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生前の記憶を手に入れた貴族の少年、異端へと至る  作者: トキサロ
第1章 その悪童、転生者につき
13/36

#12-悪童、襲われる-

今回も2話同時掲載です

 ヒューリット領の件で関係者全員が王宮に呼び出された。一人一人事情聴取をされる事になったのでベイルは小さな部屋でありのまま起こった事を説明するが相手が相手だった事もあって信じられていないと感じていた。

 そんな事に気に入らないと考えながらも冷静に考えれば自分がした事が誰も信じられないだろうと笑ってしまう。そして今、自分に起こっている事もだ。

 ベイルは一人でいるところにシャロンが現れて彼女の部屋に招待という名の強制連行をされて膝枕されているのである。


(……意外と気持ちいいんだな)


 そんな感想を抱きながらベイルはどこか夢心地を感じていた。と言ってもそれが果たして太ももの感触からなのかはわかっていない。


「……ねぇ、ベイル君」

「何だ?」

「おっぱい揉む?」


 唐突にそんな事を言われたベイルは思考が数秒停止した。


「何でそうなる」

「でも私、最近胸が出て来たわ。まだ小さいけど―――」

「そもそもこの膝枕もバレたらアウトだろう。だから退く―――」


 ベイルが身体を起こそうとすると、シャロンがそれを阻止した。


「ベイル君、今のあなたに必要なのは休養よ。だってあなたは人を……」

「俺は元々そういう道を歩もうとしているんだよ」


 冒険者は一般的に冒険をし、新たな発見をする者。または力を行使して悪い奴らを懲らしめる者。そんな認識を持たれている。だが実際は気に入らない奴らがいれば決闘をして相手を殺すこともある。

 そんな職業を就こうとする者が人を殺した事で動揺するのは間違っていると言い聞かせているが、今のベイルにはその気持ちを整理しきれていないのだ。その事もあってベイルの右目はまだ金色のままだった。


(というか、何か最近こういうのばっかりだな)


 ベイルとしては別に褒められるようなことをした記憶は無いが、周りが持て囃しベイルに対して優しくする。今の状況も責任を取って結婚をしろと言われたら終わりだろう。

 なんとかして逃げ出そうとしているとドアがノックされる。


『シャロン、そこにベイル・ヒドゥーブルがいるのでしょう。彼を陛下の執務室に連れてきなさい。大事な話があります』

「……チッ」


 舌打ちをしたシャロンだが、命令としては自分の父親からとなれば拒否をする事はできない。仕方なくベイルを解放した後にベイルの腕に自分の腕を絡ませたシャロンはそのまま外に出るとシャロンの母親のジュリアナと会う。


「……シャロン、本当にこの男といたのね」

「別にいたら何だというの?」

「いい加減に相手を選びなさい。この子どもは所詮私たちとは違う存在なのよ」

「そうよ。他の貴族と違ってベイルはこの歳で既に大人すら勝つことができない程の力を持っているわ。血筋に執着して弱体化した人たちよりもまともよ!」


 ベイルはそんな事を言われているが怒りもせず、むしろジュリアナの言っている事に関しては正しいと思っている。そして腕に押し付けられる胸の感触で確かに出てきている事を知ったベイルは実のところ嬉しかった。


