花と蛇
教室を出て、少し暗くなった校舎を歩く。
足元はやけに騒がしくて、小さなものたちが慌てるようにかけ回っていた。
ほんまに、なんでおまじないなんてするんやろうなぁ。
小さくため息をついて、ひなぎくは立ち止まる。
廊下の窓からやたらとざわめいた森を見下ろすと、どす黒い大蛇のようなものが森の中を蠢いてるのが見えた。
森を泳ぐように体をうねらせながら動き回っている。
アホがまた結界切ったんかなぁ。イライラするわ。
またため息を吐きそうになるのを堪えて歩き出す。
新しい父はかなり力も強いし、しっかりした札で結界を張ってくれる。でも結界というのは、複雑なのだ。
大きく強いものになればなるほど、複雑で細かい処置がいる。
すこしでもずれが生じれば解けてしまう。
完成した結界ならば、少し札が傷ついたぐらいではびくともしないが、完成するための時を待ってる状態は少し悪戯されるだけでも解ける面倒なものなのだ。
完成まであと少しだったのに、アホガキが父上が立ち入り禁止にした森に忍び込んだんだろう。
それだけならガキになんかあっただけで自業自得で済んだが、
そいつらはよりにもよってそこでヘビを殺したらしい。
頭痛がした。結界が弱まったせいで頭の中に声が響く。
ずーっと深い地中から私を呼ぶ声がする。
『たす…けて たすけ…』
頭を振って声を振り払う。早く家に戻らなくては。
今日の夜は深い。
静かな夜は、人ならざるものの声がよく響く。
彼女は走り出した。