? 何でアメリア様の機嫌が悪くなっているの?


「四年もお姉様の誘いを放置した馬鹿な男の顔を見に来たのよ」

「それは後でもできるでしょう?」

「それとも殿下に伝えてあげようかしら? その方が面白い事に―――」


 そこまで聞いて俺はこの子が性悪女の類であると理解した。もしかして彼女も王太子妃―――ひいては王妃の座を狙っているのだろうか。だとしたら哀れだな。あんな性悪が集う世界に自ら足を入れようなんて。豪華絢爛? そんなものに一体何の価値があるのだろう。


「いい加減にしなさい、カリン。この人は確かに男爵家の人間ですが私の命の恩人でもあります。そのような人を余計な事に巻き込もうなどと―――」

「でもお姉様だって男の人と二人だけでいることがどれだけの事か知らないわけじゃないでしょう?」

「それは……」

「まぁまぁ、とりあえずかたっ苦しい無駄話はそこまでにしましょう、二人とも」


 俺としては止めたつもりがどうやらカリン様にとっては嫌だったようだ。まぁ、今のは敢えて嫌味を含めて言ったのだが。


「男爵の四男風情が公爵令嬢である私に対して随分な物言いじゃない」

「ですが実際無駄でしょう? わざわざ姉君を追い込んであなたに一体何の利があると? 私には男爵家の四男坊が長居してアメリア様が不利な方向に働かない方に動いているように見えますよ」


 図星だったのか顔を赤くするカリン様。どうしよう。物凄く無礼を働きたい。具体的には彼女の頭をひたすら撫でたい。ツンデレ系妹とか持って帰ってひたすら愛でたい。


「そ、そうよ。何か文句ある⁉」

「いえ。良い事でしょう。確かに私も少々長居したと思っていたところですからここらで下がらせていただきましょう」


 時間にしてみれば十分ほどだろうか。確かに年頃……というには少し幼いが若い男女が同じ部屋にいるには少々問題があるだろう。立ち上がろうとすると絶妙なタイミングで止められた。


「待って。まだ大事な話があるわ」

「何でしょう?」

「今日のパーティに王太子殿下も来てくださるわ。その時にあなたの事を紹介したいと思っているの。将来的に同じ学園に通うのだし、知っていて損は無いはずよ」

「損しかないですよ」


 思わずそう返事した。

 確かに貴族にとって王族に名前を覚えられるのは得なのかもしれない。だが俺はどうしても彼らに名前を知られるのは嫌だった。何より本音を言えば俺は王族が大っ嫌いだ。アイツらのせいでアメリア様は早々に王太子殿下の婚約者となり、王妃教育に身を投じる事になる。気軽に会える間柄とは言えなくなった。実際のところ俺がここに来なかったのはアメリア様が俺に対する恩を忘れてもらうというのは確かにあるが、俺がアメリア様を諦める期間でもあったわけだ。

 そう、俺はアメリア様のことが好きだ。本音を言うなら今すぐ彼女を押し倒して唇を奪いたいとも思っていたが、そんな事をすればしょっ引かれるのは目に見えている。実際近付いた時はドキドキしたくらいだ。中身が四十歳だからアウト? 確かに俺は転生者だが精神はむしろ子どものソレです。


「私は将来、騎士になるつもりはありません。冒険者になってダンジョンを攻略して、ジーマノイドを作って新しい魔法を開発してと色々とやりたいことがあるのです。それなのに殿下の小間使いなんて絶対に嫌です。そんな事はしたい人がやればいい」


 というか俺の事だから反射的に王子をぶん殴るぐらいの事はするだろう。絶対にする。


「……そ、そこまで言う?」

「ええ。言いますよ。なんでしたら私の事を馬鹿と言っても構いません。でもそんな事をするくらいだったら全力で逃亡します」

「……わかった。そこまで言うなら」

「ありがとうございます」


 良し。これで面倒ごとは回避した。ありがとうアメリア様。心から感謝します!

