第五章 出現1
出雲元気が襲われた事件からすでに1週間が過ぎていた。
未だに通り魔は捕まっておらず、世間の人々は不安な日々を送らなければならなかった。しかし、警察と第三機関のエージェントであるレインボウは捜査の手をゆるめてはいない。
朝比奈凛を含めたそのレインボウの4人が、とあるビルの薄暗い会議室に集まっていた。
「ねえ、若葉。何度も聞くようだけど、その調査内容に間違いはないんだよね?」白髪で容姿端麗の青年が言う。
「大丈夫だよNILちん! 調査は完璧にやったよ! もう犯人はアイツで決まり!」若葉はテーブルから身を乗り出して、人差し指を立てる。
「そうね。私も間違いないと思うわ。あとは現場を押さえるだけかしら」凛はニルを見ながらクールに言う。
「しかし、犯人はまだ動く気配がないようだな」スキンヘッドで顔面傷だらけのいかつい男が口を挟んだ。
「B.Bの言うようにヤツはまだ動く気配がないが、今まで通りに監視は続けてもらうよ。朝から午前0時までを凛、残りの深夜から朝までの夜間分を若葉で監視……ま、変更はなしって事でいいかな?」ニルが提案する。
「若葉ちゃんはそれでいいよ! 他の3人はミッションで海外に行っちゃってるし、ニルちんもビーたんも他の事件で忙しいでしょ!?」
「ま、結局はそういう事なんだけど」ニルは微笑む。ビービーも頷いた。
「しかし、朝比奈。お前はロキを取り逃がしてるんだ。もうヘマはできんぞ。分かっているな?」ビービーは厳しい表情で凛に顔を向ける。
「ビービー。あなたに言われなくても分かっているわ」凛は目を閉じたまま答える。
会議室は少しのあいだ静けさに包まれた。
「じゃあ、通り魔事件については僕がさっき提案したので決まりね。総帥にはそう伝えておくよ」ニルは優しい口調で言ったあと、椅子から立ち上がる。
「かいさーん!」若葉はぴょんと勢いよく席を立つ。それに合わせるかのように椅子を引いたビービー。
これにてレインボウの会議は終了したようだったが、凛はまだ椅子に座っていた。
他のエージェント達が会議室から出ていったあとも、凛だけは残っていた。
「もう私は失敗はできない……」凛は一人つぶやく。
凛は精神的に追い詰められているようだった。その原因はやはり怪盗ロキの件である。ロキの巧みな話術と意表を衝いた策略によって、初めての敗北を味わってからだった。
私が劣っているわけではない。相手が一枚上手だったのだ。そう自分に言い聞かせ新たなミッションに励んできた凛だったが、どうやら初めての挫折はかなり尾を引きずっていた。
凛は薄暗いままの会議室で、ぼんやりと天井を見上げる。
「通り魔は必ず私の手で捕まえるわ……」
凛は自分自身に誓い、最後に会議室を後にした。