#9-悪童、王都で暴れる
魔族がアメリアを連れて王都を移動していると、彼の目の前に何かが落下してきた。彼が視認した時には黒いオーラのようなものが待っており、一瞬砲弾が降って来たのだと勘違いした程だ。やがてその正体を知った魔族は笑みを浮かべる。
「来たか、ベイル」
ベイルは素早く左腕を振るい、魔族のアメリアを掴んでいる腕を切り落とそうとしたがこの魔族は構造が違い魔力の刃を防ぎ切った。その事に驚いたベイルだが相手は笑い、アメリアに何かを付けると彼女を中心にバリアが展開された。
「テメェ!」
「あー、待て待て。早とちりするな。これは保護だ」
「……保護?」
「そうだ。そのガキには俺たちの戦いを見届けてもらおうと思ってな。まぁもっとも、お前が俺に負ければその娘もドカンだ」
「………は?」
その言葉に反応したベイルは周囲の地形を破壊する。周囲にいた人たちはその衝撃で吹き飛ばされるがベイルは助けようとしない。
「なるほど。お前は死にたいわけだ」
「そういうわけじゃないがな。俺は強い奴と戦いたいだけだ」
「どっちも一緒だろ」
魔族の男はベイルとの距離を詰める。しかしベイルはその不意打ちに反応したかと思えばそれを超える速さで回し蹴りを放った。
勢いよく飛ぶ魔族の男。そこで周りはようやく自分たちに置かれた状況を理解し、悲鳴を上げながら逃げ惑う。それもそうだろう。ベイルはあの一瞬で背中から翼を生やし、身体の一部を赤黒い鱗に、瞳を金に変えたのだから。
「べ……ベイル……?」
ベイルはアメリアの呼ぶ声を無視して地面を蹴り、一気に魔族の男の元に移動する。しかしそれを超えるスピードで近付いた魔族の男の膝蹴りをまともに食らい、ベイルが飛ばした距離を超える程に飛ばされた。
「流石はあの魔王ヴァイザー・シュヴァルツを恐怖させた少年。だからこそ魔王様はこう言った。腕に自信が無い者はベイル・ヒドゥーブルと出会った時には降伏し、基地を明け渡せと。幸いな事に基地を明け渡せば見逃してくれると。腕に覚えのあるものは挑むが良い。しかして決して怒らせてはならない、と」
その言葉にアメリアは驚きを隠せなかった。
「……あの話、本当だったの?」
「本気にしていなかったのか? この男は魔王様と相対し、生き残っている人間。これでもまだ十歳と聞いたから人間はここ数百年でどれだけ強くなったのかと期待していたが、この子どもだけが特別だったようだな」
と言いつつ魔族の男は鱗を見る。
(……赤黒い鱗?)
