怪
全てを話し終えた。
百物語。
というか百物語もどき。
其れを言い終えた同僚は酒に酔い寝てしまう。
最後のロウソクを消して。
うん。
予想通り。
何も起きない。
当然だろう。
今までそうだったし。
同僚は霊感は有るが僕は無い。
だから怪奇現象はない。
当然だ。
僕はと言うと酒が飲み足りない。
ツマミのお菓子を齧りつつ酒を飲んでいた。
焼酎のソコソコ美味いのを。
時間は深夜。
静かだ。
ゴクリ。
口に含んだ酒を飲む。
ああ~~美味い。
結局心霊現象は別世界の話だ。
霊感の無い僕には関係が無い。
そう思った時だった。
カタ。
「うん?」
音がした。
音が。
何かを押す音。
この方角は?
安物のラジカセ?
あ~~。
何だろうと見るとラジカセが有った。
同僚の足元に。
カタ。
成る程ね。
カタ。
此奴悪ふざけでラジカセを足で押してるな。
カタ。
無視だ。
無視。
カタ。
カタ。
無視。
カタ。
カタ。
此奴僕を驚かそうとして必死だな~~。
カタ。
カタ。
本当にもう此奴は……。
「お~~いいい加減にしろよ」
パンパンと同僚を軽く叩いて起こそうとする僕。
カタ。
カタ。
は~~必死にラジカセを押してるな~~。
引っ込みがつかないんだろうな~~。
カタ。
カタ。
ポンポンと強めに叩く。
まだ起きない。
カタ。
カタ。
起きないね?
え?
あれ?
カタ。
カタ。
おかしくない?
足の位置?
ラジカセに届かない。
カタ。
カタ。
あれ?
え?
カタ。
カタ。
え?
まさか?
空気が変わった。
そう空気が。
何というか空気。
まるでお通夜のような感じ。
静かに。
まるで何かの熱に侵されそうな空気。
生暖かい空気。
何だ?
コレ?
異様な雰囲気がした。
同僚を起こす手に力が入る。
殆ど殴っている感じだ。
おかしい。
おかしい。
何で此奴起きない。
普通は喧嘩に成るレベルだろう此れは?
其れぐらい力を込めてるぞ。
なのに。
なのに。
何で。
何かに怯えるかのように僕は同僚を殴る。
其れは恐らく酷い痛みが出るレベルで。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
カタ。
音が不自然に止まる。
ようやく止まった。
此れで終わりだ。
そう思った。
ガチャン。
今までに無い大きな音がした。
ゴツッ!
ラジカセの一部が壊れ弾け飛んだ。
不自然に。
壊れたのカセットテープを押さえる部分。
其れが弾け飛んだ。
其の惨状に僕の手は止まる。
思考が凍りついた。
ガア――。
何かが壁を擦る。
何かで。
ガア――。
此れは爪を強く立てて引っ掻いてる音だ。
ガア―――。
強く。
強く。
ガア――――。
強く。
強く。
強く。
ガア――――――。
あり得ない程強く。
ガア――――――――――――――――――。
爪が剥がれるほど強く。
見えない爪が壁を擦る。
僕の周囲の壁を。
誰も居ないのに。
人影が見えない。
誰も爪を立てて居ないのに。
誰かが爪を立てて居る。
ガア――――――――――――――――――ガア――――――――――――――――――ガア――――――――――――――――――ガア――――――――――――――――――ガア――――――――――――――――――ガア――――――――――――――――――ガア――――――――――――――――――ガア――――――――――――――――――ガア――――――――――――――――――ガア――――――――――――――――――。――――――――――――――――――。
気がついたら僕は怯えて蹲っていた。
恐怖のどん底に陥れた此の心霊現象は突然終わりを告げた。
理由は分からない。
理解できない。
唐突に終わりを告げたのだ。
後で同僚に聞いた所あの時起きた心霊現象。
其れを起こしたのは悪霊らしい。
首だけの犬の悪霊。
同僚は当時を思い出したのか震えていた。
恐怖で。
僕はと言うと其の日から無神論者を止めた。
アレから三十年。
当時住んでいた場所を離れ故郷の実家に戻っている。
心霊現象はアレから遭遇しない。
恐らく実家の神棚を手を合わせているからだろう。
そうだと僕は信じる。
本棚の奥の壊れたラジカセを時折見て……。
不自然な壊れ方をしたラジカセを見て。
……。
………。
…………。
此れで最後のロウソクを消して下さい。
さて。
此れで貴方の身に何かが起きます。
何も起きなければ幸運と思って下さい。
其の理由を次回話します。