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その後 5


 破裂音が聞こえた、エリオットの風船は割れてない


 「痛い」という声が聞こえた、エリオットに傷一つない


 なら、一体、何が…


 

 得意げな顔の妹から視線を外し、自分の胸元を見ると、


 割れてる。俺の、風船が。


「そこまで!勝者はエリオット•ラウザー!」


 軽快なお父様の声が聞こえた。


「んな……?!!」


 エリオットの風船を見る、俺の風船を見る、エリオットの風船を見る、俺の風船を…!!


「〜〜!?」


 声にならない叫びをあげてエリオットをもう一度見ると、あっという間に数人のメイドがエリオットを囲み日傘を差し保湿クリームを塗り込んでいる…


 やり直しだ!!再戦を申し込む!!……の声はメイド達の鋭い眼光により出番を失った……


「っ〜!エリオット!ずるいぞ!!卑怯だ!!怪我をしてなかったのは一安心だが!!そのような卑怯な手段は騎士道に反するだろう!!」

「わたくし、騎士じゃありませんし」


 あっけらかんとエリオットは得意げに応える…


「ハッハッハ!エリオットは恐ろしいなぁ、何かするとは思っていたが…」

「分かっていても紳士としてはあの声を聞かされたら固まるしかありませんな!!」


 父親同士で楽しそうに笑い合っている…この2人はどうにも息が合うようだ……


 何故だ…何故俺は負けた……あの時動きを止めなければ…

 そもそも風船を割る勝負でなければ……いや、エリオットと戦わなければ……


「…エリオット……どこまで仕組んでいた…?」


 いつもの可愛い妹を見る目ではなく、懐疑の目で見つめる。


「どこまで、と言われましても。

 お兄様が気付かず決闘を受けてくれたのと、紙風船の勝負を受けてくれたのと、

 ここぞという時()()()()()()()()()紙風船をなるべく高い位置につけたのと、それから……」

「もういいもういい!!」


 聞けば聞くほど自分の見落としていた点が指摘され嫌になる…!


 俺は自分が勝てる自信があった……それほどの力量があったからだ…


 本当に考えなくてはいけなかったのは、そんな俺に勝つには相手はどうするか、だ。


 ギンッと鋭い目でフィンレイ•ラウザーを見ると



 エリオットが無事で良かったのと、俺にどんな顔をしていいのかと、もう嫌だとでも言いたげな感情を鍋で煮込んだような表情でこちらを見ていた。



ーーーーー



 エリオットと、義兄さんの決闘が終わってからもう4日が経とうとしている……


 この4日間、義兄さんは客室から一歩も外に出てきていない…

 初日は使用人が慌ただしく出たり入ったりしていたが…あとは食事を運ぶだけでこもってしまっている…


 そして4日目…


 我が家の前におびただしい数の馬車が列をなしている……


「こ、これは一体………」


 殆どが荷馬車のようで御者がどこに止めたらいいかと右往左往している、とりあえず家の隣の野原に誘導した。


「あら、これは……」

「エリオット!!…一体これは…?」


 エリオットは馬車や荷馬車に刻まれているマークを見ると合点が入ったようで俺に説明してくれた


「殆どが服やアクセサリーの店のマークが入っているわ、どれも最先端の一流のお店ばかりね。王都に行けない時とか…私も実家にいいた時は店に行かないで持ってきてもらったわ」

「な、なら…エリオットが…?」

「いいえ、私じゃないわ。たぶん…」


「 俺が呼んだ 」


 凛としたよく通る声に振り向いた、お、おに…


「お兄様!やっぱり!男性向けのお店ばかりだったから、そうだと思いましたわ」


 4日振りの義兄さんは4日前と変わらず少しもくたびれてはいなかった…俺が4日篭ればもっと惨めで悲惨なことになるのだが…何を食べたらこんなふうに……アレ、少なくともこの四日間は同じものを食べてるはず……


「急な呼び立て、ご苦労だった」


 その一言で全ての業者が頭を下げる…圧巻だ……


 な、なるほど?このど田舎辺境の地でストレスが溜まったのだろう。


 そしてそのストレスを買い物で発散という話か。よかった、その発散が棒で俺と戯れるという方向に進まなくて本当によかった。思う存分買い物を楽しんでもらいたい。


「エリオット、フィンレイ君を借りるぞ」

「はい、どうぞ」

「え」


 首根っこを掴まれ家の中に引きずり込まれる、エリオットは笑顔で手を振っていた……タスケテ…くれなさそうだ……


 

 部屋のソファに投げ込まれる… すぐに背筋を伸ばして姿勢を正す。義兄さんもソファに座ったが俺とは対照的に優雅な座り方だ……ソファも心なしか喜んでいるように見える……


 な、なんだ?なんのために俺は……


「……おい、」


「は!はひ!!」


 伸ばしていた背筋をさらに伸ばして返事をする。


「……デザイン案を見せろ」

「…デザイン案?」


「っ…結婚式のだ!式で着る服のデザイン案!あるのだろう?!」


 そこまで言ってもらってようやく理解した。急いで立ち上がり執務室まで走り出す。

 1番上の引き出しにしまい込んだデザイン案を取り、また応接間まで走り出す。


「こ、これです…」


 不満気にデザイン案を受け取った義兄さんだったが、デザイン案を一目見ると目の色が変わった。

 ホッと肩を撫で下ろす……


「なんてことだ…!!やはりエリオットは何を着ても似合う!!このデザインのドレスを着たエリオットはきっと、いや絶対史上最高に美しい花嫁に……

 