嫌な予感がした魔族はすぐさまベイルを殺そうと近付いて蹴り飛ばし、上に飛んで連続で殴り続けるが、ベイルは一切抵抗しなかった。
それもそのはず、ベイルは魔法メインのタイプで身体には常に強力なバリアを張っていたが、今回の相手はそれをたった一撃で破壊したのだ。
何かに気付いた魔族の男はベイルの足を掴んで地面に叩きつける。何の反応もしないベイルを見て舌打ちした。
「そういうことか。どうやら俺はこの子どもを買い被りしすぎていたみたいだな」
「……え?」
「もう気絶している。おそらく身体の周囲に強力なバリアを張っていたか。まぁ、打たれ強さは大したことなかったわけだ」
その言葉を聞いてアメリアは本気で絶望した。
彼女はベイルが助けに来てくれた事でどこか安心しきっていた。自分は助かると、ベイルがいれば大丈夫だと。だから自分が死ぬかもしれないと頭に過った瞬間、恐怖する。
「勝負はこうもあっさり着くとは思わなかったか。まぁいい。魔王様すらできなかった事を成し遂げたんだ。これで終わり―――」
「―――ちげぇよ、バーカ」
止めを刺そうとした魔族の男は何かを感じて動けなくなる。
「ただちょっと迷っていただけだ。完全に本気を出していいものかとな」
「意味が分からない。普通出すものだろうが」
「仕方ないだろ? 今では家の一部が消失するという理由で本気を出す事を禁じられたんだから」
意味が理解できなかったアメリア。そんな彼女に応えるようにベイルは魔族の男と距離を縮めて殴り飛ばした後に地面を蹴って加速。その衝撃で地面は文字通り吹き飛んだ。
魔族の男はベイルを認識して攻撃を放つ。ベイルもベイルで超接近戦を仕掛けて二人の四肢が交錯して衝撃で周囲のモノが飛び始めた。
その頃騎士が到着するが、放たれる続ける衝撃で近寄る事ができない。
「ど、どうすれば」
「狼狽えるな。我々は誇り高き騎士。なんとしてもあの魔族を―――」
その時ベイルは魔族の男を地面に叩き落とす為に思いっきり両腕を上に上げて腹部をがら空きにする。その隙を見逃さなかった魔族の男は腹部を殴るがベイルはそれを超える力で地面に叩きつけ、衝撃で騎士たちが吹き飛んだ。
「ぐ……クソが……」
かなりのダメージを負った魔族の男はすぐに動けない。
ベイルはその隙に着地すると、全身から血を飛ばした。
「ベイル!」
突然の事で驚くアメリア。そこで彼女はベイルが彼の限界を超える程の力を振るっている事に気付く。
「もういい。止めて。逃げて……」
しかしベイルは無視して突撃し、またあの男と徒手格闘に応じる。二人が攻撃する間に衝撃が辺りを吹き飛ばしていった。均衡が続くがそれを破ったのは相手の方だった。ベイルを蹴り飛ばして自分もそれで離脱する。
「……名乗らせてもらおう。我が名はヴィネ。お前を倒しに来た」
「じゃあこっちも……ベイル・ヒドゥーブル。私欲にて、お前を倒させてもらう」
名乗り合った二人。先に仕掛けたのはヴィネだ。魔力を宿した拳を突き出して相手の顔に拳を突き出す。しかしベイルはそれを察知して上に飛んで後方に少し下がる。そこでヴィネの周囲から黒い鎖が飛び出してヴィネを拘束していく。
その時、ヴィネは確かに見た。黒い何かが空に滞空するベイルの周囲をとぐろを巻くように飛ぶものを。そしてこれから自分が死ぬという事を自覚する。
「―――エクスキューションストライク」
ベイルの背中の翼から黒い炎が激しく吹き荒れ、ベイルは蹴りの体制を取りヴィネの身体を貫いて通過。そのまま離脱するように地面をすべて停止した。胴体が吹き飛んだ事でヴィネの命は絶たれるが、同時ベイルの全身から血飛沫が舞う。
「ベイル!」
アメリアを捕縛していたバリアが解除された事で彼女についていた器具がそのまま地面に落ちる。アメリアはそれを無視しベイルの所に駆け寄った。
