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第三章 意識5

元気が運ばれた文京区にある大学病院は、都心であるにも関わらず広大な土地を有し、そのあまりの広さに初めて行こうものならば迷子になりかねなかった。

実際に昨日俺が元気の凶報を受けて、この大学病院に駆け付けた時は焦っていたこともあってか、同じ道を行ったり来たりしたような気がする。

だが、今日は大丈夫だろう。初めて訪れるわけでもないし、気持ちも落ち着いているからだ。



病院内。ピカピカに清掃された床の上を三人が行く。

「もうそろそろ着くよ」俺は朝比奈と星を見て言う。

元気の病院室が見えたところで一旦立ち止まり、途中で買ってきたフルーツを確認する。

その時だった。

元気の病室のドアが開き、中から一人の中年男性が出てくる。


やけに背が高く頭は坊主で、日に焼けた肌の浅黒さと口許の無精髭が印象的だった。

男は丈の長いベージュのトレンチコートをドアに挟まないよう気を付けながら、病室の扉をゆっくりと閉める。

どうやら、こちらの存在に気付いたようだったが、男は無言で立ち去っていった。

「室内でもコートを着ているなんて不作法ね。それよりも、あの髭のオジサン誰かしら……」星が言った。けれど誰も答えを知らないので沈黙した。



病室をコンコンとノックすると、「はーい。どうぞー」と元気ママの声が聞こえた。

「失礼します」俺たち三人の声がシンクロしたが、別に打ち合わせたわけではない。


「けーんーとぉー!」


元気は俺の名前を叫ぶようにして言ったあと、「あいててて……」と顔を歪めた。

「おいおい、無茶するなよ」俺は苦笑いした。

「凛ちゃんに七美ちゃんも来てくれたんだ!」嬉しそうな元気。

「出雲君、早く良くなってね」と朝比奈。

「元気君が学校に来ないと寂しいよ」星がいう。

「何より元気が無事で良かった」俺は元気の頭に手を添える。元気は少しだけ泣きそうな顔をした。生きていることを改めて実感したのだろうか。



俺たちはフルーツを元気ママに手渡し、各々は椅子に座った。「そういえば、さっきこの部屋を出ていった髭面のオジサンを見かけたんだが、あれは誰だ?」俺は元気にきく。

「大和さん? 大和さんは刑事なんだよ!」元気は寝ながら答えた。

警察か。当然といえば当然か。警察が動かないわけがない。

「やっぱり何か色々と聞かれたの?」星がきく。

「色々聞かれたよ! 例えば犯人の特徴とか、どういう風に刺されたかとかさ!」元気が答える。

「へえ。ドラマでしか、そういうの見たことがないな。で、元気はなんて答えたの?」俺は情報を知りたくて誘導する。

「犯人の特徴って言われても、僕は見ていないんだよね。後ろから羽交い締めにされて、刺されただけだから」

後ろから羽交い締めか。元気は見た目は少年のようだが、仮にも男だしそれなりに力はある。犯人は男だろうか。



朝比奈は黙って聞いているだけだった。俺は時計に目をやる。まだ時間はたっぷりとある。何か有力な情報はないのだろうか。

元気に負担が掛からないよう気を付けながら、俺はそれを引き出そうと模索した。

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