「あの、言い争っているところ悪いんですけど、とりあえず執務室に行きませんか?」

「……わかっているわよ。とりあえずシャロンから離れなさい」

「だってさ。とりあえずは離れよう」


 しかしシャロンは中々離れない。ベイルは困ったという顔をしてジュリアナを見るとジュリアナの方が諦めるのだった。





 連れて来られた謁見の間にてベイルはウォーレンに今回の件で労われる。


「今回の件、誠に大義であった。君がいち早く事態に気付いてくれたおかげでヒューリット領の被害は最小限で済んだ」

「………」

「……聞いているのか?」


 返事をしないベイル。下手に刺激して暴れられても困ると考えたラルドはそのまま話を続ける。


「それと、六日後にヒューリット領の北部にある荒野に出向いてもらいたい」

「………」

「返事くらいしなさい、ベイル」


 今回の件で呼ばれたラルドはベイルにそう言うと、ベイルは返事をする代わりに質問をした。


「もしかして六日後に俺、魔族だからという理由で処刑されるの?」


 その言葉に全員が動揺した。ウォーレンはやはりという態度だったが、それをラルドが見てウォーレンを睨む。


「どういうことか聞かせていただけませんか、陛下」


 流石に我慢できなかったのか、ラルドが普段よりも低い声で尋ねる。


「昨日、五ヵ国同盟の会議にて今回の件が議題に上がった。レリギオン神皇国はベイル・ヒドゥーブルを正式に魔族として認定したのだ」

「そんな横暴な! 知っての通りベイルは何もあなた方に非以外の事もしているはずですよ!」

「……だが、現にヒューリット領に被害が出ている。もし彼を連れて行かなければ他の四国は我々に対して宣戦布告を行い、全てを蹂躙していくだろう」


 そこまで話を聞いたベイルは執務室を出ようと踵を返して移動を始めたのでハンフリーが妨害した。


「待ちたまえ。どこに行くつもりだ?」

「これまでの罪を清算してもらおうと思って」


 全員が理解できなかったこともあり、ハンフリーはベイルを外に出そうとしない。シャロンも慌ててベイルの手を掴んだ。


「大丈夫よ。今回の件はいくらレリギオンでも横暴が過ぎるわ。私たちがどうにかして―――」

「いや、無理でしょ。だってこの国含めてそのなんとか同盟ってジーマノイド技術を発展させてこなかったじゃん。その上、非武装の人間に対して襲うような奴らなんだから話し合いなんて無駄。だから―――この世界から退場してもらうわ」


 そう断言したベイルに全員が戦慄した。特にラルドはベイルの言葉がシャレになっていない事に気付いているのでどうにか止めようと考えているが先にベイルが言い放つ。


「ところでシャロン、そのなんとか同盟って一体何の同盟なの?」

「元々はいずれ復活するであろう魔王に対抗する為に人間たちで力を合わせる為の同盟よ。でもレリギオン神皇国は女神信仰が根強くて魔族に対する排斥の傾向が強いのよ。でもだからってベイルを魔族として認定するのは―――」

「……なるほど。それで俺という存在にビビッて魔族認定して自分たちが覇権を取ろうとしているのか……下らない」


 そう吐き捨てたベイルは少し考えてその話を受けた。


「良いぜオッサン。一週間後だな」

「何言ってんだお前は!」


 ラルドが怒鳴るとベイルは少し動揺したがすぐに真顔に戻る。


「わかっているのかベイル。最悪の場合はお前が死ぬんだぞ」

「最悪の場合は、だろ」


 まるで自分はそんな事にはならないと言わんばかりの態度を取るベイル。それはまるで勝利を確信しているようだった。


「でも俺には関係ない事だ。むしろこの戦いで逃げる方が恥だろ」

「何を馬鹿な事を―――」

「向こうは俺を殺す気であり、俺が逃げればこの国は奴らの定義する魔族を匿った正義の鉄槌をお題目に弱者を蹂躙するつもりだろうな。だが俺はそんなのはごめんだ。そんな事をさせられるくらいなら俺が奴らを蹂躙する。そしてなにより、萌えもロマンも理解できない、俺相手にまともに戦いを挑めない雑魚を相手に尻尾巻いて逃げる方が問題だ。なんだったらついでに他の国を滅ぼそうと思っているぐらいだ。やったなオッサン。統治場所が増えるぜ」


 簡単にベイルに嫌な顔をするウォーレン。だがラルドは最後まで反対していた。それもそうだろう、自分の息子が死地に向かわされて反対しない方が珍しいくらいだ。


「ダメだ。いくらお前が強かろうと向かわせられん」


 頑なに止めるラルド。それに口を出したのはハンフリーだった。


「ヒドゥーブル子爵、つまり君は国が滅んでも良いというわけかな?」


 意地悪な言い方だった。そう言われてハンフリーの狙い通りにラルドは言葉を濁す。


「それは……」

「正直なところ、そういう点では息子さんはよく見ている。今の君にこの会話に介入する余地は―――」


 ハンフリーがラルドに拳のみで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。周りはそれを見てしばらく動けなかった。