 ってちがーーう!!!」


 義兄さんは感情任せにデザイン案の紙を振り上げ、そっとテーブルに置いた。


「ち、違うとは…?」

「お!ま!え!の!デザイン案だ!」

「お、俺の…と、言われましても……特に…」

「特に…?」

「…特に…ありませんが…」


「無いだと?!!!」


 義兄さんの声量に圧倒され少しのけぞる、父さんのおかげで大きな声には慣れているが、それとはまた違った迫力がある声だ。


「エリオットの隣に立つのだぞ!史上最高の美しさの隣に立つのに今からの準備でも足りないぐらいなのに…!」


 そんなこと言われても無いものは…無い…そういえばエリオットのドレスのデザイナーがしつこく俺の服もデザインしたいと言っていたが……


「…俺が見定めてやる」

「え」


 義兄さんはもう一度エリオットのデザイン案を手に取り、じっくりと見つめた。


「この生地なら…なるほど…。あるいは…」


 義兄さんが片手をあげると使用人がすぐさま何か資料を持ってきた…


「…ココと、ここからここまでの業者を呼べ」

「かしこまりました」

 

 テキパキと自分の周りで何か物事が進んでいる…俺は…ここにいる必要があるのか……



「そういえば、貴様… あの決闘、エリオットにやらせて情けないと思わなかったのか」


 突然振られた話題に慌てて答える


「えっと、あの、その……エリオットから…相談を受けまして……」


 ギロリと義兄さんの目線が刺さる…お前はそれでいいのかと目で訴えてくる……


「えっっと…… その…


 

 兄妹喧嘩を、してみたいと…エリオットが…」


 恐る恐る答えると……義兄さんは両手を顔に当てて天を仰いでしまった………


「あの……」


 天を仰いで動かない義兄さんをよそに部屋に続々と人が入ってくる。

 皆ニコニコと営業スマイルと自慢の一品を携えて……



「立て」


 その一言で俺の意識とは関係なく体が勝手に立ち上がった。


「……俺は敗者だ」


 敗者、そのセリフには似つかわしく無い迫力と覚悟…場の空気を支配するカリスマ性が、その人にはあった


「敗者は敗者らしく、敗者の義務を全うしようでは無いか」


 悪巧みをするエリオットによく似た笑顔で義兄さんが笑っている……


「ぎ、義務とは…?」


「手始めに、不甲斐ない義弟のサポートから始めるとしよう」


 え、


「まずは採寸、もちろんフルオーダーで仕上げる。生地はエリオットのドレスと親和性を持たせたい、サテン、無地、ジャガード織まで白い生地を全て持ってこい」


 俺の周りに三人の業者が集まりみるみる腕の長さや足の長さ、肩幅、身長、指の長さまで採寸されていく…


「当日の気温や天候にもよって3着は用意したい、そのつもりで取り掛かれ」

「さ、3着?!」


 驚いているのは俺だけのようでデザイナーが恐ろしい勢いでデザイン案を書き出していく……


「宝石はタンザナイトとアクアマリン、それからブルーダイヤモンドを用意しろ、色のイメージはエリオットの瞳と髪の色だ。タイピンやラペルピンに使うのでそんなに大ぶりなもので無くてもいい」


 聞いたことも見たこともない宝石の名前と、どこにつけるのかわからないアクセサリーの名称が聞こえる…

 業者は次々と小さな箱を取り出して、テーブルに所狭しと並べていく…


 いったい我が家のテーブルの上に総額いくら乗っているのだろう…可哀想に…荷が重かろう……


「シューズは靴底に加工を施す。職人に注文をする用の紙とペンを用意しろ。そこ、デザイン案をまとめておけ、後で目を通す。さて…問題は」


 採寸が終わったのか解放された……ようやく息ができる……


「フィンレイ君」


「え、あ…はい」


「服も靴も一流を用意する、あと足りないものはなんだかわかるか?」


「えっとぉ……身綺麗にする……ですかね?」


 高価な服を着るのだ、汚れた体で着て黒ずみでもついたら…


「残念、違う」


 義兄さんはゆっくりと立ち上がり、俺に微笑んできた。それだけで絵になる。この人について行けば間違い無いと安心感が湧いてくる。



「一流の、立ち居振る舞いだ」



「あ゛」


 ……乙女心に次いで…俺の苦手とする分野だ…


「俺は、エリオットのように優しくはない」


 義兄さんはただ歩いて俺に近づく、かつ、かつと足音が聞こえるだけで身が引き締まる……


 その手には、どこから取り出したのか………鞭が握られている……


「え、えへへ……あの…」


 ぱちんっと乾いた音がした、義兄さんが自分の手をはたき、威力を確かめている……


「みっちり、スパルタで、できるまで、やるぞ」



 ひぇ



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