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第十三話

 王都が離れていくにつれ皆の疲弊も目に見えるようになっていった。魔物の数が多くなったことも原因だが一番の原因は休息がとれないことだろう。王都との距離が伸びれば伸びる程、宿場が無くなり野宿の回数も増えた。休息と食事が旅に大事であるとよくわかった。

 ――そんな矢先に事件は起った。

 閑散とした農村でアゲットたち一行は宿をとることにした。事の発端はアゲットたちが魔物に襲われていた農村の子ども達を助けたことに始まる。再び魔物に襲われないよう送り届けたのをきっかけに村長が自宅を提供すると申し出たのだ。幸い、近くに教会もあったため騎士全員の寝床が獲保出来たのもある。村人総出でもてなしてくれたため、久々に贅沢が出来き、落ち込んでいた士気も回復していった。

「あー。 久々にゆっくり出来る~」

「ご飯が美味しい!」

 騎士達が感極まる横でセレスだけは違う反応を見せた。

「芋料理ばっかね」

 お世辞にも色とりどりとは言えない華やかさに欠ける食卓を見てセレスは溜息をつく。

「も、申しわけございません!」

 すぐさま村長が謝罪する。トップが平身低頭したのを見た村人は次々と頭を下げた。

「――セレス」

 セレスの隣にいたアゲットが低い声で嗜めるがセレスは反省の言葉なく不貞腐れていた。

 重い空気を察して村長が口を開きかけた時、男性にしてはやや甲高い声がすぐ側で聞こえた。

「わぁ! 旬の物を食べれるって贅沢だよね。やっぱり新ジャガは揚げたてが一番!!」

 素揚げされた小ぶりなジャガイモに塩をまぶしてスフェーンは口へ運んだ。揚げたてのため口から湯気が昇る。熱さからか何度か咀嚼と口呼吸を繰り返してから飲み込む。

「このホクホク具合と甘みが最高だね~。一口で頬張れて腹持ちも良いから、欠食児童には優秀な料理なんだよね」

 スフェーンは大皿に山盛りされた新ジャガ揚げに次から次へと箸を伸ばす。まさに一人で完食してしまう勢いだ。

「家では料理をする側だったから、こんなに揚げたてを食べたのは久しぶりだ〜。――なんか感動する」

「だからって、全部食べても良いとは誰も言っていない。いい加減、その料理を寄こせ!」

 誰かに作ってもらった料理を食べれることに胸を熱くしているとジェードから横やりが入った。スフェーンが抱えていた大皿ごとジェードが奪っていく。

「あぁ! ......――食べた。 それも三個も!!」

「お前の方がもっといっぱい食べてるだろうが!」

 スフェーンとジェードの攻防に周りから笑いが起こる。さっきまで萎縮していた農民たちも騎士達につられて笑いはじめた。

「――――僕は一個も食べていないんだけどね?」

 アゲットの一言に笑い声がぴたりと止まった。優しい口調なのに目が笑っていないアゲットを見て騎士達は目をそらしスフェーンとジェードは無言で王子に大皿を差し出した。



 翌朝、目を覚さましたスフェーンは顔を洗うため水場に移動した。まだ朝も早いのに、子どもたちが朝食の仕度を手伝っている姿を目にし声をかける。

「おはようございます。皆、朝早くからお手伝いなんて偉いね」

「おはようございます!」

 元気な挨拶にスフェーンの顔が綻ぶ。大人たちも作業の手を止め、挨拶を返してくれた。

「騎士様、おはようございます。もう少ししたら朝食をお持ちしますね」

 村長の奥様からの厚意にスフェーンは慌てて言葉を返す。

「あの、お構いなく! 昨晩は夕食もごちそうになりましたし寝床もご提供いただきました! これ以上、皆様の負担を増やすわけにはいかないですから」

「……ですが――」

「本当に大丈夫です。むしろ昨日の夕食のお礼にこちらが皆様に朝食をご用意しようと思っていたほどですし......」

「そんなとんでもない! 殿下や騎士様たちのお手を煩わせるなんて!」

 お互いに遠慮しあっているとスフェーンを呼ぶ声が聞こえた。

「あっ、いたいた。スフィ、 この干し肉はどうするの?」

 近づいてきた騎士の青年がスフェーンと一緒にいる農村の人たちを見て挨拶をする。

「皆さん、おはようございます。昨日はありがとうございました」

「騎士様、おはようございます」

 スフェーンにしてくれたように子どもたちが元気良く挨拶をし大人たちが丁寧にお辞儀する。

「朝食は俺たちに任せて下さい! 豪華さは無いけど味はめちゃくちゃ美味しいものを作りますから!!」

「そういうことですので、期待してて下さい」

 スフェーンは子どもたちに笑顔を向けた後、村長の奥様に声をかけた。洗われたジャガイモと人参、そして玉葱の横に置かれた大きな鍋を見て料理を予想する。

「その野菜たちはスープにするためのものですか?」

「ええ、そうです」

「じゃあ、この干し肉も入れましょう!」

「えぇ!?」

 村長の奥様を始めスフェーンの提案に誰もが驚きの声をあげ、子どもたちは目を輝かせ手をたたいて喜んだ。

「そんな貴重な材料を使うわけにはいきません!」

 村長の奥様が声を張りあげ制止しようとする姿に他の女性陣も首を縦に振る。畜産業が盛んでない土地では肉は高価な食材だ。王都から距離が遠く物流システムにも問題を抱えているこの土地はなおさらだった。ましてや、瘴気のせいで頼みの綱である農業に悪影響が出ている現在、食料の確保は命に関わる問題でもあった。スフェーン自身、裕福な土地で育っていないので食べ物の大切さを理解している。だからこそ、自分たちのために農民がなけなしの食料を分けてくれたことに感謝しつつ申しわけない気持ちでいっぱいだった。それはスフェーンに声をかけてきた騎士のソヨゴも一緒の気持ちだった。彼もまた貧しい農村出身だったため、この村のために恩返しをしようと朝食を作ろうとしたスフェーンに昨晩、声をかけたのだ。

