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生前の記憶を手に入れた貴族の少年、異端へと至る  作者: トキサロ
第1章 その悪童、転生者につき
14/36

#13-悪童、戦場に舞い降りる-

 あれから数日。ベイルは家に戻ってカラドボルグを仕上げた後に適当に散策していた。シャロンに殴られて以降本調子にならないのだ。


「お兄様、大丈夫?」


 シルヴィアがベイルの様子を確認すると、ベイルはいきなりシルヴィアに抱き着いた。

 最初は驚いたシルヴィアだが次第にそのままベイルの頭を撫でる。


「……うーん」

「どうしたの?」

「いや、なんか最近……いや気のせいだな」


 ベイルは少し考えた後、これ以上はマズいと思って口を閉ざす。そしてそのままどこかに行くと自分の部屋に戻った。

 その様子を見たシルヴィアはそのままバルバッサ邸に顔を出した。


「ベイルの様子がおかしい?」


 グレンに事情を話したシルヴィアは頷く。少し考えているとグレンの妹のカリンが顔を見せ、辺りを探すがショックを受けて帰って行った。


「あー……たぶんヒドゥーブルの人間が来たって聞いてベイルと期待したんだよ。悪いね」

「……ベイル兄様の事が好きなんですか?」

「ああ。厄介な事に姉妹揃ってね。ま、気持ちはわからなくもないけど」


 と愛想笑いをするグレン。シルヴィアはジト目でグレンを見る。


「だってそうじゃないか。あの二人は死の窮地を救われているんだよ。それもアメリアに至っては二度目だ。まぁ、今はアメリアはベイル君に拒否されてしまったからへこんでいるんだけど」

「……拒否?」

「ちょっと色々あってね。まぁ、私としては別にアメリアが殿下じゃなくてベイル君を選んだとしても良いんだけどね」


 グレンとしては姉妹両方をベイルが娶ったとしても全然問題無かった。ベイル自身にそれほどの実力はあると睨んでいたし、ベイルも実際のところアメリアの事が好きなのは知っている。そしてそれが心の枷になっているからシャロンに手を出そうとしていないのも。


(これじゃあ、ベイル君もそうだがシャロン殿下も哀れだな)


 ベイルが抱いている感情は今のままでは叶う事はない。そしてこの苦しみは永遠に続く。だからこそグレンはある事を考えた。


「シルヴィアちゃん、悪いんだけどベイル君を連れてきてくれないかな?」

「……何故ですか?」

「一体お互いにスッキリさせようと思ってね。そうしなければベイル君も先に進めないし」


 シルヴィアは少し考えた後にそのまま飛んでいく。グレンは改めてヒドゥーブル家の規格外っぷりを見て冷や汗を流す。


(シルヴィアちゃんは年齢的に守備範囲外。ならばマリアナ嬢かな。……まぁ、でも)


 グレンは自分の筋肉を改めて確認。そして周りの兵士やヒドゥーブル家の男兄弟を見て冷静に思う。


(……平和な世の中が続いたからといっても、貧弱だな)


 年齢などの差異はあれど、貴族も人並み以上には勉学だけではなく剣術を始め様々な武術を身に着けさせられる。彼らにしてみればヒドゥーブル家が異常に感じていた。

 しかし今後はそんな泣き言を言って生き残れるわけがない。それが知っているからこそグレンはヒドゥーブル家の血を求めていた。


(とりあえず、今は点数稼ぎの為に行動するか)


 近くにいた兵士に話をして先に戻っていくグレン。そのままアメリアの部屋に行くとドアをノックする。


『……どうぞ』


 ドアを開けて部屋に入るグレンは無情にも伝えた。


「話は聞いていると思うけど、ベイル君が処刑されるらしいよ」

「………」


 それでも無言なアメリア。そんな様子のグレンは呆れている。


「良いのかい、アメリア。たぶんこれが最後になるかもしれないよ」

「……どうでもいいわよ」


 その言葉を聞いたグレンはため息を吐く。


「アメリア、君は一つ大きな勘違いをしていないかい?」

「……どういうこと?」

「別に君じゃなくてもベイル君はモテる。神皇国がケチをつけて来たからベイル君が殺されそうになっているけど、よほどの不意打ちをしなければベイル君を倒すことなんて不可能。戻ってこれば彼は国を挙げて囲われるだろうね」

