第六章 決意5
元気のいる大学病院をあとにした俺と若葉。俺は家へ向かって歩きながら、前を歩く若葉を問い詰めていた。
「だーかーらー、本当に元気くんのお見舞いをしに来ただけだって!」若葉は言う。
「そんなワケないだろ」
「そんなワケあるもん!」若葉は不思議な日本語を使うと、ガードレールの上に飛び乗って、両腕でバランスを取りながら歩きだした。
俺は『危ないだろ』と言おうとしたが、若葉がただの12歳でない事を思い出し口を閉じた。
「あ」
若葉は何かを思い出したかのように言うと、手をポンと叩いた。
「凛ちゃんから聞いたよ! 通り魔を倒したのお兄さんなんだって!?」若葉は目を輝かす。
「まぁ、一応そういう事になるかな」俺は最後のとどめをさしたという意味でそう答えるが、正直武藤は朝比奈の攻撃によってだいぶ弱っていたと思う。
「お兄さんやっぱり強いんだね! さすが若葉ちゃんのキックを防ぐだけはあるよ! 今度、若葉ちゃんと勝負しようよ!」ガードレールの上でくるりと回り、ファイティングポーズをとる若葉。
しかし俺は「やだ」と即答する。
「お兄さんのケチー」若葉は頬をふくらませて、肩を落とした。
このツインテールの少女は、戦うか迷彩を施すことくらいしか楽しみはないのだろうか。
「あ! それから――」若葉はガードレールから飛び降りる。「お兄さんにお礼言うよ!」
「お礼?」俺は若葉を見る。
「凛ちゃんって、前にミッション失敗してから落ち込んでたんだけどー、なんか少し元気になったみたいなの! お兄さんが何かのきっかけを作ってくれたのかなーって!」
「別に俺は何もしちゃあいないよ」
「そうなのー?」若葉は不思議そうな顔をしたが、すぐににっこりと笑う。「とりあえず凛ちゃんが元気になって、若葉ちゃんは嬉しいよ!」
きっと若葉は、朝比奈のことが好きなのだ。俺は若葉の笑顔を見てそう思った。
家の近くの公園まで来ると、若葉は立ち止まって俺のほうを向く。
「お兄さん、今度会ったら勝負しようね! バイチン!」
そう言うと若葉は、もの凄い速さで去っていった。ランドセルを背負った女の子がそんなスピードで走っていたら、近所のおばさん達は腰を抜かすんじゃないかと心配するほどだった。
俺は空を見上げる。
とりあえず――、昨夜の武藤逮捕によって、通り魔事件に一応の終止符を打つこととなった。
まだ元気は入院しているが、今の感じならもうすぐ退院して学校に復帰できるだろう。
これで平穏な学園生活を過ごせるかといえば、そうでもない。
むしろ――、平穏は俺の手によって壊れはじめていたのかもしれない。
――第一部 完――
これにて第一部完です。
いよいよ怪盗ロキに対して、本格始動するレインボウ。
急接近していく敷島健人と朝比奈凛――。
気になる第二部もここを使用します(笑)