 なんて思っていたらカリン様が不思議そうに俺を見ている。


「ちょっと聞きたいんだけど、何でお姉様を助けたの?」

「え? あのまま行けばアメリア様が階段から落ちて大怪我を―――最悪死ぬかもしれなかったからですよ」

「つまりは公爵家に借りを作りたかったのよね?」


 なるほど。どうやら俺はカリン様にそう思われていたらしい。確かにこれは貴族にとっては理解しがたい事かもしれない。


「カリン様。これは例えですが、カリン様の目の前にカリン様が好きなタイプの殿方が落ちたら死ぬ高さから落ちそうになっています。でもあなたには彼を助けられる力を持っています。その時あなたはどうしますか?」

「当然助けるわ!」

「つまりはそういうことですよ。公爵家の借り? そんな事の為に私はアメリア様を助けるつもりはありませんよ」


 アメリア様が死んだら世界的な損失と思われる。むしろ助けた事自体が俺にとっての誉れなんだ。だから借りとかそういうのは一切考えたことなかった。


「なのでお気になさらず。今日はあくまでそれをお伝えしに来ただけなのですから。ではこれにて失礼させていただきます」


 そう言い、俺は部屋を出ようとしたところである事を思い出した。


「そうそう、これを伝え忘れていました。誕生日おめでとうございます、アメリア様」


 そう伝えてから俺は部屋を出る。とりあえず伝えられる事は伝えた。というか彼女を助けただけでかなり話が大きくなっていたな。女の子を助けただけでこんな事になるなんて思っていなかったんだがな。


「おや、ベイル君じゃないか」


 声がした方を見るとバルバッサ家当主のアーロン様が近付いていた。


「ご無沙汰しております、アーロン様」

「久しぶりだな、ベイル君。アメリアには会ってくれたかね?」

「はい。先程まで一緒でした。カリン様も途中から参加されましたが」

「カリンもか。あの子ったら全く……」


 ? 何かマズかったのだろうか。俺としては美少女二人と一緒にいられるだけで十分嬉しかったんだけど。


「まぁいい。カリンには後で言っておくとして、改めてアメリアを助けてくれてありがとう」

「いえ、お気になさらず。自分もしたかったことですから」

「そうなのかい?」

「ええ。だってあんな美少女が死ねば人類の損失でしょう?」


 アーロン様は固まる。あれ? 何か間違えた?

 なんて考えているとアーロン様は笑い出した。


「まさかそんな風に捉えていたとはな。確かにアレが死ねば国にとっては損失だったかもしれん」

「ええ。なので今後はあの二人とは絶対に一緒の部屋にしないでいただけると助かります。後生ですから」

「いきなりどうしたんだ?」

「あの二人と一緒にいると所詮人間も獣の一種であると理解させられると言いますか、ともかく私の欲望が暴走する恐れがあるので」


 アーロン様に言っておけば対処してくれる。そう思って言ってみたが間違いは無かったらしい。


「そうか。……一応聞くが、アメリアとカリンの事が嫌いとか、そういうわけではないのだな?」

「当然でしょう。あの二人の事を嫌いになるのは精々女性恐怖症を患っているか根っからの子ども嫌いのどちらかですよ」


 特にカリン様はもう可愛すぎて死ぬところだった。何なのあの生き物。なんて考えていると鼻から何かが流れているのに気付いた俺はそこから離れた。



 鼻血を止めて戻って来た俺は会場に入る。どうやら俺の興奮が一定値を超えたせいで鼻血が出たようだ。確かにあの二人が並ぶと俺にとっては毒だったし仕方ないだろう。


「何やってたんだい、ベイル」

「ユーグ兄さん。……まぁ、ちょっとね」


 まさか姉妹二人に興奮して鼻血が出た、などとは思うまい。


「そういえばパーティは?」

「そろそろ陛下御一行が到着するそうで、皆さんそちら待ちですよ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は会場の端っこで大人しくしようと心に決めた。そのタイミングを狙ったのか、会場のドアが開かれてどこかの家族が入ってくる。


「あれが王族の方々ですよ」


 ユーグ兄さんが説明してくれた。我が家の貴族的ブレーンな立ち位置で将来的にはフェルマン兄さんと共にヒドゥーブル家を纏める立場にいる。つまり俺にとって貧乏くじを引いてくれた良き兄たちの一人である。もし自分がそんな政に関わると考えると震えが止まらない。特に兄二人の顔は世間一般では美女に位置するらしい母親に似ている事もあってひっそりと人気らしい。まず自分の母親が本当に美人なのかという点から議論を交わしたいところだ。

