第一章 遭遇2
キーンコーンカーンコーン――。
ホームルームの時間のチャイムが鳴ったところで、ガラガラと音をたて勢いよく教室の戸が開く。
「オラァ、席に着け」
担任の武藤が教室に入ってきた。この体育会系でむさ苦しい男性教師の顔を拝まねば、一日が始まらない。
「はい、おはようさん。突然なんだが、このクラスは今日から一名増える」
生徒達がどよめきたつ。
「なんでも遠くから転校してきたので、友達がいないそうだ。お前ら、仲良くしてやれよ」武藤は廊下に顔を向ける。「よし、入っていいぞ」
一歩目――教室の戸から、スラリとした長い足が覗く。それは、紺のハイソックスで、誰もが女子だと認識した。
二歩目――身体が室内に入る。髪は栗色のミディアム。二重でブラウンの瞳は、ぱっちりと見開いている。高く通った鼻筋に、潤いのある唇。その整った顔立ちは、綺麗でもあり可愛くもある。まさに、美少女といったところである。
またもどよめきたつ生徒達。いや、男子達。
「じゃ、軽く自己紹介でもしてくれ」教卓から脇の方に移動する武藤。
一同が見守る中、美少女が口を開いた。
「あ、あの……私、朝比奈凛って言います……。よ、よろしくお願いします!」
ペコリとお辞儀をした美少女は、とても大人しそうな子だった。頑張って自己紹介したのだが、声が聞き取りにくいほど声が小さかった。緊張しているせいなのか、人見知りだからか、元々がこんな感じだからか。それは分からなかった。
「よし頑張ったな、朝比奈。お前はあそこの空いている席に座れ」
武藤が教卓に戻ると、手にしていた出席簿を開いた。武藤は一番はじめに朝比奈の名前を読み上げると、その先の順番はいつもと変わらなかった。
ホームルームが終わると朝比奈に群がる女子達。キャッキャ、キャッキャ、なにやら楽しそうに話している。女子同士だとすぐに仲良くなれるものだろうか。いや、これは俺の偏見か。
朝比奈に真っ先に駆け寄った女子に対して、俺に真っ先に寄ってきたのは例によって元気少年。
「おい健人!」と、呼びながら俺の耳元に手を当てる。「凛ちゃんって可愛いよな」
「ふーん、お前ってああいうのがタイプなんだ。へぇ、そうかそうか。これは意外だったな」俺はからかう。
「馬鹿か健人! あれは、誰がどうみても可愛い部類に入るぞ」元気はまたしても興奮しているようだった。
「いや、俺はてっきり元気はロリータ嗜好かと。きっとお似合いのカップルに……」
「馬鹿にすんな!」俺にヘッドロックをかましてくる。
――――元気にヘッドロックをされながら、俺は朝比奈凛を盗み見る。
俺から見ると、アイツは……朝比奈凛はどうもおかしい。というか違和感があった。言動や行動が何やら計算されているような感じ。わざと大人しくしているような、キャラを作っているような。まったく不思議なやつだ――――。
「やったな、この野郎!」俺は反撃にでる。こめかみグリグリだ。
「痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 健人痛いから離して!」
「ごめんなさいは?」
「ご、ごめんなさーい!」
「わかればよろしい」グリグリをやめてあげる俺。
「なんだよ! 健人のバカ!」離れると調子に乗る元気。
ようやく朝のローテンションから開放しはじめてきた。お前のお蔭でもあるな、元気。朝は面倒な野郎と思って悪かった。