第一章 遭遇1
今日の朝刊の一面記事は、おそらくどこの新聞社も同じだっただろう。
『怪盗ロキまた現る!』
『怪盗、世界的宝刀を盗む!』
そのような文句をでかでかと載せた怪盗の紙面で埋め尽くされた。
もちろんテレビもリモコンで一通りチャンネルを変えてみたが、どこも一緒だった。
他社とは違ったことをしてやる!っていう、粋なマスメディアはいないのかねえ。
「おはよー健人!」
誰かに名前を呼ばれた。
そう、俺の名前は敷島健人。東京都内の私立高校に通う17歳だ。
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群のスーパー高校生――、と勝手に思っている。
ただ朝には滅法弱い。だから今こうしてボーっとしながら通学を――。
「おい、健人! おはようってば!」
朝から面倒な野郎に会っちまったぜ。こいつは同じクラスの出雲元気だ。
背は小さく、少年のようなあどけない顔立ちで、頭はあまりよろしくない。
まぁ、名前の通りにいつも元気でイイやつなんだが……正直、朝はノーサンキュー。
「ああ、元気か。おはよう。ちょっと声のトーンを下げてくれないか」
「ねぇ、健人見たかよ! 怪盗ロキがまた出たってよ!」
こいつ、全然人の話を聞いてないようだ。
「お前、よく朝からそんなに興奮状態を保てるな」
「だって怪盗ロキだよ! すっげーよな! これで世間に現れたのは通算10回だね!」
元気は屈託のない笑顔で、両手のパーを俺に見せる。
「ふーん、お前ってロキマニアだったの?」
「そうだよ! 20年前に突如現れ、価値ある美術品を盗む正体不明の大盗賊! 昨日は、712日ぶりの登場だったね!」
まぁ、よくそんな細かいことまでご存知ですね。正真正銘のマニアだな。
やっぱり朝から元気君は辛いなぁ。
おそらくコイツは学校に着くまで延々と怪盗ロキについて語っているだろう。
適当に「へぇ」とか「ほぉ」とか言っておくか。
学校までの道のりが果てしなく長く感じる。