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第一章 ユルい計画3

今月は朝比奈を交え、初めて四人での評論会を行っていた。

今回の題材は、葛飾北斎の富嶽三十六景がひとつ『神奈川沖浪裏』だった。

『神奈川沖浪裏』は、巨大な波と小さな舟、遠くに見えるのは富士といった構図の浮世絵だ。おそらく、日本人なら一度は見たことのある絵だろう。


評論会は順調に進み、これは早く帰宅できるかなと期待していたが、部長が俺の淡い期待と共にその順調な流れを断ち切った。

「あーあ」部長は両手を頭の後ろに組んで、身体を反らす。

「部長、まだ終わってませんよ!」元気が勇敢にも忠告した。

「んなことは分かってんだよ!」凄む部長。

元気は、小さい身体をさらに小さくさせた。

「部長、どうしたんです?」俺はきいた。

「いやさー、文芸が題材の場合はその本を回し読みすればいいけどさー……、美術が題材の時って画集やパンフレットを眺めるだけだろ? なんか味気ねえよな」

「文芸などは元々が複製を目的として作られていますから……、そうでない美術品は、やはり写真で見るだけじゃ物足りませんね」俺は部長を見る。

「そう! そうなんだよ健人! 独特な立体感や筆のタッチなんかはさー、写真なんかじゃ読み取れねぇんだよ! オリジナルを間近で見ないと、伝わってこねぇ!」立ち上がって、ものすごい形相で熱く語る部長。

みんなポカーンとした表情で部長を見つめていた。

やはり、この人の芸術に対する情熱は火傷するほど熱かったようだ。

静まり返った部室内――。


「……見に行きませんか?」


口を開いたのは朝比奈だった。

「え?」部長が聞き返す。

「そのー……、みんなで本物を見に行きませんか? 美術館に」微笑む朝比奈。

「凛ちゃんの提案、賛成!」元気がすぐさま手をあげる。

「健人。お前はどう思うの?」部長はチラと俺を見る。

「部長が本物を見たいというなら、そうするしかないですね」俺は答える。

「そうだなぁ」部長は少し考えたあと続けた。「もし、お前らの都合がつくなら行ってみるか? 美術館に」

「わーい! わーい! 美術館ー!」元気は飛び跳ねて喜んでいた。

「おい、元気……」部長の声。

元気はビクッとして静止した。

「遊びに行くんじゃねーぞ。批評しに行くんだからな」部長は元気を脅し……いや、たしなめた。


そんなワケで評論部のメンバー四人で、美術館に出張部活動ということになった。

日にちはみんなの都合が良いということで、次の日曜日――明後日に決定した。

しかし、朝比奈の一言で決定されたこの部活動。

朝比奈はエージェントとしても任務を遂行しているのに、大変ではないのだろうかと思った。

まぁ、大丈夫なのだろう。朝比奈自身が言ったことだし、きっと、よい息抜きにもなるのだろう。

俺はそう考えていた。

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