第一章 遭遇5
再び公園。清々しい春風は、朝比奈の髪を悪戯になびかせる。
「白々しいな、朝比奈。お前が植え込みのところで話をしていたのは、さっきの緑少女だろ」俺は痺れた右手を振る。
「あ……、えーっと……、その……」朝比奈は、言葉を濁す。
「それと別にいいぜ。素のキャラと喋り方で」
朝比奈は俯く。
「今朝、お前が自己紹介したときから気付いていた。なぁに心配するな。多分俺しか気付いてないだろ」
春風が一瞬やむ。面をゆっくりと上げて口を開く朝比奈。
「あなた本当に凄いわ。一体何者かしら?」語句には歯切れがあり、鋭くもある。あきらかに今までの朝比奈ではない。こっちが本当のスタイルなのだろう。
「俺はただのスーパー高校生だよ。っていうかお前といい、さっきの緑少女といい、何者かと問いたいのはこっちの台詞だね」
「いいわ。あなたには特別に教えてあげる。私も若葉もある組織のエージェントよ」
へえ、さっきのグリーンガールは若葉という名前なのか。そのまんまだな。まぁ、そんなことはどうでもよい。
「代理人? つまり組織の何かを代理しているんだな? そしてそれを行うには、学校で目立つのはまずい。だから大人しくしている必要があるということか」俺は推論を述べる。
「大体そんなところね。だけど詳しいことは言えないわ。ただ、これは安心して。私達エージェントは、一般人に危害を加えることはしないわ」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。俺がさっき受けた仕打ちは、完全に……」俺は、苦笑しながら言いかけたところを朝比奈に遮られた。
「あの蹴りは顎をかすめるためよ。若葉の蹴りを受けても、ちょっと気を失うだけだったはず。それをあなたが異常な反射神経で防御体勢に入ったものだから、若葉のターゲットポイントがずれて、直撃を受けたのね」
「ふーん。じゃあ、俺を気絶させようとしたのは、何か組織の情報を聞かれたのかと思ったのかな。実際、俺は何も聞いちゃいないけどね」
「あれは若葉の勝手な行動だから、私には分からないわ」
俺はまだ信用したわけではなかった。なぜなら、朝比奈たちの目的が分からないからだ。
「敷島健人、ひとつ忠告するわ。今日みたいな巻き添えを受けるのが嫌なら、私達の詮索はしないほうがいいわ」
そう言い放つとくるりと身を翻し去っていく、麗しのエージェント。
組織、代理人、朝比奈――。果たして、彼女は何をしているのだろうか。俺は無性に知りたくなった。