ベイルは振り向いた後にアメリアを見て安堵したのかそのまま倒れてしまう。彼の身体中から血が流れ出ていた。
あの大会から一週間が経過した。
ベイルは魔族を単独で撃破した事でこれまで不敬は帳消し。さらに実質上これまでのジーマノイド技術ではどうにもならないとされること、騎士があっさりと魔族に倒され、ベイルと魔族の戦いに介入できない程に弱くなっている事を知り、ウォーレンは本格的な軍事改革に乗り出す。
「このままでは魔族たちに対して遅れを取るのは事実。向こうはこちらを滅ぼそうとしている。そんな状況で強化をせずただ滅びを待つつもりは毛頭ない」
そう宣言した事で貴族たちは奮起させる。
ウォーレンはまず騎士団と宮廷魔導士の制度を見直し、宮廷魔導士は騎士団に編入する事を決定。当初は魔導士たちは反対したが、ここである一族と戦う事になり、たった一人の女性に壊滅させられた事で教育課程も見直される事になったのだ。その女性の名は、レイラ・ヒドゥーブル。かつて社交界では「変人」として通っていた彼女だが、今では宮廷魔導士を超える実力を持つことを証明したのである。
さらにウォーレンはジーマノイド技術に関しても見直しを行う。
基本的にホーグラウス王国の冒険者は平民が成り上がる為の機関の一つして実力を高める場として準備されている。実力を示す為にランク付けを行い、適性を見て仕事を振っていた。実際のところ、ここ最近ではベイルの父ラルドが元平民出身の冒険者だったがダンジョンを単独攻略を成して男爵位を賜っているが、今後は志がある者は平民でも積極的に登用しようかと考えている程だ。今回の大会で露見したが、ベイルは強すぎた。あそこまでは求めていないだろうが今後は魔族が襲撃して来る事を考えれば相応の対応を取る必要があるのだ。
(現状、まともに戦えるのがヒドゥーブル家のみとなると、な)
幸いなのは当主のラルドはまだ王である自分に対しては物怖じするところだろう。そしてやはり危険なのはその妻レイラ。
彼女の魔法操作能力に関しては本当に驚きを隠せなかった。それもそのはず、宮廷魔導士たちはそれこそ厳しい試験を勝ち抜いた魔法使いたちの中でも国に認められた者たちだが、それをものともしない戦闘力。それどころか魔法戦において圧倒的な実力差で勝ち抜いた。そんな彼女は以前自分たち王家の前で貴族を捨てようとしていた。
元々平和だったこの国に置いて彼女の思考はある意味異端として扱われていた。騎士を多く輩出しているクリフォード侯爵家の末席とはいえ多大な魔力を有していたが宮廷魔導士ではなく冒険者としての活動を志していた事もそうだが、考え方も異質だったのだろう。
(彼女に対しては機会があれば面談するとして、だ)
ヒドゥーブル家の血はこの世において貴重。その中でとりわけ強い能力を発揮し、この前魔族を倒したベイル・ヒドゥーブル。これが一番厄介だった。
あの戦いの後、ベイルの身体には鱗が張り付いた状態で見つかっており貴族の中で波紋を呼んでいる。それ故今では王城の地下牢に捕らえられている。ラルドの主張でベッドは丈夫で寝やすいものに取り換えている。ラルド曰く、自分が何も悪い事をしていないのに悪い待遇で迎えられた場合は暴れ始めるのでせめてベッドのみは気を遣った方が良いということらしい。
(……実際、自分よりも爵位が上の人間に対してマズい行いはしているが……それ以上に功績が、な)
ドラゴンを倒し、魔族の襲撃も撃破した子ども。今では赤黒い鱗があるという理由から貴族から忌避されているが、同時に貴重な戦力でもあった。一部では厳重に管理して然るべきだと主張する声もあるが、そんな事をすればベイルの反感を買い暴れられるのがオチだろう。
(それにベイルですら手こずる魔族もいる以上、ベイルにはさらに強くなって……いや)
