第三章 意識4
翌朝。俺は教室内に入り、一通り挨拶を済ます。すでに学校に来ていたやつらは、通り魔の話題で持ちきりのようだった。なんせ先日の通り魔事件のことは、全国ネットで流れていたようだったし、被害者がうちのクラスメイトということもあり尚更だった。
「星さんおはよう」俺は自分の椅子を引きながら言う。
「あ、敷島君おはよ」星は無理やり笑顔をつくった。やはり元気が通り魔に襲われたこともあり、星は精神的にショックを受けている様子だった。
「ねぇ、敷島君……。私が歓迎会したのがいけなかったのかなあ。元気君があんな時間にコンビニ行ったのは、私のせいかなぁ……」星はうっすらとだが、目に涙をためていた。
「そんな事はないさ。元気のやつ、歓迎会は大賛成だったみたいだし。それにアイツがコンビニ行く時間なんか、星さんは全然関係ないと思うよ」俺は気を使う。
「そうかなぁ……」星はまだ思い悩んでいる。
「実は昨日、元気のお母さんから電話あってさ。元気、意識が戻ったんだって」
「え! ほんと!?」急に起立する星。
「ああ、本当だよ。もう学校に行きたいなんて言ってるらしいよ」俺は笑ってみせる。笑顔はあまり上手なほうではないが。
「よかったぁ……」星は胸の辺りを両手で押さえた。
「それで今日の放課後なんだけど、星さん一緒にお見舞いに行かない? 元気のお母さんの了解も得たし」
「うん。私も行きたい!」
「じゃあ、決まりね」俺はそう言いながら時計を見る。そろそろ朝比奈がくる時間だろう。そう思っていると、予想通り栗毛の美少女が教室に入ってきた。
「おはよございます」朝比奈は皆に挨拶をして自分の席に着く。チャイムが鳴るまではまだ時間があるし、俺は彼女を見舞いに誘おうと席を立つ。
「おはよう朝比奈」
「おはようございます。敷島君」上品に微笑み挨拶を返す朝比奈。学園モードにスイッチが入っている。
「今日の放課後、元気のお見舞い行こうと思うんだが、朝比奈くるか?」俺はそこまで言うと、朝比奈の耳に顔を近づけ囁く。「元気が通り魔の情報を、何か知っているかもしれないだろ」
彼女の動きが一瞬停止し、何かを考えた様子だったが、再びスイッチがオンになる。
「私も行っていいなら行きます」俺が囁いたことについては、聞こえない振りをする朝比奈。
「わかった。じゃあ放課後な」俺はそう告げて自分の席に戻った。
チャイムが鳴り、武藤が入ってくる。
「オラァ、席に着け」
また、いつも通りの光景。ただ元気がいないだけ。
そんな朝のホームルームが始まった。