第二章 後悔2
「うぃーっス」
「みんな、おはよー!」
俺と元気は教室に入る。俺は自分の席に座り、バッグを開けて教科書を出しながら周りを見渡す。まだ朝比奈は来ていない様だった。
「何きょろきょろしてんの、敷島君?」
声の主は星七美。俺の隣の席で、ポニーテールの眼鏡っ娘だ。
「ん? いや、別に」俺はバッグをしまう。
「なーんだ。転校生でも探してたのかと思った」
「バッ、馬鹿! ちげーよ!」
星は俺の慌てぶりにケラケラ笑い、俺の大きな声を聞きつけた元気が「どしたの! どしたの!」と叫びながらすっ飛んでくる。
「なんでもねーよ。あっち行け! シッシッ!」俺は手で払う。それでも元気は「おせーて、おせーて!」とうるさい。俺は星に顔を近づけて「マジであの女の話題は出すなよ」と囁く。
「いやー、朝比奈さんって超カワイイしいいんじゃない? ねえ、元気君」星が笑いながら言う。
「凛ちゃんはカワイイよ!」元気がはしゃぐ。
「いやだから、そういうんじゃねーんだって」俺は呆れる。
ガラガラ――。戸が開く。噂をすれば何とやら。朝比奈凛、御本人様の登場だ。
「凛ちゃーん! おはよぉー!」真っ先に食いつく元気。
「朝比奈さん、おっはよー」俺と話をしていた時より声のトーンが高くなる星。
俺は顔が強張る。例の件を考えれば当然そうなるだろう。
「あ、出雲くん、星さん、おはようございます」頭を下げる朝比奈。作られた――眩しすぎる笑顔。そして、その笑顔を俺に向け「敷島くんも、おはようございます」と、平然と言ってのける。何なんだよコイツは。
仕方がないので俺は顔を引き攣らせて「フン。おはよう」と返しそっぽを向く。
「ねぇねぇ、朝比奈さん」星が口を開く。
「なんでしょう」微笑む朝比奈。
「今日学校終わったら、空いてない? 個人的に朝比奈さんの歓迎会を開きたいなぁって思って。昨日は声を掛けそびれちゃったし」星は眼鏡をいじる。
「そんな、いいですよぉ……、星さんのその気持ちだけで十分ありがたいです」朝比奈は星の手をとって感謝する。
「ダメ! ダメ! ダメ! ぜーったい、やるんだから!」星が、半ば強引に詰め寄る。
星には悪いが、朝比奈なんかを誘ってもどうせ無理だろう。相手は業務多忙であろうエージェント様だ。と、俺は客観的に考える。
朝比奈は少し困った様な顔をした。そして少し考えた後「わかった、いいよ」と快諾。
--は?
何を考えているんだコイツは。慣れ合いも学校で目立たないための行動なのだろうか。
「わぁーい!」星は喜びをあらわにして振り向く。
「やったね! 元気君! 敷島君!」
え?
俺も入ってるのかよ。ふざけんな星。やりたきゃ勝手にやりゃあいいのに。
「歓迎会! 歓迎会!」俺の横でくるくる回る元気。
俺は溜息をつく。しかし、一体どういうつもりだ朝比奈――。俺は訝しんでいるとチャイムが鳴った。
「オラァ、席に着け」武藤が、教室に入ってくる。
慌しく各々の席に戻る生徒達。俺はその生徒達の中で、朝比奈だけを目で追っていた。