 それにしても真ん中の偉そうな男性が王と仮定して何故あの人は美女を二人も連れているのだろうか。その美女には子どもがそれぞれ付き添っている感じだ。


「兄さん、あれってどういう関係?」


 貴族社会に明るくない俺はユーグ兄さんに尋ねると、兄さんは簡単に説明してくれる。


「陛下の向かって右側にいる女性はジュリアナ様。元々セルヴァ公爵家の親戚筋の女性で、その隣にいる少女がシャロン王女殿下。陛下の左側にいる女性がアイリーン様で陛下の正妻になり、その隣を歩く少年がアメリア様の婚約者でもあるサイラス殿下ですよ」

「……なんとうか、宮廷戦争がとんでもない事になりそうだな」

「何故そういう意見になるのですか?」

「なんとなく。俺は気楽な四男坊だから平和な人生を生きるとするよ」


 聞いておいてなんだけど途中から失敗したなと思っている。そもそも俺はこういうお高く留まるパーティとかは好きじゃない。やるとしたらみんなでワイワイしたい。少なくともこうやって如何にも雰囲気で剣呑としたいわけじゃない。

 そんな状況で楽しく過ごすなんてできないので俺はひっそりとここから消えようと思った時、俺のセンサーが反応した。


「兄さん、戦闘準備。パーティが始まるよ」

「待ちなさい。まずはホストであるアーロン様に報告ですよ。それに君は戦闘に出しません」

「え? 何で?」

「当たり前でしょう。それとも私たちに子どもを戦わせるなんて事をさせるつもりですか?」


 そこらへんにいる大人よりかは戦える自負はあるんだけどな。とはいえわざわざ体裁を保たないといけない貴族の性なのかもしれない。

 俺たちはアーロン様―――の前に両親に周辺から気配を感じると報告した。母も確認したがどうやら同じらしい。ちょうど近くに来ていたグレン様も話に入って来たので報告するとアーロン様を連れて来てくれた。


「それは本当かね?」

「使用人ならわざわざ茂みに隠れないですしね。たまたま何かを探して、だとしても複数なのは考えられないでしょう?」

「……ああ」


 不思議そうに俺を見ているアーロン様。まさかこんな子どもがそんな事をわかるのかと驚いている。


「訝しむならば別に無視して良いですよ。その代わり面白い事になりそうですけど」

「……念には念だ。兵に武装をさせて確認させる。だがもし、これが間違っているならば相応の覚悟をしてもらうぞ」

「ならば私が行きましょうか?」

「何?」

「これでも腕に自信はあります。もし敵がいるなら私がすべて潰しましょう。それで問題ないと思いますが?」


 疑うならそれが最適。そんな気持ちで言ったつもりだがどうやらアーロン様はあまり良い顔をしない。俺が行ったところでとでも思っているのだろうか。


「兵士に行かせる。君は大人しく残っておきたまえ」


 そんな事を言われて俺は渋々残る事にしたんだが、何故か他の兄姉たちは外に行こうとする。


「ちょ、どこ行くんだよ」

「我々も参加するんですよ」

「だったら俺も―――」

「いえいえ、君が行ったら問題になるので残っておいてください」


 ユーグ兄さんに止められる。後ろからフェルマン兄さんが「早く来い」という顔をしていたが俺は「ふざけんな」と視線を飛ばしておいた。


「実はと言うと、今回の件はおそらく一筋縄ではいかないと思います。もしかしたらこの探知が罠で別方向から攻めて来る可能性も否めません。今ここには国王陛下を含め様々な重要人物が来訪されていますからね。なのでいざという時の為にベイルはここに残っていてください」

「………わかった」


 渋々、渋々承諾した。確かに戦術的にも無い話ではない。もし強い奴らが先に出て行って、弱い奴らしかいないところを攻めるって考えで逆手にとって俺みたいな強者を置いていくっていう戦法もあるにはある。実際この会場に戦闘能力が高そうなのはウチの両親以外ほとんどいない。いや、いるかすら怪しいレベルだ。だから仕方ないのだ。

 そう言い聞かせて俺は自分を納得させる。そうでもしないと正直どこか納得できなかった。いやまぁ、確かに普通は子どもを戦わせないよな。それはどこでもいっしょの事だ。別におかしくはない。


(……つまらない)


