第六章 決意3
学校の屋上。雲ひとつない昼時の太陽はとても暖かかった。
俺は隣にいる朝比奈に顔を向けた。
「事件のことなんだけど、武藤は何であんなことしたのかな? 動機っていうかさ」俺は朝比奈にきいた。
「今回の事件に動機なんてものはないわ。武藤は自己の快楽のためだけに犯罪を行ったのよ。そういった行動をすることによって、彼は満足した。ただの異常者ね」朝比奈は悲しげに言った。
「でもなんで少年ばかり狙ったんだ?」俺は問う。
「それは彼がペドフィリア――、少年愛者だったから。つまり武藤は極度のサディストにしてペドフィリアだった。その異常性癖が今回の事件を引き起こしたのね」
「じゃあ元気がやられたのは、本当に偶然だったのか……」俺は眉をひそめる。
「そう、元気君が被害にあったのは、運がなかったとしか言えないわ。武藤の嗜好に合うのはあくまでも10歳から13歳の男の子だった。それに、高校生などを狙わないのには他の理由もあると思うわ」
「武藤が高校教師だからか」
「そういうこと。襲った高校生が自分の顔を知っていたら困るわ」
学校の屋上に一陣の風が吹く。太陽の日差しと風が妙にマッチしていて、心地よかった。
「これで通り魔事件も解決したし、朝比奈は……また転校でもするのか?」俺は気になっていたことを問う。
「そうね――」朝比奈は天を仰ぐ。
俺は朝比奈を見つめ、その声に耳を傾けた。
「そういう選択肢もあるけれど、まだこの関東地区でやらなければいけないことがあるわ。敷島君に昨日送ってもらった時に話したと思うけど、私が取り逃がしてしまった犯人に、個人的にお返ししなきゃいけない。だから、まだここの学校に残るわ」朝比奈の意志は固そうだった。
「そっか。聞きたかった事はこのくらいかな。サンキュ、朝比奈」俺は礼をいう。
朝比奈は「お役に立てたかしら」とにっこり笑った後、屋上の出口に向かって歩いていく。
俺はそのうしろ姿をぼんやりと見つめる。
「なぁ朝比奈」
俺は呼び止めた。
振り返る麗しのエージェント。
「お前、なんか変わったな」俺は思っていたことを遂に口にした。
「そう?」首を傾げた朝比奈は続けた。
「――敷島君のせいじゃないかしら」
朝比奈は髪を押さえたまま、可憐に微笑んだ。
俺は疑問だったから質問したのに、朝比奈の回答は理解できないものだった。