第二章 後悔5
毎度のことだが俺はスッキリとしない朝を向かえ、勉強道具をバッグに詰め込んで家を出た。
公園を過ぎ、交差点を過ぎ、ここの道をずっと真っ直ぐ行って、突き当たりを左に曲がれば我が高校の正門が見える。あれ? 今日は元気に会わなかったな。珍しいこともあるもんだ。
俺は教室の戸を引き「うぃーっす」と教室内に向かって挨拶をして自分の席に座る。
「おはよー、敷島君」隣のメガネっ娘は学校にくるのがいつも早い。
「星さん、おはよう」俺はバッグから勉強道具を出す。
「昨日はありがとね。歓迎会」星は笑顔で言う。
「ああ」
「ちゃんと朝比奈さん送った?」
「途中までな」
「今度私も送ってね」星が笑いながら意味不明なことを言う。
俺は「ああ」と適当にあしらっていると、朝比奈が教室に入ってくる。
「星さん、敷島君、おはようございます。昨日はどうもありがとうございました」朝比奈はペコリと頭を下げる。
「気にしないで。それより、また今度遊ぼうね」星が言う。
「うん!」朝比奈は、飛びっきりの笑顔で返事をした。
チャイムが鳴る。あれ? 元気がまだ来ていない。遅刻か休みだろうか。
「オラァ、席に着け」武藤が入ってくる。「はい、おはようさん。えーっと、出雲元気なんだが、本日は休みだ」
なんだアイツ休みかよ。昨日はピンピンしていたのに。
「実は大変なことになった。出雲は昨夜コンビニに行く途中、何者かにナイフで刺されて意識不明の重体だそうだ。今は文京区にある大学病院で――」
ガタッ。倒れる椅子。飛び出す俺。
「お、おい! 敷島!」武藤の声は俺の耳には届かなかった。
――バンッ。
勢いよく病室の扉をあける。
「はぁ……はぁ……」
目を閉じる元気。口には酸素マスク。横に座っているのは元気ママ。あの優しい元気ママが――、泣いていた。
ドクン――。
ゆるせない。
ゆるせない。
ゆるせない。
誰だ、
元気を、
こんなに、
したのは。
ゆるせない。ゆるせない。ゆるせない。
ぶっ殺してやる。
「健人くん……、落ち着いて。とりあえずその涙を拭きなさい」俺は元気ママの声に正気に戻る。
「一応ね、手術は成功したみたい。まだ意識は戻らないけど。元気は――、元気は運がなかったみたい」元気ママは気丈に振舞う。
「昨日の夜、健人くんと電話していたのかな? そのあと元気はコンビニ行ってくるって、その直後だったみたい。腰あたりを刺されたの」
これ以上元気ママの痛々しい姿を見ていられず、俺は返事をすることのない元気に「またな」と挨拶をして病室を後にした。
やり場のない怒り。壁を一発ぶん殴る。
俺が裏組織について調べさせたのがいけなかったのか。だとしたら元気を刺したのは、アイツらか。俺は元気に情報を漏らしたことを激しく後悔した。