第一章 遭遇3
放課後――、ほうかご――、ホウカゴ――。
なんて響きの良い、美しい、そして心地の良い言葉なのだろう。学校の授業から解き放たれる、爽快感といったら表しようがない。俺は放課後の為に授業をしているのではないかと、錯覚してしまうほどだ。
「何ブツブツ言ってんだよ、健人! 早く帰ろうぜ!」元気がバッグを振り回している。
「おう、帰ろうか」
俺と元気は通学途中で会ったように家が同じ方向にあり、帰るときはほとんど一緒に帰っている。
「ねえ、今朝の話なんだけどさ!」元気が言う。
「今朝?」
「ロキだよ! ロキ!」
「なんだよ、またその話かよ。元気君。君は怪盗以外に興味はないのかね」
「違うんだよ! 聞いてくれよ! 昨夜、ロキが高層ビルの一室から盗んだのは、《列抜》っていう宝石が散りばめられた宝刀なんだけどね!」
「それがどうかしたのか?」
「二十年前に盗まれた『ミョルニルダイヤモンド』から始まって、『蜜酒の首輪』、『滴りの腕輪』……と、今まで怪盗ロキが盗んできた九つの美術品は、すべてアクセサリーにカテゴライズされるものなんだ!」元気は目を輝かせる。
「本当に詳しいな」俺は驚く。
「それでね! さっき言ったとおり、今回盗まれたのは刀なんだよね。明らかに今までのモノとは違う! そこで僕は考えたんだ。怪盗ロキは盗むものを――徐々に大きくしているのではないかと!」元気は顔の前にグーを作って言い放つ。
俺は手を叩いて称える。
「いやぁ、凄い推論だよ元気。怪盗ロキ専門家の第一人者になれそうだね」俺は本気で思う。何事も興味と情熱と努力がなければ、上手くいかないだろう。こいつならやれそうだと感じた。
それからも元気の熱論は続くのだが、それを聞いているうちにいつもの、二人が別れる交差点に着いていた。元気はまだ話し足りないといった様子だったが、俺は「また、今度聞くよ」と、苦笑いする。元気は寂しそうに別れの挨拶をして、別の道を歩いていった。
「怪盗ロキ……か」俺は一人つぶやき、自宅の方へ向かって歩き出した。
その帰り道の途中でのことだった。
俺があの朝比奈凛を公園で見かけたのだ。いや、正確にいうと、奇妙な出で立ちの少女と会話をする、朝比奈凛と遭遇するのであった。