「そうか、よぉくわかった」


 怒りを露わにするラルド。彼から放たれるそのオーラは間違いなく強者のソレであり、ラルドはこの場を持って宣言する。


「今までお世話になりました。爵位はフェルマンに移した後、この国を出ていきます」


 ドスの聞いた声を無意識に放ったラルドはそのままどこかに行こうとするのを防いだのは意外にもベイルだった。

 ベイルは魔族の自称公爵から奪ったムラマサーベルを抜いてラルドに切りかかる。既に服も含めて戦闘態勢を取っているベイルの両目は金色の輝いていた。

 ラルドはベイルの剣を防いでジュリアナがハンフリーに駆け寄って「兄さん、兄さん!」と呼んでいる声をBGMに鍔迫り合いを行う。


「邪魔をするな、ベイル」

「それは無理だな。親父に殺気に当てられてしまったんだからよぉ!」


 両者の気がぶつかり合い、周囲の物体が舞っていく。


「ま、待て! 本当に待ってくれ! 本当に止まってくれ!」


 ウォーレンが悲痛な叫びを上げる。しかし二人が止まらないのでウォーレンが急いでラルドに掴みかかった。


「お願いだ! 本当に頼む! 私とて本当はお前の息子一人を犠牲にしたくはないんだ!」

「知った事か!」

「親父、何か勘違いしてねえか」

「何をだ」

「俺が行くのは死地じゃない。一方的に蹂躙しに行くんだ。というか、百や千、万を超えたとしてもただの人間に俺をどうこうできるわけないだろ」


 そう言うとラルドは力を緩める。ベイルも少し後に力を緩めた後に納刀。


「……良かった……本当に良かった」


 涙目のウォーレン。彼にしてみればいきなり親子で大決戦が始まり、王宮はもちろん王都や周辺の土地が消し飛ぶのではないかと思う程に焦ったのである。ましてや、ラルドのたった一発の拳でヒドゥーブル家が現れるまでウォーレンの右腕であり優秀な護衛でもあったハンフリーがのされてしまった。


(子を持つ親として、まだ幼い子どもを戦場に送るのは確かに躊躇う気持ちはわかる)


 だが今ここでベイルを出さなければベイルの言う通り彼らは自分たちに対して牙を剥く事は容易に想像できる。彼らは理由はわからないが何であれ自分たちに対して攻める理由が欲しいようだ。その理由まではわからないが警戒する必要はある。だからこそベイルに出てもらわなければならないのだ。

 ラルドはしばらく無言だったが、やがてため息を吐く。


「……わかった。ただし、絶対にバルバッサ家にだけは挨拶しておけ」

「え? 何で―――」


 予想外の事を言われて動揺するベイルに追い打ちをかけるようにグレンが続く。


「まぁ、私から言ってもいいが今後の事を考えると一言言っても良いと思うけどね。できれば泊まりの道具も準備して」

「あら、それなら私もベイルと一緒に過ごしたいわ。いくら後ろ盾だから独占するのもおかしくなくって?」

「いやいや、殿下には他に相応しい人間がたくさんいるでしょう? ベイル君に拘る必要はないと思いますが?」


 突然始まった貴族同士の牽制にベイルは遠い眼をしている。それだけならば別に良かったのかもしれないが、シャロンはベイルの腕にその身体を絡めてきた。

 ラルドはベイルの目を見て現実逃避し始めているのを理解する。


(……こいつ、こういうところは苦手だな)


 ラルドも昔はソロ冒険者として名を馳せ、未だ動かないハンフリーを一撃で倒す程の猛者だ。だからこそ改めて息子の姿を見ても―――異常だと感じる。


(今はまだ味方ではあるが、敵となると厄介だ……)


 それを知っているからこそウォーレンもベイルを処断しない。そしてベイルもそれは理解していた。だが今はそんな彼が思う事。それは―――帰りたいという気持ちだった。


「そうだ、ベイル君。少し大事な話がある」


 ベイルが現実逃避しながら異空庫からポーションを出して拡張ストローをハンフリーの口の中に入れた後に流し込んでいるとウォーレンはとんでもない事を言った。


「お前はジーマノイドの搭乗は禁止されている」

「お父様、それはどういうことですか?」


 シャロンが抗議をする隣でベイルはまだ現実逃避していた。


「向こうからの要求だ。どうやら向こうはベイル君を殺したいらしいな」


 とウォーレンはラルドを見るがラルドはむしろ顔を青くしていた。


「う……ここは⁉」

「お兄様! 目を覚ましたのですね!」

「ああ。とても嫌な夢を見ていたようだ」


 そんな会話も周りには聞こえていない。ウォーレンはラルドに尋ねる。


「ヒドゥーブル子爵。君は一体何を隠している?」

「か、隠す? 何がでしょうか?」

「いや、それで気付かない方がおかしいくらいだ」


 そんなタイミングでベイルが復帰したらしく、周りをキョロキョロとしている。


「ベイル君、君のお父さんは一体何を隠しているのかな?」

「まさかお袋以外の女とそういう関係に―――」

「そんなわけない! 俺は常にレイラ一筋だ!」

「じゃあ何を隠しているんだよ」


 ちょうどベイルがシャロンから離れているのを見てベイルを掴んで部屋の端に移動するラルドは小さな声で確認する。


「お前わかっているのか? ウチの家の魔法使い系は全員災害級魔法を行使できるんだぞ。そんな事を知られてみろ。周りはすぐにお前たちを囲って自分たちのものにするだろうよ」