そうすれば王家に対してリスクが生じるかもしれない。自分の娘を渡すつもりだがかなりの野心家だ。あわよくば自分が王になろうとしている。そんな娘がベイルを使い本気で成そうとすればそれこそ大問題だ。
(……一体どうすれば良いんだ)
よりにもよって武力を強化すれば身内に殺される可能性が出て来るのだ。どうすればと考え続けているところにドアがノックされた。ウォーレンが許可してきた兵士は一礼した後にベイルが目を覚ましたことを告げた。
目を覚ましたベイルは自分が豪華なベッドに寝ているのにも関わらず地下牢にいる事に気付いた。なので魔力を操作して牢の鍵を開けようとした。
「おい、何をしている?」
「え? 鍵開けは冒険者として基本だろ?」
「ぼ、冒険者? 何を言っているんだ? というよりも牢の鍵を開けようとするのを止めろ!」
「えー。あとは鉄格子を破壊するという選択肢があるんだけど、そっちをしたら修理費発生するよ?」
「そっちの心配をするくらいなら大人しくしてくれないかなぁ?」
そう言われてベイルは渋々といった感じに我慢するが、それも少しの間。我慢できずに鍵開けをしようとしていた。
「だから何で鍵を開けようとするんだ、お前は!」
「目が覚めたらまずはランニングだろ? 何言ってんの?」
「お前は魔族と関係があるとして投獄されているんだけど!?」
その言葉を聞いてベイルは目をパチクリさせた。
「ち、違うし! 俺が攻めた施設に女の子が取り残されていたから一緒に過ごしていただけだし!」
「……え?」
「あと可愛かったから殺していないです」
ベイルがあっさりと自白したことで兵士は戸惑う。先程起きた報告をしに行った兵士が戻って来ないかと思いったところに「カチャ」という音がしたかと思えばドアが開いて中からベイルが出て来る。
「って! 何で出てるんだよ!」
「今から百キロ走ってくる」
「正気か!? というか自由だなおい!」
「そうだ、一緒に走る?」
「良いから牢に戻ってろよ! ほら、早く!」
槍をベイルに向けるがベイルは全く物怖じしない。むしろ魔族と戦闘して王都の一部を破壊したベイルにビビっているぐらいだ。
「わかった。大人しく牢に戻るよ」
そう言ってベイルは牢に戻る。兵士が慌てて鍵を閉めるが、ベイルは身体がうずいて仕方ない。
「ねぇ、やっぱりランニングしに行きたいんだけど」
「お前は我慢という言葉を知らないのか?」
「でも身体が……」
「良いから大人しくしていろ。次勝手な事したら許さないからな」
ベイルは大人しくするが、どうしても周りの環境が仕方ない。
「……もし仮に」
「何だ?」
「もし仮に俺が逃げ出したらどうなる?」
「そりゃあもちろん、追われるだろうな。許可なく外に出したんだ。俺も下手すれば打ち首だし逃げて欲しくないが―――」
ベイルは近くにいる兵士を笑顔で痺れさせ、倒した。
「ごめんね、兵士さん。でもダメなんだ、俺。起きたらトレーニングの為に走りに行かないと気が済まない」
その上今回は脱獄囚として追ってアリの鬼ごっこと考えてしまい、やる気はこれまで以上に高まっている。ベイルが外に出ると周りの囚人が騒ぎ始めた。
「おい兄ちゃん、俺らの事も出してくれや」
「そうそう。出してくれたらいい事教えてやるからよ」
「ごめん。これでも俺は善良な市民だから」
周りは騒ぎ始めるが、それが逆にスパイスとなりベイルは外に出た。
見張りの兵士が異常に気付いて見に来るとベイルとバッタリ会ったので慌てて捕まえようとしたが回避していく。
「お、おい待て!」
「ベイル・ヒドゥーブルが脱獄している! 捕まえろ!」
ベイルは外に飛び出して重力魔法を使って空を飛び、王城の中で一番高い中でタイマー式の撃ち出し器をセット。そして王城に向けて言った。
