第四章 対策3
小休憩を終えた俺達は、ようやく目的地に到着する。4階の文房具店だ。混雑したデパート内でも比較的ここのエリアは人が少なかった。
俺は朝比奈の後姿を見ながら考える。
何で折り紙を買うだけで、ここまでの労力を使わなければならないのか。もしかすると星は俺のことを――疲れさせようとしているのだろうか。
「そんな事をしてどうする」俺は自分でツッコミをいれる。
「敷島くん何ボソボソ言ってるの? 早く折り紙探そうよっ!」星はふわふわのスカートをひらりとさせ、店内に入っていく。
「そうだな」俺はさっさと済ませたほうが良さそうだと思った。
店内は様々な種類の文房具であふれ返っている。しかも色違いのバージョンも豊富で、店内は鮮やかな色彩を放っていた。あきらかに学校前の、こじんまりとした店とは品揃えが違うと一目でわかる。
「さて折り紙だったな……」俺は歩きながら周辺を探す。
「わぁー!」星の驚くような声。今度は何だ。俺は星の方へ歩み寄る。「敷島君! 見てこれ!」
目の前に差し出されたのはブタ。いや、不細工なブタの消しゴム。
「これチョーかわいくない!?」星が目を輝かせている。
「あ、あの……星さん」俺は片手をあげる。
「うわぁ! こっちにカエルバージョンもあるっ!」騒ぎながら店内を物色する星。
俺の話をまったく聞こうとしていないな。仕方がないので俺は一人で折り紙を探す。
店内はそこまで広くはないので、すぐに紙類のコーナーは見つかった。
「えーっと、模造紙……ノート……単語帳……お、あった」俺は折り紙を手にとる。
色々な種類があったので見比べると、一番安いのは100枚入り190円のやつだった。
俺は折り紙の袋を10コほど手にすると、レジにいるおばさんのところへ向かう。
おばさんに折り紙を手渡し、すぐそばで奇声をあげている星を見る。
「おーい、会計」
「ふぇ!? あーゴメン! ゴメン!」星は振り向くと慌ただしく駆けてきた。
溜息をつく。お前はここへ何をしに来たんだよ。俺は心の中で呟いた。
4階で買い物を終えてからも幾度と星の行動に振り回されたが、どうにかデパートを抜け出すことができた。
「楽しかったねー」星は笑顔で言う。
目的は楽しむことでなく、折り紙を買うことだと思ったが。
「鶴を折るのは手伝うよ」俺はいう。
「うんうん、よろしくー」星は笑む。
「じゃ、またね。俺んちコッチのほうが近いから」俺は来た道と違う道路を指差す。
「えー! 送ってくれるって言ったジャン!」星はボリュームを大にして言う。
「俺そんなこと言ったか?」
「言ったよー。敷島君って私にウソついたのー?」星は頬をぷくーっと膨らます。
本当に記憶がないのだが、星がここまで言うからには言ったのかも知れない。
「それに敷島君は、私が通り魔に襲われてもいいって言うのー?」
朝比奈の話だと通り魔は小さな男の子しか狙わないといっていたが、確定的な情報ではない。突発的に女の子が刺されるかもしれないしな。
「わかったよ。家の近くまでな」俺はしぶしぶ承諾する。
「約束は約束だもんねっ!」
約束した事は未だに思い出せなかった。