第二章 バーボン・バレル4
俺は遠くの木々の間にいる朝比奈と、もう一人の人物を見る。
朝比奈と一緒に居る人物は、あの大和刑事以上にいかつい男であった。
タンクトップにカーゴパンツ、そして安全靴のようなブーツを履いたその格好は、まさにアメリカの軍人のようである。
そして、特徴的な外見が三つ。
まず一目で分かるのが、剃り上げられたスキンヘッド。
次に、顔に刻まれたおひただしい数の傷。
最後にタンクトップから伸びた、太もものような両腕。この腕の太さはあきらかに異常であった。
「何者なんだあの男……」
俺は男の様子を伺っていたが、何やら朝比奈と会話をしているらしかった。
男から朝比奈に目を移すと、彼女は嫌悪感をあらわにしていた。
朝比奈の口の動きからすると、男に対して激しく言い寄っているようだった。
男はポケットに両手を突っ込んだまま、朝比奈に近付いて何かを喋る。
そして男は右手をポケットから出し、払うようにして朝比奈の頬を叩いた。
倒れる朝比奈――。
俺の体は勝手に動いていた。
「てめぇ、何してんだぁぁぁぁぁ!」
俺は男に向かって一直線にダッシュし、渾身の力でハイキックを繰り出す。
男はこちらに気付き、左手はポケットに突っ込んだまま、右手で防御体制に入った。
ドンッ――。
硬い。硬すぎる。鉄でも蹴っているような感じだった。
ガードされたとはいえ、目一杯に力を込めた蹴りだった。それなのに男は微動だにしていない。――何だこいつは。
「ボウズ。いきなり何しやがる」
男はそう言うと、近くに生えている木に手を伸ばす。
ボコボコボコッという異音をたてて、男は木を一気に引き抜いた。
「なッ――!?」
俺は驚き、後ずさりする。
まさかそびえ立っている木を、素手で根っこごと引き抜くとは――。人間離れしている。
俺は危険を察知し、距離をとった。
「オラァァァァァ!」男は木刀を扱うかのように、軽々と木を横に振る。
やたらとリーチが長い。まるごと木が一本じゃ当たり前か――って、そんな事考えてる場合じゃねぇ!
俺はガードするのは無謀だと判断し、すんでのところでしゃがみ込んで攻撃を避けた。
「ほう、いい反射神経してるじゃねぇかボウズ。一般人にしてはたいしたもんだ。……それで、俺をいきなり攻撃してくるとはどういうことなんだ?」男が言う。
「どういうこと? テメェが俺の友達に手を出したからだろうが」俺は男をにらむ。
「友達? もしかしてボウズ、朝比奈の学校のヤツか? ハハハ、こりゃ傑作だ」男はそういって朝比奈を見て続けた。「おい、朝比奈。お前がミッションを外されたからって、学校のやつらと友情ごっこでもしてんのか?」
朝比奈は身体を起こして「あなたには関係ないわ……」と呟いた。
「フン、まあいい。俺はこの美術館でミッション中だ。誰かと違って忙しい身なので、これにて失礼する」男は木をほうり投げると、筋肉でゴツゴツとした背中を向けて、立ち去っていった。
俺は男がいなくなったのを確認すると、朝比奈を見る。
「おい、朝比奈大丈夫か?」
「ええ、何ともないわ」朝比奈は頬を押さえて立ち上がる。
会話の内容からして何となく事情は把握したが、朝比奈に何があったのかを聞くことにした。