「これから王都を含めて俺はランニングがてら逃げる。俺は重力魔法抜きで移動するので兵士と騎士は強制参加。平民たちも是非参加してもらいたい。ちなみにお前たちは俺に攻撃しても良いが、特に騎士や兵士、城の中にいる貴族たちに言っておく。今回の件ではみな平等。それを理解せず邪魔されたから切り伏せる、などという蛮行を行うものならばその場で殺し、死体を晒す。その事を理解しておけ。制限時間は一時間。では、はじめ!」
ベイルは騎士たちの宿舎の前にあるトレーニング用のグラウンドに魔力を飛ばして爆発させる。同時にベイルは近くに着地して走り出した。
「……なんてことをしているんだ」
時間は夕暮れ。仕事を終えて帰ろうとしている時間にほとんどテロのような行動をしているベイルに呆れを見せるウォーレンはグラウンドに浮いている文字を見て噴いた。
『今日から騎士ではなく無能戦士に改名しなさい、役立たず共』
呼び出す理由としては最低だが、これを見てどれだけの者たちが出て来るだろうと思って見ると大半の騎士たちが出て来た。かなり効果はあったらしい。
肝心のベイルは既に王都の方に移動している。それを見てウォーレンは言霊魔法をベイルに飛ばした。
言霊魔法を受け取ったベイルは同じく言霊魔法を返して王都中を闊歩する。アクロバティックな動きで民衆の攻撃を回避し続けていた。
魔族を退けたとはいえ、一部の民衆の生活を奪ったベイル。その者たちから追われる形になるが構わず走り続けた。
「というか、兵士や騎士は何をしているんだ」
自分を追おうとしない兵士たち。いっそのこと王城に火を放とうと考えていると向こうの方から何かを射出。ベイルはそれを蹴っていなすと向こうはバリスタを持ち出しているのだ。もう少しで他の者たちも巻き込まれるというのに騎士と思われる者たちは容赦なく発射した事に流石にベイルはぶちぎれ、バリスタにエクスキューションストライクを放って破壊した。
「おいおい、ダメじゃないか君たち。これは遊びだ。お前たちの低すぎる身体能力を強化する為の催しに本気になった上、こんなものまで持ち込むなんて言語同断。馬鹿じゃない?」
「黙れ。元はお前が勝手に脱獄をしたのが原因だろう、バケモノが!」
その言葉にキレたベイルは近くの騎士たちを半殺しにし、ボコボコになった鎧を剥ぎ取る。
「こんなものに頼るから、お前たちは弱いんだ。無能共め。弱者に明日など要らないという言葉を脳に深く刻み込むが良い」
鎧を破壊して捨てたベイルはそのまま走り出し、城に戻る。そして騎士たちの宿舎を徹底的に破壊。出て来た騎士たちを遠慮なくボコり、一人も余すことなく動けなくした上に鎧も一つ残らず破壊。動けない騎士たちを城の前に出して磔にした。
その惨状を余すことなく報告されたウォーレンは頭を抱え、隣に座ってシャワーで砂埃を落とすベイルに問う。
「で、何か言い訳は?」
「騎士制度は廃止だな。そもそも調教が甘すぎる。全員兵士に格下げして下積からやり直した方が良い。あれが国を守るなどとギャグとしか思えない」
「……私はお前から弁明を聞いたつもりなんだがな」
「弁明? あるわけがないだろう。むしろ何故俺が言い訳しなければならない。すべては弱すぎる身でありながら粋がったアイツらが悪い。そもそも貴族から排出された身だから大事に保護しているのか? 騎士になったからには国防を担うのだから常に身体を鍛え、自分の戦闘力を上げ、強敵に備える事そのものが騎士だろう。それができずに民ごとバリスタで攻撃した罪を償うという事で晒してやった」
「……ここ五百年程度は平和だったのだ。無茶を言うな」
「ならば俺が定期的に攻めてやろうか?」
「止めろ! お前が本気で攻めて来たらそれこそ詰む!」
ウォーレンが叫ぶように言うと、辺りに響き渡る。
ここは王家専用の浴場。そこにベイルは招待されていた。今回の件は護衛は全員外されている。いてもいなくてもベイルに敵う者がいない上、ウォーレン自身が一対一で話をしたいと強く懇願したからだ。最初に無礼講だと伝えたが、途端にベイルは砕けた口調で話し始める。