「気にしないで下さい。もともと食べようと思っていた頃合いでしたので、丁度良かったです。 ソヨゴ、ごめん! すぐ仕度してくるから。 先にその干し肉を一口大に切っておいて」

「了解」

 スフェーンは桶に井戸水を汲んだ後、急いで顔を洗い身仕度をしに駆け足で部屋へ戻った。



「――――朝食はまともなのね」

 セレスは机の上に並べられた料理を一瞥した。席に座りスープに口をつける。その後、パンをちぎり口の中に入れた。薄くスライスされたチーズを手にとり口へ運ぶ。

 黙々と食べ続けるセレスとは反対に子どもたちは大はしゃぎだ。

「チーズ美味しい!」

「こんなスープ飲んだことない!」

 口いっぱいに頬張って話す子ども達の姿を見て騎士達は喜んだ。

「食べろ、食べろ。いっぱい食べて丈夫な体を造れ!」

「そうそう。そして騎士団に入隊してくれ」

「こんなところで勧誘するな」

 ジェードのツッコミに笑いが起きる。賑やかな食卓に誰もが笑顔になった。

 朝食を摂り終ったスフェーンたちは各々、別行動をとって時間を過ごしていた。次の出発に向け準備をする隊員、村の人たちに交じり農作業を手伝う者たちや隊列を組み近くの森に探索に向かってこの場にいない騎士達もいた。

 比較的、年齢が若いスフェーンとソヨゴの周りには自然と子どもたちが集まっていたので遊びながら大人たちが仕事を終えるのを待った。

「ねぇねぇ、騎士様! 魔法を教えて!!」

「俺は剣が良い!」

「あっちの森で秘密基地を作ろうよ〜」

 子どもたちからの可愛いおねだりにスフェーンもソヨゴもタジタジになる。

「わぁ~待って待って。ひっぱらないで〜」

 今から組体操でも始まるかの如く両手をひっぱられているソヨゴの姿を見たスフェーンは笑いをこらえるのに必死だ。

「スフィ、助けて〜! あっ、この体勢はマズイ.....関節がポキッて鳴った」

「ソヨゴ、情けないぞ! 組み手の勉強だと思って頑張れ」

 スフェーンは子どもたちに「ソヨゴを地面に倒しちゃえ!」と焚き付ける。 その言葉を聞いた子どもたちは勿論大はしゃぎ。 スフェーンの周りにいた女の子たちまでもがソヨゴに向かっていく。

「えっ!? ......ちょっと待って! 首が、首がしまってる~!!」

「あ~惜しい。 トレニア、そこで膝の後ろを狙え!」

「こう? ……って、わぁ!?」

 スフェーンの指示通りソヨゴの右膝を狙った村長の孫トレニアは、あと一歩と言う所でソヨゴによって俵担ぎされてしまった。

「騎士様、大人気な~い」

「はっはっは! 騎士歴三年。毎日毎日、先輩たちにしごかれているからね。僕を倒そうなんて三十年早~い!」

「こほん。では、ここで真打ち登場です。さぁ、子どもたちよ! 僕に続け~!!」

「スフィの裏切り者~」

 スフェーンはトレニアを救出するべくソヨゴに向かっていった。スフェーンの指示に従い動く子どもたちの目は真剣そのものに。いつしかソヨゴを魔王に見立てての騎士ごっこ遊びに変わっていった。


 子どもたちの賑やかな声が響く外とは違い村長がいる部屋は静寂に包まれていた。アゲットとジェードが机の上に広げられた地図に視線を落とす一方で村長は地図にバツ印を書き込んでいく。

「――ここで最後です。なにせ村と村の間隔が広いため情報交換もままならぬのです。どこまで正確性があるのか正直不明でして……本当に申しわけないです」

「お気になさらず。元より魔物は神出鬼没。奴らの住処を簡単に見つけられるとは思っていませんから」

 耳に入った魔物の出現ポイントを書き込み終った村長は静かに筆を置いた。山や森に囲まれた環境下では情報伝達に日数がかかることは承知の上である。そのことを理解した上でのアゲットの言葉だった。

 だが、この地図を見る限りのんびりしている暇は無い。想像以上に印が多かった。口では余裕があるように言っていたが、魔物の出現率の多さを見る限りダンジョンがあると思っていた方が良いだろう。これ以上、被害が大きくなる前に魔物の住処であるダンジョンを見つけ出し破壊しなければいけない。

「十分、助かったぜ! これで目星をつけられる」

 ゲルマが地図の一角を指差し言い放つ。そこは、この場所から目と鼻の先にある山の中腹地点。

「ここに拠点を移す。ここなら周辺の村々に何かあってもすぐに駆けつけられる」

 魔物討伐の経験値が高いゲルマは地図上からダンジョンがあるであろう場所を読みとった。

 そこは奇しくも、この村の裏手側の山。

 ――子どもたちが秘密基地を作っている山だった。


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