第五章 出現4
「ウォォォォォォォ!」
ターゲットは何の迷いもなく、一直線に凛へと向かって突っ込んでくる。
刹那。凛は思考する。
ナイフでの攻撃は大別すると斬る、突く、投げるの3パターン。ターゲットはナイフを腰当たりに両手で持ち、重心を低くしての勢いのある突進。これは間違いなく突きでの攻撃。この場合のは――横へ避ける!
凛は真っ直ぐに進んできたナイフをギリギリのところで横へとかわし、目標を失ったターゲットの背後から一瞬で間合いを詰める。
そして、ターゲットが後ろに振り向くと同時に、凛は顔面目がけて渾身のハイキックを放った。
ドンッ!
「――っ!」攻撃をまともに受けたターゲットは、言葉にもならない声を発するがまだ倒れなかった。
しかし、相手が一瞬ひるんだのを見逃さなかった凛は、更に間合いを縮めてターゲットの右手を思い切り蹴りあげた。
宙に舞うナイフ。
高い音を立ててアスファルトに落ちたナイフは、車の陰へ滑っていった。
「フゥー……、フゥー……」荒い息遣いのターゲットは、凛に蹴られた頬辺りを両手で押さえている。
「次はどうするのかしら?」凛は軽く微笑む。
ターゲットは凛の挑発に乗るかのように、また突進していき左右のパンチを連打する。凛はそれを後ろへ下がりながら、軽々と捌いてゆく。凛はターゲットの何発目かのパンチを完全に見切ると、しゃがんで相手の懐に潜り込み、みぞおち目がけて膝を突き立てる。
「うっ!」たまらず声をあげるターゲット。
凛の放った膝蹴りはクリーンヒットだった。凛は手応えを感じて、勝利を確信した。いや、してしまった。
この凛の過信が油断に繋がった。ターゲットは膝を腹に食らっても諦めていなかったのだ。
ターゲットは息ができぬ苦しみを必死に耐え、凛の脚を抱え込む。
「なっ――!」
ターゲットは全体重をかけて、凛を地面に叩きつける。
凛はしまったと思ったがすでに手遅れ。ターゲットの完璧なマウントポジションが完成してしまった。まさかの形勢逆転。
凛はもがいて何とか抜け出そうとするが、相手はびくともしなかった。
ターゲットはにやりと口許を歪め、右手をポケットに入れた。そして、そこから取り出したのは――。
「に、2本目のナイフ……」
凛は青ざめた。
ターゲットは取り出したナイフを両手でしっかりと握ると、ゆっくりと上へかざしていった。