第二章 後悔1
俺は電子音の、それもとびっきりにうるさい目覚まし時計を止めて、ベッドからのそのそと這い出る。しかし、俺は朝の日差しのあまりの眩しさに、未だ目を開けられずにいる。
ようやく目を半分くらい開けられるようになったところで、ゆっくりと洗面所へ向かい水をひねり出す。両手でお椀をつくり水を溜めて――――、一気に顔へ。そこでようやく思考する。
昨日の出来事は夢ではない。
転校してきた美少女エージェント。
凶暴で凶悪なグリーンガール。
彼女らが所属する謎の組織。
にわかには信じがたいが、すべてが現実である。
おそらく朝比奈は今日も何食わぬ顔で、ほのぼのキャラを演じるのだろう。俺にとってそれは不快で不可解そのものだった。いずれにしても、今後の朝比奈の行動には十分な注意が必要のようだ。
パンとミルク。俺は極めて軽微な朝食を済ませ、制服に着替える。そしていつもどおりの時間に家を出た。
「けぇーんーとぉー!」
ヤツの声が後ろの方から聞こえた。おのれは第二の目覚まし時計か。
「おはよ!」元気少年だ。
「やあ、おはよう」俺は力なく、手をあげる。
「ねえ! ねえ! 今日も凛ちゃんってカワイイのかな!」
一日で劇的に不細工になる方がおかしいだろ。しかし、何も知らないヤツは気楽で良いな。昨日の光景をぜひ元気君に見せたいところだ。
「ところで、元気さ」俺は話を変える。
「んー、何?」
「お前ってロキのような裏世界の人間に詳しいけど……、裏世界の組織なんかはどうなんだ? 詳しいのか?」
「裏の組織? 例えばテロリスト集団とか、秘密結社とか、特務機関とかのこと?」元気は目を輝かせる。
思った通りだ。これは絶対に詳しいぞ。元気ならあいつらの組織のことも、何か知っているかもしれない。
「まあ、そんなようなヤツ」俺は答える。
「んー。ちょっとならかじってるよ! 怪盗ロキについての知識ほどじゃないけどね!」
「へえ。じゃあ、例えばだけど。全身迷彩服で、顔なんかもペイントをしていてさ、やたらと武術に長けている小学生っぽい女の子とかがさ……」
「何それ」元気が、目を丸くする。
「いや……、忘れてくれ」ちょっと具体的過ぎたと思った。
「組織を調べるのだったら個人の情報とかじゃなく、もっと大雑把な組織についての情報があったほうがわかりやすい!」
確かにそうだ。元気君、君が正解です。
俺は雑駁に説明した。先ほど言った、変てこな格好をした凶暴な少女などが属しているということ。その組織の構成員がエージェントと呼ばれていること。そして一般人には危害を加えないということ――。元気にしては珍しく、静かにして俺の言葉に耳を傾けていた。
「少し情報が少ないね! でも一般人には危害を加えないっていうのがポイントかも! ちょっと今じゃ分からないから明日でいい?」元気が解答を保留する。
明日なら分かるのかよ。凄いぞ元気。
「でも何でそんな事知りたいの?」元気が不思議そうに聞く。
「何も聞くな。今日いちごオレ買ってやるから」俺は誤魔化す。
元気はいちごオレに小躍りして喜んでいた。無邪気なものだ。しかし、すまんな元気。朝比奈に忠告されたこともあり、彼女らの名前は出すことは出来ない。お前を面倒に巻き込むわけには、いかないからな。