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最終話

 ダンジョンにいたゲルマ達がアゲットの元に集まる。お互い無事を喜んだのも束の間、避難していた村人達の治療をし、原型を留めていない教会の地下から子ども達と女性達を救出していく。

 村の再建には月日がかかるが、それでも死者が出なかったのは幸いだった。


 スフェーンの姿を見つけたルピナスが駆けより抱きつく。

「スフィ様 ! 」

「ルピナス、無事で良かった ! 」

 スフェーンもルピナスに抱きつき二人で再会を喜ぶ。

「あのね、聖女様が守ってくれたの」

「セレス様が?」

「うん。最後の最後まで教会に加護をかけてくれたの」

 嬉しそうに話す姿にスフェーンも連られて笑顔を見せる。話題の人物に視線を送るとセレスは顔を真っ赤にして怒った。

「何よ ! ? 私は自分の身を守っただけよ ! たまたま教会が近くにあっただけなんだから ! ! 」

 子猫の威嚇のような姿にスフェーンの笑いが止まらない。

(昔と怒り方が違うのに気づいていないんだ?)

 突き放しつつも棘が無いことにスフェーンはセレスの成長を垣間見た気がした。

「いつまで笑ってるのよ! それよりあなた! 何で男装しているのよ。あなたスフェーン様でしょ?」

「やっぱりバレました?」

「当たり前でしょ!」

「ーー男装? やっぱりスフィ様は女の人なんだ

ね!?」

 興奮気味にルピナスが会話に割って入る。

「ルピナスにもバレちゃっていたか……」

「うん! あの洞窟で抱きしめられた時、お母さんと同じ優しい感じだったから。でも騎士団には男の人しか入れないから黙ってた方が良いのかなって......」

 小さな子どもに気を遣わせてしまったことにスフェーンは心を痛めた。

 騎士団に入隊できるのは15歳以上の平民出身者と18歳以上の貴族子弟のみ。

 どんなに強くても女性では騎士団の門をくぐる行為は認められていない。ましてや爵位を持つことすらも認められていない。 どんなに頑張っても認められない明確な境界線が男性と女性にあった。

「ルピナスが大きくなる頃には変ってるよ」

 アゲットが未来ある子どもの目線に合わせる。 

 そして力強い声で誓う。

「女性が騎士団に入って活躍する日が来ると約束するよ。そして女性が進む道の選択肢が増える未来があると誓うよ。アゲット・ジョワイオー・タンザナイトの名に誓って」

 アゲットは決意表明する。

 ずっと自分の心の内で温めきた決意を言葉にした。王族が人質として貴族子弟を監視する旧い時代を終らせる。君主として認められた存在が王になれるのだと証明してみせる一ーと。



「……それにしてもスフィがディアンの妹だったとはな~」

「えぇ。本当に世も末ですね」

 ゲルマとスピネルがスフェーンとディアンを交互に見ながら、しみじみと呟く。

「僕の可愛いスフェーンを邪な目で見ないでくれる?」

 ディアンが牽制したためゲルマが応戦する。

「見てねぇよ!」

「僕のスフェーンの可愛さがわからないなんて信じられない!? その目は何のためについてるの!?」

「うっせえな! 見ても怒るし見なくても怒るしで、どっちだよ? 大体、お前の妹だって知っていたら近づいていねぇわ!!」

「こんなに僕にそっくりなのに気づかないなんて、どうかしてるよ?」

「顔だけだろ、似てんのは! むしろ、あっちの我儘聖女の方がお前の妹だって言われた方が納得できるわ!」

「なんて事を言うの!? 僕の可愛い妹はスフェーンだけで十分なんだから!」

 ディアンはピコピコハンマーでゲルマを目にも止まらぬ速さで連打していく。

「 ~~~だから、それ止めろって言ってるだろ!」


 ゲルマがディアンからピコピコハンマーを奪い取ろうとしている姿を近くで見ていたソヨゴは思っていることをブラッドに聞いてみた。

「ーー先輩。 ディアン様が持っているあのおもちゃって何ですか?」

「うん? あれはピコピコハンマーだ。略してピコハン。れっきとした魔道具だ」

 ブラッドに真顔で言われたため、ソヨゴの思考が停止する。

(あれが魔道具?)