「そんな事、わかって―――」

「じゃあ聞くけど、今のサイラス殿下は果たして価値がある存在かな」


 そんな破天荒な事を言ったグレン。アメリアは驚いてグレンを見た。


「今からベイル君が来る。とりあえず決着は付けておけ」


 グレンは外に出る。しばらくして呆然としていたアメリアは慌てて人を呼んで身支度を整えさせた。




「随分と酷い事をしているじゃないか」


 グレンがアメリアの部屋から出てしばらくするとアーロンが話しかける。


「何の話やら」

「とぼけるな。今回の事が露見すればどうするつもりだ?」

「露見して我々が処断された場合、ホーグラウス王国が消滅だけですよ」


 自信満々に言ったグレンは一つ勝算があった。


「それにいずれあの感情に関しては処理してもらわなければいけない。そしてアメリアが殿下かベイル君かどっちを選ぶのかなんて、勝手に選んでもらえば良いじゃないですか」


 するとバルバッサ邸の修練場が騒がしくなる。兵士の一人が現れてベイルが着いた事を報告した。


「そうか。ではアメリアの部屋に案内してやってくれ」

「……よろしいのですか?」

「構わないよ。ベイル君だからね」


 笑みを浮かべながら答えるグレン。アーロンも静観のつもりなのか口を出さなかった。





 部屋に案内されたベイルはアメリアと二人っきりの状態だった。ベイルは物凄く緊張している。


「ベイルは、私の事が嫌いですか?」


 そんな状況で先に切り出したのはアメリアだった。ベイルは驚いていたが首を振る。


「……そうですか。じゃあ何故あの時、私の口を塞いだの?」

「それは……」


 顔を赤くするベイル。アメリアはしばらく待っていたが、何もしないベイルを見て立ち上がり、ベイルを連れて部屋にあるソファーに二人で座った。


「こ、婚約者がいるのにこれは―――」

「嫌なの?」

「そんなわけあるか!」


 ベイルが反射的にそう返すとアメリアは少し驚いたが、その後にベイルに身体を預けた。ベイルはいきなりの事で興奮と同時に混乱する。


「……わかっているのか。こんな事をしていると王家にバレたら賠償とか―――」

「お兄様に聞いたわ。私が魔族に誘拐された時に棄権したって」

「そういうものだろ」


 あっさりと返すベイル。アメリアは何かを言おうとした時にそれを引っ込める。


(………何で私は、殿下の婚約者になってしまったのだろう)


 そうじゃなければベイルと何の障害も無く付き合う事ができた。この気持ちを伝えることができた―――そう思いながらも距離を取らざる得ない。だからこそ、これは最後の抵抗だと自分に言い聞かせる。


「ベイル」

「何―――」


 アメリアは、ベイルとキスをした。

 本当はあの時したかった事。ぎこちないけど舌も入れ、逃げようとするベイルを腕で掴んで放さない。

 しばらくするとアメリアはベイルから離れる。


「あんた……何を……」


 するとアメリアはベイルを無理矢理外に出すとドアを思いっきり閉め、その場に崩れ落ちる。


(……こんなことなら……)


 あの日、ヒドゥーブル家で足を踏み外して倒れると思ったあの日―――ベイルが自分が身を挺して守ったあの日、死んでおけば良かった。そう心から思ったアメリアはベイルにバレないように声を押し殺して泣いた。





 あれからさらに数日が経過した。

 ベイルは準備を済ませて空を飛んでいるとジーマノイドの集団を見つけた。ジーマノイドの方もベイルを見つけて戦闘態勢を取る。中にはベイルに向かって砲台を向ける機体もあり、やる気満々だと理解できる。


