第四話
ジェードにサボリが見つかってしまった日以来、どんなに巻いても結局見つかってしまうのでスフェーンは半ば諦める事にした。終いには、ギルドで一緒の任務をするまでになってしまった。
「スフィが友達を連れてくるなんて珍しいな? よし! 同じ小隊にしておくな」
ハハハと豪快な笑顔でギルド職員は何やらメモをとっていく。
「へぇ〜? ジェードはあのノワールのギルドでAランクを持っているのか。二人とも若いのに腕が立つなんて凄いなぁ〜。おまけに男前ときた。類は友を呼ぶとはこのことだな。ハハハッ!」
「はっはっは……」
渇いた笑いがスフェーンから出た。
どこの世界に公爵様のご子息がギルドに登録していると思う? しかも戦闘特化型として名高い最古のギルドに登録!? いやいや、それよりも何で偽名を使わずに依頼を受けてるのよ!?
驚かされっぱなしのスフェーンはギルド職員が離れた途端ジェードに詰め寄った。
「本当にどういうつもり!? 遊びなら――」
ジェードがスフェーンの言葉をさえぎる。
「――――お前のその格好は何だ? 名前と身分を偽っているのはわかるが、性別もか?」
上から下までざっと眺めたジェードはスフェーンの胸元を凝視する。
何となく「その体型とその格好で女は無いだろ」と言われている気がする……。
スフェーンは慎ましやかな自分の胸に手をあて精一杯の睨みを効かせた。
「男だ!!」
「ふ〜ん。あまり苦労しなくて良かったな」
スフェーンの感は当たっていた。この男は「肉付きが悪いから隠さなくても問題なかったな」と言っているのだと。
「さらしを巻くぐらいの努力はしたっつ~の!」
「性別バレるぞ?」
声を張りあげたスフェーンに対しジェードは釘を刺した。
「どこの誰のせいだと思って……! っていうか、アンタは何で本名を隠さないのよ? バレたらどうすんの?」
髪色まで変えたスフェーンとは違いジェードは何も変えていない。ウルフカットにしている赤橙色の髪に翡翠がはめこまれたような瞳。知っている人は知っているアレキサンド公爵家の特徴そのままの姿だ。
「堂々としていたらバレないもんなんだよ」
「毎回思うけどその根拠のない自信はどこから来るのか教えて欲しいわ」
(――なんで任務前から疲れなきゃいけないのよ……)
スフェーンは言いたい事が色々あったが堪える事にした。
ギルト職員から言い渡された任務は、あるキャラバンを護衛することだった。それも普通のキャラバンではなく王族御用達の品物を届けるキャラバンだった。依頼主によると、いつもは自分たちの所で雇っている兵を護衛につけるのだが最近力の強い魔物が多く出現するため腕っぷしの強い者を雇いたいとのことだった。
三ヶ月程前から瘴気が濃くなり魔物が各地で出現していることは知っていた。そのせいで騎士団が毎度毎度、駆り出されてサボり魔の長兄が絶賛出仕拒否中なのだ。
「たしかに、ここ最近の魔物の出現率が多いのは気になる......」
スフェーンは考え込んだが、すぐにやめた。考えて答えが出るようなものでもないからだ。ダンジョンが出現する理由や魔物の正体など解明できていないことが多いからである。
三ヶ月前――それは聖女が誕生した時でもある。
光と闇は表裏一体。
この世界で何かが変わり始めていた。