第五章 出現5
ターゲットが凛へナイフを振り下ろした。
――ドムッ!
真下へ垂直移動していたはずのナイフが、急激に水平へと方向転換した。同じく真横へふっ飛ぶターゲット。
「何やってんだよ朝比奈」
「あ、あなたは……」
突如として現れ、ターゲットに強烈な蹴りを見舞ったのは――、敷島健人。
「スーパー高校生だ」
「何故、あなたがここに……?」驚いた表情の凛。
「何故って、俺が何も情報のない通り魔に復讐するには、この事件を追っているエージェントの……お前をつけるしかないだろ」健人は拳の骨を鳴らしながら言う。
「つけていたはずの私が、つけられていたんだ……」凛は地面に座り込んだまま呟く。
「そういうこと。いやぁ、しかし驚いたね。まさか通り魔が――」
「――担任の武藤だったとはね」
健人は武藤を見た。
「し、しき、敷島ァ……!」不意討ちを食らっても、なお立ち上がる武藤。ふらつきながらもの凄い形相で健人に近付いてくる。
「言っておくが俺は強いぞ。元気の分までぶっ飛ばしてやるからな」健人はそう言うと、自ら動いた。
2、3歩目から一気にトップスピードにギアチェンジすると、その勢いにのったままボディブローをねじ込む。
武藤は腹を押さえてくの字に曲がると、健人は両手で首根っこを持って膝を顎に入れる――。
凛は健人の戦いぶりに心底驚いていた。その異常な身体能力は、若葉に通ずるものさえ感じる。自分で『スーパー高校生』などと名乗る当たり、何の冗談かと思っていたがあながち間違いではないかもしれない。
――凛が考察する最中、健人の回し蹴りによってほぼ態勢は決していた。
武藤はアスファルトへ崩れ落ち、うつ伏せのままピクリとも動かなくなった。
「悪く思うなよ武藤。この復讐が元気への友情。俺の正義だ」健人は汚れた両手をパンパンと叩く。
その頃、ちょうどマンションの住人が出てきた。さっきの男の子とその親らしかった。
「コイツがあの連続少年殺傷事件の犯人です」健人がのびた武藤を指しながらマンションの住人に説明すると、警察を呼ぶようお願いした。
健人は座り込んだ朝比奈に歩み寄る。
「やられそうだったけど大丈夫か?」健人が話し掛ける。
朝比奈は黙っていた。失態をさらしたのを恥じていたのかもしれない。
「ま、いいや。警察がくると面倒だから、俺はとっとと帰ろうと思ってんだけど……朝比奈はどうすんの?」健人は問う。
「……私も引き上げるわ。警察が来るなら後はまかせて、報告だけは第三機関に……痛っ」立ち上がろうとした凛は顔を歪めて足をかばった。おそらく、武藤に足を抱えられて倒れこんだ時に負傷したものだった。
「おいおい大丈夫かよ」健人は心配する。
「これくらい平気よ」強がってみせる凛。
「無理すんな」健人はそう言って半ば強引に凛を抱え上げた。
「ちょ、ちょっと!」凛は慌てる。
「無理は良くないって。途中まで送ってやるから」健人は凛を抱え上げたまま歩きだした。
凛は何も言えずに俯いた。