『ベイル・ヒドゥーブルだな!』


 声を掛けられたベイルは頷くと砲台がいくつか動いたのを見て頭を切り替え、距離を取った。


『逃げるな! お前が逃げると、他の奴らが犠牲になるぞ!』


 その言葉を聞いた瞬間、ベイルは鼻で笑って拡声魔法を発動して言った。


「うるせえ。黙れ」


 明らかな罵倒。それを聞いて彼らは怒りを露わにするがベイルは容赦なく捲し立てる―――という事はしなかった。その代わり馬鹿にするような笑みを浮かべて彼らに確認する。


「さて、他の国からはるばるやって来た愚者諸君。君たちにチャンスをやるよ」

『チャンスだと?』

「そう、チャンスだ。泣いて喜べ、そして俺を崇めるが良い。今から五分間、お前らがここから離脱するのを黙って待っていてやる」


 それを聞いた者たちは怒った。ただの子どもがと、調子に乗るなと。

 今ここにいる者たちは大なり小なりプライドを持ってここにいる。特にレリギオン神皇国の兵士たちは違った。彼らは昔から悪しき魔族を討伐する為に訓練を積んでおり、念願の魔族討伐なのだ。それを目の前にして逃げろと言うのは所謂彼らに対する侮辱に過ぎない。


『調子に乗るな!』


 魔砲が放たれ、ベイルは攻撃を回避する。それを見て向こうは驚いていた。


「可哀想に」

『調子に乗るなと言っているんだ!』


 さらに魔砲が放たれてベイルは器用に回避しながら話を続けた。


「誰がお前らに同情するか。同情しているのはお前らの家族にだよ。今まで育ててきたのは強くして大事にするためなのに、その役目すら果たさずに無駄死にする子どもの姿。そしてせっかく結婚して子どもも設けてこれからって時に「戦い抜きました」と遺品を渡される未来しかない妻子。そんな未来しかないのに送り出すしかない、叶うなら無事に戻ってきてほしいと願っているのに帰ってくるのは無惨に散ったという報告だけだ。可哀想……本当に可哀想だ」

『だったら大人しく死ねばいいだろう!』


 そう叫ぶ敵に対してベイルは舌を出す。所謂「あっかんべー」という奴だ。それを見て周りはさらにベイルに対して攻撃するがそれを回避して黒い円の中に入り姿を消す。


『に、逃げた⁉』

『逃げたならこのまま進軍を―――うわぁッ』


 瞬間、上から放たれた魔砲が直撃して右腕部が爆散する。するとどこからともなくドレイクーパーが上から降って来たのだ。


『な、何故だ……何故お前がジーマノイドに乗っている⁉』

『ジーマノイドの搭乗は我々が防いだはずなのに!』


 それを聞いたベイルは鼻で笑った。


『ああ、聞いたよ。まさか俺にジーマノイドの搭乗を禁止するって条件出したって。いやぁ……本当にムカついたわ』


 さっきとは違い、徐々に語気を強くしていくベイル。それで向こうもヤバいと感じたのだろう。


『だから敢えてこいつを持ってきた!』


 異空庫からライフルを展開して両肩部の小型魔砲を稼働。次々と発射して頭部や武器を破壊していった。

 ベイルがこうして攻撃するのは理由があった。今回の件、やろうと思えば一瞬で消滅させることなど可能だった。だがそうしないのは自分は人間に対して危害を加えないという証明と技術を見せつけるという意味があった。そして何より、ベイルの心はまだ人を殺そうとする覚悟が無かった。

 だからすべては自分の気持ちを潰さないための措置。自分本位の考え方しかない。


『調子に乗るな!』


 次々と落としていき、それでいて敵の攻撃を回避し続けるベイル。

 ジーマノイドの操作は一般的に操縦桿とペダルで操縦するが、補佐的に思考操作も取り入れられていた。そしてベイルはどちらかというとそちらの方が近く、ジーマノイドには古くからそれを可能とする脳思考コントロールシステムが搭載されていた。

 五百年前に召喚された勇者はたまたまそう言った分野に明るく、奇跡的に組めたプログラム。意思疎通ができるようなタイプではないが搭載されたAIがパイロットの技術を解析し、最適化を行うSFものにあるタイプだった。だがそれを十全に扱うにも適性というものが必要で、ベイルはその適性を持つ人間だ。

 だからこそ本来はあり得ないとされる複雑な操作に乗って生み出される機動力を発揮して攻撃を回避している。

 そして人を殺さないようにするというものはベイルが持つ感覚の鋭さが発揮されていた。だからこそ人がどこにいるのか、そんなことがわかるようになっていたのだ。加えてベイルが生身でも魔力で操作する魔石をのように自在に操作する武器も役に立っているのも大きい。

 それらの要素を駆使して攻撃を回避、時には自分に当たる前に落として敵を次々と落としていく。


 それを見ていたパルディアン帝国出身の騎士―――ファーガスは違和感を持ち始めていた。


(何故、敵のはずの我々を殺さない……?)


