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第三話

スフェーンがコカトリスと対峙中、教会で親友の帰りを待っている少女がいた。

「スフェーンは、また勝手に出ていっちゃったの?」

 礼拝堂で祈りを拝げていた侯爵令嬢クリス・ロードクロサイトは声をかけてきた同級生の問いに小さく頷くことで答えを返した。バイオレットの目があまりにも寂しそうだったのでつられて男性の声も小さくなる。

「............ そう。 困った子だね、スフェーンは」

 優しい声色に混じる小さな溜息。アゲットはクリスに手を差しのべた。立ちあがらせたその仕草はまさにこの国の第一王子らしい優雅なものだった。

 二人の様子を少し離れた所で見ていたジェードが割り込む。

「スフェーンが何してるか気になるなら聞けばいいだろ?」

 ぶっきらぼうな話し方の所々に怒りが見てとれるのは彼なりにスフェーンを気づかってのことだった。ジェードもまた、クリスやアゲット同様に幼ななじみなのに相談の一つもしてくれないことに腹が立っていた。

 人懐っこい笑顔を他人に向けていてもスフェーンは自分のことを話さない。必要以上に踏み込まないし、踏み込ませない。何でも自分一人で解決させてしまう癖があるのを知っている。度重なる早退や欠席に三人は違和感を覚え、何度か尋ねてみても「大丈夫、大丈夫」と言われて話を逸らされてしまった。心配させまいとしているのか信頼されていないととるべきなのか、誰も計れず時間だけが過ぎていく。

「行き先も不明。何しているかもわからない。いつ帰ってくるかもはっきりしない、というのも困ったねぇ......。ジェード、ちゃんとスフェーンを管理してくれなきゃ困るよ?」

「なんで俺が!?」

「だって、僕は王族としての仕事で忙しいし、クリスも侯爵令嬢として将来の為にやる事があって忙しいでしょ? ……遊んでいるのは次男坊であるジェードだけだよ?」

「遊んでねえよ! 俺だって色々、将来の事を考えてるわ!!」

「へぇ~?」

 アゲットの語尾溜めにジェードが不貞腐れる。そんなに信憑性が無いのか?

「でも、良かった! やっと、やりたい事が見つかって。昔から『容姿・性格・家柄良し。運動神経と勉学は常にトップクラスのハイスペックな俺様は何でも卒なくこなせるから目標も夢も無い』なんて言ってたジェードがねぇ~。 成長したんだね〜。嬉しいよ!」

「うるさいな! 昔の話だろ!? ――っていうか、あいつの世話係になった覚えはねえよ!」

「何言ってるの? スフェーンに運動も勉強も負けて主従関係を結ばされたんでしょ?」

「いつの話だよ!? もう時効だろ、あんなの!」

 昔話を持ち出されて怒るジェードにアゲットは「ごめん、ごめん」と笑う。

(そう言いつつも異性が近づくと牽制するくせに……)

 アゲットは自分達の立ち位置を理解している。自分は王族として肩入れすることは許されない。そして同性のクリスは誰よりも親身になってスフェーンを心配するが、力づくで止められないこと知っている。だからこそ、対等にスフェーンと向き合い喜怒哀楽を共有してくれる存在であるジェードが必要であると――。



 スフェーンがギルドに乗り込んで以来、ありがたいことに多くの仕事にありつけた。マスターが斡旋してくれたのもあるが、スフェーンの評判が良かった要因が大きい。仕事は丁寧、勤務態度は真面目。そして何より魔法が使えて腕っぷしが強いため、どこでもスフェーンの存在は重宝された。生活魔法程度なら誰でも扱えるが、攻撃系や防御系という戦闘に必要な素質となると話が違ってくる。王族の血が濃ければ濃い程、魔力量は多くなり四大元素以外の属性も使えるようになる。おかげで護衛や警備といった報酬の高い任務が舞い込んでくるのだった。ただ、報酬は良いがこの手の任務は時間がとられるのが問題だ。


「……掛け持ちしすぎたかな?」

 ここ最近の自身の行動を思い返してスフェーンは反省した。目の前にある塀が、いつもより高く見える。この塀の向こう側に女子寮があるため最短ルートとして使ってきたのだが、何だか今日は気が引ける。原因は何となくわかる。今日から始まる長期任務のせいだろう。理由をつけては早退や欠席をして任務を優先してきたのだが、流石にテストも近いのでバイトを控えようと思った矢先、高額報酬に惹かれて、つい二つ返事をしてしまった。

「しかも最近はサボリが常習化しても心苦しくなくなったのよね〜」

 スフェーンは大きなため息をついた。今まで無遅刻無欠席だった為、早退ですら良心の呵責が有ったのに今では、その罪悪感が薄れてしまっている。

 だが、悲観している暇は無い。爵位剥奪になったら、もっと苦労するはめになるのだから。ここが踏ん張り時だと鼓舞しながらスフェーンは塀の窪みに手を掛けた。

「おい、こら! サボって、何処に行く気だ?」

 叱咤の声に登り始めたスフェーンの手が止まる。

 上手くクリス達の追求を交わせていたのに、とうとう見つかってしまったと内心で焦りながら弁明する。

「別にサボってないし! ちょっと体調が――……」

「体調が悪い奴は塀をよじ登ったりしない」

 スフェーンの最後の言葉を待たずして幼馴染のジェードが一刀両断する。

「いつもより、ご飯も食べれなかったし……きっと風邪のひき始めなんだわ。早く帰って寝ないと――」

「ご飯大盛りで食べておいて、どの口が言っている?」

 なんということだ。流石に二杯食べたら誤魔化しが効かないと思ったから大盛で手を打ったのに見透かされていたとは!

 この男、どうやら兄達のように簡単には騙されてくれないらしい。スフェーンは誤魔化すよりジェードを遇らった方が早く解放されるかもと考え次なる策を練った。

「――もう授業が始まっている時間でしょ? 戻ったら?」

 単刀直入に伝える。シンプルが一番。貴方もサボってますよ〜と教えてあげる。

 だが、相手はどこ吹く風。

「気にするな。お前のお目付役を買って出たら外出の許可が出た。どうやら特別授業として単位もくれるそうだ」

 なに、それ!? とスフェーンが驚くのも無理はない。何故なら、天才にして奇人の長兄ディアンが数々の問題を起こし、次兄ブラッドもまた面倒事を起こしていたためハーキマークォーツ家には監視役が必要と校則になっているほどだ。余談だが監視役には体力・知力・忍耐力に適応力。そして運が必要とされるため、その過酷な状況から耐え抜いた褒美として有りとあらゆる優先順位が約束されている。

「――ということで、何処かに行くなら俺も連れて行け」





 

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