「安心しろ。ちゃんと今回みたいにボコボコにするだけにしてやる」
「……ところでお前、魔族と交流があったそうだな」
「ああ。あの過去の栄光に縛られたクリフォードのジジイが来た時に魔族が攻めて来たから、なんやかんやあってその拠点で魔族の子どもとしばらくの間過ごしていた」
「……正気か?」
「五百年もジーマノイド技術を停滞させていた奴が何を言っている。ちなみに懐いてきて無茶苦茶可愛かった」
「そんな感想は求めておらんわ!」
「何を言う! 可愛いは正義という言葉を知らんのか!」
「だからと言って魔族を保護するなど正気の沙汰とは思えん!」
「俺に言わせてみれば亜人を排斥して追い出した国の祖先たちの方があり得ないね!」
怒号が浴室に木霊する。ベイルは咳払いした後に異空庫からシャンプーを取り出して髪に付けて泡立てる。
「まぁ、昔の事をほじくり返しても意味は無い。問題は今だ」
「正式の発表はまだが、お前にはウチの娘と結婚してもらおうと思っている」
「全力で辞退させてもらうよ」
あっさりと断ったベイル。それに驚いたウォーレンは自分の娘の事を考えてベイルの股間を見るが、身長からは予想しえなかった大きさのアレを見て戦慄した。
「何だ。私の娘が気に入らないのか?」
「俺の将来の夢は冒険者になって各地を冒険して過去の出来事を見つける事だからな。そんな男と所帯を持つ女など不幸でしかない」
その言葉にウォーレンは固まった。
「君はこの国を滅ぼすつもりは無いのか?」
「何故俺がそんな事をしないといけないんだ? 冗談じゃない。他人の為に頑張るなんて時間の無駄だ。その為ならば俺はドラゴンを狩って最強のジーマノイドを作る」
「………何の為に?」
「最高の機体を手に入れる為だ」
「それで世界を征服するつもりか?」
「だから何でそんな事をしないといけないんだ」
冗談じゃないと言わんばかりにベイルが言う。
「じゃあ何故君はジーマノイドを求めるんだ」
「空を飛ぶためだが?」
「だが君は重力魔法で自在に飛ぶことができるだろう」
「いや、重力魔法は確かに飛べるが実は高度に限界がある。試してみたが高度は精々地面から百メートル。俺はそれ以上を高速で飛びたいんだよ」
と言い切ったベイル。ウォーレンは驚いて何度も瞬きをした。その視線に気付いたのかベイルは笑う。
「まさか強大な兵器を持ってお前たちを根絶やしをするとでも思ったのか? 下らない。そんな事をして何になるというんだ」
「いや、だがジーマノイドは兵器だ」
「じゃあお前は自分の妻をナイフで刺されたとしてナイフ職人にまで恨むのか? そんなわけがないだろ。所詮は使い手次第。乗り手次第だ」
そう断言したベイルはシャワーで髪を洗い流す。そしてリンスを髪に付けた後にボディソープをボディタオルに付けて泡立て、身体に付けていく。
「それにカッコいい機体に乗りたいというのは男のロマンだ。その為に俺はジーマノイドに乗るし、理想の機体が無いなら作る。何か問題ある?」
「……それが本音か?」
「ああ。本音だ。大体、俺の能力を考えれば人間を八つ裂きにして殺しまくりたいと考えるならとっくの昔にしている。でもそんな事をしないのは少なくとも人の営みに口を出すつもりは毛頭ないからだ」
「ならばお前が持っているモノはすべて出してもらいたいものだがな」
「それは流石にハイエナが過ぎるぞ、オッサン。そして何より、今回の件でわかったがやはり俺の考えた通り、少なくともこの国の人間にはアルビオンは過ぎた力だった」
「聞いたところ、大きな船のようなものも埋まってるらしいが?」
「宇宙巡洋艦アークノアか。あの船も中々のモノだぞ」
スラスラと戦艦の名前を言い始めたベイルにウォーレンは信じられないという顔をしている。
「一体どこまで知っているんだ?」