 自在に飛び、次々と敵機を戦闘不能にする姿はファーガスには異質と同時に高潔に見えた。だが相手は悪しき魔族と聞いていたファーガスは納得がいかない。


「ファーガス様、これは―――」

「元々気に入らなかったが、むしろこっちが実験体扱いだな」


 元々これは戦争のようなもの。向こうがこちらに対して手を加える理由もない。それをこなす事でベイルに対する疑問を浮かぶ。あれやこれやと悩んでいたファーガスはちょうど隣にいるベディヴィアに尋ねる。


「ベディヴィア卿、果たしてこれは我々が倒すべき相手なのか?」


 敵を倒してはいる。しかし実力はともかく今の所誰も殺していない。自分たちは上から中間に居ろと言われて待機しているが、とても騎士である自分たちが彼を―――魔族と言われている少年を殺すのは少し嫌だと思い始めていた。

 しかしベディヴィアは答えない。何かを考えるように相手を観察している。


『相手は陛下が敵と定めた人物ですよ。私情は捨てなさい』

「いや、わかっているが―――」


 その時、二人が何かを感じる。それはベイルも同じのようで自分たちを警戒しつつ別の方向を見る。


『……嘘だろ』


 ドレイクーパーから声が漏れた。

 操縦者たちはその方向を見ると、そこには黒いドラゴンがどこからともなく現れたのだ。


『デカい……』

『何で……何でこんな所にドラゴンが……』


 次々と怯える中、一人だけ果敢にも挑もうとする。それがベイルだった。


『我と戦おうとするか、人間!』


 ドラゴンが思念と共に咆哮を飛ばす。しかしベイルは怯まず、むしろ加速してドラゴンに突っ込んだ。その最中にエネルギーソードを展開して切りつけて離脱した。


「とりあえず出血はする。だが一周回って笑えるくらいに効いていないな」


 などと笑っているベイルだが、黒いドラゴン―――黒竜級はまさか傷を付けられるとは思っていなかったらしい。


『奇怪な存在よ。空を飛ぶこともそうだが、なによりドラゴンと呼ばれ恐れられている我に対して一歩も引かないとは』

「当たり前だろ。というかしゃべるのか、お前」

『話術というより念話、という方が近いか? お前たち人間にとっては』


 平然と会話をするベイル。その間もドレイクーパーはエネルギーソードを収納してライフルをドラゴンに向ける。そして、全員に向けて声をかける。


「お前ら、全員ここから去れ」


 黒竜級がドレイクーパーに光線を放つ。それを回避したベイルはさらに続けた。


「これから俺はこいつを倒す。お前ら雑魚に周りをうろつかれたら迷惑だ」

『ふざけるな! 俺たちだって戦える!』

『ちょっと功績を重ねたからと言って!』

「そうか。好きにしろ」


 それだけ言うとベイルは攻撃を開始した。先程人間に向けて発砲した威力とは違う、本気で攻撃。ライフルを二丁から一丁に減らしてエネルギーソードをもう一度出して仕掛けたのだ。

 その姿にファーガスも、ベディヴィアも驚愕。巻き込まれてはいけないと撤退命令を出す。


「総員撤退! 今すぐ離脱しろ!」

『帝国兵! 貴様ら、敵を前に尻尾を巻いて逃げるつもりか!』

「黙れ神皇国兵! 節穴共が! これ以上ここであの機体とやり合ってみろ! そのままの出力を向けられるという事がわからないのか!」

『私たちも下がるわよ』

『こちらも下がるとしよう。ただでさえドラゴン討伐はさらに人数が必要な上に、我々一機一機以上の戦力を持つ相手に無様を晒すつもりはない』


 ブリティランド魔導国、ブルーミング共和国の兵も撤退を開始。その状況に神皇国兵は舌打ちをした。


「あいつら、まさか突撃する事だけが正義だとでも思っているのか?」

『……さぁ。ですがこれで一つ分かった事がありました』


 ジーマノイドにある機能の一つに特定機種間の通信機能が備わっている。それでファーガスとベディヴィアはやり取りをしていた。


「わかった事?」

『我らが主から今回の件、色々と怪しいところがあったというのです。長年我々パルディアン帝国とホーグラウス王国は犬猿の仲。もしかしてホーグラウス王国に現れたドラゴンスレイヤーを殺して王国の国力を下げようとしているのではないか、という話が』