 兄姉はポーラも含めて外に出たし、俺も外に出て暴れたいなと思っていると誰かがこっちに近付いて来た。まぁどうせ近くにいる奴に話しかけに来たのだろうとでも思っていたのだが、


「初めまして。ベイル・ヒドゥーブルだね?」

「………!?」


 俺は思わず言葉を失った。その相手がまさかの王子だったからだ。

 いや、別におかしくはない。同じ会場にいるから話をしようと考える事はあるかもしれないが、まさか俺に話しかけるなんて普通は思わないだろう。田舎の貧乏貴族の四男坊だよ、俺。


「え、ええ。そうですが……何でしょう?」

「いや、私の婚約者を救ってくれた英雄に一言お礼を言いたくてね」

「……ああ、あの事ですか。今では反省しかありませんけどね。いくら彼女を死なないように急所を守る事だけで精一杯でしたけど」


 なんだったら今なら重力で引き寄せてどさくさに紛れて抱きしめられるだろう。あ、もしかして俺、重力に惹かれたのってそれかなぁ?


「アメリアは君の事を良く話していてね。あの日以来まともに会えないとよく言っていたよ」

「ただ会うだけで周りから色々と言われる立場になってしまいましたしね。ただの子どもの会談如きに一体何が行われていると思っているのか。そんな事を考えるなら少しは身体を動かせって思いますがね」

「君は運動が得意なのかな?」

「同年代よりかはマシって感じですよ。両親や兄姉に比べれば全然です」


 三男のロビン兄さんなんて数か月前にダンジョンで魔槍を回収してきているからな。冒険者活動に力入れているなぁと感心しているぐらいだ。


「そう言えば話に聞いたぞ。確か君の兄君は魔槍を回収したそうだな。話を聞いた時は驚いたぞ」

「今ではダンジョンで物を回収するなんてあり得ないぐらいですからね。羨ましい限りです」


 なにせその魔槍、銘はまさかの「ゲイボルグ」だったからだ。まさか神話時代の遺物が出て来るなんてあり得ないだろう。それに驚きなのはまさか殿下がそんな事を知っている事だ。男爵出身の男子の事なんてどうでも良いと思っていたが。

 俺は口を開いて言おうとした瞬間、身体中に何かがひりつく気配を感じた。殿下の手首を掴み引っ張って陛下たちがいる方に引っ張る。


「ど、どうしたんだ!?」


 動揺する殿下だが、今ここで相手にしている場合ではない。どうせ子どもの戯言なんて説明しても信じてくれないのはわかりきっているのでそのまま無視して陛下の前に連れて来た。するとほとんど同じタイミングでパーティ会場の入り口の方に大きな術式陣が展開される。パーティを楽しんでいた貴族たちがその陣に気付いて距離を取る。その間に俺は周りにいる主な人物を確認していく。アーロン様にその妻のレティシア様、グレン様、アメリア様。


(カリン様がいない!?)


 俺が探知魔法を使用するのとそれが現れるのは同時だった。

 その姿は、言わば悪魔を象徴していた。尖った耳に水色というよりも薄い青という表現が近い肌色を持つ者たち。服装は黒に統一されており一見すれば綺麗にしているが、下卑た笑みを浮かべてこちらを観察している。そしてなにより、おそらくリーダーと思われる男の腕の中にカリン様がいた。


「カリン!」


 動揺したレティシア様がカリン様の名前を呼んで近付こうとするが、カリン様を抱える男が彼女の首元に刃物を突き付けた。


「それ以上近付かないでもらおうか、ご婦人」

「娘をどうするつもり!?」

「彼女には礎になってもらうのですよ。我ら魔族の栄光の為の礎にね!」


 そう言い、魔族はカリン様の首元に刃物を指す。だが何故か彼女の首に刃物は通らずに弾き飛ばされた。それを見て周りは驚きを見せるが、その隙に俺は上へと飛んだ。


「食らえッ!」


 重力術式で身体を操作して加速。カリン様を捕まえている魔族へ飛ぶ。言わばライダーキックというものなのだが、声に反応して持っていた刃物を俺の方に投げる。他の奴らも飛んできたものは漏れなくすべて俺の身体に当たらなかった。


