もう一つのゲーム
「なるほど、お前は南道グループに行きたいのか。じゃあ俺と一緒だな」
草薙君が雄叫びを上げたその後、もう昼時だということで俺たちは近くのファミレスに入ることにした。頼んだステーキが来るや否や、草薙君は皿にダイブするかのように勢いよく食べ始める。
だが、俺の目的地を聞くと、食べる手を止め自らが同じ場所を目指していたことを告げた。
「え、草薙君も南道グループに行く予定だったの?」
「おうよ。あ、悠希って呼んでくれ。俺も優悟って呼ぶし」
急速に心の距離を縮めてくるところを見るに、彼は生粋の陽の者なのだろう。
友達のいない俺にとって下の名前呼びは、なかなかにハードルが高いのだが。
「わ、分かった。ゆ、悠希は何しに南道グループに?」
言葉に詰まりながら、なんとか気になることをゆ、悠希に聞く。
「あー、実は。ここだけの話なんだけどさ」
そんなに言いにくいことなのか、かなり声のボリュームを下げる悠希。さっき人通りの多い場所で叫んだ男だとは思えない。
ギャップのある行動に驚いていた俺だが、悠希の次の言葉にさらに驚くことになる。
「目の前にゲーム画面が出るようになっちまってさ」
「ブホッ!?」
思わず口に含んでいたパスタを吐いてしまった。
「お、おい!! 大丈夫か!?」
「ご、ごめん。ていうか、それってマジ?」
「ん? ああ、大マジに決まってるだろ」
悠希の目は真剣でとても嘘をついているようには見えなかった。まさかこんなところで同じ境遇の人に出会うとは。
「もしかして、RFOっていうゲームの話だったりする?」
俺と同じ状況かつ南道グループに行こうとしていた。つまり、俺と同じゲームをしていたに違いない。その質問はあくまで確認のつもりだったのだが。
「ん? あーるえふ、なんだって?」
帰ってきたのは、期待していた言葉とは真逆の言葉だった。
「え、RFOだよ? リアルファンタジーオンラインっていう名前のゲーム。知らない?」
「全く知らん」
「ええ......」
おかしい。目の前にゲーム画面が現れた原因は、RFOをプレイしたことが原因だと思っていたんだが。考え違いだったか?
「その、あーれふぉー? みたいなゲームは知らんが、メー探偵シープスっていうゲームなら知ってるぜ」
「メー探偵シープス? それって」
確かRFOと同じく南道グループが制作したゲームだったはずだ。だが、南道グループ作のゲームの中でもマイナーな方だから、それならRFOを知っててもおかしくないはずだが。
そんなちょっとした疑問はすぐに吹き飛ばされることになった。
「なんてったって、俺が見えてるゲーム画面はこいつと全く同じだからな!!」
「っ!? それ本当かい!?」
「ああ、マジ本当だ」
それが本当なら、この奇妙な現象が起きてる原因はRFOだけじゃなく......。
「お前達、ちょっと良いか?」
頭を低くしてしゃべっていた俺たちの頭上から、低い声が聞こえる。顔を上げると、そこには険しい顔をした筋肉質な男が立っていた。
「ん? おっさん誰だ?」
突然現れた不気味な男に怖気付くことなく、初対面の人間をおっさん呼ばわりする悠希。
「うむ。俺の名前は北斗だ。お前達の会話が聞こえてきてな。ゲームの画面が目の前に現れた、ってのは本当か?」
なっ!? まずい、小声で喋っていたはずだが聞こえてたか!?
「なんだ、おっさん。あんたもまさか見えるのか?」
え、あ、そういうこと!? え、そんなことある!?
「うむ」
うむ? え、マジで見えてんの? え?
俺が混乱している束の間に。
「ならば、すまぬが死んでもらおうか」
北斗と名乗った男は一言、そう呟いた。
『緊急クエスト"狂拳のアンガー、襲来!!"発生。難易度SS。クリア条件、対象とのゲームでの勝利。緊急クエストのため、強制受注となります』
は?
「"ゲームスタート"だ」
ーー目の前の景色が、切り替わる。
◇◆◇◆◇◆◇◆
一瞬視界が暗転した後、目の前に現れたのは辺り一面真っ白な空間だった。唯一真っ白でない場所は、足元に描かれた複数の四角いマス目。まるでオセロの盤面のようだ。一マスの大きさは人一人分が入る程度。人間オセロでもするつもりなのか?
「うお、なんだここ!?」
右隣りから聞こえた声に顔を向けると、呆気に取られたような顔をした悠希が立っていた。
俺も悠希もさっきまでファミレスの一席に座っていたはずなのに、一瞬のうちに見知らぬ場所に立たされている。明らかに異様な状況だ。
「ここは『イッツ・ショーギ・タイム』のゲームフィールドだ」
淡々とした声で状況説明を行うのは、俺たちの正面に現れた強面の男、北斗。
「イッツショーギタイム? なんだそりゃ?」
聞き覚えのない単語に悠希は首を傾げるが、俺はその単語に聞き覚えがあった。
『イッツ・ショーギ・タイム』。『RFO』、『メー探偵シープス』と同じく南道グループが制作したゲームの一つだ。俺自身名前を知ってるだけでプレイしたことはないため、詳しいことはわからない。だが、そのゲームは名前の通り、とある"昔ながらの遊び"をテーマにしていることは知っている。
「お前達、将棋を知っているか?」
腕を組み、無表情のまま北斗は俺達にそんな質問を投げかけた。それにいち早く反応したのは、悠希だ。
「あ? 馬鹿にしてんのか? 将棋ぐらい知ってら!! あれだろ? なんか駒みたいなやつ動かして相手をボコボコにするやつだろ?」
「......ボコボコにしちゃダメだと思うよ」
「そうなのか?」
当たり前だ。
「そこのお前はどうだ?」
悠希の脳筋発言を無視して、北斗は俺に再び同じ質問をする。
「一応、駒の動きくらいなら分かりますけど」
小さい頃に祖父とよく将棋で遊んでいたから、ルールくらいなら把握しているはずだ。
「うむ。ならお前がキングをやれ。そこのバカは、ゴールドでいいだろう」
「キング? ゴールド? 一体何のことで」
聞き覚えのない単語に疑問を呈そうとする俺だったが、思わぬ邪魔が入った。
『双方、"王"のプレイヤーを選択完了。双方、各種ジョブのプレイヤーを選択完了。
1分後にゲームを開始します』
白い空間内に、無機質な女性の声が響く。
「お? 何だ?」
それと同時に足元が眩く光り、俺たちを囲むように地面から複数の黒い"何か"が生えてくる。
「......これは」
その"何か"は人、いや騎士のような姿をしていた。