 その言葉を聞いてファーガスが驚くが納得する。


『念の為、彼の功績を確認してみましたが、これまで出てきたのは魔族の捕縛に紅竜級の討伐、そしてこの前王国に現れた魔族の討伐。それを十歳の子どもが成し遂げた、と』

「……なるほど。それをどこからか現れた魔族がやったことと王国以外が考え始めたのか」


 ファーガスが納得していると通信相手のベディヴィアはため息を吐く。


『私も姿は初めて見ましたが、あんな子どもがあそこまで動けるというのは驚きを隠せませんね。そして我々は彼と黒竜級の戦闘を理由に撤退、と』

「帰ったらドヤされるな。だがあれは俺も無理だと思う」


 今も激しい戦闘を繰り広げるベイルと黒竜級。なにより、そもそも彼らにしてみれば空を飛ぶジーマノイドなどあり得ないのだ。


(だが、噂による魔族のジーマノイドならば)


 ホーグラウス王国で行われている魔族の襲撃。その時に空を飛ぶジーマノイドが目撃されている。そしてホーグラウス王国で飛行可能型は基本的に実用化されているという連絡はない。つまりはまだ実験機の段階でこうして使っている事自体があり得ないのだ。


(ましてや子どもが自在になど……だが)


 少なくとも人として悪と聞かれれば首を捻る。少なくとこもこの場においてベイルは一人も命を奪っていない。残虐性を持ち合わせている人間ならば一瞬で消し飛ばしていただろう。だがそれをしなかった。


(つまりはまだ、人としての心は残っているということか)


 果たしてこの戦いは必要だった事かと考えるベディヴィア。そして離脱しながらもベイルの方を向いた時、ディスプレイの映像を見て驚いた。


 ―――レリギオン神皇国兵の一人が売った魔砲がベイルのドレイクーパーを直撃したのだ






 ベイルがそれを理解するのは時間がかかった。

 レリギオン神皇国以外の他の国の兵士たちが離脱を選択。残る事は最初から期待していないベイルはそれで良かった。そうじゃなければつまらない。

 元々殲滅などはするつもりはなかったベイルはある程度倒したら自分に手を出す時点で間違えていると理解させて撤退させたかっただけだ。殺しはするが殺戮者になるつもりはなかった。既に手遅れな気がしなくもないがそう思わなくては自分の心が救えないと思っていたからだ。

 だからこそベイルはドレイクーパーを高機動射撃メインの機体としたのだ。もっとも、さらに隠し武器もあるがそれを使えばベイルはたちまち世界中から恐れられる存在になっていただろう。

 それほどまでの手加減をしてもなお、ベイルは黒竜級と渡り合っていた。そして倒すつもりだった。倒して今度こそ自分が手に入れたと証明し、究極のジーマノイドを作り上げようとしていた。

 ベイルの心はもう、あの時ジーマノイドで殺戮をされた時点で折れかけていた。

 果たして自分が進もうとしている道は正しいのか。自分が歩もうとしている道は本当に正しいのか。そんな疑問を抱き始めていた。それでも歩みを止めないのは止まったらそれこそ終わるのではないかと恐怖を怯えていた。


(だから……俺は……)


 気丈に振る舞っていたのは自分が怯えればどうなるのかという恐怖から。ただの破壊者となりたくないから。少女たちに手を出さないのは自分のせいで歪んだ人生を歩ませたくなかったから。強大な力を持ってしまった転生少年は今、感情をグチャグチャにしながら黒竜級を討伐しようとしていた。

 だからだろう。ベイルは戦闘中にレリギオン神皇国の兵士がまだ逃げていない事を忘れてしまっていた。


「―――え?」


 気が付いた時には左から飛んできた魔砲を受けており、慌てて転移で離脱する。しかし今のでドレイクーパーの左半身がライフルの暴発で吹き飛んでしまった。


『戦闘不可状態を確認。早期に現在地点より離脱を推奨』

「わかっている」


 その時、黒竜級の腕がドレイクーパーに直撃。勢いよく地面に叩きつけられた。


(……クソ……何で……)