「!?」


 そしていち早く何かに反応した相手は自分の手を見ると、そこにさっき俺に向かって投げられたはずの刃物が刺さっていたのだ。あまりの痛さにカリン様から手を離した。

 周りがそれに気を取られている間に俺はさらに加速して目の前―――ではなく、カリン様を未だに保有している魔族の左側から現れて思いっきり蹴り飛ばした。着地と同時にカリン様を無造作に抱きしめてその場から離脱。ついでに影を飛ばしてあるものを強奪した。

 アーロン様の前で着地してカリン様を解放すると、アーロン様とレティシア様が彼女に抱き着いた。それを見て満足した俺はクールに去ろうとするが、意外な事にアメリア様が止めて来た。


「待ちなさい。どうするつもりなの?」

「どうするとは?」

「あなた、このままあの魔族と戦うつもり? 無謀よ。さっきはたまたま上手く行っただけで戦って勝てる保証は無いわ」

「それはそうでしょうね。相手にするにはいくら何でも分が悪すぎる」


 流石にそれはわかっているのだ。何故なら魔族の周りにはまだ人が残っているのだ。親父も武器が大剣ゆえに下手に暴れまわる事はできない。さっき参戦したなかったのはそういう事が理由だ。というか日頃の貴族業務にストレスを感じているあの親父がこの状況で真っ先に飛び込まない方がおかしい。武器の心配? お袋が魔法使いの時点でお察しだろう。


「良かった。あなたの事だから真っ先に「殲滅だ!」とか言って突っ込むかと思ったわ」

「そうしたいのはやまやまなんですけど、ここでむやみに突っ込んだら流石に―――足手纏いとは言え何人かが死ぬなって」

「あ、そこなんだ」

「それにアーロン様やレティシア様にとってこのパーティ会場が思い出の場所だったら、消し飛んだら可哀想でしょう」


 俺だってそんなことで目を付けられたくないから自重している。

 それにしてもどうして周りはこうもすぐに動けないのか。こいつらがさっさと一か所に固まっていてくれたらお袋がバリアを張って俺をメインで暴れたらすぐに終わるというのに。


「じゃあもし、他の方の命を感情に入れずにベイルが思いのまま暴れたらどうなるの?」

「ワンサイドゲーム」

「それどういう意味よ」


 残念ながら通じなかったらしい。残念に思っているとさっき蹴り飛ばした魔族が立ち上がる。


「よくも、よくもやってくれた人間のガキ風情が!」


 立ち上がったのはさっき俺が蹴り飛ばした魔族の一人。怒りを露わにしているが大人たちが周りにいる状況で俺を探すのは無理かと思っているととんでもない事を言いだした。


「お前たち、さっきのガキどもを連れて来い! 連れて来たらお前たちは見逃してやろう!」


 そう宣言すると、周りは俺たちを見る。具体的には俺というよりもカリン様の方だろうか。


「貴様ら、何を考えている!?」


 どう考えても俺とカリン様を生贄にと考えているのだろう。どうやらこいつ等の頭は逝っているらしい。高が魔族程度に簡単に屈服するなどあってはならない……というかあり得ない。

 アーロン様はカリン様を庇おうとする。中には守ろうとする者もいるがそれでもという感じだ。つまりはこいつらは敵に対して恐怖をしている。そう考えるとどう考えても哀れにしか思えない。


「プッ」


 堪えきれずに俺は笑ってしまった。それに反応して恰幅の良い男が怒鳴るように言った。


「な、何がおかしい!?」

「だって今ここにいるほとんどの人間が俺とカリン様を犠牲にすればどうにかなるって本気で信じているんだろ? そんな保証なんてどこにもないのに、哀れだなぁ」

「黙れ! お前に何がわかる⁉」

「さぁ? わからないなぁ。あの程度の魔族に屈服する程度の力が無い癖に、しのぎを削ってのし上がろうとするなんて正しく滑稽じゃん。そんな暇があれば少しは強くなる努力をしなよ、足手纏いの無能共」


