第六章 決意1
――武藤が両手にナイフを持って学校に乗り込んできた。
「し、しき、敷島ぁ! で、で、出てこい!」
クラスメイト達は逃げ惑うが、武藤の手によって次々と刺されていく。
元気も星も刺され……、朝比奈さえも刺された。
血塗れのナイフを持ち、俺の目の前に立ちはだかる武藤。
クソ野郎。次は俺か。武藤がナイフを――。
そこで俺は目が覚めた。
「夢か……」俺は現実の世界に戻る。
昨日事件が解決したばかりだというのに、翌朝にこんな夢を見せられるなんて質が悪い。
……いや、まてよ。俺は武藤が警察に逮捕される瞬間をこの目で見ていない。もしかしたら、武藤があの場から逃げたなんて事は考えられないだろうか。俺は不安を掻き立てられ、テレビのリモコンを手に取る。
『――のマンションで、連続少年殺傷事件の犯人と思われる男を緊急逮捕しました。男の職業は高校の教師で――』
なんだ。ちゃんとやっているじゃないか。心配して損したぜ。
「ふぁーあ」俺は思い切りあくびをする。
それにしても眠い。俺は全然寝た気がしなかった。なんせ、昨夜帰宅したのは午前2時だ。寝たのは3時くらいだっただろうか。まぁ、睡眠時間が短ろうが長かろうが、朝調子が悪いのはいつものことだが。
俺は学校の支度をする。
「朝比奈は足、大丈夫だろうか……」俺はふと朝比奈の怪我の事を思い出した。
「うぃーっす」俺が教室のドアを開けると、ポニーテールを振り乱して星が駆け寄ってきた。
「敷島君おはよっ! ねぇ、ニュース見た!? 武藤先生が逮捕されたみたいなの! 通り魔事件の犯人で!」早口に言う星。
「ニュースやってたね」俺は自分の席に向かう。
「私は武藤先生がやったなんて信じられないよ。間違いで逮捕されちゃったのかなー」星は俺の後をくっついてくる。
「アイツだよ……武藤だよ、元気をやったのは。まぁ、スッキリしたからいいけど」俺は武藤を爽快に倒した事を思い出す。
「そうだよね! 犯人が分からないとスッキリしないしね!」星はどうやら別の解釈をしていたが、俺は特にそこへは触れることはしなかった。
「おはようございます」
朝比奈が教室に入ってきた。今日の美少女にはひとつだけ欠点があった。片足をかばうように歩いていたのだ。
「おはよー朝比奈さん! あれ? 足どうしたの?」星がいう。
「ちょっと、段差で挫いちゃって」朝比奈は舌を出す。
星は「ドジだねー」と言って笑っていたが、本当の理由は俺と朝比奈しか知らなかった。
俺は朝比奈を見る。
昨日はタイミングを失ってしまったけど、朝比奈には聞きたいことが山ほどある。俺は今日それを朝比奈に聞こうと思っていた。