第五章 出現2
凛は閑静な住宅街の暗闇にまぎれていた。レインボウの会議で決定された通りに、ターゲット監視の任務に当たっているのだ。
しかし監視をしている凛は、集中力が散漫になっていた。失敗からくる負のサイクル――であろうか。
凛は他のエージェントの事を考える。
若葉には恐ろしいほどの戦闘センスがある。
ニルには全てを見透かすかのような頭脳がある。
ビービーには人体には理解しがたい腕力がある。
皆、何かしらのスペシャリストなのだ。凛は良い意味でも悪い意味でも、中途半端なオールマイティー。
「私は駄目ね……」凛は自虐的につぶやく。
天性の才能にはやはり適わないのだろうか。いくら努力しても天才には追い付けないのだろうか。
凛はただひたすらに思考した。
その時、監視していた家から誰かが出てくる。
凛はハッと少しだけ驚き、腕時計で時間を確認する。
――22:10。
凛は携帯電話を取り出し、ターゲットが動いた旨のメールを若葉にする。指は動かすが、目でターゲットを追っていた。
凛はメールを打ち終え送信すると、携帯電話を仕舞い追跡を開始した。
ターゲットの出で立ちをよく見ると、ジョギングに行くような動きやすい格好をしていた。ただ、フードを深々とかぶり顔までは確認できない。それと、今までの事件の凶器に該当するナイフの所存が分からない。ポケットに突っ込んでいる右手に握っているのだろうか。凛はそう予測した。
ターゲットはジョギングしていますと言わんばかりに、軽めに走りだした。
しかしキョロキョロと辺りを見渡しながら走る姿は、あきらかに不審だった。獲物を探しているのだろうか。
夜中のジョギング。ターゲットは公園やら空き地やらを通過し、小学校に到着した。
凛は考える。今のような遅い時間に子供が1人でいることは滅多にないが、その稀なケースに当てはまる子供がいないか徘徊しているのだろうか?
例えば近所にある友達の家から帰宅する子供。
例えば忘れ物を学校に取りに戻る子供。ターゲットはそういった子供を狙っているのだろうか。小学校の確認が終わると、ターゲットは再び走りだした。
もうジョギングを始めてから、30分くらいたっただろうか。ターゲットは軽快に人気のない道をゆく。
凛はターゲットに見つからないよう、距離を保ちつつあとをつけた。
しばらくすると、ターゲットはマンションで足踏みをしたまま止まる。
マンションの1階には男の子がひとり。親でも待っているのだろうか。いや、この場合重要なのは男の子が何をしているかではなく、ひとりかどうかである。
ターゲットは男の子がひとりなのを確信したのだろうか、足踏みをやめた。
そして、ポケットから白々と光るナイフを取り出した――。