 ハッキリと言ってやり、俺は両親の方を向く。


「どうする親父? お袋? 二人もカリン様を犠牲にする派になるって言うならラスボス戦勃発するけど」

「誰がそんなことをするか。俺の場合は武器が武器だから攻めあぐねていただけだ」

「お袋は?」

「右に同じ。まぁ、あなたの言うとおりね。そもそも仕方なく他の人たちのフォローに入ろうとしていたし、誰が死のうがどうでもいいわ」

「レイラ、それはちょっと言い過ぎなんじゃ……」

「別に良いわよ。魔族が現れただけでビビッて鞍替えするようなアホなんて遅かれ早かれ死ぬだけなんだし」


 お袋の毒舌を聞いて俺は噴き出してしまった。


「お、お前たち正気か!? 相手は魔族だぞ?!」

「そ、そうよ! 魔族がどれだけ私たちを殺せるのか知らないなんて言わないわよね?!」

「いい加減にしろこの馬鹿者が!」


 男の一人が俺に対してそう怒鳴り、拳を突き出す。邪魔だったので裏拳で腹部を殴ると思いっきり飛んで壁にぶつかった。咄嗟の事だったこともあり手加減はしなかったとはいえ結構吹き飛んだなぁと思っていたけど、床に落ちたら血を流して動けなくなっている。まだ辛うじて生きているようなのでお袋がヒールをかけた。

 周りも、そして魔族もいきなりの事で唖然としている。俺はというとあまりにも簡単に吹き飛んで壁にぶつかり、それどころか動かなくなるなんて思っていなかったので別の意味で唖然としていた。

 そしてすべての状況を呑み込んでようやく出て来た言葉がこれだった。


「よっわっ!? 生きてる価値が全くない程に弱すぎるわ! え? 何? 貴族って権力だけなの?! 信じられないくらい弱すぎるよ!? よくそれで生きてられるよね?! そりゃあ魔族如きの甘言に乗っちゃうわ! うわぁ、無理! 恰幅が良いから実は脂肪と思っていたのにただのデブじゃん!」


 信じられないくらい弱くて言っちゃった。


「べ、ベイル!? いくら何でも言い過ぎだ!」

「何言ってんだよ親父! あんなの恥だよ! あの程度の強さしか持たない雑魚がよりもよってカリン様を売ろうとしたんだよ!? 死んで当然じゃん! っていうか他の奴らがカリン様を救出しなかったのって純粋に弱かっただけかよ! ってことでお袋はバルバッサ家のみ守ってて。特にアメリア様とカリン様を中心に」

「……そうね。あなたはそういう男だったわね」

「何を思っているのか知らないけど、天使を守るの義務だろう?」


 それにしても貴族社会には落胆した。あの程度の攻撃すらまともに受け止められないなんてあり得ない。根本的に鍛え直さないと意味が無いな。


「お前ら邪魔だ! 死にたくなかったら道を開けな!」

「ベイル、後で説教だからな!」


 俺と親父が前線に出る。そしてその隣にはシルヴィアもいた。


「って何でシルヴィアもいるの!?」

「……私も戦う」

「危ないから下がってて!」


 そう言うが頑なに下がろうとしない。いや、流石に子どもは論外―――なんて思っているとシルヴィアは敵に向かって杖を向け、魔砲を飛ばした。それに当てられた魔族は一瞬で消し炭になったのだ。


「……何でお兄様も戦うのに私が戦ったらダメなの? 私も倒したい」

「あのねシルヴィア。これは遊びじゃないし、俺たちは一応周りの貴族的に言うと強大な敵に立ち向かうわけだから」

「……わかった」


 すごすごと戻るシルヴィア。そしてカリン様の前に立ち、周りの貴族に向けて魔砲の発射口を向けた。


「じゃあ私は、他の邪魔者がお兄様の邪魔をしないように見張ってる」

「よし、任せた」


 それにしても八歳にしてあれだけの高威力の魔砲を放つことができるとは、俺の妹は将来有望な魔法師になるだろう。なんて思いながら魔族と対峙。すると俺に剣を奪われた、さっきから全く良い事がない魔族が俺を見て驚いている。


「そ、それは私の魔剣! 何故お前が持っている!?」

「さっき天使奪還の時に奪ったんだ。それにしてもさっきからうるさいなっと」


 そう言いながら魔剣に魔力を与えてやると静まった。それを見てさらに固まる魔族のたぶんリーダーさん。


「い、一瞬で調伏させただと!?」

「ごちゃごちゃうるさいよ、名無し君。そろそろ始めよう、か!」


 剣を抜いて俺は魔族に強襲。同時に魔力を剣に載せて飛ばす。すると二対の魔族は回避したがその他の雑魚はこのパーティ会場の壁と運命を共にした。

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