「いやいや、たかが災害級魔法だろ」

「災害級魔法だと?」


 ウォーレンが聞き返すとラルドは後ろを向く。


「まさか基本の五属性に存在する究極の魔法か? いくら何でもそんなこと―――」

「いや、あんなの魔法使いなら誰だってできるだろ。って言うかそんな事すらできない時点で魔法使いとか名乗っちゃダメでしょ」


 ベイルがあっさりと白状した事で執務室に戦慄が走る。


「ベイル君」

「何だ」

「君は今すぐシャロンと子どもを作りなさい」

「お前は馬鹿か?」


 そんな事を素で言ったベイルだが、今回に関してはウォーレンも真面目だった。


「じゃあ君は一体誰だったら子どもを残せるというんだ!? 妻の一人を差し出せとでも言うのか!? というか私の娘が気に入らないってのか、ああ?」

「何で最後キレてんだよ。って言うか高が災害級魔法使えるからって大げさな」

「大げさにもなるわ! 災害級魔法を使えるという事は国家を半壊どころか完全消滅できる程で余程の魔力量が無ければ発動すら難しい、発動できても場合によってはそのまま死亡もあり得るレベルだ!」

「でもインフェルノエクスプロージョンは発動中がカッコいいし」

「そういう問題ではない! ……まさか」


 とウォーレンは今度はラルドを見る。


「まさか子爵、他にも使える者がいるなどと言わないな」

「……いえ。災害級魔法を使えるのはベイルだけです」


 嘘だった。実際はレイラとマリアナも使えるが使えると言った瞬間に無理矢理どうにかしようとするならばラルドの理性がどうにかなると思う程だ。


「……ベイル君、もう一度言おう。シャロンと子どもを作れ」

「だから嫌だと―――」

「ではこうしましょう。アメリア嬢とサイラスの婚約を破棄してくださいな」


 シャロンの提案に驚いたウォーレンはすぐに否定した。


「待ってくれ。それはちょっとシャレになっていない。そもそもバルバッサ家との婚姻は今の私たちには必要なことだ」

「ですがそれは分裂する国を一つにまとめる為でしょう? そんなのは別に私たちの世代ではなく次の世代でもないじゃない。そんなことよりも今はベイル君を手に入れることが優先事項でしょ。ねぇ、グレン殿?」


 と意味ありげにグレンに尋ねるシャロン。するとグレンは何かを察して瞳以外で笑みを見せる。


「つまりそれは私たちを蔑ろにすると?」

「そう言う事じゃないわ。本当に蔑ろにするならあなたの妹二人もベイル君の相手に組み込もうとは考えないもの」

「……それは随分と思い切った事を。あなたが王位に就く為の手段として?」

「そのつもりは無いわ。まぁ、アレが愚を犯す続けるならば簒奪もやむなしと考えているけどね」


 ウォーレンは慌ててシャロンを見る。あれほど王位に固執していた自分が王位を諦めていたからだ。本来ならばあり得ない。ベイルを手に入れるのはそのための手段と考えていたが、どうやら違うと知って少し安堵している。


「そういうことなので伯父様、あなたにも協力してくださいね」

「……何をさせるつもりだ?」

「簡単ですよ。あなたの娘をすべてベイル君に提供してください」


 その言葉にベイルを除く全員が顔を青くした。ちなみにベイルは理解が追い付いていない。


「一体どういうつもりだ?」

「安心してくださいな。王家も三妃から排出された娘は全員ベイル君に嫁がせますわ。二大公爵家の娘がすべてベイル君の子どもを産めば今後の王国はより安泰になる。違って?」


 齢十一にしてとんでもない事を言ったシャロン。ベイルはまだ理解が追い付いていないらしく呆然としている。


「ま、待て! 確かにヒドゥーブル家は実力派揃いだが一部にだってきっと不良もいるよな? な?」


 失礼なことを言いながらラルドに迫るウォーレン。誤魔化そうとしているウォーレンはベイルと目が合ったがベイルは何も理解していなかった。


「諦めましょう、お父様。元々ヒドゥーブル家の血筋も王家に影響を与えないくらいに離れているのに確かなものなのですから問題ありませんよ」

「そういう問題では無いんだが⁈ 大体、いくら優秀と言っても王家の娘全員を渡す程か!?」

「お父様、その認識は大間違いです。ただ優秀なだけで男爵や子爵の者が王家に触れることなど普通はできません。それに関してはわかっていますよ。でもね、世界すらも脅かす者は別ではありませんか」

