第二章 バーボン・バレル2
上野の私立美術館は比較的、駅から近いところにある。徒歩でわずか数分のところだ。
高層ビルが立ち並ぶ中、それに反発するかのように緑の自然に囲まれ、その美術館は建っていた。
周りのビルが大きいせいか美術館が小さく見えるのだが、まじまじと建物を観察するとそれなりの規模はあるようだ。
「よーし、到着したな。美術館に入る前に、今日のプログラムをお前らに言っておく。まず最初に中をざーっと見たあと、今回のメインである中世ヨーロッパの絵画を鑑賞する。これはあとで批評するから色々とメモっておけよ。そのあとは自由行動の予定だから、自分たちの好きなものを見ればいい」部長が説明した。
俺たちは了解すると、部長は美術館の入り口に向かって歩きだした。
部長の後を追いかけるようにして俺たちもついていくが、部長は突然立ち止まり振り返る。
「あーそうだ、元気。ひとつだけ言っておく」部長は元気を見る。
「は、はい!?」元気はビクッとする。
「……中では絶対に騒ぐなよ」部長は鬼の形相で警告する。
元気は敬礼のポーズをして「ラジャー!」と返事をした。
俺たちは美術館に一歩踏み込むと、その独特な雰囲気に飲み込まれた。
館内にはクラシカルなムードが漂い、別世界にでもきてしまったのかと思うほどである。
やはりそれを醸し出しているのは、建物ではなく展示されている絵画、彫刻、陶器といったものだった。
「うわー、スッゲー……」元気は周りを見渡し、静かに興奮する。
クールだった部長も目を輝かせ、辺りの美術品に心を奪われていた。何だかんだいっても美術品を目の前にすると、部長もメロメロのようだ。
「ねぇねぇ、健人君。部長も元気君もなんか嬉しそうだね」朝比奈は小声で言う。
「ああ。朝比奈の名案のおかげだな」
美少女は「そうかな?」と言って微笑んだ。
流しながらではあるが一通りの展示物を見た俺たちは、いよいよメインの絵画にたどり着いた。
有名な画家が描いた中世ヨーロッパの作品。やはり、写真なんかで見るのとはまったく違かった。
歴史――。技術――。美しさ――。
その重みを身体中で感じ取れる。
批評のために俺がメモを取り出そうとすると、隣から声が聞こえてきた。
横を見ると部長が「マジはんぱねぇぜ……」などとブツブツ言って固まっていた。
元気も朝比奈も放心状態の部長に気付き、唖然としている。
俺はおもわず吹き出しそうになったが、それに堪えてメモをとることにした。