自らの力を強化しつつもちゃっかり新しいおもちゃを手に入れる古妖精のお話。
美しい湖で妖精の羽が煌めいた。その妖精は他の可愛らしい手のひらサイズの妖精達と違い、成人男性のような姿。美しいその男が妖精だとわかったのは、その羽故だ。
エリーズはその光景に、ただ釘付けになった。
「…おや、お客様かな?」
古妖精ルー。妖精の森が人間たちにより切り開かれ、住む場所が減り力が弱くなり段々と姿を小さく変えていく妖精達のなかで唯一彼だけはその姿を保っていた。
「俺は古妖精ルー。君は?」
「…エリーズと申します。妖精王様、どうか私の魂と引き換えにお怒りをお鎮めください」
エリーズは、18歳の孤児だ。赤子の頃から孤児院で育った。
「んー…色々と言いたいことと聞きたいことがあるけれど…君の魂と引き換えにって?」
「私は生贄として参りました。どうか」
エリーズの国は妖精の森を切り開いてから、天変地異に襲われた。理由を追求し、妖精王が怒った結果ではないかと結論が出た。そこで、生贄を差し出すことにした。
その生贄に立候補したのがエリーズだ。生贄の家族には報奨金が出る。孤児院のみんなはエリーズにとって家族。その助けになりたい一心だった。エリーズは、孤児院に報奨金が渡されたのを見届けて妖精の森の奥地へ来た。もう覚悟は出来ている。
「…悪いけれど、俺は力が一番強い古い妖精だけれど妖精王ではないよ。妖精王様は自然に還帰られた。君たちが妖精の森を切り開くから無くなってしまった、この森の魔力の根源の代わりになったんだ。君たちの国に天変地異が起こるのはその余波。俺たちがなにかしているわけではない。生贄を差し出すのは無駄でしかない」
「そんな…」
もしエリーズが役目を果たせないと知られたら、怒った国から孤児院のみんなに何をされるかわからない。
「ああ、そんな顔をしないで…大丈夫だよ、エリーズ。一つ君たちの国の天変地異を防ぐ方法があるんだ」
「方法?」
「そう。君が俺と契約すればいい。そうすれば俺は妖精王様に匹敵する力を手に入れられる」
妖精との契約。それは自らの魔力を命が尽きるその時まで奪われ続けるというもの。その人間が死んでも、一度契約を結んだ妖精は手に入れた力は失わない。人間の方は、ただ死に行くだけ。
魔力は生命の根源ともいえる。それを奪われ続けるのは直接命を奪われるより、永く苦しむことになる。
「契約してください、ルー様」
それでもエリーズは、孤児院のみんなのためにと小さな腕を差し出す。ルーはその細い腕に契約印を彫み込む。それはかなりの痛みを伴ったが、エリーズは耐え抜いた。
「ああ、ありがとうエリーズ。力が漲るよ。よし、君の国を助けてあげよう」
ルーは惜しげも無く魔力を使い、光の結界をエリーズの国に張った。
「これで君の国は今後千年は安泰だよ。天変地異どころか病気も事故も起こらなくなる。みんな幸せに暮らせる楽園になったよ」
「ありがとうございます、ルー様」
「同じ結界を妖精の森にも張ろう」
ルーは妖精の森にも同じ結界を張る。
「君たちに切り開かれた部分は捨てて、残った森に結界を張った。これで妖精の森も大丈夫。妖精王様のお力もあるから、妖精達もすぐに力と姿を取り戻すだろう。俺はきっと新しい妖精王に選ばれるね」
ご機嫌なルーに、エリーズはほっとする。これでお役目は果たせた。もう思い残すことはない。
「けれど。せっかく可愛い子を見つけたんだ。俺のお嫁さんにしたいな」
その言葉にエリーズはなんのことかと首をかしげる。
「国の為に全てを捧げた愚かで可愛い可哀想なエリーズ。俺のお嫁さんになってよ」
エリーズはその瞬間、意識を失った。
目が覚めたエリーズは、あたりを見回す。そこは美しい湖。湖の〝中〟にエリーズはいた。不思議と息は苦しくない。
「やあ、お目覚めかな?新しい妖精の誕生をここに祝福しよう!」
新しい妖精と呼ばれて、エリーズは自分の身体を見る。背中に透明な美しい羽が生えていた。意識を失っていた間に身体を作り変えられていたらしい。しかし、エリーズは元から生贄になる気でいたのでなんとか正気を保つ。新しい妖精王が自分を作り変えたいと思ったなら仕方ないと。
「改めまして、俺は妖精王ルー。よろしくね、俺の妃」
新たな妖精王は、可愛いおもちゃが手に入ったとただ無邪気に喜んだ。エリーズは、あれだけ痛かった契約印が無くなった己の新しい身体を受け入れるまでまだ時間がかかりそうだった。