 今のでコックピットハッチが歪み、まともに機能しない。さらに衝撃でベイルの身体のあちこちが損傷しているのはなんとなく気付いていた。それでも残っているポーションを飲んで必要なものを回収した後に転移でドレイクーパーから離脱した。


「……ごめん」


 そう溢したベイルは重力魔法を使用して離脱する。しかしレリギオン神皇国は逃がすつもりは無いようで生身になったベイルに対しても容赦なく魔砲を放つ。ベイルはバリアなどを駆使して攻撃を防ぐ。


「もう怒った」


 ドレイクーパーから離脱してきた魔力石を操作してそれに乗り、黒竜級とレリギオン神皇国からの攻撃を回避する。しばらく続いたそれも上手く誘いこまれたと気付いた時には手遅れだった。

 まるで示し合わせたかのように黒竜級とレリギオン神皇国の兵士からは光線と魔砲。それを両サイドから放たれてベイルは同時にバリアを張って攻撃を回避。逃げ出せたと思った瞬間、ベイルは上空から雷を撃たれた。

 突然の事に理解できなかったベイルは直撃して倒れる。身体を動かそうとしても動けない。わかったのは、レリギオン神皇国のジーマノイドが杖を装備していた事だった。


『仕留めたぞ、この悪魔め』

『お前たち魔族は存在してはいけないのだ』


 自分を覗き込むようにしたジーマノイドは杖をベイルに向け、魔砲を放つ。本当はこれを晒してやりたいところだが、今は黒竜級もいる。向こうから雷魔法が放たれて援護をしているようでジーマノイドが去って行く。


『哀れな子どもだ。打算もあっただろうが我と戦って逃がそうとしていたというのにこうも執拗に潰されるとはな』

「………」

『まぁいい。せめて我が―――ドラゴンで最上級の存在である黒竜級と呼ばれし我がお前を糧としてやろう』


 黒竜級がベイルに顔を近付けた時、ベイルに血が垂れる。それに気付いた黒竜級はふと疑問に思った。


(これはあの子どもが我に付けた傷。何故まだ塞がっていない……)


 不思議な魔法でも使ったのかと思っていたが、それよりも先にとベイルを食すつもりだったが―――瞬間、黒竜級の理解が及ばないことが起こった。

 ベイルがいつの間にか浮かび上がっており、周囲にあるジーマノイドの破片や修復不可能なドレイクーパーすらも呑み込んでいき、やがてそこに卵ができた。不思議に思った黒竜級はその卵が徐々に成長していくのを観察していた。


(このプレッシャーは……)


 その時、卵から放たれたプレッシャーが周囲に衝撃を与えていく。思わず黒竜級は下がるとそのプレッシャーが形を成してここから南部にあるヒューリット領を守るように大きな壁が出来上がっていった。

 逃げていた全員が突然の事に動揺する。卵から放たれるプレッシャーがもう人の手に余ると理解できるほどであり、その時は既に来たと言わんばかりに卵にヒビが入り、亀裂と化す。やがて卵が二つに割れ、中からドラゴンと同じ翼を持つ人間がいた。ただしその人間は立ち上がると三十メートルはある。そして、ちょうど今の体型で四つ足で立つ黒竜級の大きさもまた三十メートルほど。全長はもっとあるが高さとしては同じくらいだった。

 一人と一頭を相対する。二人から放たれる気配は尋常ではなかった。


『黒い鱗……まさか、世界で絶対唯一と言われている黒竜級が我以外にも現れる事になろうとは思わなかった』


 相手は答えない。黒竜級が睨みつけるが反応無し。黒竜級がよく観察すると、目に光が無かった。


(生まれたて故に反応ができない、か。まぁいい。こやつを食えばあの小僧よりもかなり―――)


 突然、黒竜級が衝撃を受けて後ろに吹き飛ばされる。そして相手は黒竜級が吹き飛ばされるスピードを超える速さで接近して黒竜級を地面に叩きつけた。

実際、今の社会的にも人の成長に連れて莫大な金はかかっていると思われます

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