第六章 決意2
昼休みのチャイムが鳴ると、一斉にクラスメイトが動きだす。
カバンから持参した弁当を出すやつ。
購買部に注文した弁当を取りに行くやつ。
飲み物を自動販売機に買いに行くやつ。
今まで静かに授業を受けていた光景が、嘘のように崩壊する瞬間である。
そんな慌しく動くクラスメイトの中、俺は朝比奈の席へ行く。
「朝比奈。メシ食い終わったらでいいから、ちょっといいか? 屋上で待ってるから」俺はそう朝比奈に告げると屋上へ向かった。
澄み切った青空の下、俺は屋上から校庭を見渡す。正門のところに部外者らしき人達が集まっていた。カメラなどを持っている姿からすると、マスコミの関係者だろうか。何やらうちの学校の教師と話し合っているようだったが、どうせ武藤についての事だろう。
そんな光景を見ながら、俺はパック牛乳を片手に焼きそばパンにかじりつく。俺の昼食は大体が購買部のパンだ。俺は母親がいないので、弁当なんかは持ってこない。それに俺は多く食べるほうじゃないし、栄養とかもあまり考えたことがないから購買部のパンで充分だった。
「お待たせ」
俺は焼きそばパンをくわえたまま振り向く。そこには、風になびく髪を押さえた朝比奈が立っていた。
思ったより朝比奈が来るのが早かったので、俺はやきそばパンを一気に頬張った。
「いいわよ。慌てなくて」朝比奈はそう言うとクスクスと笑った。
あれ? 確か朝比奈はこんなことに笑うようなやつじゃないはずだ。それともまだ学園モードなのだろうか。いや、屋上には俺と朝比奈の2人しかいないし、そんなことする必要はないよな……。
「よく噛んで食べなよ。とりあえず昨日のお礼を言うわ。ありがとう敷島君」朝比奈が微笑む。
今日の朝比奈は何か変だな。よく笑うし、俺を呼び捨てでなく『君』付けで名前を呼んだし。
俺は目をキョトンとさせて、口をモグモグさせて焼きそばパンを飲み込んだ。
「いや、家まで送ったことは気にするなよ。こう見えても体力には自信があるんだ。それより足は大丈夫なのか?」俺はそう言い切った後、今度は牛乳を飲み干す。
「私が敷島君にお礼を言ったのは、送ってもらったことだけじゃないわ。色々とありがとうって言いたかった。あ、足は大丈夫。本当に捻っただけみたいだから」朝比奈は俺の隣に来て、校庭を見下ろした。
俺は朝比奈を送った以外に、お礼を言われるようなことしただろうか。考えたが分からなかった。
「朝比奈に聞きたいことがあったから呼び出したんだ」俺は隣を見る。
「何?」朝比奈もこっちを向いた。
俺は頭の中で事件のことをひとつひとつを整理し、朝比奈に聞きたいことをまとめた。