第一章 遭遇4
俺がいつも通る公園の前に差し掛かると、公園内に我が高校の女子制服が見えた。
「あれは……朝比奈?」
遠くからなので自信はなかったが、おそらくはそうだった。
しかし妙だ。
朝比奈は公園内にある植え込みの方へ向いていおり、一人で突っ立っている。
「何してんだアイツ」
俺は目を凝らして彼女を注視する。
口が――、口が微かに動いている。
話している? 誰と?
俺は朝比奈の周囲を見渡してみても誰もいないことを確認する。
独り言だろうか。いや、これは会話だ。根拠はない。ただの直感。じゃあ誰と話しているのだろうか。植え込みの奥に誰かいるのだろうか。何を話している?
俺は朝比奈の口許をよく見る。そのわずかな口の動きを読み取ろうとした。
すると、朝比奈の口がピタリと止まった。そしてゆっくりと振り返り、何の迷いも無く俺を凝視する。
刹那。俺は嫌な気配を感じ取った。
それは、
仰々しく――、
猛々しく――、
荒々しく――、
露骨で――、
殺気染みた――、
野蛮な――、
気配――。
これは朝比奈の――、
いや違う――、
コイツか!
俺は咄嗟の判断でバッグを右頬に構える。
次の瞬間、ドン! という音とともに凄まじい衝撃がバッグに伝わり、手に伝わり、身体に伝わる。
ジャンピングボレーシュート。あえて例えるならば、そのような蹴りであった。
「へぇーすごいジャン、お兄さん。ただ者じゃないねー、キャハ」緑色の物体が言う。
「何すんだよチビ助。どう見てもお前のほうがただ者じゃないと思うぞ」俺の手は若干痺れていた。
シュートからの着地をしたのは、小学生くらいの小柄な少女。
ウッドランド迷彩で全身を包み、露出してしまう顔や肌にもご丁寧に迷彩のペイントを施している。しかもツインテールの髪の毛の色さえも、緑に染色されていた。全くもって異形。
「ちょっとお兄さんの脳味噌を揺さぶって、記憶をすっ飛ばそうと思ったけど失敗しちゃったー、キャハ。また会えるといいね。バイチン!」緑の少女は消えた。殺伐とした気配と一緒に。
キャハ、じゃねーよ。あんな蹴りをまともに食らったら首がもげるわ。そしてもう二度と会いたくないね。
慌てた様子で駆けてくる朝比奈凛。
「だ、大丈夫ですか? 怪我は、ないですか? クラスメイトの方……ですよね?」
おっとりと、大人しそうに、可愛らしく俺を心配する朝比奈。
それも嫌いじゃないが、ここで君の正体を暴くことにする。