 とても持っている者の力を増幅させてくれるような優れた品物には見えない。 きっとカモフラージュしているんだなとソヨゴは考えた。

 魔物側にもディアンのような珍妙な生物が存在するようで、破壊力や性能は超一級品の魔道具なのに見た目が奇天烈な物を作る魔物がいる。類は友を呼ぶのか、ディアンは百発百中それを引き当てる。おかげでハーキマークォーツ家には一見、ガラクタに見える魔道具が所狭しと並んでいる。そしてこれらの魔道具は珍品過ぎて売れないためスフェーンにとって頭を抱える種となっている。

「気になるなら使ってみるか?」

「え!? 良いんですか?」

 ソヨゴは初めて見る魔道具を嬉々として受けとった。ブラッドの言う通りに使ってみる。

「まず、魔力を流してみろ」

「はい。魔力を流しました」

「次に降り下ろせ」

「わかりました。ーーこうですね?」

 ソヨゴが降り下ろした直後、数本の落雷が発生した。

 ダンジョンに落ちた雷が塔を真二つに割り青白い焔で包む。

「…………え?」

「高い所に雷が落ちるようになっている」

「淡々と語らないで下さい!」

 あまりの威力にソヨゴが慌てる。ちょっと魔力を流しただけなのに、これ程の威力があるなんて……。

 ソヨゴは魔道具の恐しさを身を持って実感した。

 ーー否。実感したのはそれだけではなかった。

 肌にピリピリとした痛みが感じられ、髪が逆立つ。徐々にピリピリがビリビリに変わり肌を突き刺す痛さが強くなる。

「ソ~ヨ~ゴ〜」

 恨めしい声とともにスフェーンが鬼の形相で近づいてくる。スフェーンが一歩踏み出す毎に電流が蛇のように這いまわる。

 発電装置となったスフェーンがソヨゴを襲う。

「何てことをしてくれたのよ! せっかく借金を返せるはずだったのに〜。許さない!!」

「ぎゃあぁぁぁぁ~!!」

 スフェーンとの距離が近くなればなるほど体に流れる電流が威力を増した。

「ご、ごめんなさ~い!」

 ソヨゴは初めてハーキマークォーツ家の洗礼を受けたのだった。



 王都からの援軍が到着したのは数時間後だった。壊滅している村の中で笑い合っている人々の姿に彼等は首を傾げていた。

 取り越し苦労をかけたとアゲットが謝罪する横でゲルマが溜息をつく。

「ーーまぁ、そうだよな。こっちが本物の援軍だよな」

 もし、ディアンとブラッドが援軍だったら長期休暇を申請するわと、ぼやく。よりにもよって何故この二人を寄越したんだと騎士団長に殴りこみに行っていただろう。

「でも、そうすると……何でディアンとブラッドはスフィの危機をわかったんですかね?」

 スピネルが疑問をぶつける。

「ふっふっふ。 愚問だね。 スフェーンがつけているブレスレットは僕がプレゼントしたものだからね。いつでもどこでも僕にはスフェーンの居場所がわかるのさ!」

 スフェーンは親友クリスからのプレゼントだと思っているが実は違う。ディアンの巧妙な策によりディアンからクリスへ。そしてクリスからスフェーンへと渡ったのである。スフェーンに何かあった時に知らせる機能が付いていたのだ。ただ、これは建前でしかない。本音は可愛い妹に自分が選んだ装飾品を身に付けて欲しいからである。

「お前、それを世間ではストーカーって呼ぶからな」

 ゲルマは心底、スフェーンに同情した。一体いつになったら妹離れが出来るのか……。いいや、違う。まず真っ当な人間になる方が先かと頭を悩ませた。




 スフェーンは学園卒業と同時に騎士団に入隊した。

 ーーもちろん女性として。

 アゲットやジェード、今回この聖女巡廻で苦楽をともにした仲間の口添えがあった事が大きい。

「スフェーンと一緒の部隊だったら働く」というディアンの我儘に辟易していたゲルマ部隊と「スフェーンなら御せられるのでは?」とブラッドの扱いに困っている部隊で争いが起ったのはまた別の話。


 その後、 スフェーンは結婚しても騎士団で活躍した。クリスとともに女性の地位確立に努力し初の爵位を頂いた。

 男性とは違い一代限りの爵位だったが、それでも男児が産まれない貴族にとって救いとなった。


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