第二章 バーボン・バレル1
快晴の日曜日――。
幸いにも天気は良好で、出掛けるには最適だった。
今日は予定どおり評論部のみんなで美術館へ行き、批評を行う。これは評論部が始まって以来、初の試みである。
待ち合わせの場所である地下鉄の駅前。俺は十五分前に着いたが誰もいなかった。
俺は腕組みをしながら十分ほど待っていたが、一向に誰も来る気配がない。
もしかして、待ち合わせ場所を間違えたか――、などと考えているとようやく一人目が来る。
「おはよー」俺は声のするほうを向くと、朝比奈が立っていた。
ピンクのティーシャツにデニムショート。スラッと伸びた脚の先には、茶色のブーツを履いていた。
随分とポップな雰囲気の朝比奈は、いつもの制服姿とはまた違った印象で新鮮に感じた。
「おはよう朝比奈。誰も来ないから、待ち合わせ場所を間違えたかと思ったよ」
「健人君が早いだけだよ」朝比奈は笑う。
すると、立て続けにまた一人来た。今度は片桐部長だった。
「ちーっす」部長は片手をあげる。
黒シャツに黒革のパンツを履き、胸元の白いネクタイが異様に目立つ。なんか男前だった。
格好だけを朝比奈と見比べると、部長の方がエージェントのような気がしてならない。
「部長おはようございます」
「おはようございます」
俺と朝比奈が挨拶を返すと、部長はキョロキョロと周りを見渡した。
「あれぇ? アタシが一番最後かと思ってたけど……、きてねーのは元気か」
「そうですねぇ、もう約束の時間ですけど……」俺は腕時計を見た。
俺たち三人が待っていると、遠くから声が聞こえてきた。
「ごめーーーーーーーーーん!」
朝比奈が「あ、元気君きましたね」と言って指をさす。
朝比奈の指す方向を見ると、一生懸命に走ってくる元気が見えた。
黄色いティーシャツにオーバーオール。
そのオーバーオールの胸の辺りにヒヨコさんが縫い付けてあり、さらにその下には『GENKI』とプリントされていた。
「ガキかよ……」部長がボソッと呟いた。
まぁ、部長がそう思うのも無理はないな。なんせヒヨコさんだ。俺は元気と長い付き合いなので、この定番の元気スタイルは知っていたが。
「お待たせ!」最高の笑顔を見せる元気。
部長は苦笑いしていたが、元気の笑顔を見てファッションのことを言うのは、どうやらやめたみたいだった。
これで部員が揃ったので、俺たちは券売機できっぷを買い、改札を通った。
地下鉄に乗って向かうのは、上野にある私立美術館。
俺たちは談笑しながら、駅に到着するのを待つ。電車に揺られながら。