「世界を脅かすって……そんな大げさな」


 最後に言ったのはベイルだった。いつの間にかシャロンから離れていたベイルはそのままウォーレンが座っていた椅子に座り、紙を出してインクを付けたペンを走らせて紙に書いていく。勝手に使っている事もそうだが、何よりもいきなり何をしているのかと気になったウォーレンが近付いて確認しようとすると、書き終わったのかベイルは魔法を使用した。


「コピー」


 するとベイルの前にさらに三枚の紙が現れる。それを見てシャロンが目の色を変えた。


「そ、それは―――」

「同じ内容の紙を四枚用意した。後はこれをそれぞれの代表に飛ばして試すのさ。元からそんなに期待していないけど」


 ウォーレンが一枚をひったくるように奪って確認する。そこには一切の敬愛も無く挑発的に書かれている。


『拝啓、愚かな存在へ。君の無能ぶりはよくわかりました。権力でどうにかできると思い上がって自分たちの国の民をイタズラに殺そうとする上に俺にジーマノイドを載せないという、さらに民の生存確率を下げようとする最低な選択ができる無常っぷりにただただ哀れに思います。もうあなたたちに何の期待もいたしません。というか、自分の能力の低さに周り巻き込んでんじゃねえよ。そんなに俺を殺したいならテメェらが来い。ジーマノイドを使わなければ一般人を襲えない雑魚しか育てられないゴミが』


 ベイルはニコニコと笑みを浮かべていた。それを見てウォーレンは本気で戦慄する。


「待て。待ってくれ。本当に待ってくれ。これをどうするつもりだ?」

「四国に送るけど?」

「冗談だろ!? こんなものを送れば使者は間違いなく戦争だ!」

「それがどうした」


 どうでも良いと言わんばかりにベイルはそう言い捨てた。


「どうせ戦うのはお前たちでも騎士でも兵士でもない。この俺だ。家族以外は足手纏い。だったら俺一人が先に各国巡って王族以外を全員殺して回った方がマシだろうよ」

「そ、そんなことをすれば―――」

「魔族に負けたら同じだろ。というか、今の戦力で魔族に対抗できると思っているなら止めておけ。さっさと迎合して魔族の奴隷生活を送った方が良い。なにせ今の人間は質の低い欲望しかないからな」

「……欲望?」

「そりゃそうだろ。人の強さは欲望で決まるものだから、遺伝子とかはあんまり関係無いんだよ。そもそも遺伝子とか血筋とか、ぶっちゃけ尊ぶ理由なんてクソだし―――それに血筋で尊いとか言うなら何でヒドゥーブル家以外の貴族はカスなのかって話じゃないか」


 そう言ったベイルはそのままどこかに行こうとする。シャロンが腕を掴もうとしたがベイルはそれすら回避した。


「どこに行くつもりだ!?」

「これから俺が直接渡して来るんだよ。そして兵士全滅させて自分がどれだけ幻想を抱かせていたのか証明してやる。なぁに、兵士や後継者を全員を殺した後に自分の妻や娘を辱められたのに何もできない事を痛感したら心なんてボッキリ行くだろ」


 と笑みを浮かべるベイル。そんなところでシャロンがどこからともなく鈍器を出してベイルを殴る。

 突然な上にベイルも全く警戒していなかったらしい。まともに食らったベイルは糸が切れた糸人形のようにそのまま倒れるがシャロンが仰向けにしてベイルの上に跨った。


「ダメじゃないですか、ベイル君。あなたは私の、そして私はあなたの物になるんですから、他の国から女を連れてきちゃダメです。本当は、私だって他の女を受け入れたくないんですから」


 そして倒れたままのベイルとキスをしようとする前にウォーレンがシャロンをベイルから引き剥がす。


「お前は一体何を考えているんだ!」


 ウォーレンにシャロンが怒鳴られているのを見ながらベイルはヒールを使って起き上がり、そのまま無言で部屋を出て行った。

建前「王族として優秀な血を数多く残せるために侯爵以上の未婚の令嬢をベイルにあてがって妊娠させてもらう」

本音「なんてことはしたくないし、もっと早く生まれていればと後悔している」


シャロンの年齢がもう少し上ならおねショタR-18始まってましたね( ´艸`)

あと、ベイルの言う"自分の妻や娘を辱められたのに何もできない事を痛感したら心なんてボッキリ行くだろ"は完全に勢いで言っているだけ。できるような人間ならアメリアやカリンをとっくに毒牙にかけています

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