「この惑星から別の世界を移動するための戦艦だという事はわかっているさ。一応中に入った事もあるし」
「……あのジジイ、まさか人の研究を奪ったわけではあるまいな」
「よくわかっているじゃないか。まさしくその通りだよ。恩を仇で返しやがったのさ、あのジョセフ・クリフォードは」
ベイルに言われてウォーレンは顔を引き攣らせた。
「全く。こっちはアルビオンに魔族の機体を研究素材を確保した上に上等な基地もゲットした上に可愛い魔族の幼女に癒されていたのに、戻って来てみればアルビオンは奪われているわ、保管庫は吹き飛んでいるわで意味が分からなかったっての。挙句の果てにアルビオンを回収しに来てみればどこかのクソガキが破壊しているし、色々ムカついているのに意味わからんババアがちょっかいかけてくるし」
「私の嫁に息子なんだが?」
「自覚があるなら結構。ちなみに強くなりたいなら一時間で百キロ走れるようになってからスタートラインだとアンタの馬鹿息子に言ってやれ」
相手は国王な上に息子にもそんな事を言えるベイルはもう色々とアウトである。
「……やっぱり潰そうかな」
「何の話だ?」
「だってこのまま行けば魔族と交戦して死ぬだろうから、いっそのこと俺の邪魔をした貴族は領民事滅ぼしてやろうかなって思ってさ」
「冗談、だよな?」
「本気だけど。なんだったら別に王都すら塵に返すことすら余裕だけど」
そんな事をのたまう上についさっきムカついたという理由で騎士を一人残らず磔にした男が言うと説得力が違った。
ウォーレンは本気でどうしようかと考えてしまう。その隣でベイルは本気で迷っているのだ。
「わかった。お前に私の娘をやるからとりあえずはその考えを引っ込めてくれ」
「だからいらないって。どれだけ自分の娘を押し付けたいんだよ」
「将来は母親に似て胸が大きくなると思っている。器量も同年代に比べれば良い方なんだ。野心家じゃなければな」
「もしかして、王太子を差し置いて自分が王になるとか言っちゃってるの?」
ベイルは冗談めかしているがウォーレンが本気で顔を背けたのでベイルは何かを察した。
「……マジで?」
「残念ながらな。自分の弟たちを殺そうとしているよ」
それを聞いてベイルはため息を吐く。何故そんな女と結婚なんてしないといけないのかと言わんばかりだ。
「そんな娘を何で俺に押し付けるんだよ」
「同年代でお前以外にあの子の事をどうにかできそうなものがいないんだよ」
「強いの?」
「いや、君基準で言うならば限りなく弱い。君の母君が宮廷魔導士を圧倒した時に顔を引き攣らせる程だ」
「ちなみに俺の母親はどんな魔法を使っていた?」
「確か風魔法だな」
「……サイクロンかその辺りか」
ベイルは母親がこれまで使っていた魔法から考えて答えを出す。
「よくわかったな。おかげで施設は半壊したがな」
「これを機に自分たちがどれだけ弱いか自覚させた方が良いさ。これからの時代、誰もが戦えなければ、弱ければ死ぬ。それを死ぬ前に知る機会ができただけでも儲けもの。王子や姫だからじゃなくて今後は一人の人間が生きる為に強くなる時代が来るから、これからちゃんと強くしておかないとダメだよ。特に俺はアンタの息子の存在が気に食わなくて仕方ないんだから」
顔を引き攣らせるウォーレンを無視してシャワーで身体全体の泡と髪に付いているリンスを洗い流して鏡を見て泡が残っていないか確認すると、自分の右目が金色になっている事に気付いた。
「これ……」
「気付いたか。お前が魔族と貴族たちに疑われている要因だ」
「チッ。外れか」
「何がだ?」
「ビームを放てるなら儲けものと思ったけど、ビームが出ない」
変なところでショックを受けているベイルを見てウォーレンは呆れていた。
ようやく出た主人公の必殺技。今回に関しては必ず殺す技。
相変わらず好き勝手すぎる主人公




