第二章 後悔4
俺は帰宅するとベッドにダイヴした。ベッドのスプリングが音を立てながら数回跳ねると、静止した。
朝比奈のことを考える。
俺たちに近づいたのは、何か目的でもあるのだろうか。それともただの気まぐれなのだろうか。思考すれば思考するほど、真意は遠ざかっていくようだった。
まぁいい。明日には元気が朝比奈の組織についての、何らかの情報を調べ上げてくるだろう。元気は頭が弱いがその手のことなら信頼できるはずだ。
俺はベッドの上で仰向けになる。ちょっと疲れたな――。
ピピピピピピピ――。
「うわ、しまった。朝か」俺は目覚まし時計を止めようと手を伸ばしたところで、電子音の音源が時計でないことに気付く。時計の針は夜の二十二時を過ぎていた。どうやら俺は少しまどろんでしまったようだ。
俺は机の上を見る。電子音を発しているのは俺の携帯電話だった。
「もしもし」俺は電話を手にとる。
「健人、こんばんは!」と元気少年。こいつはいつも声がでかいな。俺の携帯電話の設定は、通話音量3のはずだが5くらいの大きさに聞こえる。
「どうしたんだ。元気」
「今日の朝の話だよ! 健人に頼まれた裏社会の組織のこと!」
「おう、どうした。何か分かったのか」
「分からない!」きっぱり言い切る元気。俺はずっこける。
「何だよ。分からないなら電話じゃなくても、明日学校で言えばいいだろ。じゃあね、また明日な」俺は電話を切ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ったぁ! 切らないで! 切らないで!」
「何だよ。まだ何かあるの?」
「さっき分からないって言ったけど『詳しくは分からなかった』が正確かな!」
「ほう。じゃあ、聞こうか」
「組織からの面で調べたら、ちょっと分からなかったんだけどね。健人が言っていた凶暴な迷彩服の少女――、こっちの面から調べたらヒットしたんだ!」
「で、どうだった?」
「その少女は多数の目撃情報があって、楽しそうに独り言を言っているところを目撃した人もいる」
「迷彩しているのに、そんなに目撃されていちゃあ意味がないな」
「まぁ、そこが彼女のお茶目なところかな。おそらく彼女の名前は『若葉』だと思う。推定年齢十二歳。身長約百四十五センチ。迷彩服を好み、ありとあらゆる迷彩服姿を目撃されている。その小さな身体に似合わず、桁外れの運動神経と戦闘能力を有している。そして若葉を含めメンバーを総称して『RAINBOW』と呼ぶらしい。この名称は、所属するメンバー七人のコードネームの頭文字をそれぞれ取って名付けたみたい。若葉は『WAKABA』だから『W』ってことかな。以上! こんなところだよ!」
「結構調べてくれたね、元気。ありがとう」俺は礼を言って携帯電話を切った。
ふーん、なるほど。若葉が『W』なら朝比奈凛は『R』か『A』だろうか。正体不明の集団レインボウ――、彼女らは一体何が目的なのだろうか。
そしてこの時ある事件が起こっていた。俺はそのことを知らずに、のうのうと眠っていたかと思うと、自分が情けなく無力に感じた。この事件は翌朝発覚することとなる。