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根暗な少年と幽霊な少女


「もうこんな時間か」


 保健室を出て校門のそばまで来たところで、スマホを開いて時間を確認すると、もう午後3時前であった。

 昼飯を食っていないせいか、とてつもなく腹が減っている。


 スマホには母親から「まだ帰ってこないの?」「おーい」「昼飯作ったんだけど?」「玄関にバット置きっぱなしだったわよ」などという15件のメッセージと5件の着信履歴が残っていた。


「やばい、連絡するの忘れてた」


 俺は目を瞑り、そっとスマホの電源を落とす。

 まあ、充電切れと先生が倒れたことを言えば、何とかなるだろう、多分。


 現実逃避をしたところで、学校の外へと力強い一歩足を踏み出した。あと今気づいたが、野球のユニフォームのままである。

 普通に恥ずかしい。


「ねえ聞いた? なんか最近この辺りに幽霊が出るんだって。しかも真っ昼間に」

「え、どういうこと? それほんとに幽霊なの?」


 校門を出てすぐのことだ。女子高生二人組が楽しげに会話をしながら、目の前を通り過ぎた。

 声がでかいため、聞く気がなくとも、会話の内容が耳に入ってくる。


「見た友達が言うには、中学生くらいの女の子の幽霊で、一度目を離したらいつのまにかいなくなってるらしいよ」

「えー、こわーい」


 本当に怖がっているなら、もっとリアルに怖がって欲しいものである。


『クエスト"幽霊の正体見たり?"発生。難易度S。クリア条件、制限時間内に、対象に触れること。受注しますか?』


 難易度Sってなんぞよ? 受けるわけなかろう。


『クエスト"幽霊の正体見たり?"、受注完了。残り時間、3時間00分00秒』


 クーリングオフお願いしまーす。





『残り時間、2時間00分00秒』


 改めて言おう、無理ゲーである。


 真夏の晴天の下、俺は学校近くの公園のベンチに座り、さっき自販機で買った水を、自らの乾いた喉に流し込んでいた。

 暑い、熱すぎる。


 かれこれ一時間学校近辺を走り回っていたわけだが、幽霊の手がかりひとつ見つからなかった。

 というか、このクエストを行うにあたって一つの障害があった。聞き込み、である。"探し物"、"探し人"クエにおいて、聞き込みは、最も重要な要素と言っていい。


 だから、俺も当然、近くの人に幽霊について聞こうとした。

 だがここで、一つの疑念が頭に浮かんだ。

 はたして、聞き込みを行った相手は、クエストに協力したとみなされるのか、と言う問題である。これがイエスだった場合、不特定多数の人間に報酬が渡ることになる。

 しかも、今回はSランククエスト。おそらく、貰える報酬は、元から持っていた、などと誤魔化せるレベルではないはず。

 そういった、不確定ながらも危険を孕む可能性がある時点で、聞き込みなどできるはずもなく。

 俺は、自力で幽霊を探すことにしたわけだが、まあ当然見つかることは無かった。


「何かお困りですか?」


 落胆して俯いていた俺の耳に届いたのは、幼い少女のような声だった。

 幼い少女にしては、丁寧な言葉遣いだな。


 そんなことを思いながら顔を上げると、視界に入ってきたのは、中学生くらいの顔立ちをした女の子だった。

 女の子は膝を少し曲げて覗き込むような体勢だったため、思ったよりも顔が近かった。


「っ!?」

「す、すいません!! 心配だったもので、近付き過ぎてしまいました!!」


 白いワンピースを着た少女も、距離のおかしさに気がついたのか、飛び跳ねるように俺との距離を置く。

 そんなに離れられると少し傷ついたりする。


『中学生くらいの女の子の幽霊で』


 そういえば、校門前ですれ違った女子高生は幽霊についてそんなことを言っていなかっただろうか。

 だとすると、まさかこの子が。だが、幽霊にしては、はっきりと見えすぎな気が。


「大丈夫ですか? なんだか顔色悪いですけど?」


 幽霊ですか? と聞くのはやはり失礼だろうか。


「もしかして、熱中症だったりしますか? あ、そうだ、先ほど親切なおじさまから塩飴をもらったので、ぜひ食べてください!」

「いや、えっと」


 気づけば、俺の手には、"塩分ぎっしり!!"と書かれた一粒の飴が握らされていた。

 どうやらこの子、かなりグイグイくる感じの子のようだ。


「熱中症には、水と塩分が大事なんです! 私、知ってます!」


 俺も知っている。


 せっかくいただいたので、俺は塩味の飴を口にポイッと放り込む。

 ......しょっぺえ。


「どうですかどうですか!! 熱中症治りましたか? 塩分取れましたか?」


 残念ながら、そう簡単に熱中症は治らない。


「ありがとう、すっかり治ったよ、もう大丈夫」


 だが、時と場合によっては治る時もある。


「おお、それなら良かったです! お大事になさってくださいね!」

「うん、お大事にします」

「はい!」


『残り時間、1時間50分00秒』


 視界の隅に表示されているカウントに目を向けると、さっき見た時からちょうど10分が経っていた。

 さて、どうするか。


「あ、そうだ!」

「?」

「秋葉原ってどこか知りませんか?」


 ......パードゥン?



今までのクエスト報酬:メモ帳、木製バット、風邪薬

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