その後 6
お兄様にフィーを取られている間、捕まって初めの頃はすぐに私のところに逃げ出して来た。
いつだって自信なさげなその丸まった背中も、じっと相手の目を見つめられない泳ぎがちなその目も、気がつくと部屋の隅に移動している主張しない気配も、私は嫌いではなかったのだが、
お兄様のお気に召さないらしく、厳しく矯正されていった。
頭の上に本を乗せて1日を過ごせ、と兄様から言われ「本は読むものであって、頭に乗せるものではないし…エリオットもそう思うだろ?」と聞かれ、私が一日中頭に本を乗せて過ごして見せたら
黙って矯正訓練を受けていった。
私を逃げ場にしているのはまんざらでもなかったのだが、フィーのため?だ、仕方ない。
当てつけのようにお兄様を無視してたらフィンの訓練がより過激なものになっていったので定期的に構うようにした。
しかし、その訓練がすこし困った結果を呼び起こした。
普段の生活でも背筋が伸びてきたフィーは…私より少し…背が高いさらには動作の一つ一つに男らしさが…出てきた気がする…
ひっっじょーに心臓に良くない…
さらにはじりじりと身長自体も伸び始め、今じゃヒールをはいた私と同じ目線…むしろ少し高い…
……ちょっとむかつく
そのせいかフィーの服は何度か手直しが入った。早めに決めてよかっただろとお兄様に何度か怒られているのを見かけた、仲が良くなって何よりだ。
「フィー、起きて」
外はまだ薄暗く、朝と呼ぶには早すぎる時間
今日結婚式だというのに旦那様は昨日の夜も書類仕事に勤しんでいたようだ。頬にインクが付いている。
フィーのメイクを担当するメイドはきっと怒るだろうな。
今の今まで式場は内緒にされているが、当日に自宅で寝れているのだから、そんなに遠いところで式をあげないようだ。
それから式終了後に小さいパーティーをおねだりしてある!!今からとても楽しみだ!
自分の身長を超えるでっかいケーキをお願いしたのでパーティー用のドレスの腰回りは緩めだ
「…フィー!」
何度か肩をゆするとフィーは弾かれたように起き上がった
「え、あ、寝過ごした…?」
「予定の時間通りよ、目は覚めた?」
フィーのひっくり返った前髪をとかしながら窓の外に視線を送ると、フィーは安心したようにベットから抜け出した。
自分たちが起きたのを察知してメイドが部屋をノックする。
「お迎えに参りました」
この日のために毎日念入りなボディケアにヘアケアを重ねてきたのだ、メイドたちも気合が違うようで背中に闘気が見える…
あくびをするフィーの頬を見たメイドが目を見開いていたのを見て笑ってしまった。
「それじゃあエリオット頑張って」
寝ぼけながらフィーは手を振ってくれたが…
「…ありがと、フィーもね」
フィーはメイドに着替えさせられたことがないのだろう。のんきにあくびまでしている。
いそいそとメイドに押されて、身支度が始まる。
濡れた布で体を拭かれ、オイルが良くしみ込んだ櫛で髪をとかされる。
顔に美容に良い液体をうっすらと塗られると、頭の上から香水をかぶせられる。
メイドたちの満場一致で白粉はあまりせず、まつ毛に動物の毛を結び付け、目元を強調する作戦になったようだ。
口紅を引く前に、小さく小さく作られたサンドウィッチを二つだけ食べる。この後のパーティーでたくさん食べてやるからな…。
薄い紅を口にひく。髪はまとめるのが一般的だが今回下ろすことにした。
だって、髪を下ろしているだけで「切ってしまえ」だなんていう人、ここには一人もいないもの。
「フィーの様子はどう?」
髪を器用に編んでいるメイドに尋ねると、「メイドとシリルお坊ちゃまが張り切っておられました」と淡々と答えられてしまった。
うーむ、ゲッソリしているフィーが目に浮かぶ…
髪も化粧も終わり、ようやくウェディングドレスにそでを通す。
外はもう明るく太陽が顔を出している。
「気合を入れなくてはね」
真っ白な戦闘服は不思議と背中を押してくれた。
何度も何度も考え直した特注のドレスだ、着るだけで背筋が伸びる。
ドレスに感動する暇なく、メイドが長いドレスの裾を持ち上げて移動の準備を始める。
「式のお時間までまだ余裕がありますので、温かいお部屋でお待ちください」
メイドが厳重体制で隣の暖炉がある部屋まで連れて行ってくれた、私の希望で式前には誰にも会いたくないと伝えてあるからだ
暖炉がある部屋はそんなに多くないのに、みんな気を使って着替えの部屋から一番近い部屋は開けておいてくれたようだ。
気心が知れた中しかいないのに、最高傑作のドレスなのに
メイドが何日もかけて磨き上げてくれた私なのに、
何をしても絶対に褒めてくれるフィーがいるのに、
妙に緊張するのはなぜなのだろう。
遅くなったうえに短いお話になってしまいました。
あと二話で終了予定です。もう少しお付き合いください。