第四章 対策1
チクタクチクタク――。
目覚まし時計が静かに音を刻む。
俺は目が覚める。しかし布団からは出ない。頭だけ動かし時計に目をやる。午前10時30分だった。
なぜ、俺がこんなにゆっくりしているかというと今日は休みだからだ。
朝の弱い俺にとって、このように布団の中でまったりすることは、一番の至福のときなのだ。
10分程まったりした後、俺は足が痺れているかのような、ゆったりとした動きでベッドから出る。
「んっ……」俺は背伸びをする。何気なく携帯電話を手にとると、不在着信が3回。
時間は8:53と9:12と9:56の3回。すべて、星七美によるものだった。
何かあったのだろうか。電話をかける。
トゥルルルル、トゥルル――ガシャ。
「お客様のお掛けになった電話番号は、現在使われていません」と星の声。
「すみません。間違えました」俺は切ろうとする。
「ウソ! ウソ! 冗談だよっ! おはよー敷島君」電話の向こうで慌てる星。
「おはよう。で、どうしたの?」俺はボサボサの頭を掻いた。
「敷島君、暇?」
「まあ、特に用事らしき用事はないけれど」
「じゃ、決まり! 買い物付き合って!」
「え、買い物?」
「ちょっと元気君のために買いたいものがあるのよー」星がいう。一体、何を買うのだろうか。
「うーん。今起きたばかりだけど、まだ大丈夫なの?」
「いいよっ! 敷島君が準備できたら出掛けるから! 準備できたら電話してねー」
ツーツーツー。
何だか分からんが、取り敢えずシャワーでも浴びて準備するか。
俺はシャワーから上がり、そろそろ準備ができる旨の連絡を星にすると、俺の家の近くの公園で待ち合わせるとのことだった。
「よし。忘れ物はないな」俺は確認をすると家を出た。
すると、家を出てたった5メートル程度で足止めを食らう。
「敷島健人……君かな?」そう誰かに名前を呼ばれ、俺は振り向いた。
坊主頭の無精髭を生やした、トレンチコートのオッサン。上を向かなければ会話できないほど長身だった。
「大和刑事、でしょうか」俺は昨日見たオッサンだと認識する。
「へぇ、俺の名前をよく知っているな。出雲元気に聞いたのか」そう答えた大和刑事はその容姿に見合った、低音のよくきいた太い声をしていた。まぁ、逆に甲高い声だったら引くだろうが。大和刑事は続ける。「事件のことについて少し聞きたいのだが、少しいいかね」
刑事はメモを取出した。事情聴取というヤツだろうか。
「人と待ち合わせているので、ちょっとの間ならいいですよ」どうせ断っても断れないのだろうと俺は思い、諦めた。
「出雲君が刺された日の夕方、学校のクラスメイトと出雲君の家に行ったみたいだが、家の周辺に不審者とか見なかったかい?」刑事は自分の顎を撫でながらきく。ジョリジョリという音が不快だった。
「いなかったと思いますが」俺は答えるが、あまりよく思い出せない。
「そうか。出雲宅から帰るときも同じか?」
「ええ。特に不審者らしき人物は見かけませんでしたけど」
「なるほど。それから、元気君は刺される直前に君と電話していたみたいだが、何か変わったことはに気が付かなかったかね?」
俺は思い出す。確か話した内容はレインボウのことだったか。会話内容もこの刑事は知っているのだろうか。
「いいえ。元気は家の中から携帯電話を掛けていたようで、特に変わったことはありませんでしたよ」
「ふむふむ。協力ありがとう、敷島健人君」と大和刑事が言うと、メモをポケットにしまい込みながら忠告する。「これからお出掛けか? あまり遅くならないようにな。まだ、通り魔は捕まっちゃいないんだ」
「ええ、充分気を付けます」俺がそう言うと刑事は去っていった。
ああやって刑事達は、どんな些細なことでも聞きに回るのだろうか。それにしても、この事件に関してはレインボウが動いているはず。警察とレインボウは協力関係にあるのだろうか。それとも、それぞれ別々の行動をしているのだろうか。そこら辺は俺には分からなかった。
腕時計を見る。
俺は星を待たせてはいけないと思い、急ぎ早に公園に向かった。