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幽霊見たり、状況悪化の道を辿る


 埼玉県某市内。

 もうすぐ八月に入る夏の晴れた日。一人の可愛らしい少女が、車や人が行き交う街中を歩いていた。

 その少女は、何かを探すように視線を彷徨わせていた。


「ねえ見て、あの子可愛くない?」

「わ、ほんとだ。肌真っ白で羨ましい」


「ちょっとお前声かけてこいよ」

「いや流石の俺でも、中学生に声かける勇気はねえわ」


 暖かな小麦色の髪を腰の辺りまで伸ばし、身長はおよそ百四十センチくらい。

 きっと将来は別嬪さんになるんだろうな、と年寄り臭い事を誰もが考えてしまうくらいには、見目麗しい少女であった。


 しかし、少し違和感も感じられた。

 白いワンピースと麦わら帽子のおかげであまり目立ってはいないが、少女の肌はあまりにも白すぎた。


 それは、まるで本当は実在しない存在のような、たとえ実在いたとしても今にも消えてしまいそうな、そんな儚さを感じさせる。


 すれ違った者がまた一人、その美しき儚さに目を惹かれる。少女が視界から外れ、もう一度その姿を目に焼き付けようと振り向く。


「あれ?」


 だがそこに、彼女の姿は無かった。





 床にぶち撒けられたオレンジジュースを拭き終え、改めて俺と田中先生は隣り合って座っていた。


「あの、そのメモ帳どこで」


 俺の頭を埋め尽くすのは、なぜ、どうして、といった疑問の言葉たち。


「昨日職員室で帰り支度をしようと鞄を開けたら、入ってたんだよ。

 見覚えのないメモ帳だったから、私のではないことは間違いない。だったら他の先生のものかと思って聞いてみたんだが、心当たりのある人はいなくてな。

 それで、他に可能性があるとしたら一緒に職員室まで行った庭村くらいしかいなくてな」


 つまり、昨日の俺と同じ状況か。

 問題は、田中先生にもクエスト表示が見えているのか、ということだが。


「それで、このメモ帳、庭村のもので合ってるか?」


 この感じは、見えてない、と考えていいのだろうか? 突然現れたメモ帳に対して、どこからか紛れたものだろう、としか思ってなさそうだ。

 となると、田中先生にはクエスト表示が見えてないにも関わらず、昨日のクエスト報酬の"メモ帳"が与えられたことになるわけだが。


「おい、庭村!」


「はい、大丈夫です!」


「......なにが大丈夫なんだ。明らかに顔色が悪いぞ。もしかして、このメモ帳になんかヤバいことでも書いてあるのか? まさか、誰かに悪口でも書かれたんじゃないだろうな?」


「え、いや」


 田中先生は、手に持ったメモ帳の表紙をめくった。


「誰のかもわからなかったから、中身は見ないようにしていたが、って、あれ、新品?」


 まずい。


「あ、えっと、買ったばかりで名前も書いてないので、自分のっていう確信はないんですけど、あの、でも、昨日ちょうど同じやつをなくしちゃってて」


 件のメモ帳を他の人の手に持たせておくには危険な気がした俺は、咄嗟に思いついた嘘を述べる。


「......本当に庭村のものなんだな?」


「......はい」


 しばし、二人とも無言の時間が続く。


「......今回はお前を信じて返すが、今度からはちゃんと名前くらいは書いておけ」


 ようやく発したその言葉の通り、田中先生はメモ帳を俺に渡してくれた。


 ひとまず、懸念事項の一つは解消されたが、まだ大きな謎は残っている。

 

 なぜ、田中先生が俺が手に入れたものと全く同じメモ帳を持っていたのか。


 一応、理由として考えられることが一つある。

 それは、協力報酬だ。

 俺が初めて受注したリアルクエスト、それはプリントを鬼塚先生の机の元へ運ぶことだった。その過程で、田中先生も手伝ってくれることになったわけだが、この時、田中先生が俺のクエストに"協力した"とみなされ、俺と同等の報酬を獲得してしまったのではないだろうか。


 これが事実となると、かなり厄介なことになる。


 俺は割とこの状況に対してまだ楽観的でいた。

 だが、協力報酬というものがあるならば、話は変わってくる。

 そうなれば、バレるリスクとバレた時のリスクが格段に高まるのだ。


 今現在において、どこまでの"協力"が"協力"とみなされるのかが分からない。

 "()()()()リアルクエストに関わった者"が該当するならば、俺の身に起こった"異常"を隠し通すのは、相当に困難になる。


 俺のクエストに関わることで、クエスト報酬という名の甘い蜜を吸えることが分かれば、人はどうするだろうか。


 不味いことになった。どうやって誰にもバレずにクエストを行えば......ん?


 と、そこで自らの考えのおかしさに気付いた。


 なんで、クエストを()()()こと前提なんだ?


 そうだ、クエストを受けない、つまり、頼み事など断ればいいのだ。そうすれば、バレるリスクが格段に減るし、ただクエスト表示という幻覚が見えるだけの、普通(?)の日常生活が送れる。


 どうしてそんな簡単なことに気づかなかったのか。


 バタッ。


 うん、これで問題ない。これで、俺は変に気を張らなくて済む......ん?


『クエスト"田中先生!?"発生。難易度C。クリア条件、対象を指定の位置まで移動させること』


 何かが落ちる音が耳に届き、クエスト表示が眼前に浮かぶ。


 もう何度も見た気がするクエスト表示から目線を下げると、そこには、床に倒れ込む田中先生の姿があった。


「っ、田中先生!?」





 次回、物語の重要人物(?)、再登場!?

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